北人工衛星発射への一考察 
     (世界戦略情報「みち」皇紀2672(平成24)年4月15日第358号)

●三月二五日、韓国の李明博大統領は訪韓したオバマ米大統領と青瓦台(大統領府)で会談、「米韓史上最も緊密な両国関係」(韓国政府筋)をテコに、事実上の長距離弾道ミサイル発射予告で国際社会を揺さぶる北朝鮮に共同対処していくことを強調した。ただし、李が合意取り付けに意気込みを見せていた韓国軍の弾道ミサイルの射程延長にはお墨付きが得られず議論が先送りされ、米韓の思惑のズレも浮き彫りとなった。
 共同記者会見で、オバマは李との個人的な友情関係を強調したが、韓国の弾道ミサイル射程延長については「米韓同盟上、大きな問題ではない」との慎重姿勢をみせた。
 北朝鮮ミサイル発射実験は米韓共同声明で、「国連安全保障理事会決議にも違反する」という表現になった。今回の共同声明は二〇〇六年の国連安保理決議を踏襲した「人工衛星打ち上げ」を口実とした発射実験も阻めるとしたものである。
 二〇〇〇年一〇月の米朝共同コミュニケ以降、両国はミサイル発射の停止について「(人工衛星の打ち上げロケットを含む)どんな種類の長距離ミサイル」という表現を使ってきた。〇六年の国連安保理決議も、「弾道ミサイル計画に関するあらゆる活動の停止」と規定している。
 しかし、今回、北朝鮮は二月二三〜二四日に行なわれた米朝高官会議に基づいて、二九日に米朝同時に発表されたウラン濃縮と長距離ミサイル発射の一時停止など合意事項に基づいて、人工衛星の打ち上げを発表した。
 両国の声明文を厳密に検証してみれば、「北朝鮮は長距離ミサイル発射の一時停止に合意した」とある。「どんな種類」を削除したこの表現は、米国が自ら安保理決議を無為化して北朝鮮に「発射するのは人工衛星だ」との言い逃れのお墨付きを与えたも同然で、常識的には米外交の失態である。だが、逆に、米国は北朝鮮に人工衛星打ち上げを唆し、朝鮮半島危機を煽動していると見なすこともできる。
 三月六日付の韓国紙、朝鮮日報は、米韓連合軍が三月、北朝鮮内で軍部の強硬派と穏健派が内戦を起し、韓国軍を北朝鮮に投入、北朝鮮軍強硬派を鎮圧して情勢を安定させるとの想定で訓練を行なったと報じた。内戦を想定した兵力投入訓練は初めてで、韓国政府消息筋の話とされている。
 米国が積極的に朝鮮半島危機を演出するのは、オバマ米政権が支那との全面的な戦略対峙を想定し、対外戦略をオフショア・バランシング戦略に切り替えて周辺同盟国をその最前線に配備する計画を本格的に発動し始めたからである。同時に米国は、韓国政府が強く求めた韓国軍の弾道ミサイルの射程延長には同意せず、最悪の場合は韓国を見放す意向を示唆したため、北朝鮮を勢いづかせている。
●二月二八日、北朝鮮の朝鮮中央通信によると、朝鮮宇宙空間技術委員会の当局者は、人工衛星の打ち上げについて「衛星は重さ一〇〇キロで、高度五〇〇キロの軌道を周回する」と明らかにした。また外国の専門家、記者らに対し、平安北道の発射施設で準備状況も公開すると説明した。
 翌二九日の韓国紙・朝鮮日報は、北朝鮮の朝鮮人民軍空軍で二月以降、戦闘機の出撃訓練が急増し、多い日は一日六五〇回余りに達していると伝えた。韓国空軍機が緊急発進を迫られるほど南下したことも、数回あったとされている。昨年までは一日平均一〇〇回未満で、多い場合でも五〇〇回程度だった。これまでなかった土・日曜日の訓練も行なっているとされている。
 北朝鮮メディアは一月に新指導者、金正恩氏が空軍部隊を視察したと伝えており、韓国当局はその後訓練が急増した点に注目。最近、外国から航空機用の燃料が北朝鮮に運ばれたとの情報がないため、約一ヶ月分あると推定される備蓄燃料を使っている可能性もあると指摘している。
二月二九日、北朝鮮外務省の李根米州局長が、平壌から空路北京に到着した。翌三〇日、李は米国の元政府関係者らとの米朝非公式協議に臨むため北京からドイツに向かった。
 李は北京の空港で記者団に対し、三月三一日と四月一日に民間シンクタンクが開く会議に出席すると明らかにし、「米朝非公式協議が設けられたので参加する。互いの関心事について議論する」と述べた。
 米朝両国は、支那側に情報察知されることを回避するため、ドイツで行なわれる民間のシンクタンク会議の場で人工衛星打ち上げに関する詳細な打ち合わせを行なうことを公にした。米側からは政府元高官らが出席した。四月二日、李はベルリンで同国が予告している事実上の長距離弾道ミサイル発射について、計画に変わりはないとの考えを改めて示した。
●四月二日、北朝鮮は、朝鮮労働党代表者会を四月一一日に開催すると発表した。昨年死去した金正日総書記の三男、金正恩氏が党トップの総書記に就任するとみられている。正恩はさらに、国家トップの国防委員長にも就任する見通しだとも推察されている。
 北情報筋は正恩を党のトップである総書記に据えるのは、当座の権力継承を認知させるため避けられない人事だとしている。しかし、国家のトップに関しては、これまでの国防委員長とは違った敬称を創設して、正恩を初代に据えたいと願っている。しかし、支那が国防委員長に拘って干渉し続けており、北当局(集団指導部)は苦慮しているとしている。彼らが想定している国家の新しい代表敬称とは「国父」「国柱」だとしている。
 北朝鮮で昨年末、今年のカレンダーに四月四日が公休日として表示されていることが分かり、さまざまな臆測を呼んでいた。朝鮮中央テレビは四日、この日が先祖の墓参りなどをする「清明の日だ」と公式に説明した。
 同テレビは、「この日は先祖の墓の手入れをするほか、昔から種まきなどを始めた。勤勉な民族性が反映されている」と説明。金正日は生前「民俗的節句も祝い、民族固有の文化を生かすべきだ」と述べたとされ、この発言に従って清明節が公休日に追加された。
 北朝鮮メディアは、正恩新体制の正式な確立を前に、朝鮮民族は本来の儒教文明に回帰して新体制・金王朝の発足を祝うため、四月四日を公休日・祝日に決めたとの背景を明らかにした。
翌五日、朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は社説で、新指導者、正恩を「党の首位に頂くことは、革命の勝利に向けた決定的保証になる」と主張、党トップである総書記への就任をあらためて強く示唆した。北朝鮮が新指導部体制を確立する動きに連動するかのように、支那に異変が生じている。
●四月一一日、支那の重慶から湖北省の高速道路を搬送中だったトラックが高速道路警察によって臨検を受けた。積み荷は紅色のカートンに梱包された砲弾が一万二〇三三発。運転手は「重慶の会社から請け負っただけで積み荷の中味は知らないし、吉林省まで運ぶ途中だった」と答えた。
 在米華字紙は一斉に、この「事件」を大きく伝えた。なかでも注目は、「吉林省」という目的地が「大連」行きを偽装していたのではないかとする推定記事。大連で次々と拘束されている実業家らが、実質的に粛清された重慶のトップ薄煕来家と繋がっている関係から、私的武装のためではないかと論じる人間さえいる。
 薄煕来は、大連市長を務めた経験がある。煕来の息子、薄瓜瓜の英国留学費用を援助した徐明(大連実業社長)は薄失脚の日に大連で拘束され、また大連大洋制服社CEOの李某女史も三月二〇日に逮捕されている。彼女は薄ファミリーに数千万元の「献金」をしていたという。「もし薄煕来の失脚が林彪の反乱に酷似するなら、これは一九四九年以来最大の政変の一つになる」(博訊新聞網、四月六日)。
 また重慶のホテルで変死した英国人ニール・ヘイウッド氏は大連時代から薄一家と交際が深まっていた。きっかけは薄瓜瓜の英語の家庭教師だったからで、その後、彼の英国留学の便宜を図ったとされている。だが、同時に薄一家の財産を英国へ送金する役割を担って秘密を知りすぎたことになったのでは、との分析がなされている。
大連は、ユダヤ系勢力が「第二の安住の地」と定めた「新河豚計画」における、国際経済権益の中心都市である。その大連で、薄一家の権益が根こそぎ没収され、抵抗勢力が武装蜂起まで企んでいる可能性に、在米華人は大きな関心を抱いている。
 ちなみに、薄煕来の後任として共産党重慶市委員会の委員、常務委員、書記の三役を兼任するのは張徳江である。張は吉林省延辺大学朝鮮語学部朝鮮語学科で学習し、一九七八年から一九八〇年まで北朝鮮の金日成総合大学経済学部に留学した朝鮮通である。
 中国共産党中央委員会が薄煕来の後任に張徳江を選んだのは、複雑な北朝鮮利権(新河豚計画利権)を勘案しての措置である。支那同様、わが国も対北対応に翻弄されている。
●三月三〇日、北朝鮮の「衛星」打ち上げに対する破壊措置命令に絡み、防衛省・自衛隊は、部隊が常駐しない沖縄県・先島諸島に部隊の派遣を決め、自衛隊部隊は現地への展開を開始している。わが国は、今回の自衛隊配備を機に、これまで駐屯経験のない国境の島与那国への自衛隊常駐を想定し、今回の派遣をその地ならしの一歩と位置づけている。
 今回の防衛省の対応は、オバマ米政権のオフショア・バランシング戦略への転換にそった措置で、自衛隊は米中戦略対峙の最前線を担うことになる。
 同時に、四月六日、鳩山元総理がイラン訪問に旅立った。イランは、今回の鳩山訪問を核開発をめぐるイランと西側の仲介だと政治宣伝している。
 奇しくも、同日(四月六日)付の米紙ワシントン・ポストは、オバマ米大統領がイランの最高指導者ハメネイ師に対し、核兵器を開発しないことを証明すれば、民生利用の核開発を認めるとのメッセージを送ったと報じた。
北朝鮮の人工衛星打ち上げ=新指導体制の発足は、朝鮮半島の危機情勢を演出する反面、米国の対外戦略の大幅転換をさらに加速させる可能性を暗示している。わが国はこの機を対米自立への好機と捉え、旧宗主国として独自の対北政策を模索すべきである。平成二四年四月七日識