九月ユーロ危機に関する一考察 
       (世界戦略情報「みち」皇紀2672(平成24)年9月1日第366号)

●ユーロの正念場
 ユーロ圏の債務危機は、九月に正念場を迎えることになる。
 九月には、@ドイツの憲法裁判所によるユーロ圏救済基金の是非についての判決 Aオランダの議会選挙 Bギリシアの追加支援、債務再編をめぐる交渉が控えている。加えて、ユーロ圏は、スペインとイタリアの支援方法も考案しなければならない。
 ユーロ圏の高位政策当局者は「九月は間違いなく修羅場になる」と指摘している。ことに九月一二日は、欧州にとって決定的な日になる。独憲法裁判所が五〇〇〇億ユーロの欧州安定基金(ESM)設立を定めた条約が、ドイツ憲法と整合性を持つかどうかについて判決を下すことになっている。ドイツはESMの最大出資国で、ESMなしではスペインとイタリアを守れないため、合憲判決は必至と見られている。
 一方、同日には、オランダ議会選挙が実施される。選挙戦では、ユーロ圏の浪費国にこれ以上資金を出すべきではないと訴える党派が優勢となっている。選挙結果によっては、九月に合意する必要があるギリシアの第二次支援策の修正論議を複雑化しかねない。
 ギリシアは、財政赤字を国内総生産(GDP)の三%未満に削減する期限の二年先延ばしを求めている。既に不況に陥っているなかで、これ以上の歳出削減を避けるためである。一部のユーロ圏当局者やエコノミストの試算によると、このためには一三〇〇億ユーロの対ギリシア第二次支援策に、二〇〇億〜五〇〇億ユーロ上乗せする必要がある。しかし、ユーロ圏はギリシアにこれ以上資金を出すのは絶対に避けたいとしている。
 政策当局者はギリシアの債務を削減し、同国をユーロ圏内に留めるうえで「ラストチャンス」となる最後の選択肢を検討している。複数の当局者によると、欧州中央銀行(ECB)と各国中央銀行は保有する債券について大幅な損失を引き受ける可能性も視野に入れている。ユーロ圏各国政府がギリシア向け融資の価値削減という苦い薬を飲むなら、タブーが破られ、アイルランドとポルトガルからも同様の扱いを要求されることになる。

●スペインをめぐる闘い
 スペインとイタリアが国債市場から締め出されるのを防ぐには、未踏の領域にもう一歩踏み出す必要がある。ECBが両国の借り入れコストを押し下げるという、異例の措置に踏み切ることである。ドラギECB総裁は、「ECBは与えられた使命の範囲内で、ユーロを守るのに必要なあらゆる行動を採る用意がある」と述べ、流通市場での国債買い取りを再開する可能性を示唆した(七月二六日)。
 しかし、独連銀は翌二七日、国債買い取りに「批判的」な姿勢は変わらないと表明。ショイブレ独財務相は、スペインが欧州救済基金に国債買い取りを要請するとの見方を一蹴した。スペインは年末までに、あと約五〇〇億ユーロの国債を発行する必要があるが、一〇年物国債利回りが七%を大幅に上回っていれば発行はほぼ不可能である。
 スペインとイタリア両国がユーロ圏に借り入れコストの押し下げを要請した場合、欧州金融安定ファシリティー(EFSF)あるいはESMが支援に乗り出すことができる。だが、現在の合意では、これら基金の支援能力は二〇一三年七月までが四五九五億ユーロ、一四年七月以降が五〇〇〇億ユーロで、市場を納得させるのに十分な資金を備えていない。
 だが、ESMが欧州中央銀行から資金をリファイナンスできるなら、事実上無制限の国債市場介入を行なえる。複数の幹部によると、ESMに銀行免許を与える可能性については舞台裏で何ヶ月も前から議論が進められている。フランスはこうした解決策を公然と求めているが、ドイツ、フィンランド、オランダの三ヶ国は強硬に反対している。
 八月二日、ECBのドラギ総裁は、金融安全網と協調実施を条件にスペインやイタリアの国債を購入する方針を示した。急騰する国債利回りを抑え、両国の資金調達を助けることが狙い。ただ、通貨供給量が増大し、インフレを招く懸念は残る。このためドイツでは反発が相次ぎ、イッシング元ECB理事も「通貨の安定が中期的にひどく脅かされる」と懸念を示している。
 一連の動きは、 ギリシアのデフォルト(国家破産)、ユーロ離脱を折込むための配慮である。
 ギリシア国債がデフォルトされた場合、エクスポージャー(金融資産のうち価格変動リスクに曝されている資産の割合)を多額に持つのは、フランス、オランダといわれている。各中銀にも資本注入が必要だともされており、スペイン、イタリアを飛び越え、一気にフランスへ波及し、ECBもまた膨大な不良債権を抱え、存続の危機に瀕することにもなりかねない。

●「独第四帝国」への試練
 ユーロ圏危機は、起こるべくして起きている。
 通貨発行権は近代国民国家の主要な基本主権の一つで、国家の通貨は国家財政、金融政策との整合性に基づいて発行されてこそ健全性、安定性が担保されている。だがユーロ通貨は、加盟国の財政・金融政策に介入(主権不介入)することなく欧州共同通貨として発行されたため、その歪みが生じるのは時間の問題であった。
 当然ながら、その皺寄せは、ドイツなど勤勉な国家の国民感情を刺激し、ギリシアやイタリアなど怠慢な国家への無償援助同然の支援に対して不満が嵩じている。ユーロを存続させるなら、主権不介入の原則を取り払う必要性に迫られているのだ。
 九月一二日には独憲法裁判所が欧州安定基金設立を定めた条約が、独憲法と整合性を持つかについて判決を下すことになっており、おそらく合憲の判断を行なうであろう。そうなれば、ドイツはユーロを同国主導で発行する通貨と位置づけ、今後は加盟国への主権介入を公然と行なう意志を強く持ち始めることになり、最終的にユーロ圏は、実質的な「独第四帝国」へと変身していくことになる。事実、ユーロ圏経済はドイツの動向に左右されている。
八月一四日、欧州連合(EU)の統計機関ユーロスタットは、ユーロ圏一七ヶ国の今年四〜六月期の実質域内総生産(GDP、季節調整済み)の速報値が、一〜三月期比で〇・二%減少したと発表した。EU二七ヶ国全体でも〇・二%減。牽引役のドイツの減速が大きく響いている。
ユーロ圏では昨年一〇〜一二月期に〇・三%減となったが、今年一〜三月期はドイツ経済の堅調さを背景にゼロ成長に踏みとどまった。だが、圏内の経済停滞に引きずられ、ドイツでも輸出環境が悪化。設備投資も減少して成長が鈍化した。
 また、ユーロ圏が最終的には「独第四帝国」への道を歩むことを懸念する英米アングロ勢力は執拗にユーロ崩壊工作を仕掛けており、ユーロ危機とは米欧通貨戦争であるとの面を持つことは否定できない。
 また、欧州債務危機の長期化により、先進国の金融・経済不安を尻目に著しい成長を遂げ世界経済の腰折れを防いできた新興国経済に対しても厳しい見方が増えている。半数以上の企業が「新興国経済の減速」を重大な経営リスクと指摘。新興国の成長鈍化が懸念材料として急速に浮上している。さらに、世界的な干魃の影響が食料価格を高騰させていることも、世界経済への大打撃になる可能性が懸念されている。

●食料価格高で緊急会合開催
 深刻な干魃などによる食料価格高を受け、米仏、G20会議議長国のメキシコが八月末に電話会議をすることになり、G20迅速対応フォーラムを開催するか検討する。このフォーラムは市場の異常な状況について二〇ヶ国が早期に話し合い、一国が一方的な政策措置を採るのを防ぐのを目的に昨年創設された。二〇〇八年のように食料価格の高騰が途上国の社会不安を引き起こしたりしないよう、禁輸など一方的な措置の回避を目指す。
 米、仏、メキシコの電話会議では、農産物市場情報システム(AMIS)による農産物価格に関する報告書がたたき台になる。AMISは、国連食糧農業機関(FAO)内に事務局を置いている。報告書は、AMISを主管するフランスが先月、作成を要請した。米国が一〇月からAMISを主管する。
 ルフォル仏農業・加工農産物相は、声明で「迅速対応フォーラム会合(開催)が正当化され得る新事実が出ないかについて、フランスと米国は引き続き注意を払っている」と表明した(八月一三日)。フォーラムの決定は拘束力を持たないが、禁輸などの一方的措置を防ぐ効果が期待されている。
 ロシアは二年前、深刻な干魃を受け、約一年にわたり穀物輸出を禁止した。今年、黒海地域が雨不足で再び禁輸に踏み切るのではないかと懸念されているが、仏政府高官は、いまのところロシアからはその兆候はみられないとしている。しかし、G20による協議も期待薄となっており、食糧危機を背景とする保護主義的貿易、あるいはブロック経済圏が加速する可能性が出てきている。
 同時に、食糧安保が各国の最も重大な懸案事項となりつつあり、軍事力以上の影響を食糧戦略が持つ状況となってきてもいる。特に穀物輸出大国である米国の食料戦略は、支那に大打撃を与えることになる。すでに、支那は輸入不足となっているトウモロコシの国内備蓄を放出し始めている。逆に見なせば、支那がやがて食糧、水、エネルギー資源不足から諸外国と争いを起こす背景が整ってきている。尖閣諸島への挑発は、その不気味な兆しである。
 ユーロ危機の背景には、米欧金融通貨戦争の側面が色濃く反映している。その本質は天啓一神教内部の神々の争いでもある。ユダヤ・キリスト教世界はイスラム教世界に対しては露骨な軍事紛争を仕掛けているが、返す刀で金融・通貨覇権をめぐる熾烈な闘いを継続している。その愚かさに神が鉄槌を下したかのように、世界的な異常気象が広がり、食料危機の到来が懸念されている。自然の征服を基本思想とする天啓宗教の役割がやがて終焉する兆しとも言えよう。(平成二四年八月一九日記)