北核実験強行表明への一考察 
      (世界戦略情報「みち」皇紀2673(平成25)年2月15日第376号)

●一月一八日、北朝鮮の「労働新聞」(電子版)は、「帝国主義の『封鎖』や『制裁』に抑えられ、我々が先軍(軍事優先)の道を脱線することはない」として、昨年一二月の長距離弾道ミサイル発射を受けた国連安全保障理事会での対北朝鮮制裁論議を牽制した。
 また、「軍事的侵略策動には強力な自衛的軍事力で立ち向かわなければならない」と、米国を標的にした三度目の核実験と長距離ロケット発射強行を示唆した。
一月二二日、国連安全保障理事会は、北朝鮮が昨年一二月に行なったミサイル発射を非難し、北朝鮮に対する制裁を強化する決議を全会一致で採択した。
翌二三日、北朝鮮は、「韓国が国連安保理決議に従い対北制裁に加担すれば宣戦布告と見なし攻撃する」と、朝鮮戦争再開の可能性にまで言及すると同時に、「米国などの敵対勢力に対し重大な措置を講じる」とも発言。
 北朝鮮はこれまで、ことある度に「米国(米帝国主義)」との対決姿勢を鮮明に打ち出し、六ヶ国協議など無視して米国を直接交渉のテーブルに就かせることを狙っていた。その「米国」という言葉に加えて、初めて「敵対勢力」という言葉が使われた。「敵対勢力」とは、一九一七年当時のロシア革命のときに使われた用語で、以来、共産党世界でのみ使用されてきた。
 北朝鮮があえて「敵対勢力」という言葉を使った背景には、今後「米帝国主義」とは違う勢力を戦略対峙相手に定めるとの意が秘められている。その対象は支那であろう。
 故・金正日総書記は、二〇一二年に北朝鮮が「強盛大国の大門を開く」と宣言した。これを受けて昨年、金正恩第一書記は北朝鮮が「強盛大国」になったと力強く宣言している。近々行なわれるであろう核実験によって、北朝鮮は核大国の仲間入りを宣言し、支那とも対等に渡り合おうとする意気込みを示している。同時に、中朝国境にも不穏な空気が流れ始めている。
 北朝鮮の三度目の核実験は、これまでの二度がプルトニウム原爆だったのとは違い、濃縮ウラン型の可能性が高いとされている。過去二度はいずれも推定でTNT換算一万トン以下と見られているが、次回はウラン型で広島原爆同様の一万五〇〇〇トン級と考えられている。
●一月二四日、北朝鮮が米国を標的と想定する核実験と長距離ロケット発射を予告したことについて、パネッタ米国防長官は北朝鮮が核実験の準備を進めていることを示す「外面的な兆候」は見られないとしながらも、「率直に言って北朝鮮は、実施しているかどうか非常に判断しにくいやり方で実験を行なう能力を持っている」と指摘した。
 さらに「北朝鮮が挑発行為を続けていることを憂慮する」と非難する一方、こうした挑発に対する米国の備えは万全だと強調した。
 米国のデービース北朝鮮担当特別代表は一月二五日、北京で支那の武大偉・朝鮮半島問題特別代表らと会談し、三度目の核実験を示唆する声明を発表した北朝鮮を取り囲む情勢について意見を交わした。
 米中は、核実験が朝鮮半島の非核化を後退させるとの認識を共有し、国連安全保障理事会が採択した対北朝鮮制裁決議案を履行していくことで一致。米側は「孤立を深めるかどうかは北朝鮮が選択すること。外交上の新たな展開があるかどうかは北朝鮮次第だ」などと述べ、北朝鮮に自制を促した。
 支那外交部の洪磊報道官も同日の定例記者会見で、デービースの訪中を受け、「現在、朝鮮半島情勢は複雑で敏感だ。関係各方面が冷静を保って対話を強化し、情勢をエスカレートさせる行動を避け、協力して半島の平和と安定を維持するよう願う」と述べた。
一月二五日、北朝鮮の対韓国窓口機関、祖国平和統一委員会は、韓国が国連の制裁に直接加担すれば「物理的対応措置」を取ると警告。李明博現政権には強硬な姿勢を続ける一方で、朴槿恵次期大統領側には対話姿勢を見せて米韓の協力を揺さぶっている。
 一月二六日付の韓国紙「東亜日報」は、韓国の朴次期大統領の周辺に対し、北朝鮮側から「会いたい」との非公式の提案が相次いでいると報じた。
 また、事実上の長距離弾道ミサイル発射に対する国連安全保障理事会の制裁決議採択に反発する北朝鮮が核実験をちらつかせている状況のなかでも、北朝鮮外交官らは米国政府や国際機関と接触するたびに、朴次期政権と「うまくやりたい」との考えを伝えている。
 一月二六日、北朝鮮労働党機関紙の労働新聞(電子版)は、「核実験は民心の要求であり他の選択はない」とする論説「政論」を掲載。二四日の国防委員会声明に続き、実験強行の意思を改めて表明した。ただ、外務省、国防委の声明と同様、時期に触れていない。
「政論」は昨年一二月の長距離弾道ミサイル発射に対する国連安全保障理事会の制裁強化決議の採択について、安保理が「(北朝鮮に)他の選択の余地を与えなかった」と非難し、「最後の場面を見るまで進むほかない」と主張した。さらに「核実験でなくそれ以上のものも行なうべきだということが人民の要求だ」として、米国など安保理理事国を牽制した。
●一月二五日、支那共産党の機関紙「人民日報」の姉妹紙に当たる「環球時報」は、「北朝鮮が新たな核実験や『衛星(長距離ロケット)』の再打ち上げに踏み切れば、中国はためらわず北朝鮮に対する援助を縮小する」と報じた。
 支那の官営メディアが、北朝鮮の核実験宣言に対し「援助縮小」を公然と言及したのは極めて異例。支那は毎年、体制維持に必要な物資を無償で援助している。
「人民日報」も同日の社説で、北朝鮮に対し「怒りをあらわにするのは容易だが、そのために発生する問題は収拾が困難だ。その結末をどのように処理する作戦なのか」と指摘した。同紙は現在の韓半島(朝鮮半島)情勢について、「大きな岩(核実験)が山から転落する瞬間」に例え「岩が落ちれば災難が起きるということは誰もが知っている」と綴った。
 現在、支那では習近平新体制の北朝鮮政策の方向は定まっていない状況。今年三月に習総書記が国家主席に就任すれば、直後に対外政策の方向性を決める「中央外事工作領導小組」会議が開催され、北朝鮮問題を含む対外政策の方向性が決まる見通し。北京の外交筋は、「中国の新指導部が北朝鮮の体制維持よりも非核化を優先する可能性は高くない」との見方を示した。
 現在の支那の北朝鮮政策は、北朝鮮が二回目の核実験を実施した直後(二〇〇九年七月)に胡錦濤国家主席が主催した外事工作領導小組で決定したものが継続されている。
 この会議では「北朝鮮は中国の戦略的資産なのか、負債(重荷)なのか」をめぐり、激論が戦わされた。結論は「不戦(戦争防止)、不乱(混乱防止)、無核(非核化)」の六文字にまとめられた。韓半島の戦争防止と北朝鮮政権の安定を、非核化より重視するという原則だった。習近平総書記は当時、副主席の立場で会議に出席していた。
 二五日付の「環球時報」は北朝鮮に関し「警告メッセージ」を送ると同時に「韓米日が国連安保理で北朝鮮に対する厳しい制裁を訴えた場合、中国は必ずこれを制止する」と主張している。
一月二八日、北朝鮮は朝鮮労働党機関紙、労働新聞(電子版)に昨年一二月の長距離弾道ミサイル発射を受けた日米韓の動きを批判する論説を掲げ、「日本が米国に追従し、日朝協議を破綻させた」と非難した。協議延期をめぐって北朝鮮が公式に日本を非難するのは初めてである。
●一月三一日、退任するパネッタ国防長官の後任に指名された共和党のヘーゲル元上院議員が、その承認を審議する上院軍事委員会の公聴会で、北朝鮮は「脅威であることを超え、現実の『核保有国』だ」と証言した。
 進行する核開発への危機感を表した形だが、米国は公式には北朝鮮を核保有国と認めていない。次期国防長官候補の異例の発言は、米国との交渉で核保有国として認めさせることを目指す北朝鮮を勢いづかせる可能性もある。
 ヘーゲルはこのほか、北朝鮮の挑発阻止に「防衛態勢の近代化や日韓豪との連携強化」を進めると証言し、提出書面でも核・ミサイル技術の拡散阻止に向けた有志国での船舶検査やミサイル防衛の強化の必要性に言及した。
 また、支那が東支那海や南支那海で「領有権の主張を強めている」として、中国の軍拡の動きを警戒。在沖縄海兵隊のグアム移転などを進め、沖縄の基地負担軽減に取り組む考えも示した。
 同時期、世界最大のインターネット・ポータル・サイト「グーグル」が、北朝鮮の詳細な地図を提供するサービスを開始した。一月二九日、グーグルは「北朝鮮は、世界で最も地図情報を手に入れにくい地域の一つだったが、今日からグーグルマップで北朝鮮の詳細な地図を提供する。これは、グーグルの『マップメーカー』サービスのユーザーが数年にわたり共同で努力して作り上げたもの」と語った。
 二月上旬に英テレグラフ紙は、北朝鮮を一月上旬に訪問し実質国賓待遇を受けたグーグル会長E・シュミット氏と元米国政府特別顧問J・コーエン氏の共著による書籍の内容を紹介した。その書籍でグーグル会長は「中国政府はハッカー犯罪を支援している」と、支那を非難している。
●一連の北朝鮮をめぐる動きは米国が米中戦略対峙を遠望し北朝鮮を使嗾し始めたことを暗示している。
 グーグルの動きはその一端を顕著に示唆している。同時に、北側も米国の思惑に沿うことで南北朝鮮統一の主導権を確保し、対日攻勢をも強めようと動き出す意向を発信し始めている。
 尖閣諸島をめぐる日中対立が軍事衝突に高まる危険性が芽生えているのも、米中戦略対峙の代理的側面が強い。だが残念なことに、わが国には米国の思惑を跳ね返すだけの自立志向は希薄で、米中の狭間で翻弄される危険性が強まっている。さらには米北連携の北朝鮮の対日攻略に翻弄される危険性も懸念されている。
 なお、南北緊張が最悪の事態に陥ることを懸念する外資勢が、韓国撤退を模索し始めていることも付記しておく必要があろう。
平成二五年二月八日記