欧州の歪みに関する一考察 
   (世界戦略情報「みち」皇紀2673(平成25)年6月15日発行第384号)

●五月一九日夜からスウェーデンの首都ストックホルム郊外で若者ら数百人による放火や破壊行動などの暴動が発生し、過去数年間で最悪となる六夜連続となった。
 暴動が連夜発生したのは、ストックホルム郊外のヒュースビー地区。カラフルな遊具が並ぶ遊び場や草が刈り込まれた公園、低層の集合住宅などが集まる一般的な整備された地区である。
 しかし、移民の多い同地区では、住民らは実を結ばない就職活動や警察による嫌がらせ、人種差別的な中傷などについて口にし、スウェーデンの移民政策の「寛容性」とは相反する現実が浮かび上がってくる。
 今回の暴動は他の地区にも拡大した。貧困や人種差別などを背景に二〇一一年に英ロンドンで、二〇〇五年に仏パリで発生した暴動を彷佛させる。今回の暴動は、スウェーデンの福祉制度に別の一面があることを示している。同国人口の約一五%は外国生まれで、北欧では最も高い割合。
 隣国ノルウェーでは二〇一一年夏、与党の移民受け入れ政策に反対する男が首都オスロの官庁街や国内の島で爆弾テロと銃乱射を相次いで行ない、七〇人以上が死亡する事件が起きた。
同年、英ロンドンでも貧困や人種差別などを背景にした移民の若者らによる暴動と放火事件が発生。「反移民」や「反欧州連合(EU)」を訴えてきた右派小政党「英国独立党」(UKIP)が今年五月の地方選で躍進、二年後の国政選挙では台風の目になりそうな情勢にある。
スウェーデンでも「反移民」を唱える「スウェーデン民主党」が近年、躍進を果たしており、移民政策のひずみが露呈するたびに世論を二分する議論となっている。
●スウェーデンのラインフェルト首相率いる中道右派政権は過去七年間、税率引き下げや公的手当の減額を行ない、この取り組みは欧州の大半を上回る同国の経済成長に寄与してきた。一方で、同国は経済協力開発機構(OECD)加盟国のなかで、格差が最も急速に拡大している国でもある。
 世論調査によると、スウェーデン国民の大半は現在でも移民受け入れを支持している。同国は移民に住居やスウェーデン語の授業を提供し、難民申請者に親族との同居を許可するなど、手厚い保護で評価されている。しかし、このコンセンサスは崩れつつある。
 スウェーデンが二〇一二年に受け入れた難民申請者は、四万三九〇〇人。前年から五〇%近く増え、過去二番目に多い人数となった。そのほぼ半数はシリア、アフガニスタン、ソマリアの出身者。
 難民申請者は、短期的には社会保障制度の財政負担となる。OECDのデータによると、外国出身者の失業率が一六%であるのに対し、スウェーデンで生まれた国民の失業率は六%。同国が充実した福祉制度を維持するには高水準の就業率が不可欠となる。
今回のスウェーデンでの暴動は、同国や欧州の移民政策の「寛容性」とは相反する現実を浮かび上がせている。その寛容性の欺瞞を装い続ける現状を憂うるフランスの作家が、自決決起を行なった。
●五月二一日、パリのノートルダム大聖堂のなかで、著名な保守系のフランス人作家、ドミニック・ヴェネール氏が、「同胞を惰眠から目覚ませんとして」ピストル自殺を遂げた。
 事件は、一五〇〇人の参詣者の詰めかけた大聖堂内の祭壇前で起きた。七八歳の老作家は、ベルギー製のピストルで口腔内を打ち抜いて果てた。祭壇前のテーブルに一通の遺書が見つかった。大司祭が駆けつけて遺書を開くと、次のようにあった。
「私は心身ともに健全、かつ妻子を愛する者だが、わが祖国ならびにヨーロッパの危機甚大なるを見て、一身を捧げて同胞を惰眠より覚醒せしめんと欲する。悠遠の昔より民族の至聖の場であったパリのノートルダム大聖堂を死に場所として選ぶ……」
 自決の前々夜、同氏が自分のブログに発表した声明も公表された。そこには死の理由について、「われらの抗議は、単に同性婚への反対に留まらず。フランスならびにヨーロッパの民族大置換という真の文明的危機に抗するものなり」と記されている。
フランスでは五月一八日に布告された「同性結婚法」が国論を両断し、沸騰させている。「第一回ゲイ・プライド」集会が五月二五日以後、トゥール市、ディジョン市と広がりつつある。一方、これに抗して二六日には数十万規模の反対デモがパリを中心に展開されている。
 また、「民族大置換」とは、「フランス国民を外国人によって大がかりに入れ替えること」を意味する。第三国人の大量移入、子沢山による生活保護増大、財政逼迫はキリスト教信仰と文化的独自性の喪失とも結びつき、多年、フランス国民の危機感と憤懣をつのらせている。
 多くの心あるフランス人は、ユダヤ系のサルコジが仏大統領に選出されたことで、「フランスは死んだ」と慨嘆している。今回の老保守作家の自決は、その危機感と憤懣を象徴する事件で、フランス版の「三島事件」と見なすことが出来る。事実、自決したモンテルランは、三島由紀夫を尊敬していた。
 彼は、昭和四五年一一月二五日の三島の自決決起=「三島事件」に接して発憤し、二年後にフロン・ナシオナル(国民戦線)党の創設にあたって、その党首候補に推された。実際に党首となったのはルペン氏だった。現在はその娘、マリーヌ・ルペン女史が後を継いでいる。ちなみに、彼女は、ヴェネールの訃報に接して、「彼の自決はフランス国民を覚醒せしめようとした高度に政治的なもの」と、哀悼の意を表している。
 スウェーデンでの異例な長期暴動発生やフランス版の「三島事件」は、欧州の内面の歪みを象徴する事件である。世界経済がユダヤ系金融資本主義に席巻され、近代国民国家が崩壊する過程で生じた文明の衝突の一側面を象徴する苦悩の表われでもある。
 欧州当局は、その内部矛盾を経済成長戦略で克服する意向に転じている。
●欧州連合(EU)は、財政削減を目指す緊縮路線から雇用と成長戦略へと政策転換を打ち出し始めている。ギリシアやスペイン、ポルトガルといった南欧諸国だけでなく、フランスやオランダまでが緊縮施策の推進によって経済の悪化が一段と鮮明になり、失業率が二桁台に乗ってきたことに対応するためである。
 OECD(経済協力開発機構)の最新の予測でも、ユーロ圏の今年の経済成長率は半年前の予測値マイナス〇・一%からマイナス〇・六%へと下方修正されており、このままではドイツ以外のすべての国々がこの秋以降、マイナス成長へと陥りかねない。
五月二九日、ヨーロッパ委員会はフランス、スペインなどの六ヶ国に対して、財政再建目標の達成期限を二年間延長することを決定した。
 その結果、年間の財政赤字をGDP比三%以下に抑えるという緊縮政策が、事実上棚上げされ、雇用と成長の多少の改善と引き替えに、二年後の財政状況が一段と厳しくなって来る。
 問題は、こうした状況を国際的な格付け機関がどう判断するかであるが、彼等が財政状況を重要視する立場を変えることは考えられないので、各国の評価をさらに引き下げ、EU危機が再現される可能性は高くなってくる。
 一方、成長戦略への転換に対し、ドイツは厳しい考えを持っているだけに、財政削減の手綱の緩め方に対して、今後、「ドイツ対他のユーロ諸国」の水面下の葛藤は次第に高まって、EUの二極化現象が明確化されると予測される。すなわち、ドイツを中心にした北欧圏の「第四帝国」化統合の推進と、南欧圏との分離化現象の進捗である。
ロシアのプーチン政権は、EUの二極化現象を遠望したうえでドイツとの提携にロシアの活路を見いだしている。その伏線として、ロシア革命はロシア正教文明圏を破滅させるために国際ユダヤ系組織が仕掛けた宗教戦争だとの認識を国民に啓蒙している。
 同時に、エリツィンはユダヤ人であると暴露することで、エリツィンを打倒したプーチンの正統性を喧伝している。また、ドイツではヒトラーを見直す気運が高まっている。あたかも今後の独露関係はヒトラーとスターリンの戦略提携路戦を再現しそうである。
 一連の動きは、東西冷戦体制の崩壊後の米国の世界一極覇権に歪みが生じる過程で起きている。同時に、イデオロギー的対立を払拭し、伝統的固有文明を基層にした共同体回復を志向する動きでもある。また、近代国民国家の枠組を取り払い己れの経済権益だけを追求するユダヤ系国際金融資本の跳梁跋扈から、伝統的な共同体を守ろうとする生存本能的な意志の発露でもある。さらに、その底流には「新帝国主義」的な気運も潜んでいる。
 わが国もその潮流に無自覚に巻き込まれ、橋下発言はその負の部分だけが付け込まれる舌禍事件となっている。
●四月一三日、橋下徹大阪市長が記者会見でいわゆる「従軍慰安婦」について語った内容が国内外、ことに米国を刺激し大きな波紋を投げかけた。
 彼は「事実と違うことで日本国が不当に侮辱を受けていることを主張しなければならない」と、「従軍慰安婦」という概念が定着し、米国では「性奴隷」とまで極論されて、わが国が非難されている風潮に異議申し立てを行なった。その本旨は正当だが、米国から厳しい批判を突き付けられる事態を予測出来なかったことで、政治家としての資質を問われる結果となっている。
米国が橋下発言に過敏に反応したのは、彼の発言を看過すれば、米国がわが国に強要した第二次世界大戦後の歴史認識・東京裁判史観が根底から覆される気運が日本に台頭することを恐れたからである。
支那は安倍政権を「軍国主義復権」を目論む極右政権と、ことあるごとに、日本は戦勝国の歴史観に従えと揺さぶりをかけている。米中双方は歴史認識で一致していることを装いながら、日本抑止に戦略的利益を見いだしている。現下の世界情勢は「新帝国主義」位相に入りつつあることを見据えて、わが国が外交・軍事分野で独自性を発揮することに懸念を抱いているからである。平成二五年六月二日記