世界的インフレ・争乱への一考察 
       (世界戦略情報「みち」皇紀2672(平成24)年10月1日第368号)

●投機家として世界市場に多大な影響力を及ぼすとされているジョージ・ソロス氏が独政府に対し、成長促進と共同財政機関の創設、共同債の保証によってユーロ圏を先導して景気後退から脱出させるか、そうでなければ、欧州の未来を救うために自ら通貨同盟を去るよう求める意見表明を、英フィナンシャル・タイムズ紙(九月一〇日付)に掲載した。
 ソロスは、「先導するか、去るか。これがドイツが下さねばならない論理的な決断だ」「ほかの欧州諸国と運命をともにし、一緒に沈むか一緒に泳ぐかというリスクを取るか、ユーロ圏から離脱するか、どちらかだ。なぜなら、ドイツが去れば、ユーロ圏の問題が改善されるからだ」と、同紙とのインタビューで指摘した。
 彼はさらに、ユーロの今後の運命は「完全にドイツの態度次第だ」と付け加えた。「ドイツがあくまで緊縮政策と、現在のデフレを招く立場を強化する政策を主張し、その立場を崩さないのなら、実際、(去った方が)長期的にドイツのためにもなるだろう」と、ドイツ政府に迫った。
ソロスは欧州統合の支持者だが、二〇一〇年以降、ドイツによるユーロ圏の危機対応を批判してきた。
 彼は、ユーロ圏の国債購入再開に向けて欧州中央銀行(ECB)が、ドイツの反発を退ける形でスペインやイタリアの国債を購入する新たな対策を「過去の対策より強力な一手」として称賛している。「効果があるだろうし、最終的な解決策の基礎を築く可能性さえある。だが、これは一時しのぎの対策であって、解決策ではない」「単にECBの介入の可能性を発表するだけで、スペイン政府が国債に払わねばならないリスクプレミアムが低下するはずだが、現在のデフレスパイラルを止めるには不十分だ」と、指摘している。
 ソロスはまた、スペインは「進退窮まるまで」支援を要請しないと判断している。そして、スペインのような国に一層厳しい緊縮の条件を求めると、ユーロ圏内の債務国と債権国の分裂を深めることになり、「EUの二層構造の恒久化に向けた一歩になるだろう」と警告したうえで、「ドイツは慈悲深い覇権国になれ」と提言している。
ソロスは、債務国と債権国の現在の対立が恒久化するのを防ぐためには、本格的な欧州財政機関(ETA)、すなわちECBが購入したすべての国債の支払い能力のリスクを引き受ける欧州通貨基金が必要だと指摘している。
 また、ユーロ圏は最低でも五%の名目成長率を目指し、一定期間に限り、ドイツ連銀がこれまで決して容認しなかった高さのインフレ率を実現すべきだとしている。成長の見込みがないと、債務国は「デフレの罠」から抜け出せず、デフォルト(債務不履行)を余儀なくされるからだとしている。
●ETAは、ユーロ圏の救済基金である四四〇〇億ユーロ規模の欧州金融安定基金(EFST)と五〇〇〇億ユーロ規模の欧州安定メカニズムを引き継ぎ、「債務削減基金」を創設する。
「債務削減基金」は、独政府の経済諮問委員会が提案した「債務償還基金」と似ており、ユーロ圏の政府債務のうち、各国の国内総生産(GDP)の六〇%を超える部分をすべて取得する。GDP比六〇%というのは、各国が本来目指すべき債務の上限。そして基金は、ユーロ圏諸国の連帯債務として「債務削減債」を発行する。
 ソロスは、ECBはこうした債券を最も質の高い担保として扱うし、投資家にとっては魅力的な債券になるはずだとしている。そして、「ECBには約七〇〇〇億ユーロの資金が預けられていて、その預金が現在得ている金利はゼロだ」「銀行はこのお金をECBに預けておくのではなく、ゼロよりましな金利が付く債務削減債につぎ込むようになるだろう」と、指摘している。
 ユーロ圏の債務に共同保証を与える措置に関しては、ドイツは猛反発している。独メルケル首相とショイブレ財務相は、欧州で財政規律を監視するための「財政同盟」が創設されるまでは、連帯保証はあり得ないという考えで一致している。
 ソロスはドイツの対応に関して、「ユーロに対する見方を変えない限り、ドイツは意図せずして、欧州を耐え難い状況に追い込む」と指摘している。さらに、「私が本当に心配しているのは、ユーロが今、EUを危険にさらしているということだ。怒りが渦巻くなかでEUが瓦解したら、欧州は統合が始まる前よりも悪い状況に置かれるだろう」と、警告している。
 一連のソロスによるドイツ批判は、デフレ政策の堅持にこだわる独政府への批判で、世界的なインフレを促進してリーマン・ショック以来の金融危機を克服し、返す刀で、世界統一金融・経済体系を構築したいと狙っているユダヤ金融資本勢力の野望を公的に表明したものである。同時に、ソロスのドイツ批判は、EUが「第四帝国」化することへの懸念表明でもある。ドイツは、彼らの野望を見抜いているからこそインフレ抑止にこだわっており、今回のソロスの批判を一種の宣戦布告と受け止めている。
●九月一二日、独連邦憲法裁判所はEUのユーロ圏の金融安全網、欧州安定メカニズム(ESM)について、条件付きで合憲とする判断を示した。ドイツの憲法判断を受け、ユーロ圏財務相会合のユンケル常任議長はESMを一〇月八日に発足させると表明。これで債務危機封じ込めに向けた態勢が整う。
 ESMは財政難の国に融資を行う常設機関で、融資能力は七〇〇〇億ユーロ。現行の欧州金融安定化基金(EFSF)の後継機関で、当初は七月の発足予定だったが、発足にはドイツの批准が不可欠だった。万一、違憲判断を示せば、危機対応の再考を迫られ、市場の混乱も必至だったため、憲法裁の判断が注目されていた。
 合憲判断について、独メルケル首相は「今日はドイツ、欧州にとり、素晴らしい日だ」と歓迎。ガウク大統領は批准完了に必要な署名の是非を迅速に判断する意向を示した。
 ドイツでは六月末に議会がESM条約を承認後、与野党の一部議員や市民団体が、ドイツの負担が無制限に膨らむ恐れがあり、議会の予算権を侵害するなどとして、批准の差し止めを憲法裁に請求していた。
 憲法裁は、ESMについて合憲とする一方、ドイツのESMに対する負担額は現在の一九〇〇億ユーロを上限とし、負担額が増える場合は議会の承認が必要などとする条件もつけた。憲法裁は、ギリシア支援など危機対応をめぐる過去の憲法判断でも議会のチェック機能の確保を求めており、今回の条件はその延長線上にとどまった。憲法裁はまた、参加国に財政規律の厳格化を義務付けるEUの新財政協定についても合憲とした。
「欧州版」の国際通貨基金(IMF)と称されるESMは、南欧など財政危機に陥った国の支援を担う柱。欧州中央銀行(ECB)が表明した、国債買い支えによる支援もEFSFやESMへの支援申請が前提となる。欧州委員会が九月一二日提案したユーロ圏の銀行監督一元化が実現すれば、経営難の域内銀行への直接資本注入も可能となり、危機対応は大きく前進する。
 ただ、財政危機がより深刻化すれば、さらに一兆ユーロ以上が必要となり、ESMの融資能力について、一段の拡充を求める声もある。
 独憲法裁判所がESMについて条件付きで合憲とする判断を示し、同機関が正式に発足することになったことでユーロ危機の克服は、よりドイツの主導で牽引されることになる。今後、インフレ抑止を目指すドイツと、世界的なインフレ増進を策すユダヤ国際金融資本勢力との目に見えない闘いが熾烈化することが予測される。
●九月上旬、NY金先物相場が大幅続伸、六ヶ月ぶりの高値となった。八月の米雇用者数が市場予想を下回る伸びにとどまったことから、連邦公開市場委員会(FOMC)が追加緩和策を講じるとの観測が高まったからである。FRB議長が雇用情勢の深刻さに関し何度も言及しているため、市場関係者は「緩和実施の可能性が高まっているとみており、インフレ亢進につながる可能性があると考えている」と述べた。
九月一三日、米連邦準備制度理事会(FRB)は、金融政策を決める米連邦公開市場委員会(FOMC)で、量的緩和を一年三ヶ月ぶりに再開することを決めた。雇用情勢の改善を支えるため、毎月四〇〇億ドル(約三兆円)の住宅ローン担保証券を市場から期限を決めずに買い入れて、お金を流し込み景気を下支えする。
 一三日のニューヨーク株式市場は、FRBによる量的緩和再開を受け、大企業で構成するダウ工業株平均は大きく上昇。終値は一万三五三九・八六と、約四年九ヶ月ぶりの高値で取引を終えた。かつて世界一裕福で、史上最強の覇権国家だったアメリカ帝国の最後の繁栄局面=虚栄のインフレバブルが始まったのである。
 虚栄のバブルを演出するのは米連邦準備制度理事会(FRB)である。
 この二年有余、FRBは米国債を一兆ドル以上も買いまくっている。その結果、FRB保有の米国債は一兆六六〇〇億ドル。世界一の債権国・支那が保有する米国債が一兆一六四〇億ドル。日本は一兆一一〇〇億ドル。いまや、FRBの米国債保有高が世界一。
 米国の国家財政は「タコの足食い」も同然の末期症状だ。「米国は自分に借金している。巨大なネズミ講だ!」と米会計検査院は批判するが、米国の破産を食止めるには、FRBが米国債を買い続けるほかない。NY株の暴騰を餌に世界中から金を誘き寄せ、同時にインフレ促進を誘発しなければならないのである。さもなくば米国は地獄を見ることになるか、自らが地獄の悪鬼と化すであろう。
事実、関係筋は、原油を中心に商品相場がさらに一〇%上昇、金は「年末までに一オンス当たり一八四〇ドルに、銅は一トン当たり九〇〇〇ドルに上昇する」と予測している。さらに、穀物を中心に食品も高騰しており、世界経済に新たな衝撃が走っている。そして、その流れが究極的には世界的な争乱を誘発する危険性も懸念される。荒れ狂うアラブの春の逆風と支那の愛国無罪騒動は、自然発生的ではなく仕組まれたものである。
平成二四年九月二六日記