世界情報分析    索引  

                    



東日本大震災と欧米のリビア介入 
    (世界戦略情報「みち」皇紀2671[平成23]年4月15日第336号)

世界に広まる福島原発事故不安
「数千人が放射能漏れを恐れ、東京から脱出を開始」(三月一五日付英大衆紙サン)。「核パニックにとらわれた国」「日本の核危機は制御不能」(三月一六日付の英大衆紙デイリーメール)。「日本人は太平洋全部を汚染するのか?」(四月六日付独大衆紙ビルト)。
三月二七日、米CNNテレビは独立行政法人産業技術総合研究所活断層・地震研究センター長である岡村行信とのインタビューを放映。その中で東日本大震災に伴う事故で深刻な事態が続く東京電力の福島第一原子力発電所について、専門家が二年前に津波被害の危険性を指摘していたと報じることで、東電の危機管理体制に疑問を呈した。
三月三一日付ウォールストリート・ジャーナル紙は、東京電力が福島第一原発で起こりうる事故について「最悪のシナリオ」を想定せず、災害対応計画があまりにも不十分だったと報じた。同原発の緊急時用の装備は担架一台、衛星電話一台など限られたものだったと指摘。また、東電の清水正孝社長が入院したことを踏まえ、経営陣の指揮統率能力を疑問視した。
 一連の報道は、福島第一原子力発電所への対応処理、情報開示の遅さに対して、様々な不安が広まっている内実を浮き彫りにしている。そして、米国では、東京電力の経営責任を問う声が強まっている。東電が昨年九月に実施した公募増資では米国の投資家も同社株を購入しており、海外発の株主代表訴訟が起きる可能性も出てきている。
 しかし、事故を起こした福島第一原発四機の基本設計を行なったのは、米GE社である。だが、内外のメディアが一切その事実を報じていないため、同社の責任を問う声は起きていない。現場関係者によれば、GE設計の一部にブラックボックスの部分があって、適切な対策に苦慮しているとされている。福島第二原発の二機は、わが国の日立、東芝がGE社からのライセンス生産で設計・建設したため、第一原発のような酷い事故は起きていない。東電の責任は免れないが、米GE社の責任も糺すべきである。
 また、米国からは、日本政府の原発事故対策への疑義も呈されている。
四月六日付の米紙NYタイムズは、米原子力規制委員会(NRC)が三月二六日付で作成した調査報告書の内容として、日本側によって原子炉の安定化に向けて採られている対策がかえって新たな危険性を増大させる可能性もあり、日本側は「数々の新たな課題に直面している」と報じた。
 報告書は、日本に派遣された米支援チームの専門家らによってまとめられたもの。原子炉の冷却機能が失われたまま、きわめて長期間にわたって現状のように注水を続けることが可能なのかと疑問を呈している。また、一号機原子炉内は溶け出した燃料棒や海水による冷却の際に固着した塩の層によって、水の流れが「著しく妨げられているか、塞がっている可能性がある」と指摘。二、三号機でも程度は低いながら、同様の現象が起きているとしている。ただし、その後の真水への切り替えによって塩の一部は洗い流された可能性もあるともしている。
さらに、同紙は、四月八日までに、NRCが、福島第一原発二号機で核燃料が原子炉圧力容器から格納容器の底に漏れ出している可能性があると報じた。しかし、NRCは圧力容器の大きな損壊については否定的で、燃料の大部分は圧力容器内にとどまっているとみているが、二号機内で高い放射線量が計測されているため、圧力容器の隙間などからの一部燃料の漏出を疑っているとされている。
 また、米国では、原発事故対策だけでなく、日本経済の先行きが懸念されている。
 三月二二日、「誠に残念ですが、日本は貧しい国になるでしょう」。米国家経済会議(NEC)前委員長のローレンス・サマーズ米ハーバード大学教授が、ニューヨーク市内の講演で断言すると、会場が静まり返った。
 米国のエコノミストは第2四半期(四〜六月)の日本の国内総生産(GDP)が前年比約三%減るとみている。そして、減少率の半分、一・五%分が「東電発」によるネガティブ要因としている。すなわち、放射能漏れや停電が都心部の経済活動を妨げ、消費の低迷につながるという見方である。
 逆に見れば、米経済学者は、日本発の「世界恐慌」勃発の可能性を示唆することで、ドルやユーロ危機の責任を逸らす意図を秘めて、日本経済の沈没を過大に喧伝しているのだ。四月五日、米格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは、ポルトガル国債の長期信用格付けを「A3」から「Baa1」に一段階引き下げたと発表した。「Baa1」は投資適格水準の下から三番目で、同社はさらに格下げの可能性があるとしている。
 一連の日本批判の背景に、原発不安は日本だけの問題ではなく国際的な重大課題で、緊急対応が必要だとして、最悪の場合、わが国を国際統治管理下に組み込む構想が秘められている危険性も否定できない。支那やロシア、韓国などもその危険性を正当化するかのように、福島第一原発から放射性物質を含む汚染水が海に放出された問題についての憂慮や、不快感表明では足並みを揃えている。

問われる日本の危機外交
三月二五日、ロシアの消費者権利保護・福祉監督庁当局者は、極東ユジノサハリンスクで記者会見し、福島原発事故への懸念から、ロシアの船舶が日本に寄港する際、水や飲み物の補給を原則禁止すると発表した。同当局者は、この措置を「一時的」として日本での水などの補給が必要な場合は、放射性物質の危険がないことを示す証明書の添付が必要だとしている。同庁は前日の二四日、ロシアの航空会社が成田空港で水を補給することを禁止したと発表したばかりである。
 四月六日、ロシア連邦農業監督庁は、日本国内の二四二の海産物加工会社の製品の輸入を停止した。同庁報道官は、福島原発の事故後の情勢が四月五日から大きく変わり、「放射性物質を含む水が放水され始めた」ことを理由に挙げていた。
 四月五日、インド保健省は、日本国内の農産物に放射能被害が出ていることを受け、日本からの食品輸入を今後三ヶ月間、全面的に停止すると発表した。インドは、東日本大震災が発生した三月一一日以降、日本から輸出された食品に対して、国内の空港や港湾施設での検疫体制を強化していた。しかし、八日、インド政府は改めて声明を出し、「禁止措置は日本政府と協議のうえで行なう」として事実上、実施を見合わせることを明らかにしている。
 一連の動きは、わが国の原発事故対策に対する情報発信が、世界の不安拡大に拍車をかけている一端を浮き彫りにしている。わが国が、現在最も留意すべきは、国内問題以上に、危機における外交対応である。
東日本大震災とそれに続く東電福島原発の事故は、在日外国人社会にも大きな衝撃を与えた。一部はパニックに陥り、東京からの脱出や帰国組も相次いだ。一時閉鎖した在京大使館は三二ヶ国、地震発生から三週間以上たっても閉鎖・退避中は一二ヶ国になっている。一方、自国政府やメディアの危機対応は果たして適切だったのか自省する声もあるなど、危機の中の外交のあり方が改めて問われている。
 エネルギーの八割を原発に依存する原発大国フランスは、主要八ヶ国(G8)と二〇ヶ国・地域(G20)の議長国で、サルコジ大統領が地震後、国家元首として一番乗りで来日した。だが、フランスは東京脱出も早かった。
三月一三日夕、仏大使館はフランス人社会に勧告を発出。首都圏にとどまる特別な理由がない人は関東地方から数日間遠ざかることを助言するのは妥当としたうえで、高校を三日間休校、仏人の来日延期を強く勧告した。G8の中で唯一現在も大使館を閉鎖しているのはドイツで、業務を大阪・神戸の総領事館で行なっている。三月一三日に到着したドイツ救援隊も一六日には早々帰国、在京ドイツ人も関西への避難や帰国を急いでいる。
一方、米英は独仏と対照的に、在日同胞に日本政府より厳しい避難勧告(八〇キロ圏)を出したが、大使など高官は、被災地入りして同胞の安否を探るだけでなく、日本政府への協力姿勢を見せ、日本国民の好感を得ている。また、イスラエルは医師団を派遣して、現地での治療奉仕に専念している。
 各国の対応にはそれなりにお国柄が象徴されている。だが、当事国の日本が可能な限り迅速に、透明性の高い情報開示で、国際社会における信頼性を獲得するよう最大の努力を払うことが必要である。残念ながら、市民運動家感覚が抜けきれない菅直人政権では、国際社会の信頼を得るにはあまりにも心許ないのが、わが国の現状である。
 一方、自衛隊を始め日本国内の総力が被災地の復旧・復興支援に向けられるなか、支那とロシアは日本の領域近くで戦闘機やヘリコプターを通常以上に飛ばすという、「挑発的な行動」をとっている。
 三月二六日、海上自衛隊などによると、南西諸島の東支那海の日中中間線付近で支那国家海洋局に所属する海洋調査船の搭載ヘリ「Z9」が警戒監視中の海上自衛隊の護衛艦「いそゆき」に急接近し周りを一周した。「Z9」は震災前の七日にも同海域で別の護衛艦への近接飛行を行なった。三月一七、二一の両日に露軍機が日本領空に接近、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進した。ロシアは「放射能測定」だと領空接近を正当化している。
 わが国と支那、ロシアとは昨年の支那漁船衝突事件、メドベージェフ露大統領の北方領土訪問問題で関係が悪化している。関係改善の糸口を探っていた中露両国は、被災した日本に最大限の同情を示すことで冷え込んだわが国との関係の緩和に一役買う姿勢を強く滲ませていた。だが、その反面、「被災支援と領土問題は別」との意思表明を誇示している。同時に、米国が、第七艦隊に属していない米海軍最強の空母「ロナルド・レーガン」を素早く日本防衛の意を込めて派遣したことに対する、過剰反応でもある。
 いずれの動きも、安保分野における当然の動き(敵の弱みを突く)である。だが、震災支援に遠慮して毅然たる態度をとれないだけでなく、安保と外交は一体という思考が停止しているわが国は、中露だけでなく周辺諸国からも翻弄されることになるだけである。
 四月一日、韓国の李明博大統領は、竹島(韓国名・独島)を「日本固有の領土」とする記載が盛り込まれた日本の中学教科書の検定結果に関し「天地がひっくり返っても、われわれの領土だ」と述べ、竹島の実効支配強化を継続していく立場を改めて強調した。
 一方、わが国の同盟国として、被災支援をテコに米国への好印象を植え付けたいオバマ米政権は、暫定予算をめぐって窮地に陥っている。

辛うじて政府機能を維持する米国
四月四日、オバマ米大統領は自身のウェブサイトに掲載した動画で、二〇一二年の次期大統領選挙に出馬する意向を正式表明した。共和党陣営からはまだ正式な出馬表明の動きはないが、主要候補と目される数人が大票田となる州を精力的に訪れ、全米で支持者との会合を重ねている。
 二〇一二年の米大統領選では、福島原発事故の影響でオバマの公約である原子力政策の是非が序盤戦での大きな焦点に浮上している。
 四月六日、オバマは民主党支持基盤の強いフィラデルフィア市、ニューヨーク市のタウンホール集会に出席し、支持を訴えた。大統領周辺は、「クリーンエネルギー政策に関する市民との対話」が主な訪問目的と説明するが、大統領選に向けた事実上の全米行脚「第一弾」となった。
 同日の集会で、オバマは、福島原発事故で見直し機運が高まる原発について、「風力や太陽光とともにクリーンエネルギーの大きな柱になる」として、積極的な建設推進に理解を求める方針を打ち出した。民主党の予備選では無風のオバマだが、同党支持者の六割以上が原発建設反対である。今後、公約と支持者の板挟みで、大統領が対応を間違えれば、「オバマ離れ」が急速に加速しかねない。皮肉なことに、わが国の原発事故対応が、米大統領選に影響を及ぼす可能性がある。
一方、オバマは今年に入り、エジプトやリビアなど中東の騒乱への対応に忙しい。だが、経済政策に対する保守層の反発など、内政課題が山積している政治状況は、大敗した昨年一一月の中間選挙以降変っていない。
 医療保険改革や金融規制改革に反対で、比較的中低所得者が多いとされる草の根の保守運動「ティーパーティー(茶会党)」は、米国版「白人一揆」といえ、有権者の約七〇%を占める白人の「オバマ離れ」を加速させている。大統領の再選不支持は五〇%に達する一方、支持率は四二%止まり。失業率は八・八%と下落傾向にあるが、雇用情勢は依然として厳しい。
 また、下院多数派の共和党との歳出削減交渉が難航し、連邦政府機関の閉鎖危機に直面。ウィスコンシン州を発火点とする共和党系州知事による労働組合たたきも、各州の財政悪化と連動して国政を揺さぶっており、出口が見いだせない状態にあり、米政界にはオバマ失脚説すら流布されている。
 二〇一一年度(九月三〇日まで)米連邦政府暫定予算の期限が、四月八日深夜に迫っていた。オバマと民主、共和両党の幹部らが協議を行なったが、期日前の合意には至らなかった。四月七日夜もオバマはバイデン副大統領、民主党のリード上院院内総務、共和党ベイナー下院議長と協議を行なったが、開始から一時間足らずで終了した。
同様の事態は三月四日、一八日にもあったが、そのたびに米議会は二〜三週間分の暫定予算を合意し、政府の機能不全を回避してきた。今回も議会は一週間分の予算を決議したが、オバマが大統領権限で拒否権を発動して協議は成立しなかった。
 四月七日、予算措置を巡って政権側と議会の折り合いがつかない問題で、米政府は、仮に期限切れになって「政府閉鎖」に陥っても、日本の原発問題への対処や復興支援などの協力には影響が出ないとの見解を示した。米国防総省のラパン副報道官も同日、「国防と国家安全保障を支える活動は継続する」とし、日本での被災者支援活動やリビア、イラク、アフガンでの軍事行動には変更がないことを明らかにした。
 四月八日も、下院で主導権を握る共和党と与党民主党は断続的に協議した。共和党は削減の上積みを求める一方、民主党は共和党が求める妊娠中絶の補助金撤廃などに難色を示して協議は難航した。しかし、暫定予算の期限切れの一時間前の深夜、政府案から約三九〇億ドル(約三兆三〇〇〇億円)削減することで最終的には両党が歩み寄って、なんとか合意にたどり着いた。また、米上院は当座の政府機関の閉鎖を避けるため、一週間のつなぎ予算を可決した。
 同日夜、記者会見したオバマは「民主党と共和党の指導部は合意に達した。政府機関の閉鎖は回避される」と述べた。
 米予算案をめぐっては、半年以上も成立しない異常事態が続き、大統領が両党に対して、約一五年ぶりとなる政府機関の閉鎖を避けるために合意を促していた。しかし、最終的にオバマは野党に妥協せざるを得ない状況に追い込まれ、大統領としての指導力を大いに失墜させてしまった。
 米大統領の指導力失墜は、対中東外交、軍事作戦にも大きく影響する可能性が見えだしている。

カダフィがオバマに書簡
 三月二七日、北大西洋条約機構(NATO)は、リビアで米国などが主導してきた軍事作戦の全指揮権をNATOが引き継ぐことを全会一致で了承した。NATOが引き継ぐのは飛行禁止区域の監視、民間人保護、武器禁輸の各作戦。この結果、米国、英国、フランスは、これまで担ってきた主導的な役割から後退することになる。
同日、ゲーツ米国防長官は、多国籍軍によるリビアでの軍事行動について、「飛行禁止空域の設定に関する任務は完了した」との見方を示した。軍事行動は当面続くものの、NATOへの指揮権移譲を受けて徐々に米軍の関与を減らす考えも明らかにした。
 翌二八日、オバマは、ワシントンの国防大学での演説で、対リビア軍事介入は「米国のリーダーとしての役目だ」と語り、国民の理解を求めた。そして、作戦の指揮権は三〇日に米軍からNATOへ引き継がれると述べた。
 また、オバマは、リビアの最高指導者カダフィ大佐による反体制派の弾圧を阻止することは、米国にとって「戦略上の国益」にかかわる重要な目的だと強調した。しかし、一方で、作戦の目的をカダフィ政権の打倒まで拡大することは、多国籍軍の分裂につながると警告。そのうえで「歴史はカダフィ大佐側に味方していない」と語り、リビア国民の手による政権交代への期待感を示した。
 米軍の対リビア介入をめぐっては、民主、共和両党から作戦の目的や費用、出口戦略、アラブ世界への影響などを問う声が上がっている。また、大統領が事前に議会と協議せず、国民への説明も不十分なまま武力行使に踏み切ったとする、オバマ批判も強まっていた。 三月三一日、ゲーツは、米議会下院軍事委員会の公聴会でリビアでの軍事行動について証言し、今後、米軍の関与を大幅に減らしていく方針を表明した。米政府は、CIA要員を現地に送って軍事支援の準備をしているとされている。だが、ゲーツは、反体制派支援のための軍事訓練や武器供与は「米国以外の国がやるべきだ」とし、米軍の関与を強く否定。地上部隊の派遣についても、「オバマ大統領が実施する状況が想像できない」と述べた。
 三月二八日、ラブロフ露外相は、英米仏など多国籍軍のリビア攻撃について、「内戦への介入は国連安保理決議では認められていない」と述べ、多国籍軍の軍事行動が国連決議を逸脱していると批判した。ラブロフは、多国籍軍参加国が安保理決議の目的である「一般市民の保護」を掲げながら、カダフィ政権軍を攻撃して反体制派を支援していると指摘し、「明らかな矛盾がある」と強調した。
 イタリアのANSA通信によると、リビアの首都トリポリ在住のカトリック司教が三月三一日、多国籍軍によるリビア空爆で、少なくとも四〇人の市民が巻き添えで死亡したと語った。空爆を指揮するNATOは同日、攻撃目標は軍関連施設などに限っていると強調する一方で、調査する方針を示した。
四月七日、リビア東部のブレガ近郊で、NATO軍機がカダフィ政権の政府軍と戦う反体制派を誤って空爆し、一〇人の死者・行方不明者が出た。立て続けに起きる誤爆問題について、NATOは「軍事作戦に停滞はない」としつつも、対応に苦慮している。
 一連の動きは、対リビア軍事制裁で当初から強気だったフランスの勢いを米国が削ぎ落とし、同時に、米国は戦線から離脱する意志を明確にしてきた実情を時系列的に浮き彫りにしている。そして、結果的に米国は、誤爆の責任から逃れている。
 米国がリビア軍事制裁に消極的なのは、カダフィ政権を存続させ、内戦を激化させることが、中東地域の混乱をより拡大させることになるとする、旧ネオコン勢力が狙う中東大混乱誘発戦駱に翻弄されているからである。
 四月六日、カダフィは、米内政事情の内実を見透かしたかのようにオバマに書簡を送り、NATO軍による空爆の停止を要請。その事実を、米政府高官が明らかにした。
 同高官によると、カダフィは書簡でオバマに対し、「一途上国の取るに足らない人々に対する不当な戦争」の停止を求め、敵方はテロリストやアルカイダのメンバーであると主張している。また、「あなたが我々に対して起こした言動により、我々は身体的にはもとより道徳的に傷つけられた」「そういったすべてのことにもかかわらず、あなたは今後も我々の息子であり続ける」などとし、来年の米大統領選でのオバマの再選を望むとも書かれていた。さらに、民主的社会はミサイルや空爆で成り立つことはないと主張。「あなたは誤った行動を止める勇気のある人だ」とオバマに伝えている。
 米政府高官は、書簡の趣旨は空爆の停止を求めるもので、交渉や退陣の申し出など新しいことは何も書かれておらず、米政府は真剣に受け止めていないとしている。しかし、カダフィの書簡の内容を正確に公開することで、米国がリビア反政府組織に肩入れすることは、米国が反テロ戦争の標的に定めているアルカイダを強化させることになるとの認識を、間接的に認める効果を期待させる仕儀でもある。
一方、同日の定例記者会見で、米国務省のトナー副報道官代行は、ウェルドン元下院議員(共和党)が、カダフィの招待でリビアの首都トリポリに入ったことを明らかにした。トナーは「私的な訪問」として、米政府のメッセージを託していないと強調している。だが、国務省の副報道官があえて公表したことは、米政府が彼の働きに期待を抱いていることを示唆している。
 ウェルドンは、二〇〇四年、米議会派遣団を率いてリビアを訪れ、カダフィと面会した経験がある。その後も、彼は何回かリビアを訪れ、カダフィ一家との親交も深めている。ウェルドンはカダフィと面会し、停戦や彼の即時退陣などを求める予定だという。
 また、トルコがリビア危機を収束させるべく仲介に乗り出している。

トルコがカダフィ説得へ動く
四月三日、リビアのオベイディ副外相が、ギリシアの首都アテネを訪問し、パパンドレウ首相と会談した。ギリシアのドゥルツァス外相は同日、「リビアの政権は事態の解決策を模索しているようだ」と述べた。
 会談の内容は明らかになっていないが、ギリシア政府関係者はAP通信に、「停戦の実現を含む外交努力が続いているが、政権側と反体制派の相互不信は強く、状況は非常に難しい」と述べた。リビアとギリシアは良好な関係を維持しており、カダフィ政権が英米などに対して何らかのメッセージを託した可能性がある。
 四月四日、オベイディはギリシアからトルコの首都アンカラを訪れ、ダウトオール外相と会談した。会談の詳細は明らかになっていないが、トルコの通信社は「停戦に向けてとるべき手順」などについて議論したと伝えた。
 ダウトオールは会談に先立ち、記者団に「悲劇を終わらせるために最善を尽くす」と述べた。会談でも、カダフィ政権と反体制派を仲介する意向を伝えたとみられる。ロイター通信によると、リビアの反体制派を率いる国民評議会の代表も近くトルコを訪問する予定である。オベイディは続いて地中海の島国マルタを訪問し、ゴンズィ首相と会談。同首相はカダフィの辞任を促したとされている。
四月七日、トルコのエルドアン首相は記者会見し、リビアのカダフィ政権と反体制派の間での和平実現に向けた三段階のロードマップ(行程表)を発表した。トルコは双方の停戦に向けて本格的な仲介に乗り出す意向を明確に打ち出している。
 トルコの提案は、@即時停戦の宣言に続き、カダフィ派が包囲している都市から撤退 A人道支援が実施できる地域を設定 B包括的な民主化プロセスにただちに着手、という内容。将来的には「憲法に基づく民主国家」を目指すとしている。
 エルドアンは会見で「詳細はさらに詰める」と述べた。外相のダウトオールも同日、ハティーブ国連特使(ヨルダン元外相)と電話で会談し、この提案を説明した。
 トルコはカダフィ政権と反体制派の双方に接触してきたとされるが、両者がこの和平提案について了解しているかどうか不明である。しかし、トルコのエルドアン政権は、イスラム回帰志向を強め、NATOに参加していてもリビア上空に飛行禁止空域を設定する国連安保理決議を棄権するなど、欧米勢力と一線を画し、アラブ・イスラム擁護姿勢を鮮明にしている。
トルコは対リビア軍事作戦を指揮するNATOの一員として、リビア沖に海軍艦艇を派遣している。しかし、一方で人道支援にも力を入れており、四月五日にはリビアで負傷した三二一人を船で受け入れている。
また、トルコは、ガザ支援船襲撃事件を契機に、イスラエルと断絶し、今では、敵対も辞さない強硬姿勢を貫いている。
 トルコの動きについて、アラブ・イスラム諸国は、エルドアン政権が、かって北アフリカから欧州の一部地域を支配したオスマン帝国の気概を取り戻していると、その先行きを注目している。トルコが文明地政学的位相における「オスマン帝国」として、アラブ・イスラム圏の偉大な指導国家になるのではとの期待感を込めてでもある。
 リビアがトルコに副外相を派遣し、その直後にトルコ政府がリビア和平の行程構想を公表したのは、それなりの根回しに自信を持ってのことであろう。同時期、元米議員がリビアを訪問し、カダフィと面会することが公表されたのも、トルコと米国内の非ネオコン系勢力と連携した動きである可能性を暗示している。すなわち、カダフィもトルコも、オバマは旧ネオコン勢力には与していないと見立てているのである。
四月五日、オバマは、ホワイトハウスでイスラエルのペレス大統領と会談した。
 オバマは会談後の記者会見で、中東和平について「イスラエルとパレスチナの間の(懸案に関する)平和的な解決法を探る努力をすることが、かつてないほど急を要している」と述べ、頓挫している直接交渉の早期再開の必要性を強調した。
 また、中東各国で民主化要求デモが拡大していることに触れ、「これは挑戦であるとともにチャンスだとの考えを共有した」と指摘した。すなわち、オバマは、旧ネオコン勢力が仕掛ける中東大混乱誘発の最終局面は、イスラエルの消滅・ハルマゲドン勃発(イスラエル在住のユダヤ人が人身御供)に繋がる危険性がある。それ故、中東和平に真剣に取り組むようペレスを説得し、ペレスと認識を共有した可能性を示唆している。
 ハルマゲドン勃発を回避すべく様々な動きが見え始めているが、その逆の動きも激しくなってもいる。

イスラムを冒涜する米系教会 
四月七日から八日にかけイスラエル軍は、パレスチナ自治区ガザ市東部や南部ハンユニスなどを攻撃。現地からの情報によると、空爆などでパレスチナ人一一人が死亡。そのうち少なくとも四人が民間人。同軍報道官は、ガザの武装勢力によるイスラエル攻撃への報復として「テロ活動の拠点を攻撃した」と説明している。
 四月九日のパレスチナ自治区ガザからの情報によると、イスラエル軍が南部ラファなどを攻撃、ガザを支配するイスラム組織ハマスの軍事部門のメンバーら三人が死亡した。
 イスラエル南部ナハローズ近郊で七日、走行中の通学バスにハマスが対戦車砲弾を撃ち込み、二人が負傷したことを受け、イスラエル軍はガザへの攻撃を強化。同日から九日午前までの攻撃による死者は、民間人を含め一七人に上った。すなわち、オバマがペレスと中東和平を急ぐ必要があると認識を共有した直後、その動きを封じる事件が頻発している。
 また、米国では一部のキリスト教勢力がイスラム教をこれ見よがしに冒涜する行為を行ない、キリスト教とイスラム教の激突を誘発している。
四月一日、アフガン北部マザリシャリフで、米国でイスラム教の聖典コーランが焼かれたとされる報道に怒ったデモ隊が同市内の国連事務所を襲撃。地元州当局者によると、国連の外国人職員を含む一二人が死亡した。
 国連によると、マザリシャリフで死亡が確認されたのはノルウェー、スウェーデン、ルーマニア人の国連職員とネパール人警備員ら四人の計七人。国連安保理は同日、緊急会合を開き、「襲撃を最も強い言葉で非難する」との報道声明を発表した。
 マザリシャリフはアフガン北部の中心都市で、これまで比較的治安が安定していた。襲撃を受けた国連事務所は、地域の復興支援の中心だった。コーラン事件への怒りの矛先が、欧米人がいる身近な国連事務所に向かった可能性が高い。駐アフガン外交関係者は「アフガン側の治安能力不足は明らか。権限移譲を予定通り進めるかどうか、議論は必至だ」と指摘している。
翌二日、首都カブールで、NATO軍駐屯地前で二人が自爆。侵入を試みた別の二人が射殺された。市民一人が巻き添えとなり、NATO軍兵士三人も負傷した。南部カンダハルにも騒乱が飛び火し、死傷者が出ている。
 一連の事件の背後関係について、マザリシャリフの当局者は「タリバンが煽動した可能性がある」として騒乱に加わった二〇人以上を拘束した。カンダハルの当局者も、「武装勢力が便乗している」と指摘した。
 アフガンでデモ隊が国連事務所を襲撃した事件の発端となったのは、三月二〇日、米フロリダ州のキリスト教会がイスラム教の聖典コーランを「公開裁判」にかけて「有罪判決」を下し、燃やすまでの様子を記録した映像を自分たちのインターネットサイトに掲載したからである。同サイトによると、裁判で検察側は「コーランは永遠の起源を持たず、神聖ではない」などと主張。ターバンを巻いた男性がコーランを弁護してみせたが、灯油をかけて燃やすとの「判決」が下された。
 この教会のテリー・ジョーンズ牧師は昨年も、九・一一事件記念日に合わせてコーランを焼く計画を公表し、国際的な批判を浴びた。その際は、アフガン駐留米軍のペトレイアス司令官らが計画中止を呼びかけたのに応じ、矛を収めていた。
 今回、ついにコーランを焼却したことの波紋が広がり、実際に人命が失われる事件に発展した。だが、ジョーンズはアフガンでの襲撃について「衝撃を受けた」としながらも、「責任があるとは感じない。行ないも変えない」などと放言している。また、米司法当局も彼を放置しており、イスラム世界は米国への不信感を強めている。
 一方、同じ南西アジアで、イスラム教同士の宗派抗争を激化させる動きが広がっている。
四月三日、パキスタン中部デラガジカーンのイスラム教の聖者廟で、二度にわたり自爆テロがあり、信者ら少なくとも四二人が死亡、七〇人以上が負傷した。この日は聖者廟の祭りの期間中で、数千人の信者が集まっていた。
 聖者崇拝は、パキスタン民衆の間に広く浸透している。だが、イスラム原理主義者は異端視して、たびたび過激派によるテロの対象となっている。警察当局によると、霊廟に入ろうとした二人が警備員に制止され自爆した。
世界情勢がハルマゲドン(世界最終戦争)位相に誘導されていることを見極めた支那は軍拡に力を入れている。

支那空母就航へ
 三月三一日、支那外務省の姜瑜副報道局長は定例会見で、来春から使用される日本の中学校教科書に尖閣諸島に関する記述が増えたことについて、「釣魚島(尖閣の中国名)は中国の固有の領土で、中国は争う余地のない主権を有する。この事実を変えようとするいかなる言動も全て無駄だ」と述べ、不快感を示した。
支那が、震災対応に総力を注ぎ込むことを余儀なくされているわが国に対し領土問題を突き付けてきたのは、敵の弱みをついて、尖閣諸島は支那の領土だとの主張を既成事実化する目論見があってのことである。その目論見には、尖閣だけでなく沖縄の実質支配(琉球独立支援)を遠望した野望が秘められている。そのためにこそ、支那は海洋覇権力の強化、殊に空母保有に力を入れている。
同日、支那北京政府は、二年ぶりの国防白書「二〇一〇年中国の国防」を発表した。
 今回発表した白書で、「海洋権益の保護」を新たな戦略目標として打ち出し、海軍の能力や装備を増強していく姿勢を鮮明にした。支那が主張する「海洋権益」は、領有権を主張している尖閣諸島や南支那海の離島に限らず、インド洋進出なども視野にいれている。一方、国際社会が注目している航空母艦の建造問題や、次世代ステルス戦闘機「殲20」などについて白書は一切触れていない。
 また、現在の安保情勢について、「アジア太平洋地区の戦略構図は大きな調整をはらんでいる。関連大国は戦略的投入を増やしており、米国はアジア太平洋地区での軍事同盟を強化し、同地区の安保問題への介入を強めている」と、被災者支援を口実にし空母「ロナルド・レーガン」を派遣したことを念頭に置いて、米国を牽制した。
 一九八五年、支那で空母の父と呼ばれる故・劉華清提督は、北京中央政府に提出した「中国の海軍戦略」の提案書で「二一世紀初めまでに、台湾や沖縄まで防衛ラインを拡大し、二〇二〇年までに北太平洋に進出、五〇年までには全世界に作戦範囲を拡大しなければならない」と主張した。
二〇〇九年、支那は劉提督の提言を受けて、海軍の戦略概念を「近海防御」から「遠洋防御」に転換した後、太平洋やインド洋へ作戦範囲を拡大することに腐心している。〇八年からソマリア海域に三隻の軍艦を投入し、昨年四月には日本の南方海上を通って西太平洋に進出する大規模な海軍機動訓練を実施した。こうした遠洋進出戦略を実現するために、必要不可欠となるのが空母で、〇九年の「遠洋防衛」構想には、国産空母の建造計画を策定したことが明記されている。
四月七日、新華社通信や環球時報など支那の国営メディアの電子版は、支那がウクライナから購入し、二〇〇二年から大連の造船所で改造作業を行なってきた旧ソ連の空母「ワリヤーグ」(六万トン級)が、完成段階に入り、仕上げの作業が進められていると、二〇枚の写真付きで報じた。支那海軍が公表していない空母建造について国営系メディアが報じるのは初めて。
 空母の支那名は「施琅」(清の水軍の将軍で台湾を奪還した人物)。新華社通信は「一九四〇年代に国民党政府の海軍が空母建造計画を策定して以来、中国人が七〇年間待ち望んできた空母保有の夢がついに実現した」と報じた。支那では、海軍の創設日にあたる四月二三日や、共産党創党九〇周年を迎える今年七月一日が、試験航海の日程に挙げられている。軍関係者によると、「施琅」は二〇一二年に就役の予定という。
 支那は、国防白書では触れなかった空母就航を公表し、さり気なく軍拡を鼓舞している。また、白書では、支那自身が直面する国家安保への挑戦も「多元的かつ複雑になっている」と記し、台湾の独立問題、東トルキスタン問題、チベット問題のほか「国家領土の主権や海域権益を維持することに対する圧力が強まっている」としている。
 さらに、「外部からの懸念、妨害および牽制が強まっている。米国は両国間で交わした約束に違反して、台湾に引き続き武器を輸出しており、米中・中台関係を著しく損ねた」と米国の対台湾武器売却についても非難した。
 すなわち支那は、近未来に台湾海峡を中心に、東・南支那海での米中海洋覇権抗争が激しくなると遠望している。のだ
 同時に、内憂への締め付けも強化している。三月二八日の「チベット農奴解放記念日」を挟み、北京当局の政策に抵抗するチベット族の示威行動が活発化している。民主化を求める「中国茉莉花革命」との結合を恐れる当局は、三月中旬に起きた僧侶の焼身自殺に関する情報を遮断、武装警察をチベット自治区などに投入し警戒を強めている。同記念日は二〇〇九年に制定され、「共産党の指導でチベットの民主改革が始まった」とする、当局にとっては「解放」を祝う日。だが、チベット族にとっては、共産党による弾圧の歴史を想起させる「忌日」である。
四月六日付人民日報は、三月下旬の腐敗撲滅に向けた幹部会議での温家宝首相の演説内容を明らかにした。温家宝は、「中国の歴代封建王朝の衰退はその贅沢三昧によるものだ」と、幹部腐敗への強い危機感を表明した。すなわち、温家宝は、党幹部の腐敗こそが最大の「内憂」であるとの認識を披瀝したのである。支那の財政および政治体制が党幹部の腐敗と際限ない軍拡で破綻する可能性を示唆した正直な演説といえよう。

平成二三年四月一〇日識