深刻な米国社会分裂への一考察 
       (世界戦略情報「みち」皇紀2672(平成24)年12月1日第372号)

●民主党のオバマ第一期政権は前任のブッシュ共和党政権が始めたアフガン・イラク戦争の軌道修正に本腰を入れ、両戦線から米軍を全面撤収するまでに漕ぎ着けた。
 アフガン・イラク戦争は二〇〇一年の不明瞭な九・一一事件を契機に発動され、イスラム原理主義勢力タリバンを主敵とする反テロ戦争とされた。
 イラク戦争の作戦計画を主導したのは、ネオコンといわれる右派シオニスト勢力である。彼らはイスラエルのネタニヤフ右派政権と緊密に連携しながら、中東情勢を大混乱に陥れることをイラク戦争の最大目標に位置づけ、「アラブの春」革命を煽動するなど、一定の成果を挙げている。
ネオコン勢力とイスラエル右派政権の真の狙いは、「大イスラエル主義」の成就にある。「大イスラエル主義」とは、ナイル河からチグリス・ユーフラテス河までの中東全域をイスラエルの実質的な支配下に置くことにある。
 そして彼らは次の段階で、エルサレムをユダヤ教だけの聖地とする「大エルサレム」の成就を戦略目標に設定している。彼らは、「大エルサレム」を成就し、神殿の丘に「(ユダヤ教の)第三神殿」を建立することで選民としてのユダヤ民族の使命が達せられ、神から祝福されるとする宗教原理主義勢力である。
 オバマはアフガン・イラク戦線からの撤退を想定し、ネオコン勢力やイスラエル右派政権との決別路線を設定し、ネタニヤフ政権と徐々に距離を置きながら、イスラム勢力とは対決より対話路線を強めてきた。第二期オバマ政権は、その路線をさらに進めるものと予測されている。
●ネタニヤフ首相ら政界中枢とイスラエル右派勢力は、今回の大統領選挙では米国内のユダヤロビーを総動員し、ロムニー共和党候補の勝利に全力を注いだ。米国内のユダヤロビーの多くはロムニーが勝つと予測し、イスラエルもその予測を信じ切っていたため、オバマ再選に大きな衝撃を受けている。
 特にネタニヤフは九月からロムニーを公然と支持する姿勢を示し、オバマとの関係が悪化してもかまわないとの態度を露骨に打ち出していたため、今後の米政府との関係をどう修復するか苦慮している。
イスラエル側からだけでなく、九月の国連総会でネタニヤフとの会談を拒絶するなど、オバマもネタニヤフを疎んじた。当時、米国とイスラエルのマスコミは「イスラエルと対立するなんてオバマは馬鹿だ。これで再選の望みを失った」と書き立てていた。
 米国のユダヤ系は伝統的に民主党支持で、オバマは前回選挙(〇八年)でユダヤ票の七四%を獲得。今回はユダヤ票の六九%を得ており、五%の減少に過ぎなかった。
一連の事実は、米国政治に大きな影響力を発揮するとされてきたユダヤロビーの敗北、米国内のユダヤ系勢力の分裂・亀裂を象徴しており、今後の米内政に深刻な陰りが生じるであろう前触れでもある。
米イスラエル関係が悪化するとともに、米政府内から「イスラエルこそ米国の国益にとって最大の脅威だ」とする報告書が、大統領選挙前に静かに出されていたと噂されている。CIAなど、米政府の一六の諜報機関が共同で纏めたとされている。
 同報告書は、イスラエルは米国内でスパイ活動や武器持ち込みをやっており、シオニストは米国の国益に反していると指摘しているとされている。さらに、イスラエルがイスラム諸国と戦争して国家消滅することを示唆した、「イスラエル後の中東への準備」と題する報告書だともされている。奇しくも、国際ユダヤ社会の大物キッシンジャー元米国務長官が公言した「イスラエルは一〇年以内に消滅する」との認識と合致する報告書である。
 この報告書が公表されることはないであろう。だが、その一部が米国が今後、イスラエルに代わって中東問題対応で戦略提携を強化したいとするトルコ政府に漏洩されている。そして、オバマは第二期政権発足後、早い時期にトルコを訪問する意向だとされている。
●米国の歴代政権は、これまでイスラエルに気をつかってきた。オバマもそれなりの配慮を行なってきたが、徐々にイスラエル離れを打ち出してきた。そして、今回、米国内のユダヤロビーの猛攻勢を退け、彼らに頼らずに再選を果たしたオバマは、今後四年間、イスラエルに気兼ねせずに外交戦略を進められることになる。
 米大統領は一回しか再選が許されないので、二期目の大統領は、再選を左右するイスラエルや軍産複合体に気兼ねせず思い切った政策を手がけることもできる。オバマ再選は、脅しやスキャンダルをつかって米政界の全体を何十年も牛耳ってきたイスラエルにとって恐るべき事態でもある。さらに、イスラエルと組んで米政界を動かし、中露などを敵視する冷戦型の世界体制を取り繕って米国の覇権を維持してきた軍産複合体にとっても同様である。
 今後、オバマはイランの核脅威を異常に喧伝するイスラエルが既に核を装備して、実戦配備している内実を全面的に暴露する可能性もある。既にその伏線として、イスラエルは核拡散防止条約に加盟すべきだとしている。
 さらに、オバマは、国際ユダヤ金融資本の走狗と化しているFRBの規制強化を強め、実質的な廃止も検討しているとされている。それは同時に、暗殺を誘発する危険性も秘めている。また、米国内社会分裂に拍車をかける危険性を刺激することにもなる。
●米国の七州の住民は、米国から独立するために必要な署名数を集め、現在、連邦政府から公式回答を待っている。請願書はホワイトハウス内の請願受付用ウェブサイト「We the people」に掲載された。
 現在までに、四〇州の住民が独立を求める請願を提出したが、七つの州だけが正式な受理に必要とされる二万五〇〇〇人以上の署名を集めることができた。最多署名数が集まったのはテキサス州で、約一〇万人が署名した。テキサス州の請願書では、米国の経済問題は、予算制度改革における連邦政府の無能さの結果だと指摘されている。
 テキサス州のほかに、ルイジアナ州、フロリダ州、ノースカロライナ州、アラバマ州、ジョージア州、テネシー州も、二万五〇〇〇以上の署名を集めた。フロリダ州を除いたこれらの州では、住民の大多数が米大統領選挙でロムニーに投票していた。米国の専門家たちは、ホワイトハウスがどこかの州に離脱への「ゴーサイン」を出す可能性はゼロに近いと指摘している。
 米国では、リンカーンが大統領に選出された後の一八六〇年と一八六一年に一一の州が離脱、南部連合を結成し、その後、南北戦争が始まった。内戦に勝利したリンカーンは、その後、暗殺される悲運に襲われた(一八六五年四月一四日聖金曜日)。
南部七州が連邦離脱を要請したのは、オバマがリンカーンと同じ命運を辿るかもしれないことを暗示する不気味な動きである。同時に、米国社会の深刻な分裂を象徴する動きでもある。だが、オバマは貧富の格差という別位相の社会分裂の加速化を超克することに使命を見いだしている。
●米内国歳入庁(IRS)がこのほど発表した統計によると、米国の上位一%の富裕層の二〇一〇年の調整後総所得は三七万ドル(約三〇三〇万円)となり、前年の三五万二〇〇〇ドルから約五%増加した。
 平均年収は一一二万ドルで、前年の九八万ドルに比べて約一四%増加。上位の一%は一三五万世帯で、所得額で米国全体の約一九%を占め、所得税は全体の約三七%を負担している。
 一%の富裕層は、昨年秋にウォール街占拠を呼びかけて全米に広がった反格差デモでやり玉に挙げられ、今年の米大統領選挙でも争点となった。
 富裕層の資産形成は投資の占める部割合が大きく、株式市場の動向に左右される。株価が上昇していた二〇〇七年の調整後総所得は四二万六〇〇〇ドルを超えていた。
 富裕層はそれ以外の層に比べて所得の伸びが大きいことも、論議の的になった。富裕層の所得が一九七九年から二〇〇七年にかけて二四%伸びたのに対し、低所得層では一一%、中間層は一九%の伸びにとどまっている
オバマ第二期政権は、社会分裂が進む内政問題に本腰を入れ、外交分野にその影響が出てくるであろう。その余波がわが国に及ぶのは必至で、早くも今回の年末総選挙騒動となっている。
●一一月一六日、野田総理は衆議院を解散し、年末に総選挙が行なわれることになった。選挙のプロでも全貌を把握できないほどの政党・会派が乱立する異様な選挙情勢となっている。
 尖閣諸島をめぐる支那との軋轢が今後のわが国にとって最重要課題となるが、小党乱立で安定政権が発足できるかどうかも選挙で問われている。同時に独自の固有文明を育成してきたわが国の命運、ひいては存続すらをも左右しかねないTPPが大きな争点となる。
少数政党乱立の引金となったのは、石原前都知事の国政復帰宣言、大阪維新の会の橋下旋風の相乗現象である。また、日中軋轢の近因は、今年四月、石原都知事が米国で尖閣購入をぶち上げたことに端を発している。その余波が、今回の解散、年末総選挙の引金となった。明らかにその背後に、米国の思惑があっての内政混乱でもある。
 米国筋は、これまで現憲法改正には消極的であった。だが、在日米軍が陸海空自衛隊の指揮権(統帥権)を獲得した以上、自衛隊が外国勢力と交戦できるよう、わが国に憲法の改定を積極的に働きかけている。石原が現憲法破棄を宣言したのも、米国の思惑を逆手にとって、わが国の独立回復への好機と捉えているからであろう。石原は、「支那に嘗められず、米国の言いなりにならない日本を目指す」と、高らかに宣言している。
 日本は、伝統的に外圧によって政体を変えてきた。現在のわが国は、米国の疲弊、内向き志向の余波で、戦後ポツダム政体から脱皮できる好機に遭遇している。今回の選挙は、この機会を活かせるかどうかの試金石となる。来年は、二〇年に一度の伊勢神宮の遷宮が行なわれる。日本固有文明の原点を振り返り、わが国の明日に想いを致そうではないか。
平成二四年一一月二三日記