EU分裂気運とユーロ危機への一考察 
          (世界戦略情報「みち」皇紀2672(平成24)年12月15日第373号)

●欧州各地では分離独立の動きが活発化している。債務危機対応をめぐる中央政府への不満などが、独自の民族的、文化的意識と相まって独立気運を高めている。
 スペインでは今年一〇月、北部バスク自治州の議会選で、独立急進派の地域政党バルドゥが第二党に躍り出た。独自言語を持つなどカタルーニャ自治州同様に独立意識が高く、過去には武装闘争も繰り広げられた。
 ベルギーでも今年一〇月の統一地方選で、北部オランダ語圏のフラマン地域の分離独立を狙う中道右派「新フランドル同盟」が躍進。南部フランス語圏のワロン地域との「連邦国家」から、緩やかな「国家連合」の実現を目指すが、将来的な独立も視野に入れるとされている。
 これらの地域に共通するのは、国内の他の地域よりも裕福な点にある。債務危機で、自分たちの富が貧しい地方に奪われているとの不満が独立気運に拍車をかけている。
 英国ではケルト系の文化を持つ北部スコットランドが今年一〇月、独立の是非を問う住民投票を二〇一四年に実施することで英政府と合意した。世論調査では経済的な影響を懸念する独立反対派が賛成派を上回るが、スコットランド行政府は北海油田の収入で経済的自立を図る考えである。
 欧州統合の進展で各国が権限をEUに委譲するなか、中央政府の存在意義の希薄化が、独立気運を後押ししているともされている。だが、独立後も加盟国の地位が維持される保証はない。
 一一月二五日、スペイン最大の経済規模を誇る東部カタルーニャ自治州の議会選挙が行なわれた。欧州債務危機で経済が低迷するなかでの争点は分離独立の是非だった。
 同州はスペインのGDPの約二割を占める一方、一七自治州で最大の公的債務を抱え、中央政府に約五〇億ユーロ(約五三〇〇億円)の支援要請を余儀なくされていた。独自の言語を持ち、独立志向の強い土地柄のうえ、「税金が他の地方のために使われている」との意識が独立機運を高めており、今回の選挙実施となったのである。
 選挙は、二年繰り上げて実施された。中央政府が同州への徴税権委譲を拒否したことを受け、自治州のマス首相が決断した。首相は選挙に勝った場合、州の「自己決定」について住民に問うとして、分離独立の是非をめぐり住民投票を実施する意向を示している。中央政府は独立を問う住民投票は憲法違反との立場で、独立派が勝利してもすぐに独立が実現するわけではない。
同日、投開票された議会選挙は、分離独立を目指す与党のカタルーニャ同盟が議席数を大幅に減らしつつも第一党を維持。同じ独立推進派のカタルーニャ左翼共和派が第二党に躍進したことから、独立派が過半数を制した。
 北部バスク自治州の議会選に続く分離独立派の躍進は、緊縮策への地方の強い不満の表われである。この結果、中央政府のラホイ政権は債務危機対応で一段と難しい舵取りを迫られることになって、金融市場の不安も煽りかねない。
 翌二六日、EUのユーロ圏一七ヶ国は、財務相会合を開き、財政危機にあるギリシアへの融資再開の可否をめぐり協議し、四三七億ユーロ(約四兆七〇〇〇億円)の融資再開でIMFと合意した。近く融資を実施する。これにより、ギリシアの当面のデフォルトは回避されることになった。
 EUなどはギリシアに対し、一三〇〇億ユーロの第二次支援を決め、分割融資してきた。しかし、総選挙や予想以上の景気悪化で財政再建が遅れ融資が凍結されていた。凍結分は本来、三一五億ユーロ(約三兆四〇〇〇億円)だが、融資期限を迎えるたびに金融市場が動揺することを避けるため、一二月予定分も合わせた三回分を一括融資することとした。
 今月で三回目となる同財務相会合で融資再開の合意にこぎつけたのは、ギリシアのGDPに対する債務比率の削減目標で、IMFとユーロ圏の意見の相違を乗り越えられたからである。来年一九〇%に達する見通しの比率を、二〇二〇年に一二四%まで削減することで両者は一致した。
 これまでIMFは、二〇二〇年に、持続的返済が可能とされる水準の一二〇%まで債務を削減するとの目標を掲げ、ユーロ圏が二〇二二年への目標二年延長を求めていた。
 一二四%の目標達成には、約四〇〇億ユーロの債務を削減しなければならない。その具体策として、ギリシアが保有する国債の買い戻しの実施を決定。状況次第では将来、ギリシアへの融資の利率引き下げや金利の支払いの先延ばしなども検討する。
●一一月三〇日、米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、ユーロ圏の常設の金融安全網である欧州安定メカニズム(ESM)の長期格付けを最上位の「Aaa」から一段階引き下げて「Aa1」にしたと発表した。ドイツに続く二番目の資金拠出国であるフランスの格下げを反映させたことを理由に挙げた。同社は、時限的な欧州金融安定基金(EFSF)も、ESMと同様に格下げした。
 ムーディーズは「ESMとEFSFの格付けは、最も強力な支援国などの格付けと密接な状況にある」と指摘。独仏などの財政状況を点検していくとの認識を示した。
 ESMは外部から資金調達を実施しており、格下げは資金調達コストの上昇などにつながる恐れがある。ただ、各国の拠出金の比率が高く、支援そのものに大きな影響は出ない模様。米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は今年一月、EFSFの格付けを最上位から一段階引き下げている。
ESMは、「(ムーディーズの)今回の決定は理解しがたい」と反論している。格下げ発表の後、ユーロ圏の信用低下懸念を背景に為替市場でユーロが対ドルで小幅下落した。
 一連の動きは格付け会社による攻撃で、ユーロ圏をターゲットにしたネガティブ報道が相次いでいる。すなわち、ギリシアのデフォルトが回避され、とりあえず危機を収束したユーロの「危機」を再び演出しようというものであろう。
その背景には、ユーロ危機を煽ることで利ざやを稼いできた国際ユダヤ金融資本勢力の思惑と、ユーロ圏の景気立て直しを願う勢力との暗闘がある。
 同時に、ユーロ危機克服のため、ユーロの統合深化をテコに中央集権的な強権を発動できる国家統合をめぐる独仏の対立を煽りたい、英米アングロ勢力の思惑も秘められている。英米アングロ勢力は、EU圏独自のユーロ危機克服の行く末がドイツ主導の「第四帝国」化することを極度に警戒しており、ユーロ危機がEU分割にまで高まることを密かに願っている。
●一二月六日、欧州中央銀行(ECB)は、二〇一三年のユーロ圏一七ヶ国の域内実質GDP成長率の予測を公表し、九月時点の「一・四%増〜〇・四%減」から「〇・三%増〜〇・九%減」に大幅下方修正した。
 二〇一二年についても、「〇・二%減〜〇・六%減」から「〇・四%減〜〇・六%減」に修正。ドラギECB総裁はドイツ・フランクフルトでの記者会見で、理由として債務危機の解決に向けた不透明性を指摘したうえで「経済の脆弱さは来年も続く」と述べた。
 これに先立ち同日、ECBは定例理事会を開催。ユーロ圏一七ヶ国に適用される主要政策金利を史上最低の〇・七五%のまま据え置いた。据え置きは五ヶ月連続。
一〇月のユーロ圏の失業率が一一・七%と、前月より〇・一ポイント上昇し、一九九五年以降の最悪を記録した。特にスペイン、イタリアが大幅に悪化した他、ポルトガル、キプロスと南欧圏が拍車をかけている。
 独仏が横ばいで何とか全体の失業率を抑えているが、もはや、これは世界恐慌といってよい情勢である。世界恐慌は金融市場だけでなく、実体経済、国民の生活を破壊する広範な経済状態を指す。
 さらに悪いことに、ユーロ圏の一一月の消費者物価が二・二%上昇した。上げ幅は縮小しているものの、エネルギー分野は五・八%上昇と高水準である。また食品も三・〇%上昇となっている。これは紛れもなくスタグフレーションの状況を呈している。
 ユーロ圏の国民の生活が破壊されつつあり、デモ、暴動、掠奪が起きるのは当たり前の状況である。
 八〇年前と比べ「静かなる大恐慌」と言われているが、八〇年前に欧州から本格的な恐慌が世界に広がっていったように、すでに先進国はその金融の大津波に呑まれ、徐々に水嵩が増しており、いつの間にか水没しかねない経済状況にあるといえる。
●現在、わが国では未曾有の数の政党が乱立する総選挙が年末の慌ただしい最中に行なわれている。
 だが、選挙争点がぼかされたまま、メディアの予測では自民党が単独で過半数を制覇する勢いだとされている。自民党の安倍総裁が建設国債の日銀による買いオペを提唱したことで、株価が上昇して歓迎されているのだという。つまり、景気刺激策への期待感が自民党支持率を高めているのだ。
 事実、日銀は米国FRBのQE3を見習うかのように資金を無尽蔵に提供しており、一部の市場関係者の間には自民党が政権に復帰すれば、ある種の金融バブルがおきるとの希望的観測も広まっている。
 だが、潤沢な円資金が供給されてもその用途は限られており、国債購入のほかに、外債の購入に標準が定められ始めている。外債の内実は、リーマンショックで派生したが、未だ解消されていない米国金融機関が保持している大量の不良債権である。海外のヘッジファンド筋は、不良債権処理ゲームでババを引かせる最終標的としてわが国に狙いを絞り始めているのである。
一一月三〇日付英フィナンシャル・タイムズ紙は、「今度こそ日本売りは成功する」と題して、日本国債バブル崩壊に賭けるヘッジファンドの動きを紹介している。わが国の市場関係者は金融バブルに期待感を示しているが、大恐慌の前夜にある世界経済の荒波をどう乗り切るか、経済・金融の舵取りの如何を最も問われる時がきている。
平成二四年一二月七日記