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  米朝戦略対話に関する一考察 
        (世界戦略情報「みち」皇紀2672(平成24)年3月15日第356号)

●現在、オバマ米政権は、沖縄に駐留する米海兵隊を普天間基地の名護市辺野古への移転を待たずにグアム島などに移転する意向を表明し、日本政府との話し合いを進めている。同時に、三代目金正恩体制に移行した北朝鮮との間で、本格的な和平合意を模索する動きも活発化させている。
二月二九日、米国務省のヌランド報道官は、北朝鮮が寧辺のウラン濃縮施設での活動や核実験、長距離ミサイル発射実験の「モラトリアム(一時停止)」に合意し、寧辺の核施設に国際原子力機関(IAEA)の監視要員を復帰させることにも応じたと発表した。米国はこれを受け、栄養補助食品二四万トンを支援するため、近く北朝鮮側と最終協議を開くことも明らかにした。北朝鮮の外務省報道官も同日、同様の合意内容を発表した。
 北朝鮮外務省報道官が朝鮮中央通信を通じて発表した米国との合意要旨は次の通り。

▲北朝鮮は米朝高官協議が行なわれている期間は核実験と長距離ミサイル発射、寧辺のウラン濃縮活動を一時停止する
▲国際原子力機関(IAEA)によるウラン濃縮一時停止の監視を認める
▲米国は二四万トンの栄養補助食品を提供し、追加的な食糧支援実現のために努力する
▲米朝は核放棄を盛り込んだ二〇〇五年九月の六ヶ国協議共同声明の履行を再確認する
▲六ヶ国協議が再開されれば、北朝鮮への制裁解除と軽水炉提供問題を優先的に議論する
▲平和協定が締結されるまでは朝鮮戦争休戦協定が平和と安定の礎石
▲米国は北朝鮮を敵視せず、二国間関係改善の準備があることを再確認
▲米国は文化、教育、体育などの分野で人的交流を拡大する措置を取る意思を表明する

 米朝両国は北京で二月二三〜二四日、デービース北朝鮮担当特別代表と金桂寛第一外務次官との間で、高官協議を行なった。
 米政府は、金正日総書記が死去して以来初めてとなる北朝鮮との核問題をめぐる直接協議について、デービース特別代表と北朝鮮側の初顔合わせにより、表向き協議の継続を最低条件としていた。一方で、金正恩政権に移行したことで、北朝鮮側に何らかの変化が起きる可能性もあるとみて、北朝鮮の出方を注視していた。
米朝間での戦略対話に弾みが付き、両国が積極的に大筋での合意を目指す意向を示しているため、北朝鮮内に残る米兵遺骨発掘問題を巡り、米朝軍事協議が開かれる見通しになった。
 朝鮮中央通信によれば、北朝鮮外務省報道官が米側の協議提案を受け入れる考えを示した(二月一九日)。北朝鮮は一月、国防相会談を含む米朝軍事高官協議を提案しており、高位級の会談を積極的に目指していた。
二月二八日、ウィラード米太平洋軍司令官は、朝鮮戦争時に北朝鮮で行方不明となった米兵の遺骨発掘事業用の機材を積んだ米艦船が、平壌近郊の南浦港に到着したことを明らかにした。

●一連の動きは、これまで、米国や支那、韓国などの外部勢力によって閉ざされてきた日朝間の壁が、米朝主導で取り払われることで、わが国と北朝鮮との国交正常化が促されることを強く印象付けている。『横田めぐみさんと金正恩』と題された飯山一郎氏の著作が、異例な形で緊急出版されたことについて縷々述べてきたが、安定した関係の構築を目指す米朝戦略対話の促進はその出版意図の一端を示している。
 北朝鮮は、米国の外交戦略の微妙な転換を見極めたうえで対米戦略対話に打ってでて、返す刀で日本を取り込む強かな戦略に転じる意向を『横田めぐみさんと金正恩』の出版に託した。当然その背後では、米政界にも一定の影響力を行使できる勢力と連携した、慎重な配慮を欠かしてはいない。
 その勢力とは、「新河豚計画」を推進したい、一部の国際ユダヤ金融資本勢力である。
 二〇〇八年のリーマンショックを契機に世界の金融秩序は大きく揺らぎ、未だその衝撃から立ち直っていない。逆に、もはや立ち直りは不可能ではとの不気味な動きが顕著になり始めている。最近、一〇〇人以上の世界中の中央銀行や金融機関の主要幹部等が、次々と辞表を提出したり辞職する事態が相次いでいる。
 ゼーリック世界銀行会長辞任・韓国為替銀行総裁辞職・クエート中央銀行総裁辞任・スイス中央銀行のトップ辞任・米ゴールドマン・サックスのロイド・ブランクファインの後任準備・バチカン銀行の四人の聖職者スキャンダルで告発……。
 一連の情報のなかに、バチカンの聖職者が含まれている。彼らは、バチカン銀行を監督する立場にあったが醜聞騒動で告発され、イタリア警察から追求されている。そのバチカンが、ハッカー攻撃を受けている。
三月七日、国際ハッカー集団「アノニマス」は、バチカンのサイトを攻撃したとする声明を発表した。
 彼らは、バチカンは「利益追求組織!教義や礼拝、不合理で時代錯誤の概念に対抗するために攻撃を決めた」と、主張している。また、ローマカソリック教会に責任があるとする歴史上の悪行の数々、一六世紀の免罪符(贖宥状)販売・宗教裁判による異教徒の火刑などを挙げ連ねて非難。さらに、「ローマ法王庁がイタリアの内政に毎日干渉するのは時代に逆行することだ」とも批判している。
同日、米国務省は二〇一二年の「国際麻薬統制戦略報告書」を発表して、マネーロンダリング(資金洗浄)に利用される懸念がある国の中にバチカンを初めて加えた。同報告書では世界の一九〇ヶ国をマネーロンダリングの危険度により「懸念が大きい」「懸念」「監視」の三つに分類。バチカンは、初めて「懸念」の範疇に加えられた。
 一連の動きはリーマンショック以降に揺らいできた国際金融秩序が崩壊の危機に直面し、関係者が現場から一斉に逃避し始めている状況の一端を浮き彫りにしている。さらに、ガイトナー米財務長官が司法当局に拘束され、逮捕・訴追を免れるために司法取引を行ない、インサイダー取引による不正融資などの秘密をつぶさに漏らしたとの情報も流布されている。
 また、バチカン銀行に対するハッカー攻撃と、米国務省の「国際麻薬統制戦略報告書」は、天啓宗教世界内部における「神々の争い」(文明の衝突)が熾烈化、最終的に金融ハルマゲドンを誘発するための仕掛け工作が発動された可能性を暗示している。
 国際金融秩序が根幹から覆る趨勢にあって、米朝戦略対話が急速に進捗しているのは、新たな「安住の地」「約束の地」を模索する一部の国際ユダヤ金融資本勢力の焦りの裏返しである。
 米朝両国が、同時に、戦略対話の一部合意を発表したことに対し、わが国のメディアは「北朝鮮、米要求を丸のみ」「経済再建を優先」とした、北側が米国に屈服姿勢を示したような報道に徹している。
 しかし、北側が妥協した核濃縮の一時停止などに関し、北朝鮮が寧辺以外にも秘密の濃縮施設を持っているとの見方が根強く、その場合、寧辺の核施設の停止だけではウラン濃縮型の核開発に歯止めをかけられないことになる。だが、米側は、そのことに関する懸念は一切発していない。逆に北側は、戦略ロケット司令部の存在を明らかにして、対米軍事対峙の選択肢を放棄していない決意を誇示している。
 三月三日、朝鮮中央放送などの北メディアは、「北朝鮮の新指導者、金正恩氏が軍の戦略ロケット司令部を視察、敵が少しでも動きを見せれば無慈悲な火力打撃で敵の牙城を火の海にせよ」と指示したと報じた。北朝鮮メディアが、戦略ロケット司令部の存在を伝えたのは初めて。同時に、金正恩が二月二一日にも核と弾道ミサイルを運用するとされる第八四二軍部隊を訪問したと伝えた。
 さらに、翌四日、朝鮮中央放送などは、金正恩が南北軍事境界線にある板門店を視察したと報じた。正恩の板門店視察が伝えられたのも初めて。正恩は「戦いが起これば軍と人民は敵を跪かせ、休戦協定ではなく降伏文書に判を押させる」と強調。視察日は不明だが、実施中の米韓合同軍事演習への強気な牽制意志を誇示した。

●北朝鮮は現在、金日成主席の生誕一〇〇周年に当たる今年の四月一五日の前後数日間にわたって海外からVIP待遇で約三〇〇人を招待する大規模な「祭典」を計画している。すでに日本を含む七〇ヶ国以上に準備委員会が組織されている。一連の行事は「金日成主席生誕一〇〇周年記念国際祭典」の名称で、四月一一日〜一六日の日程で平壌を中心に開催される。
平壌当局が大規模な開催を予定している祝賀行事は、金王朝版の「紀元節奉祝式典」である。三代目の継承で北朝鮮は金氏朝鮮と国体を昇華させたことを暗黙の内に宣言し、皇帝としての金正恩を内外にお披露目する。同時に、三代目体制の盤石ぶりを印象づけ、さらには、これまでの閉鎖国家から国際的に開放された王朝国家としての一歩を踏み出す意向を滲ませて、国際世論を軟化させることを目論んでいる。
 北側が最も腐心しているのは、日本の国内世論を軟化させることにある。その最大の試金石は、日本人拉致問題の解決にある。
 彼らは、小泉訪朝時、金正日が日本人拉致問題を認め形式的に謝罪したことが、逆に日本の世論を硬化させたことを踏まえて、単なる謝罪では問題は解決できないとして、諜報分野での工作を通じての決着を模索している。
 そして、妄想と揶揄されかねない『横田めぐみさんと金正恩』という本の出版を急がせて、日本側の反応を慎重に探っている。同時に、様々な意向を発信しながら、彼ら流儀の落としどころを探している。だが、日本側に正式な交渉の受皿組織が無いため、諜報機関同士ならではの会話が成り立たないことに苛立ちを覚えている。
 わが国は、米朝が本格的な戦略対話を開始したことを対米自立への好機と受け止め、せめて、諜報分野で独立国家にふさわしい組織を早急に立ち上げるべきである。わが国が日朝国交正常化を本格的に模索し始めれば、支那や韓国、あるいは米国との摩擦を覚悟しなければならない。その摩擦を回避するためにも、独立国家としての諜報機能の確立は不可欠である。

平成二四年三月一〇日識