飯島内閣参与訪朝への一考察 
     (世界戦略情報「みち」皇紀2673(平成25)年6月1日発行第383号)

●四月一三日、北朝鮮朝鮮中央通信は北朝鮮の国防相に当たる人民武力部長が、金格植から張正男に交代したことを報じた。二〇一〇年に韓国の延坪島砲撃を主導した軍部強硬派の代表格とされる金格植は昨年一〇月に武力部長に就任したばかり。
 また、金格植は今年三〜四月、朝鮮労働党政治局員候補と国防委員に就任。人民武力部長は一一年一二月に金正恩第一書記の体制が始まってから頻繁に交代しており、今回で三回目。
 金正恩は、金正日総書記が遺した「先軍政治」などの「遺訓政治」を忠実に継承しようとする古参の金格植らを粛清し、人事の若返りを図っているものと推察できる。とくに金正日に近かった高級幹部たちは、「日本と交渉するな」と言い残した総書記の遺言を墨守しようとしたことから、金正恩とその側近たちとの間で路線の違いがはっきりしてきたのであろう。
 なお、金正日の妹・金敬姫(夫は、張成沢・国防委員会副委員長=金正日総書記の側近だった)が昨二〇一二年、密かに訪日して大阪や京都市内に姿を現して、何事かを折衝していたという情報がある。
 さらに、今年三月以降、北朝鮮筋の大物工作員が来日し、京都を中心に旧皇族関係者らとの折衝を続けているとの情報も流布されている。そして、同筋関係者は、日朝間の最大の懸案である日本人拉致問題解決に向けて「めぐみさんカード」を切る、すなわち、横田めぐみさんの存在を公にすることも厭わないとの意向を示唆している。
 また、北当局が金格植降格を公表した翌一四日、訪中を終えて来日したケリー米国務長官が安倍総理と面談した後、横田めぐみさんのご両親、家族会の人たちと面会している。
こうした北朝鮮内部の対日路線と関係諸国(米中)の対応の変化を象徴しているのが、安倍晋三政権の飯島勲内閣官房参与の「北朝鮮訪問」である。
●五月一四日、飯島勲内閣官房参与が北朝鮮の首都平壌を訪問した。
 飯島は小泉元総理大臣の政務秘書官を務めていた当時の二〇〇二年九月に行なわれた初めての日朝首脳会談と、二〇〇四年五月に行なわれた二度目の日朝首脳会談の際に、小泉に同行して平壌を訪れており、現在の安倍政権では、内閣官房参与を務めている。
 政府は、北朝鮮への渡航について、拉致問題や核問題を踏まえた制裁措置の一環として、目的を問わず自粛するよう要請している。こうしたなか、飯島が訪朝したのは、拉致問題などの打開を目指す動きではないかと推測されている。
今回、日本側は訪朝を極秘にしようとしていた。だが、北朝鮮はあえて情報を出しており、揺さぶりをかけてきた。まずは、平壌国際空港に降り立った飯島の映像を公開。日本にとって極秘だったはずが世界に知れ渡ることになった。続いて飯島の会談相手も公開。当初は宋日昊大使と会談する予定だったが、今回会談の相手である金永南氏の序列は第二位。二〇〇四年、当時の小泉総理が訪朝した際に出迎えたのは金永日書記。現在は書記の地位にあり、序列は推定第二一位だった。
会談場所の万寿台議事堂は最高人民会議が開かれる場所。ここで内閣参与の飯島が、北朝鮮のナンバー2と会見するのは破格の扱い。ただし、拉致問題が話し合われたかなど、詳しい会談内容は明らかにされていない。金永南は、対外的には国家元首。日本で言えば国会議長に当たる人材で、政治家ではない人物に会うのは極めて異例。
安倍首相は七月二一日の参議員選挙に合わせて、北朝鮮から日本人拉致被害者の一部帰国を実現し、選挙に圧勝した後、日朝国交正常化・国交樹立を実現したい意向を飯島訪朝に託したのであろう。
●五月一五日付の韓国大手紙は、飯島訪朝に関して、「米韓はもちろん、中国まで北朝鮮に制裁を加えている状況で国際協調を破った」(朝鮮日報)と警戒感を示した。
 東亜日報は日本政府が韓国政府に飯島訪朝を事前に通知していなかったと伝え、「北朝鮮に対する強力な制裁措置が取られているなか、日本の突出した行動により、北朝鮮に状況判断を誤らせる可能性がある」と指摘した。また、韓国政府が北朝鮮対応で日本を排除し、米中韓の結束を強める動きを見せていることに、「安倍晋三首相が腹いせで牽制球を投げた」との見方も伝えていた。
 朝鮮日報は、「日本が北朝鮮問題に対する影響力が低下している状況を反転させるためのカード」と分析。「七月の参院選をにらみ安倍首相が勝負に出たとの見方も出ている」と伝えた。
 聯合ニュースは米韓両国が日米韓連携の観点から、日本側に急速な北朝鮮との接近を自制するよう「速度調節」を求める可能性が高いと報じた。
一方、支那外務省の洪磊報道官は飯島訪朝について「(北朝鮮との)接触が現在の朝鮮半島の緊張した情勢の緩和や、地域の平和と安定の維持に役立つことを希望する」と述べ、表面上は期待感を示した(五月一六日)。
 洪は「将来、いかに朝鮮半島の非核化に対応するか、いかに半島の長期的な安定を実現するかは、六ヶ国協議関係国の重要な関心事だ」と強調。日本側が飯島訪朝を事前に関係国に通告しなかったことについては直接の回答を避けた。
●今回の飯島訪朝は、米中韓には相当なインパクトをもって受け止められたが、関係各国の対応は分かれた。
 支那は静観。米国は訪日した国務省のデービース北朝鮮担当特別代表が、外務省の杉山晋輔アジア大洋州局長に「不快感」を示したとされる。ただし、韓国の反応は、より強硬。
五月一六日、米国務省のサキ報道官は、飯島訪朝について、「訪日中のデービース北朝鮮担当特別代表がさらに日本側から説明を受けるだろう」と述べ、訪朝結果に大きな関心を示した。同時に「デービース特別代表が東京でコメントした通りだ」と述べ、飯島訪朝を事前に知らされていなかったことに不快感を示したことを追認した。
 オバマ米大統領は今月の五月七日、訪米した韓国の朴槿恵大統領が歴史認識をめぐり暗に日本を批判したのに対し、「日本外し」をしないよう求めていた。それだけに、米政府は日本側への配慮が空振りになった格好。事前の通告がなかったことに国務省も当惑を隠せず、「デービース特別代表と日本側の意見交換を見極めたい」(サキ報道官)としている。
 米政府は飯島が北朝鮮のナンバー2、金永南と会談したことを重視。日本側の動きを重大な関心をもって見守っている。
●五月一八日、北朝鮮から帰国した飯島勲内閣官房参与は、北朝鮮の金永南最高人民会議常任委員長らとの会談で「本音の話ができた」との認識を示した。米中韓など各国は今後、日本に情報提供を求めるとみられる。対日対話の姿勢を見せ周辺国の関心を集める北朝鮮だが、一方で短距離ミサイルを発射し緊張感を演出するなど、新たな戦略に出ている。
 飯島を破格の厚遇で迎えた北朝鮮の狙いについては、「日本と米中韓の足並みを乱す」との見方が強い。北朝鮮は飯島訪朝で日朝融和を演出し、その結果、各国の反応は分かれた。
 こうしたなか北朝鮮は、対韓工作機関傘下の祖国平和統一委員会のウェブサイトで、飯島訪朝に韓国が不快感を表明したことに触れ「誰がどこへ行こうと、第三者があれこれ言うことではない」と強く非難、韓国を牽制した(五月一七日)。
 北朝鮮は韓国との協力事業、開城工業団地を操業停止にした。韓国側は解決のため高官会談を申し入れたが、北朝鮮から一蹴されている。韓国は飯島訪朝について外務省報道官が、米中韓の関係強化を強調する朴槿恵政権になってほとんど聞かれなかった「日米韓の協調体制」という表現を使って批判している。
 内政が行き詰まり、経済で日本に後れを取る韓国では対日嫉妬が深まっている。北朝鮮をめぐり日本の存在感が強まれば、韓国は対日協調に力を入れざるを得ない。米中韓連携で日本に圧力を加え「歴史認識戦争」で日本を屈服させ、国内支持に弾みをつけようとする戦略は破綻する。北朝鮮の飯島受け入れは思わぬ形で韓国でのジレンマをも誘っている。
●飯島訪朝が明らかになった五月一四日、読売新聞が「北朝鮮開城市周辺の史跡群、世界文化遺産登録へ」という見出しをつけた記事を配信した。
 北朝鮮での世界遺産登録は、平壌近くの高句麗古墳群(三〜七世紀)の二〇〇四年の登録に続き二件目となる。開城の史跡群は国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の諮問機関「国際記念物遺跡会議」(イコモス)が富士山などと共に登録を勧告した。
 イコモスが五月上旬に発表した資料によると、史跡は、城壁や城門、書院跡や王陵など一二の遺産から構成されている。史跡群は、事実上の閉鎖状態となっている南北協力事業『開城工業団地』にも近い。登録されれば、外国人らを対象とした『観光資源』として活用する可能性もある。
開城周辺の古墳群が世界文化遺産に登録されれば、改めて高句麗の存在が世界の注目を誘うことになる。飯島訪朝に併せて高麗論議が高まる仕掛けが行なわれたことは、偶然ではない。
 現在国際ユダヤ勢力が進めている「新河豚計画構想」(満洲へのユダヤ人入植、新満洲建国構想)と連動した動きで、その中核国家として北朝鮮を認定するための布石でもある。
 この構想は、ユダヤ国際勢力と英国勢力の思惑が連動して進められている。ちなみに北朝鮮は、南北統一の前身として高麗連邦構想を掲げている。
 英国はその思惑に従って、今秋、わが国に二一世紀型の日英同盟の締結構想を英王室主導で働きかけてくる予定である。北朝鮮が「めぐみさんカード」をちらつかせ始めたのも、英国の意向を汲んでの可能性も高い。すなわち、今回の飯島訪朝の背後には英国の深謀遠慮が潜んでいる可能性が高い。
 米国の不快感を気にしない安倍政権の決断を言祝ぐかように、最新の英誌エコノミストはスーパーマンに模した安倍首相を採り上げ、安倍政権の経済・外交政策を積極的に評価している。平成二五年五月一九日記