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孤立するイスラエルと姜美淑デビュー
    (世界戦略情報「みち」皇紀2669[平成21]年4月1日第291号)

●G20財務相・中央銀行総裁会議
三月一三〜一四日にかけG20財務相・中央銀行総裁会議がロンドン近郊で開催され、財政出動など「必要な努力を継続する」ことで合意、金融危機の克服に向け協調姿勢を示した。だが、財政出動や金融規制などの各論では米欧の間に意見の相違が目立ち、世界の経済問題の解決を図るには非常に困難な実態が浮き彫りになった。
 焦点だった財政出動による景気刺激策について米国は事前にGDP(国内総生産)比二パーセントという数値目標を示し、欧州に追加財政出動を迫った。これに対し、ドイツ、フランスなど財政赤字の増大を懸念する欧州勢は「重要なのは財政支出を増やすことではなく金融規制を整備することだ」と猛反発した。今回の世界的な金融・経済危機の原因を巡って、その主犯である米系ヘッジ・ファンドを放任してきた米国がその責任を逸らす形で財政出動を迫ったことに対する欧州の憤りが爆発したものである。
 米欧が対立したヘッジ・ファンドの対策に関しては、「登録制を導入し、情報管理を徹底する」ことを共同声明に盛り込んだ。ただし、米英は規制強化には消極的で、今回の合意は「目くらまし」に近い内容に過ぎず、米欧対立の火種を残したままである。
 ユダヤ型の金融工学資本主義の化身ともいえるヘッジ・ファンドに対する批判・非難は、ユダヤ批判を内在した「反ユダヤ主義」気運を欧州や米国内で高めている。オバマ政権も、これまでの米政権と一線を画すかのように、右派シオニストやユダヤ金融主義と距離をおく姿勢を隠していない。
 G20会議が開催される前日、米NY連邦地裁は、巨額金融詐欺事件で在宅起訴していた米ナスダック・ストック・マーケット元会長のマドフ被告を市内の施設に拘留した(三月一二日)。マドフは二重国籍を持つユダヤ人で、詐取した金の大半をイスラエルに寄付していた。そして、イスラエルに逃亡する寸前に逮捕された。今回のマドフ拘留は欧州の憤りに対するオバマ政権の配慮でもある。
また、会議の席上で自由貿易の堅持を共同声明に盛り込む要望が出たが、多くの国の反対で葬り去られた。
 現在のような世界的不況にあって、各国の為政者は自国企業や国民経済を守るため、輸入に対して障壁を設けて自国企業を守りたいとの政策を最優先してくる。大恐慌時、米国が真っ先にそれを決断した。
 当時、米国の経済学者一〇二八名が、他国の報復関税などの反作用を懸念して、フーバー大統領に反対の書簡を送ったが、米政府は無視した。この結果、世界経済のブロック化に拍車をかけ、最後は第二次大戦の引金になってしまった。すでにオバマ米政権は、保護主義姿勢(バイ・アメリカン法)を打ち出している。
 自由貿易の堅持に賛成したのは日本、カナダ、ブラジル、トルコ、インド、韓国の六ヶ国だけだった。この事実はほとんどの先進国が保護主義政策に傾斜していることを証明している。事実、世界銀行は昨年一一月のG20緊急会議で保護主義の阻止を確認したが、それ以後にG20を含む国々が合計で四七の貿易制限措置を実施したとの調査結果を発表している(三月一七日)。
今回のG20は金融サミットに向けての準備会合だった。だが、先進国間の溝の深さが目立っただけである。欧米の対立は表面化したが、さらに米英間にも齟齬が生じていた。
 四月に開催予定の金融サミットは、英国政府が主導し国際協調を促すことを主な課題に定めている。その準備のため、英政府は米国との綿密な事前の打ち合わせを最優先している。しかし、米財務省は消極的で、ガイトナー長官が英政府関係者からの電話に応じないため英国側は困惑して、G20の準備が大幅に遅れている。オバマ米大統領が今回の金融危機をテコに、英国からの完全独立を遠望していることを裏付ける一幕でもある。
 先進諸国は公定歩合を引下げ、多くの国が限りなくゼロ金利になっている。当然、次の政策は国内流通資金の量的緩和で、そのための自国国債の買取である。
 また、スイスは自国通貨の売り介入を行ない、通貨の切下げに手を染めている。スイスは「金融立国」を掲げた従来の手法が通用しない現実を突きつけられ、禁じ手ともいえる自国通貨の切下げに踏み切ったのだ。
 スイスは世界中の富裕層の脱税資金やアングラ・マネーを秘匿するための秘密口座とその守秘義務を売物にした「金融立国」で栄えてきた。しかし、オバマ米政権はその秘密口座を徹底的に敵視し、全面開示を迫っている。
 三月一三日、スイス政府は脱税や租税回避への関与が疑われている金融機関の顧客情報について、経済協力開発機構(OECD)が定めた情報提供のルールを受け入れると表明。四月の金融サミットを前に、OECDが作成中の「非協力的なタックスヘイブン(租税回避地)」のリストにスイスの銀行が入る可能性を回避するため苦肉の策として受け入れ表明したのである。
メルツル大統領兼財務相は、「銀行の守秘義務が犯罪を保護しているわけではない」と、スイス国内の法制度に不備はないことを強調し、「金融市場の国際化、とりわけ金融危機に対応するうえで、租税に関する国際協調は重要性を増している」と、ルール受け入れの理由を述べている。皮肉なことに、深刻な金融危機が、これまで秘密のベールに包まれていたスイスの「金融立国」を消滅させる勢いに弾みをつけている。東西冷戦対立時代、スイスは永世中立国を宣言し、共産国の独裁指導者などの財産も保全してきた。だが、中立国の意義をも喪失してしまった。
金融立国として復権を自負していた英国もその綻びを繕うため主要銀行を実質国有化するだけでなく、自国国債の買取りに踏み切り、長期金利の上昇を食い止めようと必死である。英政府が三月二四日に行なった国債入札では、一三年ぶりに売れ残りが出た。
 これまで英国債は英国で発行されている債券のなかでもっとも信頼され、入札時には、常に発行額より応募額が多かった。だが、今回は売れ残ってしまったため、英政府は禁じ手を厭わぬ苦肉の策に手を染めた。米国FRBも自国債の買取を表明した。

●FRB 米国債買取へ
米連邦準備制度理事会(FRB)は三月一八日に開催した連邦公開市場委員会(FOMC)で現在〇〜〇・二五パーセントに設定しているフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を据え置いてゼロ金利政策を維持するとともに、今後、半年間に中長期の国債を最大三〇〇〇億ドル(約二九兆円)買い取ることを決めた。また、住宅公社(フレディマックとファニーメイ)の不動産担保債券も半年間で八五〇〇億ドル買うことも決めた。ドルを無制限に刷って、売れない債券を売れたことにする政策である。
FRBが六〇年代以来となる中長期国債の買取に踏み切ったのは、金融危機と景気後退の長期化で需要が縮小する悪循環を断ち切る意向を示したかったからである。同時に、中長期の米国債を買い支えてきた外国勢力が買い控えている穴を埋めざるを得ない苦肉の策で、これだけ膨大な自国債の購入はドルの威信低下を招く、禁じ手でもある。
 しかし、オバマ政権は「背に腹は代えられない」とばかりに「禁断の実」を呑み込む決断を下した。それと同時にFRBの権威を貶めることによって、建国以来、通貨発行権を持てなかった米国の悲哀を払拭し、米国版中央銀行の創設を目論んでいる可能性も否定できない。
 FRBは、英欧系の金融機関が所有する一二の連邦銀行の司令塔的な役割を果たしている。換言すれば、米国の通貨発行権は英欧州系勢力の掌中にある。近代国家の独立性は司法裁判権、軍統帥権、通貨発行権を自国が保持していることで担保されている。
 世界一の覇権国家・米国の通貨発行権が英欧系の金融機関に握られていることは、米国は真の意味で近代独立国家ではないという歪みの宿痾から現在でも解き放たれていないと見なすべきである。FRBがドル威信の低下を自ら招く禁じ手に踏み切ったことは、英欧系金融機関、ことにその采配者である英国からの真の独立への扉を開く可能性を想定しての決断でもある。
また、ゼロ金利の現在、FRBが講じることができる手段は、証券や債券の大量購入による市場への潤沢な資金供給しかないのも事実である。今回の決定で、FRBの貸借対照表の総資産は三〜四兆ドルに膨らむ見通しで、その肥大化は不況下のなかでのインフレを招く危険性も否定できない。同時に、いくら資金をつぎ込んでも金融危機の病巣である不良債権問題の解決は難航し、公的資金拡大への納税者の反発は日増しに強まっている。
 昨年九月、米国証券大手リーマン・ブラザーズが破綻、それを機に世界経済が一変した「リーマン・ショック」から半年が経過した。金融バブルと借金まみれの過剰消費の米国が牽引する成長モデルが崩壊して、「一〇〇年に一度」の世界同時不況に各国は藻掻き苦しんでいる。その本家本元の米国は金融機関に政府資金を投入して支えている。だが、公的資金の一部が高額の賞与に使われた事実が発覚し、米政府は納税者の怒りを無視できない状況に追い込まれた。
公的資金注入を受けて経営再建中の米保険最大手AIGで、公的資金の不適切な使用が相次いで判明。幹部社員に高額な賞与を支給する計画が明らかになったほか、公的資金を受け取ってから取引先の欧米金融機関に巨額な支払いを続けていたことも発覚した。この結果、ウォール街への米国民の不信が頂点に達し、高額なボーナスを受け取ったAIGの幹部宅に抗議のバスツアーが押しかけるなど、一般納税者の憤りが噴出した。しかし、金融立て直しと経済復権を最優先課題とする政府は、ウォール街の協力が必要なため、すべてを敵に回せない事情に呻吟していた。
 だが、世論の怒りは日々増大して核分裂のように拡大、「日本式の謝罪」を求める有力議員が現われるほど政治問題にまでなった。国民の不信・憤りと最優先政策推進の板挟みに追い込まれたオバマは、「あらゆる法的手段」を使ってでもAIG高額賞与の支給を阻止するようガイトナー財務長官に指示する、異例な事態にまで発展した(三月一六日)。そして、三月一九日、下院の決議で支給されたボーナスへの九〇パーセント課税が超党派で決まり、AIG騒動はとりあえず一段落した。
オバマはこの窮地にあっても逆バネを効かせ、ブッシュ政権時代には規制が解除されて野放しだった法外な役員給与やボーナスに対し、合法的に規制できる体制を、わずか数日間で規制法として成立させた。この決断は、新興ユダヤ勢力の台頭による圧力によって徐々に政府の規制がはずされ、ユダヤ金融資本や投資家が肥え太っていった「スーパー・キャピタリズム」の喉元に止めを刺したも同然である。さらにいえば、ユダヤ型の工学的な金融主義を排除し、健全な実体経済の道を選択するとしたオバマ政権の「経済革命」への突破口になる可能性を秘めた決断でもある。
 これまでは富裕者層への減税で献金ルートを確保してきた共和党が率先し法外な役員給与に「重い課税」を課す法案に賛成票を投じたことは、オバマが当初から目指していた超党派政権の効果でもある。確かに、AIG問題の解決だけを見れば一過性の手当てにも見えるが、基本的に共和党は、彼らの支持者である資本家層を敵に回したと見ることもできる。ただし、敵に回したのはユダヤ系資本家層に限定してのことである。
 さらに米世論は、高額ボーナスを支給されたAIG幹部の実名を明らかにするよう求めている。大半がユダヤ人であることを承知の上での要求である。つまり、「反ユダヤ主義」気運が一気に高まっている米国社会の内実を浮き彫りにしているのだ。
 同時に、九・一一事件の真相解明を求める世論も高まっており、議会で前政権の関係者を喚問するよう圧力をかけ始めている。ネオコン系勢力の跳梁跋扈を放任したブッシュ前大統領やチェイニー前副大統領を弾劾し、必要とあらば訴追を求める動きである。
 オバマ政権が発足後、半年以内に衝撃的な事態が起きると、不気味な予言を行なったバイデン副大統領が、その懸念は去ったと公言したのも、チェイニー系ネオコン勢力の衰えを確信してのことである。同時に、米国のイスラエル離れも目立ち始めている。  

●顕著な米国のイスラエル離れ
オバマが、AIG幹部が受け取った高額ボーナスを実質的に没収する法案を成立できたのは、ウォール街を牛耳るユダヤ系金融勢力に対する一般国民の激しい怒りを後ろ盾にしたからである。さらに、イスラエル軍によるガザ侵攻作戦で、無抵抗のガザ市民を多数殺害した事実が公になり、バチカンがホロコースト以上の惨劇と評しただけでなく、反ユダヤ主義を隠さないルフェール派の破門を撤回するなど、世界的なイスラエル批判が一気に強まってしまった。米国もこの事実を無視できなくなり、ネオコン系の完全排除とイスラエル離れに傾斜しつつある。
三月七日、オバマは、クリントン・ブッシュ前政権時代に大量に米政権内に潜入し、隠然たる勢力を持っていたネオコン系のイスラエル・ロビイストたちの活動を全面的に禁止する大統領行政命令を通達した。内容は、政府の要所に配置されているすべてのイスラエル・ロビイストに、少なくとも今後八年間ロビー活動に関わらないという誓約文書に署名するか、そうでなければ四月末までに政府職員を辞職することを要求している。
三月一〇日に公開されたロシア情報部高官のソルチャ・ファアルの報告書によれば、ガザを不法に攻撃し、非戦闘員を多数(数千名)殺害した戦闘行為を「戦争犯罪」と断定して、西岸でパレスチナ民族に対し実行されている隔離政策を「人道に反する罪」としてイスラエルの指導者を起訴しようとしている国際刑事裁判所(ICC)の動きを、オバマが認める合図を出したとされている。
 ICCはルワンダにおける大量虐殺が「人道に反する罪」に当たるとして、スーダンのバシル大統領に逮捕状を出し、米国も承認を与えている。現職の国家元首に逮捕状を出すことは前例のないことである。オバマ政権がそれを認めたことは異例中の異例の動きで、ロシア情報部が公にした、イスラエル指導者の訴追に米国がゴーサインを出した可能性も否定できない。
ソルチャ報告書はまた、バルカート・エルサレム市長がクリントンを非難したことにオバマが激怒したとも伝えている。三月上旬にイスラエルを訪問したクリントン国務長官がアッバス・パレスチナ議長の請願を受けてイスラエルによるパレスチナ人家屋の強引な解体に抗議して、「この破壊行為は米国が提言した中東和平協定案に対する違反だ」と語ったことが発端である。また、イスラエルに右派連立政権が発足すればオバマは国交断絶も辞さない意向を持っているとも伝えている。
 ロシア筋の情報を全面的に受け入れるのは危険であるが、イスラエル政府が今回のヒラリー訪問を冷遇したことは事実である。さらに、オバマ政権がロシアとの蜜月関係を急速に構築しているのも事実であり、ネオコン系勢力完全排除を狙うオバマの真意をロシアが先取りして、イスラエルを牽制している可能性もある。
 さらに、ポーランド政府はアウシュビッツにおけるユダヤ人被害者の数を六〇〇万人から一五〇万人に訂正、ローマ法王が追認する異例な声明を発表、英独仏など欧州首脳も同意している。一月二七日、国連でホロコースト記念のセレモニーが行なわれたが、多数の国連職員が欠席したのもホロコースト神話が一気に崩壊している内実を反映している。
 一連の動きは、今回の世界同時不況がユダヤ系金融資本の詐欺的手法に国際金融世界が攪乱されて発生したことに対する、ユダヤ不信(反ユダヤ気運)の現われである。
複数のネット情報によれば、三月中旬、CIAが「イスラエルが二〇年後には消滅する」という報告書を提出したとされている。同報告書は、多くのイスラエル人が二重国籍を所持しており、将来は米国や欧州、ロシアに移住する気持ちがある。そして、二重国籍を有していないイスラエル人たちは今、米国や欧州の国籍を取得しようと躍起になっている、としている。
 他方、パレスチナ人はどんどん子供を生んでおり、ユダヤ人とパレスチナ人の人口バランスが、将来、逆転することが明確になっている。そうなれば、残されたユダヤ人もイスラエルを離れることによって、自身の安全を確保しようと考え、イスラエルからの脱出は本格的なものになろう、というのが報告の骨子である
今回、CIAが大胆な報告書を出せたのは、クリントン第二期政権時に実質的に崩壊したCIAが立ち直って、イスラエル情報機関・モサドの関与を完全に排除できるまで回復できたからだともされている。
米国からも距離を置かれ始めたイスラエルのオルメルト暫定首相は、「大イスラエル構想は死滅した」と発言した。その真意は、ガザ侵攻作戦の結果、世界的な孤立を招く思わぬ現実に直面し、シャロンの決断の正しさへの認識不足を懺悔したものである。
オルメルトの懺悔発言に合わせるかのように、ガザを攻撃した際に、無辜の市民を殺害したとする兵士の証言が相次ぎ、イスラエル国内で波紋が広がっている。三月一九日、イスラエル軍は、軍警察に「作戦上や道徳上の問題」について調べるよう命じたと発表。
地元紙によると、ガザから帰還した複数の兵士が二月、同僚らによる民間人殺害の実態を入隊前に通っていた教育施設で証言。事態を重く見た施設の責任者が、軍上層部に「告発」したとされている。民間人殺害については、メディアや人権団体が住民の声として伝えてきたが、イスラエル兵の証言で明らかになるのは極めてまれである。
 オルメルトは、停戦を決めた一月一七日の国民向けのテレビ演説で、「罪のない市民を傷つけることにつながる疑いが少しでもあれば、我々は行動を控えた」と説明していた。一方で、イスラエル軍はガザ攻撃にかかわった部隊司令官の名前などがわかる報道を禁止。政府も一月下旬、外国で軍幹部や兵士が戦争犯罪などで訴追された場合には、全面的な支援を保証する方針を閣議決定していた。しかし、一介の兵士の内部告発に基づいて、イスラエル軍警察が動き出したのは、国際的なイスラエル不信・非難の高まりに加えて頼みの綱であった米国のイスラエル離れをなんとしてでも食い止めたいとして、反省する意志があるとの印象を演出する必要性に追い詰められているからである。
 オバマ政権は、ネオコン系勢力の一掃を強く印象づけたうえで、彼らが「悪の枢軸」と決めつけたイランに対して、真剣な対話を呼びかけている。

●米 「率直な対話」をイランに提案
 オバマは、イラン暦の新年にあたる三月二〇日、ビデオメッセージを公表し、核開発やテロ支援問題で対立続くイランに対し、「米国とイラン、国際社会の間で建設的な関係を推し進めたい」と訴え、関係改善を呼びかけた。
 オバマは、「ノウルーズ」と呼ばれるイランの正月に際し、「イラン・イスラム共和国」という正式呼称を使って同国政府と国民に祝意を表明。「われわれは長期にわたる深刻な相違をかかえている」と両国関係の厳しい現実を指摘したうえで、「わが政権は外交を通じて、あらゆる課題に取り組む」と関係打開への意欲を示した。さらに、「率直で相互尊重に基づく対話を求めたい」と述べ、双方が対話のテーブルに着くことを提案した。
イランの核・弾道ミサイル開発や中東地域でのテロ支援活動については、「米国はイランが国際社会で正しい地位を占めることを願う」としつつ、「その地位はテロや武器によってではなく、平和的行動の責務を果たすことでのみ得られる」と指摘し、平和路線への転換をイラン指導部に求めた。
 米国はテヘランの米大使館占拠人質事件を受け、一九八〇年にイランと断交していた。オバマは、大統領選の段階からイラン首脳との直接対話に意欲を示していたが、今回初めて、正式に「率直な対話」をイランに提案した。
 しかし、一方で、二月二五日には、イランの軍用無人機が国境を越えてイラク領空に侵入し、バグダッドの北東約一〇〇キロ付近で米軍の戦闘機が撃墜した。オバマ政権が発足後、米国とイランの間で戦闘行為が確認されたのはこれが初めてであった。また、三月一二日には、投資規制など九五年から続くイランへの経済制裁を一年間延期する方針を表明している。さらに、米司法省とFBIは一八日までに、米軍ヘリ用のエンジンや爆撃機用高性能カメラなどを、第三国経由でイランの軍事企業に不正輸出したとして、イラン人の男性を逮捕した。
 オバマによるイランへの外交対話の呼びかけは、米新政権が国際協調を優先させる柔軟性への転換として注目されている。だが、その反面、イランの核兵器開発の一層の進展やイスラエルの強硬姿勢という現実への対処期限に迫られている米国の苦しい立場を反映するものでもある。 
オバマ政権がイランとの対話路線を模索する意向を公にして以降、イスラエルは、自国のジェリコV長距離ミサイルでイランの核施設を攻撃できるとの強がりを言い始めている。米国は現段階では、イスラエルによるイランへの単独攻撃を認めていない。イスラエル側は、そのことを承知のうえで、対イラン単独攻撃の能力を喧伝している。さらに、オルメルトは、イスラエルにとって危険であれば、世界中のどこでもそれを阻止する行動を起こせると力説し、米国に頼らなくても自らの身は守ると発言している。
 今年の一月、スーダンで輸送用トラックが空爆される事件が起きたが、誰が空爆したかは不明のままであった。アメリカ軍かイスラエル軍機によるものだという情報が流されたが、米政府はこの空爆に何ら関与していないという声明を即座に出す一方、イスラエルは沈黙を守った。しかしオルメルトは、輸送用のトラックには射程七〇キロのイラン製ファジル型ミサイルがあったと示唆していた。オバマ政権がイランとの対話路線にこだわり続けるなら、イスラエルはたとえ米国を敵に回してでもイラン単独攻撃に踏み切るという、切羽詰まった威嚇である。
 三月二五日付けのイスラエルのハアレツ紙は、「イスラエルに右派政権が出来れば、和平交渉は容易ではない」とオバマが表明したと報道した。米国が右派政権の発足に苛立っている事実を、国民に周知徹底させる必要性を勘案した報道である。
 イスラエルでは右派リクードのネタニヤフ党首が、連立政権立ち上げに邁進している。米国の懸念を打ち消すための中道右派カディマとの大連立工作に失敗。その結果、とりあえず、極右政党「わが家イスラエル」と宗教右派政党「シャス」と右派連立で合意した。だが、議席の過半数を制することができずにいた。
 ネタニヤフは、右派政権の印象を打ち消すため、中道左派の労働党ときわどい連立交渉を行なって何とか合意にこぎ着け六九議席を確保し、連立政権の概要をやっと固めるまでに至った(三月二六日)。しかし、連立参加を決める労働党の中央委員会では、参加賛成六八〇、反対五〇七の僅差であった。この結果、労働党が分裂する可能性もあって、連立政権の基盤は安定したものではないため、三月末の時点で、正式な発足にまではいたっていない。
 アフマディネジャド・イラン大統領の側近は、オバマがビデオメッセージを出したことについて、「過去の相違を乗り越えたいとの意思は歓迎する」と述べ、「米政府は過去の間違いを認め、修正しなければならない」と指摘した(三月二〇日)。
翌二一日、イランの最高指導者ハメネイ師は、「われわれは(米国の)いかなる変化を見ることもできない。あなた方が態度を変えれば、われわれも態度を変えるだろう」と述べ、米側に具体的な対イラン政策の変更を求める姿勢を強調。オバマに対しては、「あなたのいう変化とは何か。米国はシオニストへの支持を止めたのか」と、核開発疑惑をめぐる対イラン経済制裁の解除などを求めた。
オバマの呼びかけに対するイランの反応は従来の要求を繰り返したもので、直ちに直接対話に結びつく可能性を期待できるまでには至っていない。しかし、イランは、ヒラリーの呼びかけに応えて、三月三一日に開催されるアフガンの安定化に向けた周辺諸国による、国際会議に参加する意向を公にし始めている。米国が呼びかけた間接対話にイランが応じる意向を示したことで、直接対話への道筋が切り開かれる可能性が大きくなっている。
 オバマはイランとの対話の進捗次第によってはイラクだけでなくアフガンからも米軍を撤退させ、内政、ことに経済再建に全力を投入したいとの意向も見せ始めている。

●米 アフガン新戦略
 三月二六日、AFP通信は、北大西洋条約機構(NATO)がイラン政府と初めて非公式な接触をしたと報じた。同報道によると、NATOは四月初旬に開く首脳会議でアフガンへの対処方針を含む宣言を採択する予定で、アフガンの隣国イラン側と今後のアフガン戦略について意見交換をした。
 NATOがイランと接触したのは、イランが現在のイスラム共和制に移行した一九七九年の革命以来で初めて。イランの外交官が先週、NATO本部のあるブリュッセルでNATO高官と協議したとされている。
 NATO加盟の欧州諸国は、オバマ米政権がイランとの直接対話を呼びかけたことを歓迎し、アフガンからの撤退を念頭に置いたうえで、イランとの協力を模索し始めた。当座の狙いは、欧州諸国の軍事物資をイラン経由でアフガンに運び込むことにあり、米国の了解も取り付けている。
 イランと国境を接するヘラート市を中心とするアフガン西部地域は、民族的・歴史的にはペルシア(イラン)の一部で、ヘラート周辺を支配する豪族(知事)は伝統的にイランと緊密な関係にある。イラン政府が欧州諸国の軍事物資を同国経由でアフガンに運び込むことを容認すれば、西部地域一帯からアフガン全土に対するイランの影響力浸透につながる。
 イランにとってアフガンへの浸透が強まることは、かつてインドから中央アジアまで支配していた因縁をテコにした文明地政学位相におけるペルシア帝国の復権も夢ではないことになり、NATOの協力申し込みは大国復権への扉を開くことにもつながる魅力的な要請である。同時に、同じく文明地政学的な位相の復権が著しいオスマン・トルコへの対抗心を満足させることにもなる。欧州諸国はイランの野望をくすぐってアフガンからの撤退を目論むのと同時に、米国のアフガン支配に協力するようイランに対して働きかけている。
翌二七日、オバマはアフガン政策の新たな包括的戦略を発表し、アフガン軍、警察の育成、自立の訓練が主要任務の米部隊約四〇〇〇人を今春増派し、行政執行、統治能力の向上を目指し数百人規模の外交官らの文民も派遣すると述べた。
 すでに米国は今年夏までに米軍部隊一万七〇〇〇人をアフガンへ追加派兵し、政権を追われたイスラム強硬派勢力タリバンなど武装勢力を掃討する方針を表明している。四〇〇〇人の増派でアフガン軍、警察を二〇一一年までに二一万人以上の規模に拡大させる。 オバマは国際テロ組織アルカイダがアフガンの隣国パキスタンに拠点を設け、新たな対米攻撃を画策していると警告。包括戦略の狙いは、アルカイダの根絶にあることも鮮明にした。そのうえで、タリバンやアルカイダ系勢力が活動の温床にしている部族地域などを抱えるパキスタンの安定化を狙い、今後五年間にわたって年間一五億ドル(約一四七〇億円)もの非軍事援助を提供するとも言明した。
 同時に、アフガン・パキスタン問題のため、日欧など同盟国、中央アジア諸国、ペルシア湾諸国や支那、ロシア、インド、イランを網羅した連絡調整のグループを設ける考えも示した。ブッシュ前政権の軍事力頼みのアフガン政策から、国際社会を引き込んだ構想へと方針転換を明確に打ち出してきた。
 今回発表されたオバマ政権のアフガン新戦略には、タリバンとの対話・和解を促すための諜報戦略を重視していく意向が秘められている。
 前日の二六日、米国のブレア国家情報長官は、アフガンでの米軍事作戦について、作戦成功には諜報での支援強化が不可欠との考えを示した。長官はこの中で、米国はアフガン地方の権力構造への理解が充分でなく、アフガン・パキスタン国境周辺で活動するイスラム武装勢力の活動に関する情報も乏しいと指摘。イラク軍事作戦での戦闘部隊への諜報支援と同一レベルに引き上げることが必要だと強調した。
 米国は当面、欧州NATO諸国のイラン活用を積極的に後押ししてアフガン問題へのイラン介入を促進し、最終的にはイランと米国によるアフガン共同統治まで遠望して、米軍のアフガン撤退への出口戦略を構想している。しかし、米国のタリバン懐柔・融和路線、すなわち譲歩はタリバン優勢を加速させるだけでなく、パキスタンを混乱させ国家崩壊の危険にさらす可能性も否定できない。その懸念があるからこそ、今回、パキスタン向けの援助を大幅に拡大した。
 パキスタンでは三月一二日から各地で法曹関係者と野党支持者による反政府デモが激化し、ザルダリ大統領は昨年の政権発足後、最大の窮地に追い込まれていた。一六日、ザルダリ政権はチョードリー前最高裁長官の復職など、デモを主導する野党側の要求を受け入れた。同日、イスラマバードで予定されていた大規模デモの直前の決断で、政権側が野党に屈することで危機はひとまず回避することはできた。その内実は、大統領が米国と軍の圧力に抗しきれなかったからである。
 今回の失態でザルダリは求心力を失い、今後、大統領辞任要求が強まるだけでなく、タリバン勢力を活気づけることになる。同時に、印パ対立にも拍車がかかることになる。
 印パ対立の激化は、支那周辺地域の不安定化につながるが、北東アジアでは北朝鮮が米中を刺激し始めている。

●北朝鮮 ミサイル発射を通告
 過去数ヶ月にわたって、米軍筋は北朝鮮が新型ミサイルの発射準備を行なっていると、詳細な情報を流し続け、その脅威を煽ってきた。また、北側も、米国筋の煽る脅威を追い風と受け止めたかのように、発射準備を進めていた。 三月一二日の朝鮮中央通信によると、北朝鮮は、衛星発射をめぐり国際民間航空機関(ICAO)と国際海事機関(IMO)に「必要な資料を通報(提出)した」と発表。また、衛星登録に関する協約など関連する二件の宇宙条約にも加盟したと明らかにし、ミサイルではなく人工衛星を打ち上げると正式に通告した。韓国の聯合ニュースは情報消息筋の話として、北朝鮮が四月四日から八日の間に衛星を発射するとIMOに通告したと報じた。
 ミサイル発射やロケット打ち上げは、ICAOやIMOが、航空機や船舶の安全を確保するため事前通告の義務を課している。今回の両機関への資料提出や関連する宇宙条約への加盟は、北朝鮮の衛星発射の準備が最終段階に差しかかっていることを示すとともに、発射に対する国際的な非難をかわし、「衛星発射」の正当性を確保する狙いを秘めた強かな通告である。
同時に北側は、米国からの食糧支援を拒否すると通告したり、中朝国境付近で支那系と韓国系の二人の米国人女性記者を拘束し、平壌に移送するなど、北流儀の対米工作を活発に行なっている(三月一七日)。また、支那の温家宝首相は、北京を訪れた金英逸北朝鮮首相に対し、ミサイル発射計画への懸念を表明し自制を促したが、「人工衛星の打ち上げ」と軽くいなされ、説得に失敗した(三月一八日)。すなわち、北側は、もはや六ヶ国協議は意味がないと北京を袖に振って、米国だけを眼中においてのミサイル発射であることをしきりに誇示していた。
 米側は数回にわたって弾道ミサイル迎撃実験を行ない、米陸軍の防空部隊は戦域高高度地域防衛(THAAD)迎撃弾二発を連射する戦法を初めて公開の場(ハワイ・カウアイ沖)で実施し、標的の破壊に成功したことを誇示し、北のミサイルを迎撃する意志を示した(三月一八日)。そして米国は、わが国にも北ミサイルの迎撃を命令し、日本政府はミサイル防衛(MD)システムで迎撃する方針を決め、浜田防衛相は自衛隊法八二条に基づいて自衛隊に破壊措置命令を発令した(三月二七日)。
 果たして、日本が装備しているMD・PAC3で迎撃できるかどうか疑問であるが、政府は決断を下した。米軍情報筋は北ミサイルが日本上空を通過してアラスカ沖に到達すると予測し、アラスカ周辺に展開する二〇ヶ所以上の拠点から迎撃する準備をしているとされている。わが国が迎撃に失敗して米軍がそれに成功すれば、わが国への新型MDシステムの導入、すなわち、高額な武器売却の好機が来ると米国は期待している。穿った見方をすれば、日本人拉致問題と同様に、今回のミサイル騒動には米朝の出来レース的な側面も否めないのだ。
 その一方で、北側はわが国に微妙なメーッセージも送っている。
 拉致被害者田口八重子さんの兄と長男がソウルで北工作員金賢姫と面会した際、彼女の口から八重子さんだけでなく、横田めぐみさんが生存していることを示唆させた(三月一一日)。さらに、「北朝鮮のプライドを守り、心を動かすことが大事だ」とも言わせた。北のプライドとは「大日本帝国の残置国家」のことであり、また「金王朝は疑似天皇制首領制度」との意志を伝えたかったものであろう。
 同時に、痩せ衰えた金正日の写真をこれ見よがしに配信し、三代目継承の時期が切羽詰まっている。三代目継承に失敗したら「疑似天皇制」が崩壊し、「大日本帝国の残置国家体制」も瓦解してしまう。そうなったら日本にとっても大きな痛手であろうとの、自虐的な対日ラブコールと見なすことができるメッセージを発している。
 また、北朝鮮に拉致された被害者の蓮池薫氏の兄であり、「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」の事務局長、副代表を務めた透氏は、当初は、「拉致は国家テロ。北朝鮮への経済制裁を行え」「これは戦争ですよ。アメリカならそうするでしょう」といった発言を繰り返すなど、対北強硬姿勢を主張していた。
 だが、その彼が数年前から変身し、日朝間の真摯な話合いの必要性を訴えている。最近では、横田さんご夫妻に、外国でよいから孫(めぐみさんの子供)に会ったほうが良いとしきりに働きかけている。今なお金王朝に忠誠を尽くす弟の感化を受け、「大日本帝国の残置国家」としての北朝鮮の内実に覚醒し、横田めぐみさんの生存を公にしたいと焦る金王朝の意向を代弁する意志の現われであろう。
もしも、金王朝が横田めぐみさんの生存を明らかにするなら、彼女自身の口から「私は一三歳の日本人少女ではありません。ロイヤル・ファミリーの一員の朝鮮人(姜美淑)として、日朝友好の架橋になるよう努めたいと思います。日本に帰る意志はありません。お父さんお母さん、あなたの『娘』を日本から応援してください」と訴えて、旧大韓帝国の元皇太子で大日本帝国の李王・李垠に嫁いだ旧皇族・梨本宮方子妃と同じ運命を全うする意志を表明するものと思われる。
 金王朝周辺では、めぐみさんを国際デビューさせる準備が進んでいる。金王朝の側近筋が三代目後継者を三男の正雲に決めた可能性が高く、彼は姜美淑を母・姉と慕っている。彼女に金王朝の国母として日朝間の架橋を担わせ、拉致問題に対するわが国世論の憤りを払拭させ、莫大な援助を取り付けたいのである。
 日朝関係は日本が脱米自立する意志を固めない限り、日本に対する平壌の複雑な愛憎に翻弄されるだけである。

平成二一年三月二九日識