年末総選挙と安倍政権誕生への一考察 
          (世界戦略情報「みち」皇紀2673(平成25)年1月15日第374号)


 平成二五年、明けましておめでとうございます。

●一昨年の東日本大震災以来、わが国には閉塞感が蔓延し、民主党政権の政局運営がさらにその閉塞感を強めておりました。政局運営に行き詰まった野田政権は、三党合意による消費税増税を担保に昨年末に衆議院解散に追い込まれましたが、民主党は壊滅的な惨敗を喫しました。
 今回の総選挙では第三極勢力が乱立し、選挙の争点はぼかされたままでした。だが、議席獲得数では自民党が圧勝する結果となりました。自民党は解散時の一一八議席から二・五倍の二九四議席を獲得し、単独で過半数(二四一議席)以上を獲得しました。連立を組む公明(三一議席)と合わせれば三分の二を上回る三二五議席ですから、参議院が過半数ではなく反対があっても、全部の法案が通ることになります。
平成一四年の郵政選挙で、当時の小泉自民党は二九六議席を獲得し「歴史的大勝利」を謳いました。今回、自民党の獲得議席数は郵政総選挙に匹敵していますが、その内実、得票数とは相反しています。比例区の得票数は、それを如実に示しています。
 今回、自民党の比例区での得票率は二七・六六%です。これは、民主党が圧勝し自民党が政権の座から追われた前回(平成二一年)の得票率二六・七三%と大差がありません。また、小選挙区の得票率は四三・〇一%と、大敗した前回選挙時の三八・六八%より若干上回っていますが、大幅増というわけではありません。さらに、自民党の得票総数は二五六三万票で、前回より一六五万票も減らしています。
誰の目にも明らかなように、自民党の得票数が大敗した前回より減っているのに獲得議席数で大勝というのは、何とも矛盾する選挙結果です。その原因は小選挙区比例併用という現行の選挙制度にあり、今回の選挙はその矛盾をも国民に突き付けました。
 また、現行の選挙制度の欠陥だけでなく、史上最低の投票率も自民党圧勝の大きな原因です。今回、投票率が低下した理由について様々な見解がありますが、最大の原因は選挙争点が不明瞭だったからだと推測できます。
●原発存続の是非、TPP、増税という国民の生活に直結する大きな問題が曖昧にされ、安倍自民党総裁が提唱する脱デフレ政策による景気浮揚論をマスコミ世論がもて囃し、日経平均株価が上昇し円安傾向に転じたことも、自民党圧勝を誘発する結果となりました。
また、橋下「日本維新」と石原「太陽の党」が合体したことも、第三極を模索していた民衆に不信感を植え付けました。橋下氏と石原氏の政治理念、目指す方向性が食い違って、合体した「維新」は爆発的な人気を得ることなく五四議席に留まってしまいました。
 さらに、卒原発、消費税凍結を謳った「日本未来の党」は急造政党の未熟さを露呈し、獲得議席数では九議席と惨敗しました。一方、小選挙区では二九九万票、比例区では三四二万票と、それなりに健闘しました。しかし、早くも分裂して、同党に票を投じた国民三〇〇万の期待を裏切っています。「維新」にしろ「未来」にしろ浮動票の動きを大きく左右する政党のていたらくが自民圧勝の間接的な原因だと、断定しても過言ではありません。
 諸般の事情を考慮すれば、第三極と持ち上げられた政党は、選挙準備も不十分なまま選挙戦に突入した割には健闘したと評価出来る面もあります。しかし、大手メディアが野田政権に見切りを付け解散に追い込んだ時点から、安倍自民党大勝を誘発するかのような報道に徹したことが、自民党の獲得議席数での大勝利をもたらしたと見なすこともできます。その背景には、米国のジャパンハンドラー(日本支配層)筋の思惑が見え隠れしています。
 彼らは、現行憲法の改正をわが国に働きかけることを第一義に考えております。米中対峙戦略に立脚して、わが国の自衛隊を正式な国軍に仕立て上げ、支那との軍事対決の最前線に据えたいとの魂胆があるからです。
 安倍氏が国防軍創設のための憲法改正を嘯き、石原氏が現行憲法破棄を公言したのも、米国筋の意向を忖度したも同然だと言えます。総選挙中に、北朝鮮がミサイルを発射したのも米国筋の思惑への追風となりました。あたかも、米朝合作で日本に重武装を促すかの仕儀でありました。
 しかし、米国筋は、わが国が彼らの思惑を逆手に取って真の独立国家へと回帰することは容認していません。彼らは、脱原発やTPP問題が主要な選挙争点になれば、国産エネルギー源の活用、農業や医療などの分野に関して日本国民が民族性に目覚め対米自立を模索する可能性が高いと判断し、今回の選挙争点から外すよう、様々な階層に働きかけて、選挙の争点から外させました。もっともそれに貢献したのが、大手メディアです。  
 大手メディアは一一月一九日の解散以来、「争点のない総選挙」と煽り立て、毎週金曜日に首相官邸を取り囲んだ反原発の集会運動を完全に封殺し、無党派層を刺激することを避け続けてきました。また、話題を経済問題にすり替え、安倍政権待望で株価が上昇していることを印象付けました。
●一二月二六日、安倍政権が発足しました。まず、「二〇三〇年には原発ゼロ」とした民主党政権の決定を白紙撤回することを宣言しました。さらにデフレ克服、二%のインフレ目標を掲げ、景気回復を確認出来ない限り消費税の増税は実施しないと明言するなど、「危機突破内閣」として船出しました。
 同時に、財政、景気、外交対策のため多数の専門家を内閣参与に起用しました。これは、内閣ではなく総理官邸主導による強権政治で国政を担うとした意向を無言で発するも同然です。
 米国は、安倍政権発足を歓迎してますが、支那は警戒感を隠していません。
 一二月一七日、米国務省のヌランド報道官は記者会見で、衆院選に勝利した自民党の安倍総裁の対支那強硬姿勢を危ぶむ質問に対し「日本政府とは(自民・民主)どちらの政党のときでも一緒に仕事をしてきた」と指摘。「地域で最も強力な同盟国の一つとして、日本の次期政権と共に仕事をすることを心待ちにしている」と期待感を表明しました。
 カーニー大統領報道官も記者会見で、「日本の次期首相、安倍晋三総裁を祝福する」と述べています。一方、民主党の野田佳彦首相については「大統領は日米関係への野田首相の貢献に感謝している」と労いました。
 国防総省のリトル報道官は「日米の防衛協力は強固であり、日米同盟は揺るぎない」と記者団に語り、自民党政権との間で同盟関係強化に取り組む意向を強調しました。
 しかし、東日本大震災後、三陸沖に派遣された米原子力空母の乗組員八人が一二月二七日までに、東京電力福島第一原発事故の影響が正確に伝えられず被曝し健康被害を受けたとして、同社を相手に約九四億円の損害賠償を求める訴えを、カリフォルニア州サンディエゴの米連邦地裁に起こしました。
 乗組員らは、被災地支援の「トモダチ作戦」で急派され、母艦上で作業していました。東電によると、事故収束作業をめぐり、海外の裁判所で同社が訴えられたケースはありません。
 原告側は、東電が米軍や市民に対し、事故で放出された放射性物質の危険などについて「事実と異なり、誤解を招く情報」を広めたと主張。米軍側は安全だと信じてトモダチ作戦を遂行したため乗組員が被曝し、癌のリスクが高まったなどとしています。在日米海軍司令部(神奈川県横須賀市)は「こうした訴えがこれまでに起こされたという話を聞いたことはない」と、他人事のようにコメントしています。
 また、米紙NYタイムズは一月三日付朝刊の社説で「歴史を否定する新たな試み」と題し、旧日本軍による慰安婦募集の強制性を認めた「河野談話」に関して、有識者による再検討の必要性に言及した安倍晋三首相を「重大な過ち」と強く批判しています。
米国における一連の動きは安倍政権が本格的な対米自立を志向しないように発せられた最初の牽制球だと見なすべきです。NYタイムズの社説は支那の立場を擁護するも同然です。
●支那の習近平指導部が、日中関係の好転の糸口を探ろうと、次期首相となる自民党の安倍総裁に揺さぶりをかけていました。年末の衆院選以降、国営新華社通信など支那のメディアは、日中関係改善に向けた安倍氏の「誠意」を占う指標として、@靖国神社参拝 A憲法改正 B尖閣諸島という三点を繰り返し挙げています。
一月三日、靖国神社の門に放火したとして日本政府が韓国側に身柄引き渡しを求めていた支那国籍の劉強容疑者について、韓国のソウル高裁が「政治犯」と認定し日本への引き渡しを拒否しました。当然、韓国政府の意向を踏まえてのことであり、安倍政権の名代として額賀特使の訪韓に合わせての決定であります。
 同日、支那外務省の華春瑩報道官は支那人の劉強容疑者の釈放を受けて、「韓国ソウル高裁が、日本側の引き渡し請求を拒絶する裁決を下したことを歓迎する」などとする談話を公式サイト上で発表しました。支那の目的は、中米韓露による「反日統一戦線」構築にあります。
 今回、韓国は、支那主導の「反日統一戦線」に参加することを公式に表明したわけです。また、NYタイムズの社説や米空母乗組員の東電訴訟は、必要とあらば米国も「反日統一戦線」に参加する事も選択肢の一つとしていることを安倍政権に見せつけたものであります。
かのS・ハンチントンは「文明の衝突」のなかで米中に翻弄されたまま消滅する「日本文明」の末路を予測分析しました。わが国にとって安倍政権の誕生は、この末路が現実化する最初の一歩となりかねません。
 今年は、伊勢神宮で式年遷宮が、出雲大社では六〇年に一度の大遷宮が行なわれます。大いなる神儀が重なることは、天孫民族の本義に立ち返って厳しい試練を乗り越えよとの天津神、国津神のご神意であることを肝に銘ずべきであります。
平成二五年一月五日記