オバマ大統領再選への一考察 
      (世界戦略情報「みち」皇紀2672(平成24)年11月15日第371号)


●一一月六日、米大統領選の投開票が行なわれ、民主党現職のオバマ大統領が共和党候補のロムニー前マサチューセッツ州知事を下し、再選を果たした。
得票数はオバマの約六〇〇〇万票に対し、ロムニーは約五七〇〇万票と、激戦を裏付けた。同時に実施された連邦議会選で、下院は共和党が引き続き過半数を確保し、上院は民主党が過半数を維持することが確実となり、「ねじれ議会」の構図は変わらなかった。
 オバマは、翌七日未明、地元のイリノイ州シカゴで、「旧植民地が自らの運命を決定する権利を得てから二〇〇年以上がたった今夜、われわれの団結を完全にする営みが前進する。個人が夢を追い求めながらも、われわれは家族であり、浮くも沈むも一つの国家、ひとつの国民であるとの信念を、あなたたちが再び是認したからだ」と演説し、「一つの国家として前進する」と勝利宣言。一方、ロムニーは敗北を認めて、「(二期目の米国の舵取りが)うまくいくよう成功を祈る」とオバマを祝福した。
 オバマは、経済再生策で二〇一四年までの輸出倍増を掲げ、一六年末までに製造業で一〇〇万人の雇用創出を図る。財政再建では一〇年間で財政赤字四兆ドル(約三二〇兆円)を削減、国防費の削減にも踏み込むと公約した。
同日、オバマは、与野党の議会指導部に「財政の崖」問題の回避に向け、超党派の協力を要請した。
 ロイター通信によると、大統領は再選確定を受けて、民主党のリード上院院内総務や共和党のベイナー下院議長らに電話をかけ、「バランスの取れた財政赤字削減と中間層向け減税や、雇用の創出」に向け、超党派での解決策を探る決意を表明した。
 年明けに減税停止と歳出削減が集中し景気への悪影響が懸念されるなか、大統領は与野党指導部に対し、「米国民は今回の選挙を踏まえ、両党が党利党略を抜きに共通の目的で取り組むことが必要だ」とのメッセージを送った。
 これに対してベイナーは、部分的な歳出削減で与野党が暫定合意し、六日の議会選を反映した新議会(来年一月招集)で、抜本的解決を目指すべきだとの考えを表明した。
●オバマの米大統領再選から一夜が明けた七日、出口調査による投票動向が明らかになった。
 回答者の半数以上が、ロムニーの経済政策は「富裕層を利する」と捉えており、中間層の取り込みは限定的だったことが判明した。一方、オバマの政策には七割近くが中間層や貧困層に好影響と好感。経済が悪化しているとの回答も三割にとどまっていることなどが、オバマの掲げる「改革の継続」を後押ししたとも見なせる動向である。
 AP通信などが実施した出口調査によると、三九%が米国経済は「良くなっている」と回答。「良くも悪くもない」は二九%で、「悪化した」は三〇%だった。
 ロムニーが掲げた減税や社会保障の縮小による財政健全化については、五三%が富裕層に有利な政策と指摘。オバマの政策には、四四%が中間層に有利、三一%が貧困層有利と答えており、経済状況と中間層重視の政策が再選の原動力になった状況を示唆している。
また、オバマは黒人の九三%、中南米のヒスパニック系の六九%、アジア系の七四%の票を集めるなど、非白人系の支持も突出。女性全体の五五%、特に独身女性の支持は六八%に達しており、女性の権利尊重をうたった政策が支持に反映されている。
 一方で、年齢や性別、人種間で支持候補に隔たりがあるのも明らかとなり、米国の「分断」の実態もあぶり出された。
失業率が七%を超えている状況下で再選を果たしたのはレーガン元大統領だけで、米国経済が低迷を続けるなかで、オバマは厳しい戦いを強いられたが、最終的に米国民は彼を選択した。
 今回の選挙争点の基本骨子は、「大きな政府」か「小さな政府」か。「支え合う社会」か「自己責任」か。「協調外交」か「力による外交」で、対立する二つの政治思潮のいずれが優勢になるかが問われる選挙でもあった。「ウオール街を占拠せよ」と痛烈な叫びを上げている「九九%運動」の弱者層と、自己責任を重視する「茶会運動」というイデオロギー的な対立を根底に秘めた構図が反映されていた。
「九九%運動」は、市場原理だけに委ねる経済運営がごく少数の超富裕層と大多数の低所得者層への分裂を必然的にもたらすとの判断に基づき、この巨大な格差を是正することの必要性を唱えている。これに対して「茶会運動」の立場は、個人の自己責任を重視し、政府は経済活動の結果にできるだけ介入せず、「小さな政府」を目指すべきであるとする立場にある。
 オバマの民主党が「九九%運動」から支持された一方、ロムニーは「茶会運動」に強い影響力を持つポール・ライアン氏を副大統領候補に指名して大統領選を戦った。しかし軍配は「九九%運動」に上がった。すなわち、米国社会の亀裂がイデオロギー的な対立を秘めて、より深刻になり始めたことを示す結果だと言えよう。また、「ねじれ議会」現象が、イデオロギー的対立により米国政治の意志決定に遅れが出て国家機能が麻痺する危険性も孕んで、オバマ第二期政権は船出することになる。
●一一月七日のNY株式市場は米財政の先行き不安が高まり、大企業で構成するダウ工業株平均は急落した。終値は、八月上旬以来、約三ヶ月ぶりの安値水準で取引を終えた。終値での下げ幅は今年最大。取引時間中の下げ幅は一時、三七〇ドル近くに達した。
 オバマ再選から一夜明け、投資家の関心は米国の財政問題に移っている。市場では、減税の打ち切りと政府の歳出が強制的にカットされる「財政の崖」で、景気が悪化するという心配が高まり、株価が急落した。NY株価の急落を受け、世界の株式市場も軒並み下落した。
「財政の崖」は、「欧州債務危機に匹敵する」と国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事が指摘するほどのリスク。しかし、共和党が引き続き下院の主導権を握り、ねじれが確定。「議会との交渉は難航が必至」(市場関係者)との懸念が一気に広がっている。それでも、オバマの経済運営は国民から一定の信任を得たといえる。
 二〇一六年までに一二〇〇万人の雇用を生み、減税で経済を活性化するとしたロムニーの主張は、「財源を明示せず実現性が乏しい」(サマーズ元財務長官)もので、オバマにも討論会などで徹底して突かれた。ボードリュー米ジョージ・メイスン大教授は「社会保障の縮小など国民に負担を強いる主張も言及が曖昧で印象を悪くした」と指摘している。
 一方、オバマは支那など新興国との競争に苦しむ製造業に的を絞り、一〇〇万人の雇用創出を公約。中間層の重視と財政再建のための富裕層向け増税を訴え、現実路線に徹している。
 通商政策でも支那の不公正貿易の摘発に躍起となり、オバマは「共和党の前政権より数多く世界貿易機関(WTO)で勝訴した」とアピールし、ロムニーの機先を制した。
 オバマは勝利演説で「米経済は回復している」と強がったが、五%台へ改善を見込んだ失業率は危険水域の七%台。財政赤字は目標半減どころか一兆ドルを超え、昨年は債務不履行の危機すら招いた。「積み上がった問題の解決には再選が必要だった」と開き直る姿に国民は不安を隠せない。あえて再選に活路を求めた経済運営も、切り立った「財政の崖」を渡り切れなければ墜落する危うさを孕んでいる。
 オバマ第二期政権は、経済・財政問題を中心にした内政の重視を余儀なくされることになる。そして、外交・安全保障政策では引き続き国際協調に軸足を置き、日本との同盟を強化、アジア太平洋地域への米軍展開能力を高める方針に徹底するであろう。
●一一月八日、米ホワイトハウスは、オバマが一七日からのアジア諸国歴訪で、ミャンマーを訪問すると発表した。現職の米大統領がミャンマーを訪問するのは、初めてのことである。
 オバマは、一七日から一九日にかけてタイとミャンマーを訪問。ミャンマーの最大都市ヤンゴンで、テインセイン大統領や最大野党の党首アウンサン・スーチー女史と会談する予定。同国の政治・経済改革を支援する考えを改めて伝えるとともに、経済関係の強化についても話し合う見通し。二〇日にはカンボジアで開かれる東アジア首脳会議に出席する。
 また、米国防総省はパネッタ国防長官も来週にオーストラリアやタイ、カンボジアを訪問すると発表した。カンボジアでは一六日に東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国の国防相と会談する予定。
 オバマが再選後初の外遊先に支那周辺諸国を選んだのは、支那への警戒感を強め、これらの国々との関係強化を加速させる意向を表明したものである。一方、中東外交についてはイスラエル離れを加速させる可能性が高い。
 オバマが再選を決めたことで、不安定な状況が続く中東では今後、オバマ第二期政権の中東政策に変化が表れるかに注目が集まっている。とくに、核兵器製造の意図が疑われるイランの核開発が着実に進むなか、同国を安全保障上の脅威ととらえるイスラエルが、イランへの圧力強化のために米国への働きかけをより強めてくるであろう。
 イスラエルのネタニヤフ首相は、オバマ氏に祝意を示したうえで、「両国関係はかつてなく強固だ」と強調した(一一月七日)。
 ネタニヤフ政権は、パレスチナとの和平交渉の障害となっているイスラエルによる入植地建設問題や、イラン攻撃の是非をめぐってオバマ政権とギクシャクしてきた関係に陥っていた。そのため、米国内のユダヤロビーにロムニー支持を積極的に働きかけるなど、大統領選挙に積極的に介入した。その禍根払拭のためにもオバマ政権との関係修復を急ぐものとみられている。
 一方、ホワイトハウス周辺からは、オバマが早期にトルコを訪問するとの情報が流布されている。すなわち、第二期オバマ政権は、中東問題解決の最重要パートナーとしてトルコと連携して、イスラエル離れをより明確にしたいとの意向を流布しているのである。
平成二四年一一月九日記