TPP交渉参加への一考察 
  (世界戦略情報「みち」皇紀2673(平成25)年4月1日発行第379号)

●三月一日、衆院予算委員会でTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉参加の是非を巡って、前原民主党議員と安倍首相の間で前代未聞のやりとりが行なわれた。
 前原は民主党政権当時のTPPをめぐる米国との事前交渉において、米側が自動車の非関税障壁撤廃や,かんぽ生命保険の内容変更などを日本のTPP交渉入りの条件として要求していたことを明らかにした。そして、「われわれは、あまりに日本に不公平だったので妥協しなかった。安倍政権は妥協して交渉参加表明をすることはないですね」と、安倍に迫った。
 この前原発言に安倍は狼狽し、気色ばんで「交渉していることをいちいち外に出していたら交渉にならない」「守るべきは国益だ」と反論。さらに、「(当時の政府関係者として)守秘義務がかかっているはずだ」とまで言って、前原を牽制した。この言い方は、安倍がいかにTPP交渉参加問題で追い込まれているかの証拠でもあった。
そして三月一五日、安倍はTPP交渉参加を正式に表明した。当初、安倍自民党はTPP参加には消極的だった。だが、二月下旬の日米首脳会談の後、米国に追い詰められる形で、交渉参加表明に踏み切ったのである。
昨年の総選挙ではTPP交渉参加が選挙争点になるはずだったが、なぜかぼかされてしまった。同時に、医療や農業関連以外のTPPに関する情報が極端に制限され公開されていないため、その全貌を把握することは不可能なのが現状である。
 また、大手メディアは問題の本質を取り上げることなく、逆に経済発展・国力増強を目指す安倍のTPP交渉参加決断を評価する報道に徹している。 日本がTPPに参加したら、わが国はどうなるのか? すでにTPP交渉を進めている参加一一ヶ国がどんな交渉をしているのかが「秘密」にされているため、農業団体や医師会を除く日本国民の大半は「無関心」である。だが、フタが開かれたらビックリ仰天ということになりかねない。
 その最大のものが、「非関税障壁」といわれるものである。仮に「非関税障壁」が撤廃されれば、これまでの日本人の「流儀」が軒並み否定されるだけでなく、独立国家としての存続すら冒されかねない事態に直面する可能性も否定できない。
以下、「非関税障壁」の撤廃を促す三つの「毒素条項」を検討しよう。
●TPPの毒素条項とは @ISD条項Aラチェット規定BNVC条項である。

 @ISD条項=「Investor(投資家)State(国家)Dispute(紛争)Settlement(解決)」=「国家と投資家の間の紛争解決手続き」とは、ある国家が自国の公共利益のために制定した政策によって海外の投資家が不利益を被った場合には、世界銀行傘下の「国際投資紛争解決センター」という第三者機関に訴えることができる制度。
確かに、紛争解決手続きを前もって決めておくのは重要である。だが、問題はこのワシントンにある紛争解決センターが世界銀行の傘下にあることだ。北米自由貿易協定(NAFTA)にもISD条項があり、これまで四六件の提訴があり、三一件が米国企業が原告で、米国企業がカナダとメキシコから多額の賠償金を勝ち取っており、米政府が負けたことは一度もない。

 Aラチェット規定のラチェットとは、一方にしか動かない爪歯車を指す。そこから転じてラチェット規定とは、いったん進展した自由化は後退を許さないという規定。締約国が後で何らかの事情によって、市場を開放し過ぎたと思っても、再び規制を強化することが許されない規定である。

 BNVC条項(Non-Violation条項)=非違反提訴という条項は、米国企業が日本で期待した利益を得られなかった場合に、日本がTPPに違反していなくても、米政府が米国企業に代わって国際機関に対して日本を提訴できるという条項。例えば、米国の保険会社が公的な健康保険分野などで参入などがうまくいかないと日本が提訴されて、国民健康保険などの公的保険制度が不適切として改変を求められるということもあり得る条項である。

●毒素条項に秘められた本質を見れば、TPPが「米国(ユダヤ系国際企業)の、米国による、米国のための」幕末の日米修好通商条約に匹敵するような不平等条約であることは明らかだ。
 このTPP交渉のなかで関税撤廃の例外が「聖域」として二、三認められたとしても、ユダヤ系国際企業が狙っている保険・金融・労働などの日本の優れた保護制度を貿易の自由化を邪魔する「非関税障壁」として槍玉に挙げるため、以上のような毒素条項が地雷のようにいくつも仕掛けられている。すなわち、日本は、ハゲタカのようなユダヤ系国際企業に食い荒らされてしまう危険性が極めて高い。
 だが、関税問題しか報道しない日本のマスコミは腐りきっている。現在の日本の報道機関は、あたかも大政翼賛会的国民支配の一翼を担っている、と見なしても過言ではない。国際ユダヤ系組織は、メディア・コントロールに長けており、わが国の大手メディアもその傘下に組み入れられている現実を逆証する象徴的な事象でもある。
一方、ユダヤ系国際企業が米国の覇権力を隠れ蓑にして諸外国を追い込む現状を憂えるかのように、米国内でもTPPへの懐疑が出始めている。
●三月四日、米国市民団体パブリック・シティズンや多くの労働組合、環境団体など四〇〇の団体が現在のTPP交渉を批判し、市民のための貿易・通商政策と民主主義的な交渉プロセスを要求する書簡を各連邦議会議員に送った。以下はその要旨。
 連邦議員各位 米国の通商交渉担当者が今年一〇月までにアジア太平洋地域で新しい、高水準の貿易投資協定を締結しようとしており、また、EUとも同様の協定を検討しているとき、われわれは合計一五〇〇万人余の会員・組合員および支持者を代表して、二一世紀の通商協定についての、そして過去における米国の貿易政策を公正で持続可能なグローバル経済の建設を促進する手段へと転換させるために必要な議会の監視的役割についてのわれわれの期待を伝えたい。
 われわれは、TPPが三月にシンガポールで第一六次の交渉に入るにもかかわらず、米国の交渉担当者がいまだに、彼らが米国市民の名において提案している内容を米国市民に知らせるのを拒否しているということに困惑している。交渉が妥結し、協定が締結された後まで、提案だけでなく合意されたテキストまで非公開とすることは民主主義の原則に反している。
 このように、米国内でもTPP交渉が秘密裏に進められていることへの反発が出始めているのだ。
 現在、TPP交渉を仕切っているのは米国で、その代表は米通商代表部・USTRである。そのUSTRの高官は、米国の歳出の強制削減が実行されたら、USTRのTPP交渉力は損なわれると二月末に言及している。ところが、オバマ米大統領は三月一日、米歳出強制削減の大統領令に署名した。すなわち、今後、USTRのTPP交渉力が極めて流動化、不安定化する可能性も高くなっている。
また、現在、USTRが主導しているTPP協議の内容は米議会にまったく知らされていない。そのため、議会内に不満が強まって、市民団体の呼びかけに呼応する形でUSTRの暴走を問題視する動きも出始めている。
すでに一部の議会関係者からは、USTRに付与されている貿易促進権限(TPA)は去る二〇〇七年に失効していると指摘され始めている。すなわち、今回シンガポールのTPP会議に出席していたUSTRは米議会からTPP交渉権限を受けていないのではとの疑念である。この問題が表面化すれば、USTRはTPP交渉と並行して、米議会からTPAを取得する必要性に迫られる可能性も出始めている。
わが国の安倍首相がTPP交渉への参加を発表した同日、米国の市民団体パブリック・シティズンのウェブサイトに二年半の交渉期間中秘密にされていた条約草案がリークされた。TPPを監督する立場にいる米国上院貿易委員会のワイデン委員長ですら読むことができなかったこの草案が白日の下に晒されたのだ。
 そのなかで、TPPは表向き「貿易協定」とされるが、その実態は関税を撤廃した「企業による世界統治」であることが暴露されている。
一連の米国内における動きは、日本の首相がTPP交渉参加を表明したことを受けて活発化している。これは、米国内における「文明内戦」の変形ともいえる。すなわち、経済大国日本を取り込もうとするユダヤ系国際組織の野望と米国の国益を守りたいアングロ系旧支配層との経済利権をめぐる闘いなのである。
●拝金教による世界統治を目指す多国籍企業が、これから先、経済分野での「ワン・ワールド」「世界統一政府」を実現するための下地として、オバマ米大統領を使嗾して日本をTPPに参加させるべく安倍首相を追い込み、安倍もそれに従う意志を表明した。
米国内でのTPP推進の旗振役が、ユダヤ系の医薬品や種子会社のトップであることを考えれば、医薬品や種子の独占権が強化され、それらの価格が企業の思い通りに値上げされる条項が含まれていることは言うまでもない。また、金融面でも金融規制が緩和されて高リスク商品が販売され、農業分野では地産地消や国産品の愛好は許されなくなる。
 安倍はオバマとの会見で、関税撤廃には聖域があることを確認したかのように報じられているが、オバマですらも条約の本質は知らされていない可能性もある。既に二年半の交渉によって固められた条項を、途中から参加する日本が覆すことなどあり得ない。
 このまま交渉に参加し、条約の裏に隠されている真の意図を見抜けぬまま調印を済ませてしまっては、すべては終わりである。発案当事国である米国ですら、市民団体が反対しているのだから、世界企業の恐ろしさを知らない国々が「企業による世界統治」の下に置かれることは、火を見るより明らかである。裏のからくりを知らぬ首相や政治家たちが臍(ほぞ)を噛むときは、もはや遅きに失するのではなかろうか。  平成二三年三月二〇記