北東アジア地殻変動への一考察 
       (世界戦略情報「みち」皇紀2672(平成24)年9月15日第367号)

●八月一〇日、韓国の李明博大統領が竹島に上陸し、日韓領土問題に火を付けた。また、大統領は、昭和天皇を侮辱することも厭わず民族主義を煽る言動を繰り返して日本を挑発している。
八月二三日、韓国政府関係者は日韓が領有権を主張する竹島(韓国名は独島)の問題を国際司法裁判所に共同提訴することを提案した野田佳彦首相の李大統領宛ての親書を、日本の外務省に書留で返送したことを明らかにした。
 朝鮮日報など八月二五日付の韓国各紙は、竹島をめぐり日本の領有権を強調した野田首相の発言や、李大統領の竹島上陸などに抗議した衆議院の決議に一斉に反発した。
さらに、韓国メディアの対日非難は竹島領有権の主張に対するものから、昭和天皇の戦争責任論にまでエスカレートしており、竹島の領有権主張や天皇陛下への非礼に対する抗議を強力に打ち出した日本に対し、一歩も引けない韓国側の現状を露呈している。
八月一五日、尖閣諸島に香港の保釣行動委員会の活動家が上陸して中華人民共和国と中華民国(台湾)の旗を立てたが、逮捕・強制送還された。
 八月二五日、香港紙・明報(電子版)によると、支那の山東省日照市で、尖閣諸島(支那名・釣魚島)の支那領有を主張する反日デモが発生して、約一〇〇〇人が参加した。
 デモ隊は「釣魚島は神聖で不可侵な中国の領土」と叫びながら領有権を主張。「日本帝国主義を打倒せよ!」「日本製品をボイコットせよ!」などとシュプレヒコールを上げた。
支那では一九日も二五前後の都市で大小さまざまな規模の反日デモが行なわれた。香港の活動家らによる尖閣上陸後、週末のデモは二週連続となった。しかし、支那における反日デモは政府の抑制下にあって、韓国のように官民挙げての反日運動にまでは至っていない。
終戦記念日(八月一五日)を念頭に置いたかのように、中韓両国が軌を一にしてわが国に対して領土問題を仕掛けてきた。この動きに併せて、米国のジャパン・ハンドラーズによる、日米同盟に関する新たな第三次アーミテージ・ナイ報告書が公表された。

●「日本は一流国でありたいのか、それとも二流国に転落してもいいのか」
 今回の「第三次アーミテージ・ナイ報告書」の冒頭にて、「一流国」の条件は、「大きな経済力」「(大きな))軍事力」「グローバルなビジョン」「国際問題に関する指導力」の四点と定義づけている。この定義に基づくならば、第二次大戦後の日本は、一時期の経済分野を除いて「二流国」であった。
 わが国を「二流国」に封じ込めてきたのは米国である。東西冷戦対立時代、わが国が米露対立の間隙をぬって一時経済発展を遂げ、米国の存在を脅かすほどまでになった。だが冷戦対立構造が終焉すると、米国はその牙をわが国に向け、これまでに蓄積された国富を骨の髄までしゃぶり尽くし現在に至っている。今回の第三次報告書はこの成果を踏まえたうえで、わが国に「一流国家」で有り続けたいなら、米国の思惑を尊重せよと恫喝する内容である。
報告書は大飯原発再稼働を「正しい」と高く評価している。その本旨は、日本国民が「脱原発」に目覚めていることが「脱米気運」につながることを警戒してのことである。同時に、支那が「原発の売手」として登場するのを阻ませるという秘められた意図にも基づいている。併せて、代替エネルギーについても、自らが利権を享受できる「シェールガス」を売り込みたいとの魂胆が丸見えである。
 同報告書は、更に「TPP参加」の妥当性を強調しているほか、日中韓の対立を煽り立て、集団的自衛権行使を禁止する政府解釈の変更を求めている。その本旨は、わが国の陸海空三軍の統帥権を米国に託せとしたものである。すなわち、支那や韓国との領土紛争が戦争レベルにまで高まる可能性を遠望したうえで、「日本独自の国防能力には限界がある。また、米国が日本を守るには現在の日米同盟体制では不備が多すぎる。それを埋めるため、日本はそれなりの覚悟を決めて日本軍を米軍の統治体制下に差し出せ」とする内容である。
 中韓両国は、第三次報告書の公表に合わせる形で竹島・尖閣問題に火を付ける外交包囲網を形成し、米国の思惑を下支えしている。
 尖閣諸島に上陸した香港の行動団体・保釣行動委員会の本部は米国にあり、専門家筋は米CIAの傘下団体と見なしている。今回、尖閣に上陸した同会のメンバーが、現地では英雄視されていると報じられている。だが、その「英雄」の一人が支那の国旗を燃やしていた写真が現地のインターネットで配信され物議を醸している。
八月三一日付の米紙ニューヨーク・タイムズに、尖閣諸島は支那固有の領土としたうえで「もし日本がハワイは日本の領土だと表明したら、米国民はどう感じ、米国はどう行動するだろうか」と問い掛ける支那人実業家による広告が掲載された。
 半ページの広告を出したのは陳光標。英語と支那語で記述された広告は「釣魚島は太古以来、中国の一部だ」とし、「日本の右翼が中国の領土主権を侵害している」「島の国有化の動きが右翼に煽動された」と主張。米政府と米国民に、「日本の挑発的行動を非難する」よう呼び掛けている。
 陳光標は反日団体のスポンサーとして知られ、さきの香港の活動家の尖閣上陸の舟のチャーター代金を工面した。また、背後に共産党の影があると噂される。すなわち、一部の国際勢力は、米中共同作戦で尖閣問題を過大視させることで、わが国がさらに米国に従属する国家に追い込みたいとの策謀を行なっている。残念ながらわが国の指導層は、その思惑に積極的に乗ることこそ唯一の活路との認識に凝り固まってしまっている。

●八月二二日、訪米中の杉山晋輔外務省アジア大洋州局長は、米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のラッセル・アジア上級部長、米国務省のキャンベル次官補らと相次いで会談した。米政府側は、香港の活動家が尖閣諸島に上陸した問題に関連し、尖閣諸島には日米安全保障条約が適用されるとの立場を示した。
 香港の活動家の上陸をきっかけに、尖閣諸島をめぐる日中間の対立が先鋭化するなか、わが国の外務省は「米側が改めて立場を明確にしつつ、理解を示した」との形を強く演出した。杉山氏は一連の会談後、尖閣問題について記者団に、「協議の中で確実に出た。(米側から)その点にきちんと言及があった」と強調した。
 一方、杉山氏は竹島問題について「国際法に基づいて問題を解決すべきだ」として、国際司法裁判所(ICJ)に提訴する日本政府の方針を米側に説明。杉山氏は記者団に「一般論として、国際紛争は平和的な手段で、国際法にのっとって解決すべきである、という点で、日本の考え方に米側は賛同している」と述べた。
 また杉山氏は、八月二九日に北京で行なわれる予定の日本と北朝鮮の予備協議についても、日本政府の対処方針を米側に説明。日朝間の協議が再開されれば、日米韓三ヶ国の連携が一層重要になる、との認識で一致した。
 尖閣が日本の施政下にあるのは、明白な事実で、何も国務省官僚らにいわれて安堵する案件ではない。問題は領有権への関与であるが、そこは適当に日中でやれば良いことだといっているだけで、アメリカ様が尖閣・竹島に言及してくれたと歓んでいる外務官僚の話に過ぎない。逆に、米国が何故慰安婦問題などで、韓国を煽ったのかを米国に問い詰めるべきではないのか?
 また、「日朝間協議再開に関し、日米韓の連携が一層重要になる」に至っては大きなお世話で、逆に、日朝協議のあり方が、脱米自立の風穴を開けることを警戒する米国の本音がにじみ出ている。

●八月二九日、四年ぶりの日朝協議で、日本政府は拉致問題の議題化を目指したが、北朝鮮の確約は取れずに終わった。日本人遺骨問題や日本人妻問題で積極姿勢をみせる北朝鮮の対応からは、持っているカードを小出しにし、交渉を優位に運ぼうとする従来の外交スタイルに変化のないことが窺える。
「拉致問題は日朝間の諸懸案のなかでも国民の生命と安全に直接関わる重大な問題だ」。日本側は協議のなかで繰り返し拉致問題を議題とするよう求めた。協議は難航し、日程は三日間延長された。「協議内容を報道陣にどのように説明するか調整を要した」(外務省幹部)側面もあるという。
 協議の結果、日朝双方が報道陣などへの説明向けに摺り合せた文言では「拉致」は盛り込まれず、「双方が関心を有する事項」とすることで落ち着いた。日朝の政府間予備協議は、九月に局長級の本協議を行なうことで合意したようだ。拉致問題について議題とすることを北朝鮮も受け入れ、進展を見せている。
 北朝鮮側は現在、金正日の元料理人藤本健二氏を介して、横田めぐみさんの生存説をわが国に周知徹底する工作に全力を注いでいる。めぐみさんが金王朝を支える重要な役割を果たしている内実を公にするための布石である。彼女の全存在が明らかになれば、拉致問題そのものが消え去るだけでなく、日朝関係が劇的に発展することを願って最後の賭けに出る腹づもりである。
 日朝関係の新たな構築は北東アジアにおける冷戦体制の残滓を一気に払拭する歴史的意義がある。
 一九九一年一二月、ソ連崩壊により第二次世界大戦後の冷戦体制に終止符が打たれたとき、わが国では、政治家だけではなく、日本全体が冷戦の終焉を深刻に受け止めなかった。そして、米国に冷戦時代のツケとして国富を毟り取られるのを、ただ指を咥えて見過ごすだけの「失われた二〇年」をやり過ごして現在に至っている。
日朝関係の正常化は、北東アジアの政治力学を根底から覆す可能性を秘めている。わが国は、冷戦体制下の日韓国交回復とは違った目線、すなわち、旧宗主国としての立場を自覚し、米国の思惑に引きずられることなく北朝鮮との対話を進めるべきである。 (平成二四年九月二日記)