NSA機密暴露騒動への一考察 
     (世界戦略情報「みち」皇紀2673(平成25)年7月1日発行第385号)

●六月五日、英紙ガーディアンは米国通信大手ベライゾンが四月二五日から七月一九日までに行なわれた国内通話の時間、場所、電話番号などの通話記録の提出を命じられていたと報じた。また、米国の監視プログラムを監督する裁判所の命令もベライゾンに対する情報提供要求を後押ししたとしている。
翌六日、同紙と米紙ワシントンポストは、米国家安全保障局(NSA)がマイクロソフトやアップルといったインターネット大手企業のサーバーから電子メールや写真などの個人データを引き出していると報じた。
 両紙の報道によると、NSAはマイクロソフト、アップル、グーグル、ヤフー、フェイスブックなど大手九社の中央サーバーにアクセスしている。このプロジェクトは「プリズム」と呼ばれ、ポスト紙は計画の概要について説明した文書を入手したという。
 NSAは、電子通信を監視している米国の情報機関。プリズムは二〇〇七年から存在しており、以後「飛躍的に拡大」したとポスト紙は伝えている。
 ガーディアンが掲載したスライドによると、データ収集は二〇〇七年のマイクロソフトから始まり、〇八年から一二年にかけてヤフー、グーグル、フェイスブック、ユーチューブ、スカイプ、アップルなどに対象が広がった。
六月七日、米経済紙ウォールストリート・ジャーナルは、NSAの活動に詳しい情報筋の話として、米情報機関はクレジットカード情報も入手している可能性があるとも報じている。
六月九日、ガーディアン、ポスト両紙は記事の情報源は米国の防衛請負業者に勤務するコンピュータ技術者エドワード・スノーデン氏(二九)であることを明らかにした。
 ポスト紙によると、同氏は、米中央情報局(CIA)の元技術補佐員で、四年前からNSAで勤務している。同氏はコンピュータコンサルティング会社での好待遇の職を擲(なげう)ち、予想される情報暴露の影響に備え、香港のホテルに身を隠していた。
 一連の報道は米中首脳会談開催に併せて発せられたもので、支那の巧妙な情報工作に英紙などが同調した可能性も指摘されている。
●米国の情報機関が米国内の通話記録や電子メールなどのデータを秘密裏に収集していたとされる問題で、オバマ米大統領は六月九日までに、「誰も皆さんの通話内容は傍受していない」と述べ、ここ数日間に次々と明らかになった事実に動揺する米国民に冷静になるよう呼びかけた。
 米当局は、捜査官が通話記録を閲覧するのはテロとの関連性が疑われる場合に限られ、さらに判事の許可の下に行なうとしている。また、米国市民や在住者がたとえ海外渡航中であっても、彼らのインターネット活動に関する情報収集は禁じられていると指摘。
 大統領はこの問題についての議論を歓迎する一方、安全とプライバシーを完全に両立させることは不可能であると認識することが重要だとし、ある程度の妥協が必要との考えを示した。
●NSAなどが市民の通話履歴やネット上の情報を秘密裏に収集していた問題で、国家の安全と、市民のプライバシー保護のどちらを優先すべきかの議論が米国で活発化している。
六月一一日、人権擁護団体「米自由人権協会」は、通話履歴の収集は言論の自由を保障する修正憲法一条に違反するとして、米政府に収集停止を求める訴えをNY連邦地裁に起こした。
 一方、下院情報特別委員会のロジャーズ委員長(共和)は政府の情報収集活動の様子を米英紙に漏洩した米国人スノーデン氏について、「最大限の罰則で裁くべきだ」と激しく非難した(六月一〇日)。ただ、ホワイトハウスのウェブサイトには「告発した英雄」を罪に問わないよう求める署名が約四万件も集まっている。
六月一二日、NSAのアレキサンダー長官は、一連の情報収集は米国民を守るための正当な行為であり、過去には数十件のテロ謀議の阻止に役立ったと、連邦上院議会のサイバー安全保障問題に関する公聴会で主張した。
 この問題で政府当局者が公の場でNSAの情報収集活動の内容について証言するのは、初めて。同局長は米国民の防衛と、市民の表現や思想の自由などの権利の鬩(せめ)ぎ合いに関する社会的な討論は歓迎するとしながらも、テロ組織を利さないために情報収集活動の秘匿制も重要だと強調した。
 未然に防いだとするテロ謀議の詳細は機密情報として明かさなかったが、ニューヨーク市の地下鉄を標的にしたテロ計画の阻止に役立ったと述べた。
●NSAなどが市民通話履歴やネット情報を収集していた問題をめぐり欧州でも波紋が広がっている。欧州諸国民も対象に含まれるとされる一方、情報収集活動の実態が不明なためである。
 欧州で特に問題となっているのは、プリズムの対象には米国外居住の外国人が含まれ、米IT企業のサーバーを通じ、メールや写真、動画などの個人情報が洩れていた点である。
六月一一日、欧州連合(EU)のボルジ欧州委員(消費者保護担当)は、テロなどの具体的な疑惑のある個人に限定されるのかなど、情報収集活動の実態に関し説明を求める考えを示した。
 一方、米国と諜報活動で協力する英国では、政府通信本部(GCHQ)がNSAから情報を受けていたと英紙が報道。国内で収集が禁じられている情報を入手していたのではないかとの疑惑が浮上し、ヘイグ外相は、「国外から情報を受けるときも国内法を守っている」と、説明に追われた。
 ロシアのペスコフ大統領報道官は、スノーデン氏について、ロシアに政治亡命の要請があれば「(政権内で)検討されることになる」と述べ、政治亡命を受け入れることはロシアにとって有益との考えを強調した。しかし、同氏は「表現の自由を信じる国に亡命を求めたい」として、引き続き香港にとどまる意向を示していた。
 米国と香港との間には犯罪人引渡し協定があり、米政府が求めれば同氏は拘束され、米側に引渡される可能性があった。同氏は「香港にとどまって、裁判所で米政府と闘う。香港の法制度を信じているからだ」と述べた。また、「私はヒーローでも反逆者でもない。一人のアメリカ人だ」「私は隠れるためではなく、犯罪を暴くためにいる」と強調。「自分の運命は香港の裁判所や市民に決めてもらう」と話した。
●香港のメディア経由で発表されたスノーデン氏のコメントを受けて、米国世論は真っ二つに割れている。
 LAタイムス(電子版)の世論調査では、「ヒーロー」が六七%、「単なる犯罪者」が九%、「国家反逆者」が八%、「ヒーローだが違法行為なので堂々と収監されるべき」という答えが一〇%。また「イプソス/ロイター」による連合世論調査では「スノーデンは愛国者」が三一%、「反逆者」が二三%。更に「ハフポスト/ユーガブ」の連合調査では「スノーデンの行為は正しい」が三八%で、「間違っている」が三五%。
 米国では二〇〇一年の「九・一一事件」以降、愛国法の施行などもあって「テロ抑止のためには政府によるプライバシー監視はやむを得ない」という認識がある程度普及している。しかし、今回の事件に対する世論調査の結果は世論を形成する世代が交代していることと、電話とメールだけでなく、幅広い個人情報が画像とともにネットワーク化されている「SNSまで見られていた」ということで、改めて多くの人間が嫌悪感を抱き、世論が「真っ二つ」になっている現状を如実に浮き彫りにしている。
 同様に、政界も混乱している。オバマ政権、そして当事者である軍やNSAは「ひたすら低姿勢」ながら「テロ対策には必要だった」という主張を、抑えたトーンで繰り返している。また、オバマ大統領本人は当初は「国民に理解を求める」という発言をしたものの、スノーデン氏が名乗り出てきてからは「ダンマリ」を決め込んでいる。
一方、オバマの民主党では、左派は「ブッシュ以来の権力の濫用」だとしてNSAに批判的。中間派から右派は「テロとの戦いには必要だった」という立場が原則。
 オバマ政権としては「この情報収集行為がテロ抑止に必要だという発言を大統領がこれ以上行なうと、オバマのイメージ、特に若者の間でのイメージが崩れる」と判断して、「ダンマリ」を決め込んでいる。これに対して、共和党のベイナー下院議長からは、「大統領はなぜダンマリを決め込んでいるのだ。国民をテロから守るために必要な措置なら、もっと堂々としたらどうなんだ」などと揶揄されている(六月一三日)。
 一連の動き、すなわち、NSAのプライバシー侵害問題は、「テロとの戦い」位相が変貌し、「サイバー戦争・諜報の時代」位相に世界が入り始めた時代の変わり目を象徴している。
 その後、スノーデン氏は米当局からスパイ活動取締法違反容疑で訴追されたが、エクアドルへの政治亡命を表明。香港からモスクワに脱出しロシア出国の機会を窺っている。同時に、米中、あるいは米露の間でいま、熾烈な駆引(諜報戦)が行なわれている。
●ガーディアン紙の報道によれば、渦中のスノーデン氏は二〇〇九年には日本で「NSAの外注先エージェント」として活動していたようだ。
 現在、わが国はTPP参加を強いられている。その狙いは国際企業(主にユダヤ系)が求める文明価値規範に従うよう日本を変貌させることにある。当然、時間をかけながら国家主権の消滅、伝統文化の破壊、英語公用化などが押しつけられてくるだろう。
 かかる趨勢にあって、国民に番号を割り振って、税や社会保障関連の情報を纏めて管理する社会保障・税番号(マイナンバー)制を三年後に運用開始するという、あたかもNSAの監視業務に貢献するかのような法案が閣議決定された。
 TPPで締め付けられ、個人情報が完全に管理される社会とは、かのG・オーウェルの「動物農場」的な呪縛世界である。覇権地政学位相でこの趨勢(グローバリズム攻勢)に逆らうことはもはや不可能だが、わが国には文明地政学位相でその呪縛を超克できる叡智が秘められている。この叡智に覚醒することこそ、日本民族・神国日本の人類全体に対する使命である。二五年六月二五日記