ケリー日中韓歴訪への一考察 
     (世界戦略情報「みち」皇紀2673(平成25)年5月1日発行第381号)

●四月一二日、ケリー米国務長官が韓国に到着し、日中韓三ヶ国の歴訪を開始した。
米国務長官がアジアを歴訪し、日中韓三ヶ国の首脳と同時期に会談するのは初めて。米当局者は「北東アジアでは新しい指導者が誕生、米国ではオバマ政権が二期目に入って、我々は新たな段階を迎えた。アジア太平洋地域への新たなアプローチには極めて有利な情勢にある」と分析している。
ケリー国務長官の就任後初の日中韓歴訪の最大目的は、ミサイル発射の構えを見せ国際社会を翻弄する北朝鮮の挑発を、いかに抑えるかを各国首脳や外相と協議することにあり、具体的には、北朝鮮を「甘やかさず、かつ刺激もしない」対応をどこまで模索できるかが焦点だと報じられた。
 同日、ケリーに同行している国務省高官は、「中国は北朝鮮の挑発行為に対して苛立ちを強めている」と指摘。米中会談では北朝鮮に対する影響力を行使するよう支那に促す意向で、具体的には「北朝鮮への金の流れを止め」、支那が朝鮮半島非核化を目指していることを北朝鮮に認識させるよう求めるとしていた。すなわち、米側は今回の日中韓歴訪の主目的は支那首脳部との会談であり、日韓はそのオマケに過ぎないことを公にしていたのだ。
●ケリーは一二日、ソウルで韓国の朴槿恵大統領、尹炳世外相と会談した。
 米国は当初、米軍戦力を現在実施中の米韓合同軍事演習で段階的に公表し対北圧力を強める方針だった。しかし、ケリーは一二日、「オバマ大統領が(演習で)多くの訓練の中止を命じた」と述べ、米国が対北圧力を下げたことを明らかにした。
 ステルス爆撃機などの最新兵器を米国は次々と投入したが、北朝鮮はより強硬になり、偶発的な軍事衝突の懸念も増大した。このため、オバマ政権は緊張緩和のため、状況安定化を目指す方向に修正、対北圧力を一旦緩めた。
 一方、緊張を高めて譲歩を引き出す北朝鮮の「瀬戸際外交」の手口を熟知する韓国側も、基本的には米国と歩調を合わせてきた。だが、北朝鮮が恫喝を続けるなか、野党や一部専門家から「北朝鮮に大統領特使を送れ」など、無条件の対話で状況打開を図るべきだという意見も出てきた。
ケリー訪韓前日の一一日、開城工業団地が内政問題化するなか、韓国側は、朴大統領と柳吉在統一相が北朝鮮に対話を呼びかけた。ケリーは、朴による南北対話の提案を称賛し、当面の緊張緩和に向けて韓国と歩調を合わせた。すなわち、米韓両国は歩調を揃えて、対北融和路線もあり得るとの間接意志を表明した。ケリーは翌一三日、次の訪問先の支那に向った。
●四月一三日、ケリーは北京で習近平国家主席や李克強首相、王毅外相らと相次いで会談、北朝鮮の挑発行動を阻止し、朝鮮半島の非核化実現への取組みを強めることで一致した。ケリーは北朝鮮への一層の説得を支那側に要請。新華社電によると、双方はサイバーセキュリティーをめぐる作業部会設置でも合意した。
 オバマ米政権は事態の沈静化を図るため、北朝鮮への圧力を弱め対話姿勢を前面に打ち出す政策修正を図った。対話を重視する支那側に説明し、一定の理解を得たとみられる。
 米中の主要メディアによると、ケリーは「非核化実現に向け、平和的方法で一致して取組むことで合意した」との認識を示した。
同日、米国務省と財務省は、外交と経済の両分野の問題を中国と閣僚級で話し合う「米中戦略・経済対話」の第五回会合を、七月八〜一二日に首都ワシントンで開くと発表した。挑発的な言動を続ける北朝鮮問題をはじめとする、地域の安全保障や人民元通貨改革など幅広く協議する。
 両省の声明によると、会合では米中両国をはじめアジア太平洋地域や世界が現在直面する課題、長期にわたる経済と戦略上の利益が議題となる。前回までは二日間の日程だったが、今回は期間を五日間に拡大した。オバマ政権が二期目を迎え、支那の習近平体制が発足してから初の戦略対話となる。
●四月一四日、ケリーはわが国の岸田外相と都内の外務省施設で会談。北朝鮮に対しては、「挑発的な言動をすみやかにやめ、非核化に向けた具体的な行動を示すべきだ」との認識で一致。日米韓三ヶ国の緊密な連携で自制を求め、「核保有は断固容認しない」との方針も確認した。また、ケリーは米軍普天間飛行場の沖縄県内移設のための埋め立て申請を「評価する」と述べた。
 翌一五日、ケリーは安倍首相と会談し、弾道ミサイル発射の構えを見せている北朝鮮に対し、日米が連携して強く自制を求めていく姿勢を確認した。会談の冒頭、ケリーは、就任以来、最も頻繁に会談しているのが日本で、同盟の強さを示すものだと強調した。
●四月一四日、北朝鮮の対韓国窓口機関・祖国平和統一委員会の報道官は、韓国政府が朝鮮半島の緊張緩和に向け北朝鮮に対話を提案したことについて「対決姿勢を隠すためのずる賢い術策にほかならない」と非難し、すぐには対話に応じない姿勢を示した。韓国側が一一日に対話を呼び掛けて以降、北朝鮮が立場を表明したのは初めて。
これに対し、韓国大統領府は「北朝鮮が対話を拒否したのは誠に遺憾だ」と表明。北朝鮮当局に「今からでも(中断している南北協力事業の)開城工業団地の勤務者の苦痛を解決できるよう責任ある措置を求める」と訴えた。
また、四月一四日付けの北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は、「前代未聞の対決戦でわれわれが主導権を握り、敵はうろたえている」としたうえで「断固たる決断がいつ、どんな方法で実行されるか、敵は予測できない」と嘯いた。
 記事は故金日成主席の生誕記念日「太陽節」(四月一五日)を前に、金主席から続く北朝鮮の統治体制を称賛した内容。「敵には死が待つ恐怖の春。われわれにとっては勝利の春だ」とも訴え、日米韓を威嚇した。
 同日、朝鮮中央通信などによると、平壌では幹部らが勢ぞろいして太陽節を祝う中央報告大会が開かれ、金永南最高人民会議常任委員長が報告を行った。金正恩第一書記は出席しなかった。
 四月一五日、金正恩が二週間ぶりに公の場に姿を見せた。朝鮮中央テレビは「金正恩同志が、錦繍山太陽宮殿を訪問しました」と報じた。また、「労働新聞」ウェブサイトには、一五日午前〇時、金正恩が、故・金日成、金正日の遺体が安置された錦繍山太陽宮殿を訪れたとされる際の写真が公開された。正恩の動静が伝えられたのは、四月一日の最高人民会議以来のこと。
 翌一六日、北朝鮮の朝鮮人民軍最高司令部は、韓国への「最後通牒状」を公表、韓国に対する「予告なしの報復行動」や「軍事的示威行動」が開始されるなどと表明した。
 報道によると、北朝鮮側は「わが方の最高尊厳を毀損する許し得ない蛮行がソウルの中心部で公然と繰り広げられている」と主張。韓国政府が北朝鮮との対話を望むなら、敵対行為への謝罪と「蛮行」の全面中止による意思表示をするよう要求している。
 また、核実験強行に伴う国連安保理事会の制裁決議の撤回など具体的な内容も明らかにした。さらに、米韓合同軍事演習の恒久的な放棄や両国による挑発行動の停止、挑発への謝罪表明なども要求。国防委は声明で、米韓が北朝鮮軍と人民による報復の鉄槌の打撃を避け、真の対話と交渉を欲するなら、軍事演習の放棄などを実行すべきだと主張。
 核問題の解決については米国が最初の行動を示すべきだと強調。「朝鮮半島の非核化は米国が(半島に)もたらした核戦争手段の撤収で開始されるべきだ」とし、この措置が世界の非核化につながるとも述べた。
●ケリー国務長官の日中韓歴訪は、米側がそれまで異様にまで軍事挑発してきた過去を清算し、北側に対話に応じるよう基本姿勢を改める意向を示す演出行脚となった。 
 一連の米側の対応について、北側は実質的な勝利認識宣言を二週間ぶりの金正恩の公的登場に託した。そして、翌一六日には韓国側に「最後通牒」を突き付けるなど、最後の追込みに邁進する姿勢を示している。
北側の舞い上がった態度表明を危惧するオバマ米大統領は、テレビとの会見で金正恩に対し、米韓に対する威嚇は北朝鮮の孤立化をさらに進めるだけだと警告を発した。そして、北朝鮮による最近の挑発的な行動は、父の故金正日、祖父の故金日成が以前見せていた行動パターンと同一と指摘。そのうえで、大統領就任以来、明確に打ち出した立場は今回のような挑発的な行動に報償は与えないということだと強調している(四月一六日)。
今回のケリーの日中韓歴訪に関して、四月一五日付けの独紙ターゲスシュピーゲルは「大国接近」記事のなかで、ケリーの訪中で秘密提案があった可能性を取り上げている。
その本旨は、支那が責任を持って北朝鮮の暴発抑制を確約するならば、米側は在韓米軍を大幅に縮小し、さらには、日韓など米国外におけるミサイル防衛システムの拡大を制限するとの考えを伝えた、とする内容である。独紙の記事は、支那や米国の専門家に取材したうえでの推測の範囲内だが、それなりの信憑性を示唆している。
 米国は、財政削減のため国防費の大幅削減を既定政策に定めている。その趨勢にあって外国での戦争を負担する余地はないし、出来るなら在外基地の大幅削減も視野に入れている。すなわち、ケリーは、在韓米軍の撤退を視野に入れて支那との戦略協定の可能性を模索している可能性が高いことを、独紙は示唆している。
また、ケリーは国務長官就任直後に訪問したイスラエルで関係者に、彼の祖父はアシュケナージ系フランス人で、ユダヤ同胞だと告白した。その本意には、自分は「新河豚計画・ユダヤ同胞の満洲移住計画」という、世界史的な使命を推進するため米国長官に抜擢されたとの意が秘められている。
 ケリーは今回の支那訪問で、満洲開発構想を北京指導部に働きかけ、その構想のなかで北朝鮮をどう使いこなすかを話し合った可能性が高い。その見返りが、今年七月ワシントンで開催される濃密な「米中戦略・経済対話」であろう。  平成二五年四月二〇日記