緊迫化する半島情勢への一考察 
      (世界戦略情報「みち」皇紀2673(平成25)年4月15日発行第380号)

●三月五日、北朝鮮の朝鮮人民軍最高司令部報道官は、米韓両軍が合同の定例演習を始める一一日から「朝鮮戦争休戦協定の効力を白紙化する」との声明を発表した。さらに休戦協定に関連する対話窓口である人民軍の板門店代表部も活動を停止するとした。
 韓国KBSテレビは、金英徹偵察総局長が声明を読み上げたと伝えた。金局長は、韓国の民間人にも死者が出た二〇一〇年の延坪島砲撃事件などに関与した強硬派とされている。
 米韓両軍は三月一日から四月末まで、野外機動訓練を含む定例合同演習「フォール・イーグル」を実施中。一一〜二一日には、朝鮮半島有事の際の指揮系統を確認する演習「キー・リゾルブ」も計画。北朝鮮は過去にも、米韓合同演習などに反発して休戦協定が無効だと宣言したことがある。
 三月二〇日、韓国の主要テレビや新韓銀行などの社内システムが一斉にダウンし、合計で約三万二〇〇〇台のパソコンやサーバーが再起動できないなどの被害を受けた。テレビ局の放送が止まる事態は避けられたが、銀行のATM(現金自動預け払い機)が一部使えなくなるなどの被害が出た。韓国国防省はサイバー防衛の警戒レベルを示す情報作戦防護態勢を、五段階中のレベル四からレベル三へ引き上げるなど緊張が走った。
同日は米韓合同軍事演習「キー・リゾルブ」が行なわれていた。同演習は半島有事の際の指揮系統をコンピューター制御で確認するもので、演習もサイバー攻撃の対象であった。だが、その被害実態は公表されていない。また、何者がサイバー攻撃を行なったかも特定されていないが、その直後から北朝鮮の米韓攻撃が熾烈化し、朝鮮半島情勢は一気に緊迫化している。
●三月二六日、北朝鮮の朝鮮人民軍最高司令部は声明を発表し、米韓の威嚇に対抗するとして、米本土や太平洋地域の米軍基地、韓国を攻撃対象とするミサイル部隊などすべての野戦砲兵部隊が「一号戦闘勤務態勢」に入ると明らかにした。
 米韓両国が核兵器搭載可能な米軍のB52戦略爆撃機を合同演習に投入したり、韓国が北朝鮮の挑発があれば平壌などの故金正日総書記らの銅像をミサイル攻撃するとの計画を公表したりしたことを受けての措置だとしている。
 声明は国の自主権と統治体制が脅かされていると主張し「わが軍と人民の断固たる意志を実際的な軍事行動で誇示することになる。悪化する状況をこれ以上見過ごせないというのがわれわれの結論だ」と訴えた。
同日、米国防総省のリトル報道官は北朝鮮が米本土や同盟国の米軍基地を攻撃対象にすると発表したことについて、「緊張を高め、他国を威嚇する使い古されたパターンだ」との認識を示し、米国は「あらゆる不測の事態にも対応する用意がある」と牽制した。
 報道官は、朝鮮半島の安定に「あらゆる手段を取ることが重要だ」と指摘し、「北朝鮮は挑発では何も得られず、孤立するだけだ」と改めて警告した。
 また、核兵器やミサイル開発を進行させる北朝鮮の脅威を「懸念している」と述べ、北朝鮮の軍部隊の移動情報なども含め、あらゆる言動を真剣に受け止めていると述べた。そのうえで、北朝鮮の局地的な軍事挑発に共同で反撃するため、米韓両軍が新たに署名した作戦計画は「共同準備態勢を改善し、即時の確固とした対応を可能にする」との自信を示した。
 さらに報道官は、核弾頭搭載ミサイルの装備も可能なB52戦略爆撃機が三月に入り、三回にわたって米韓軍事演習に参加したことを明らかにした。
●三月二七日、北朝鮮の朝鮮中央通信は「北南将官級軍事会談の北側団長は委任を受け、南朝鮮(韓国)軍当局に(軍通信ラインの遮断に対する)電信通知文を発送した」と報じた。これにより、南北間の軍通信ライン八回線がすべて使えなくなった。
 これまで、開城工業団地に入居する韓国企業の関係者が同団地に出入りする際には、西海(黄海)地区の軍通信ラインを通じて北朝鮮に通行計画書を送り、北朝鮮側がこれを承認する形を取ってきた。北朝鮮がこの通信ラインを復活させない限り、同団地に出入りする韓国側関係者のリストは同団地の管理委員会を介して北朝鮮側に伝えることになる。
 韓国統一部(省に相当)の当局者は、「政府は韓国国民の開城工業団地への出入りと身の安全が保障されるよう、ソウル〜開城間の緊急連絡システムを稼働させている。北朝鮮は開城工業団地の安定的な運営に役立たない措置をすぐに撤回すべきだ」と話した。
 統一部はこれに先立ち、同日午前に大統領府(青瓦台)で行なった朴大統領への業務報告で、開城工業団地を継続的に発展させるだけでなく「韓半島(朝鮮半島)の平和定着と南北統一基盤の構築」に向けた主要課題の一つとして、同団地の国際化を推進すると発表した。開城工業団地製品の「韓国産」認定に向け努力すると同時に、米国や中国などの海外資本を誘致し、国際的な団地に育てるとされている。
 朴大統領は報告を受けた席で「外国企業が(開城工業団地に)入れば、突然の出入り禁止や税金の引き上げといった国際基準に合わない行動はなくなるだろう」と述べ、国際化の必要性を強調した。
 朴大統領は、二〇一〇年の北朝鮮による韓国海軍哨戒艦「天安」爆沈事件を受け、韓国政府が同年五月に南北貿易の中断を含む制裁措置を取った後も、開城工業団地だけは例外的に運営を続けてきたことを肯定的に評価している。
●三月二八日、在韓米軍はレーダーに探知されにくいステルス性能を持ち、核弾頭搭載ミサイルの装備も可能なB2爆撃機が米韓合同の野外機動訓練「フォール・イーグル」に参加し、韓国内で爆撃訓練を行なったと発表した。
 派遣されたB2の機数は明らかでない。敵レーダー網の回避などが可能な同機には通常兵器と核兵器の搭載が可能。在韓米軍は声明で今回の派遣目的について、長距離精密攻撃を迅速かつ自在に実行できる米国の能力を明示するのが狙いと強調した。
 機密性の高いB2の投入を米軍が公表するのは極めて異例。米メディアによると、韓国領空への展開を発表するのは初めて。軍事当局間の通信遮断を通告するなど挑発を強める北朝鮮を牽制する狙いがあるとされていた。
 在韓米軍によると、二八日に二機のB2が訓練に参加し、ミズーリ州のホワイトマン空軍基地から韓国領空まで一万キロ以上を飛行。不活性弾を黄海にある島の射撃場に投下し、帰還した。
米本土から飛来したB2は韓国に着陸することなく米国に引き返した。米軍の狙いは、仮に在韓、あるいは在日米軍基地が北朝鮮の破壊工作のせいで機能しない場合を想定し、米本土から直接北朝鮮を空爆できる能力を誇示することにあった。
●三月三〇日、朝鮮中央通信は北朝鮮が隣国韓国と「戦争状態」に入ったと伝えた。また、「(北朝鮮政府は)全面戦争や核戦争も辞さない」とし、さらに「われわれはまず、米国本土、ハワイとグアム、韓国の米軍基地を攻撃・破壊する。その後(韓国大統領府は)焦土と化すだろう」と述べ、米国への直接攻撃の可能性を示唆した。
 これに対し韓国は、今回のような北朝鮮の挑発は今に始まったことではない、との声明を発表。韓国政府は、韓国と北朝鮮が経済協力事業を行なう北朝鮮の開城工業団地に同日朝、韓国から多数の職員が入り、後からさらに数百人が入るとしており、同団地では通常通り業務が行なわれている模様。
三月三一日、米軍は米韓合同軍事演習の一環として、F22戦闘機を韓国に派遣した。
 F22戦闘機は空軍演習に参加するため、日本から韓国にある米空軍基地に派遣された。在韓米軍の司令官は合同軍事演習への米国の参加について、「アジア太平洋地域の安定と安全保障に貢献する姿勢」を示すものだと表明。
 四月二日、北朝鮮原子力総局の報道官は、「ウラン濃縮工場をはじめとする寧辺のすべての核施設と、二〇〇七年一〇月の六ヶ国協議の合意により稼動を停止していた黒鉛減速炉(原子炉)を再稼動する措置を取る」と述べた。北朝鮮は五〇〇〇キロワット級の同原子炉を含めた核施設の再稼動を表明することで、六ヶ国協議合意の破棄と核兵器生産の意志を鮮明にした。
●朝鮮半島情勢ををめぐる緊迫状況が一気に高まっている背景に、米国による過度の対北挑発と、それに呼応する北側の強気な姿勢がある。
 一連の動きに関して、ロシアは北朝鮮を異常に挑発する米国に対し「統制不能になって戦争が起きる危険性がある」と、異例な警告を発している。
 ロシアが異例な警告を発するほど、米朝緊迫が一気に高まってはいるが、両国が暗黙の了解に基づいている可能性が高い。韓国の朴新政権が南北対話路線を強く志向しており、米国はその動きを牽制することに必死である。北側も米国の思惑を逆手にとって対南攻略を優位に進めるだけでなく、核実験を再開して核保有国宣言を行なうことに活路を見いだしている。
 米国は北の核保有を支那牽制のために実質的に容認していると北は確信している。だが、ロシアが懸念するように核攻撃も視野に入れたチキンレースの危うさは諸刃の剣である。
 米朝対峙が緊迫化する過程で、北朝鮮は米韓だけでなく、在日米軍基地も攻撃対象になるとの警鐘を発している。その際、北側は在日米軍を「日本占領軍」と規定した。これは、大日本帝国の継承を国体の本義にすえた金王朝指導部からの、わが国に対するある種のメッセージであろう。
 奇しくも、米朝関係が緊密化する渦中にあって、朝鮮総連中央本部の土地・建物が、北朝鮮に親近感を抱く宗教家によって落札された(三月二六日)。
 米国は南北対話路線を抑圧することに必死で、返す刀で日本に固有文明・国体を破壊するTPP参加を押しつけている。日本文明の興隆を封印することで、米国による東アジア覇権維持に活路を見いだしているからである。
 米国が最も恐れているのは日朝連携によって東アジアがヤルタ・ポツダム体制から脱することである。すなわち、日朝連携による現代版の大東亜共栄圏の阻止が狙いなのである。  平成二五年四月六日記