IMF・世銀総会への一考察 
   (世界戦略情報「みち」皇紀2672(平成24)年11月1日第370号)


●一〇月九日、四八年ぶりに東京での開催となる国際通貨基金(IMF)・世界銀行総会が、東京国際フォーラムで始まった。
 IMFは同日、二〇一二〜一三年の世界経済の見通しを七月時点から下方修正した。一二年に〇・四%のマイナス成長を見込むユーロ圏について、「世界経済の最大のリスク」と指摘した。同時に、支那など新興国の減速にも警戒感を強めている。
 IMFのブランシャール経済顧問は同日の記者会見で「世界経済は回復を続けているが回復力は弱まっている」と述べ、先行きに懸念を表明した。減速の要因としては、「財政再建が需要を減らしているほか、欧州を中心に金融システムが不安定だ」と指摘した。
 IMFが世界経済の見方を厳しくしたのは、欧州危機への厳しい認識による。欧州では、イタリアとスペインは一二〜一三年がともにマイナス成長で、ドイツも一三年の成長率を大きく引き下げている。また、牽引役だった新興国の高成長も息切れしている。
 一二年の支那の成長率は七・八%と、七月よりも〇・二ポイント下げている。支那政府が雇用を確保するために必要としてきた八%を割り込むとみて、同国経済に懸念を強めている。新興・途上国全体では一二年に五・三%と、一一年の六・二%と比べると減速。先進国の需要減が新興国に波及しており、インドやブラジルは大きく下方修正している。
 先進国では米国について、底堅い個人消費や株価の上昇などを背景に一二年の成長率をわずかながら上方修正した。ただ、減税の失効や歳出削減が始まる年明けの「財政の崖」をめぐり、「危険性を取り除かなければ、米経済は再び後退局面に入り、世界に悪影響を及ぼす可能性がある」との懸念を示した。輸出が冴えない日本も、一二年の成長率は二・二%と、七月から〇・二ポイントの下方修正になった。
 IMFは一三年について見通しを下方修正したが、一方で各国経済が緩やかに回復するとの道筋を描いている。欧州の債務危機への対応や米国の急激な財政支出削減の回避など、適切な政策対応が実施されるとみているためである。一方、支那はIMF・世銀に閣僚級代表を送らなかった。
●一〇月九日付の支那国営の新華社通信は、IMF・世界銀行年次総会に、大手商業銀行の中国工商銀行、中国銀行、中国建設銀行、中国農業銀行の四行が欠席すると報じた。同通信は、日本政府による尖閣諸島国有化への対抗措置だと説明していた。
支那の融資総額の八二%を四大銀行が占め、ほとんどが国有企業に融資されている。だが、国有企業の半分以上が赤字。国有企業は不動産投資をしているところが多いが、不動産の売れ残りだけで六〇兆円分あるとされている。さらに、四大銀行が抱える潜在的な不良債権は一六〇兆〜二四〇兆円とも類推されており、その不良債権のほとんどが地方自治体に眠っている。
支那各地の自治体は一種のペーパーカンパニーである投資会社が銀行から融資を受ける形で資金を調達し、インフラ投資を行なっている。二〇〇八年のリーマン・ショック後も高成長を維持するため、採算度外視で投資を続けたことが裏目に出ている。
 アジア太平洋地域のニュースを扱うサイト「ディプロマット」は、米国の研究者の試算として、支那国内に約一万社あるという投資会社の債務が二〇一〇年末時点で最大一四兆四〇〇〇億元(約一八〇兆円)、地方自治体の借金額は二〇兆一〇〇〇億元(約二五〇兆円)としている。
また、総会には、中央銀行の中国人民銀行の周小川総裁と謝旭人財政相が欠席し、それぞれ、易綱副総裁と財務省の朱光輝次官の代理出席に留めた。
世界経済の重要課題を議論する重大な国際会議に、経済発展が著しい支那が日中間の事情を持ち込んで閣僚級の派遣見送りを決めたことで、欧米先進国は支那の国家としての未成熟さを浮き彫りにしたと批判した。同時に、反日デモで傷ついた国際的なイメージの低下に拍車をかけ、支那で事業展開するリスクを意識した外資が対中投資の抑制を加速させかねないと警告し、今回の支那の行動は、景気の一段の減速という形で支那自身に跳ね返る可能性があると指摘した。
支那が今回のIMF・世銀総会を実質的に無視したのは、支那の統治体制が胡錦濤から習近平指導部へと変わる過程にあって、次期指導部の経済・金融問題に対する大胆な切り替えを想定した構想が煮詰まっていないため、国際的な指針を提言する余裕が無いことを配慮しての決断である。
 胡錦濤指導部は、国際協調路線を維持しながら、IMF体制内部での発言権を強める動きを活発化させてきた。だが、習近平指導部は支那一国覇権主義に路線転換する可能性があって、第二次世界大戦以降の資本主義世界の興隆を担ってきたIMF・世銀体制そのものに挑戦する新世界金融秩序体系の構築を目指す意向を今回の欠席に託した可能性がある。事実、総会に参加した中国人民銀行の易綱副総裁は「中国は外貨準備をいつまでも米ドル基軸とはしない。過去の米ドル依存態勢を改める」と演説した。
●一〇月一二日、IMF・世銀年次総会はIMF資金基盤強化の調印式を行ない、拠出に応じた各国が調印した。日本は、最大の拠出国で六〇〇億ドル(約四・七兆円)を拠出する。
 だが、新興国の出資比率拡大などIMF改革の実行については、目標としていた今回の総会に間に合わず、先送りされた。最大の出資国米国の同意が遅れたためで、改革の実行は一一月の米大統領選後になる見通し。
 IMFは二〇一〇年、議決権に連動する出資比率について、新興国の比率を引き上げたうえ、新興国と途上国の理事も増やすなどの改革を行なうことで合意した。支那など新興国が欧米の先進国主導の運営に反発し経済規模に比べて発言権が弱いなどとして、改革を要求していたためである。
 改革が実行されれば、支那の出資比率は現在の六位から日本に続く三位に浮上、インドやロシア、ブラジルも一〇位以内に入る。
 ただ実行には議決権ベースで、八五%以上の加盟国の同意が必要。現時点では、約一七%の議決権を持つ米国が同意しておらず、今回の総会に間に合わなかった。大統領選を控え、米議会の同意を得られずに間に合わなかったとされている。
 しかし、米国が同意を遅らせてきたのは、支那が自国の利益を追求し、経済危機などへの対応で歩調を合わせない懸念が消えないからである。実際、支那は世界経済の重要課題を議論する今回の総会で、日中領土問題を口実に閣僚級の参加を見送り、世界経済の主要プレーヤーに相応しくない無責任さを露呈した。支那の身勝手な振る舞いが目立つほど米国の警戒感は強まり、改革が先送りされる可能性がある。
 そして、IMF・世銀総会は何らの成果もなく、事実上閉幕した。
●一〇月一三日、東京で開かれたIMF・世界銀行総会は、欧州債務危機や世界経済減速など喫緊の課題に対して、具体策を示すことができなかった。
 危機の「火消役」を期待されているIMFだが、新興国が先進国への不満を募らせるなか、危機克服に不可欠な協調体制を確立できない内実をさらけだした。日本は震災復興をアピールするなど一定の成果を上げたが、世界経済の下振れ回避に向けた議論をリードする場面は見られなかった。
 開催地として当初予定されたエジプトが政情不安でキャンセルとなり、復興をアピールしようと総会を招致した日本。被災地にIMFのラガルド専務理事や世銀のキム総裁らを招き、防災の重要性を世界へ発信した。ミャンマーの民主化を支援する会合も開き、同国の延滞債務を解消して支援を再開する枠組みをまとめた。支那の影響力が高まる一方のアジアで、経済安定化に一役買うことができ、政府内では「各国からの評価も高まった」(財務省幹部)と高揚感が漂っている。
 しかし、一八八の加盟国が集まる国際会議で「日本の存在感を示す格好の機会」(国際金融筋)を生かせたか否かは疑問である。
 国際通貨金融委員会(IMFC)の声明では、欧州債務危機や米国の「財政の崖」と並び、日本の特例公債法案の成立の遅れに懸念を示した。政治空白が続いて予算執行に支障が生じれば、景気を下押しする。ラガルド専務理事が「日銀が追加金融緩和を実施すれば、適切な措置だ」と求めるなど、日本は注文を受ける立場だったのが実情である。新興国が先進国の金融緩和や景気減速への懸念を強め、亀裂が深まるなか、協調体制確立に向けた調整に汗をかくどころではなかった。
同時に、日中、日韓の関係が悪化し、世界経済に悪影響を及ぼすリスクも浮上した。支那は、日本政府による尖閣諸島国有化に反発し、財政相と中央銀行総裁の訪日を中止。ラガルド専務理事は「重要な議題を議論する機会を逃す」と、支那が世界経済安定化の議論に加わらない事態に懸念を表明した。
 世銀のキム総裁も、欧州連合(EU)のノーベル平和賞受賞決定を受け、「(アジアでも)一緒になる力の方が、ばらばらになる力より強い」と日中韓の連携強化を促した。しかし、韓国は離日媚中路線への傾斜を強めている。
●一〇月一一日、城島財務相は東京都内で韓国の朴宰完企画財政相と会談し、先行き不透明感が増している世界経済の現状について意見交換。竹島の領有権問題で関係が悪化した韓国との間で対話のルートはかろうじて確保された。だが、一〇月末で期限を迎える日韓通貨スワップ協定の増額分の延長は見送られ、将来の金融危機に備えた安全網には不安を残している。
 一方、韓国は支那と人民元基軸の中韓通貨スワップ構想に前向きの姿勢を示し始めている。支那はリーマン・ショック以降、周辺の東南アジア諸国などに人民元建て貿易決済を広げる戦略を展開している。韓国もその勢いに飲まれる可能性が高くなっている。
今回、東京で開かれたIMF・世銀総会は、支那の閣僚級不参加だけが浮き彫りになった。尖閣紛争問題同様、米中の狭間で翻弄されているわが国の、内実が改めて露呈した一幕でもあった。
平成二四年一〇月二一日記