支那情勢への一考察 
(世界戦略情報「みち」皇紀2673(平成25)年12月1日発行第394号)

●支那で収賄罪などに問われ、無期懲役が確定した薄煕来元重慶市党委書記の支持者らが、支那国内で新たな政党を発足させた。
 支那では保守層(左派)や貧困層の間で薄煕来への根強い支持があり、厳罰で幕引きを図った習近平指導部への反発が背景にあるとみられる。
 ロイター通信などによると、新政党の名称は、憲法を最重視することを意味する「至憲党」。一一月九日に開幕した三中全会直前の一一月六日に設立されたとされている。
 政策面では、「共同富裕」の名の下に貧富の格差是正を重視した薄煕来の左派路線を全面的に支持。薄煕来を「終身主席」とし、党は刑務所管理者を通じて薄に通知したが回答は得られていないとされている。
 政党設立者の一人は、同通信の取材に「中国の法律の下では非合法ではない」と主張している。
 支那では憲法で中国共産党を「唯一の執政党」と規定し、その指導的地位を保障。民主諸党派とよばれるその他の八政党は事実上、共産党の補佐機関と位置付けられ、一党独裁を否定する新たな政党の設立は認められていない。今回設立されたとする「至憲党」は、中国共産党と一線を画した新政党で、中国共産党の内部分裂を誘発する起爆剤になる可能性を秘めている。
 一方、中国共産党は三中全会開幕前日の一一月八日、国内メディアに対し、習近平政権と共産党への批判や否定的な報道を禁じる内部通知を出していた。通知に違反した場合は「厳罰に処する」と警告している。中国共産党の指導部は、党分裂の起爆剤になりかねない「至憲党」の設立に異様なまで神経を尖らせたことが分かる。
●一一月九日、中国共産党の重要会議、第一八期中央委員会第三回全体会議(三中全会)が開幕した。
 会議は四日間の日程で、伝統に従って非公開で開催された。支那国営の新華社の記事によると、中央委員会は「全体として深まりつつある改革に関する主な問題」を議論するとしていた。
 第一回目と二回目の全体会議が党と政府の人事を決定したのに対して、三回目の三中全会では党、政府、軍から四〇〇人近いメンバーが出席し、政策を検討した。一九七八年、一九九三年の三中全会では党が大規模な市場改革を決定したとされている。
 一一月一二日、三中全会は「国家安全委員会」を新設することを決めて閉幕した。
 発表されたコミュニケは国家安全委員会の設置目的について、「国家安全体制と国家安全戦略を整備する」としている。委員会は支那の軍、警察、外交部門などの情報・安全保障・宣伝部署などを統合する組織で、三中全会は治安維持強化を打ち出した。
 治安の司令塔とみられるのが、今回創設が決まった「国家安全委員会」。北京天安門前の車突入、山西省の連続爆発などの事件を踏まえ、背景にあるさまざまな不満を党・政府一体の力で押さえ込もうという狙いである。
 また、コミュニケは「憲法や法律の権威を守り、法に基づき独立かつ公正な裁判権と検察権の行使を確保しなければならない」との一文を盛り込み、裁判所の独立を明記した。「反腐敗」を掲げる習近平指導部は、地方の党委員会書記ら幹部が裁判の審理や判決に介入する現状の打破が、汚職問題解決の第一歩と判断したとみられている。
経済政策では、社会主義市場経済の改革路線を堅持すると述べる一方、「市場が資源配分の上で決定的な役割を果たす」とし、市場を一段と重視する姿勢を示した。投資規制の緩和や国有企業改革などに関しても前向きの姿勢をみせた。
 このほか、改革全般を推進するため、党内に「指導グループ」を設置するとしている。
●経済改革の新方針を期待された三中全会は、厳重な警戒のなか、内外が注目した重要会議だった。だが、蓋を開けてみれば、ただ、国内の治安強化を強調するだけに留まった。
 注目すべきは支那版のNSC(国家安全委員会)。だが、米国のNSCを真似た、国家安全部と軍情報部、公安を統合する新組織なのか、その後具体的な詰めはなく実現への工程がまったく進んでいない模様で、観測筋は「あれは外国の諜報対策ではなく、国内の治安対策、とりわけ漢族を怨むチベット、ウィグルなどの不穏な動きを抑え込むのが目的だ」と分析している。
 支那がNSCを組織する計画は、胡錦涛時代からあったが、軍の強い反対で実現しなかった。既存組織を網羅し、その上部組織となるわけだから軍にとっては面白くない。さらに今回、中国共産党の軍事組織である人民解放軍を国軍化させようとする動きもあったが、頓挫したともされている。すなわち、今回の三中全会で、党と軍の間に罅が入り始めている内実が浮き彫りになり、その実体を強引に封じるために支那版NSCが創設されたと見なすこともできる。
 また、「リコノミクス」(李克強首相主導の経済政策)を刷新する方針が色濃く出されたが、「国有企業」の特権は温存され、「社会主義市場経済」はそのまま居座り、「経済の持続的安定成長」「市場の役割を重視する改革」「金融投資の規制緩和」など、すべてが抽象的文言で粉飾された内実のないスローガンに終始している。
結局、今回の三中全会は守旧派、毛沢東賛美の左派、団派が主導する「改革派」の三派鼎立という政治環境では、対立点をすべて棚上げする、玉虫色とならざるを得なかった。
すでに一万八〇〇〇名の中国共産党幹部の腐敗分子(貪官、裸官)らが海外へ逃亡し持ち逃げしたカネは、昨年までの支那当局の公式発表で一〇〇〇憶米ドル、CIA筋の推計は六〇〇〇億ドル(六月一七日付の米TIME誌)といわれている。
 だが、最近の推定数字は一兆ドルである。これは中国共産党中央規律委員会が内部で報告している数字だと、三中全会閉幕後に華字紙が漏洩した。
 すなわち、今回の三中全会では守旧派・習近平(太子党)、左派・江沢民(上海閥)、団派・李克強の三派の間で激しい権力闘争が行なわれ、その余燼が今後も燻り続けるであろうことが示唆されている。
 その一方、中国共産党存続のため、国内経済の発展を促す独裁統治下での市場拡大化を目指し、人民元を柔軟に運用する方針も打ち出している。
●今回の三中全会で、支那の中央銀行・中国人民銀行が経済自由化策の一環として、これまで為替市場への介入によって人民元の対ドル為替を制御してきた政策を次第に抑制し、人民元の為替変動幅を拡大し、人民元の為替上昇に対する容認を広げていくことを決めた。すなわち、これまで米国の圧力でやってきたことが、今回、支那自身の総合政策になったのである。
同時に、支那当局が為替介入をやめていくことは、支那がドル買い元(げん)売りの市場介入で得たドルで米国債を買い控えていくことでもある。
 米国では連銀がドルを大量発行して米国債を買い支えるQE(量的緩和策)を止められないことが確定しつつある。もし止めてしまえば米国債の価値が急落し、金利が高騰する。貧富の格差が急拡大する米国では、政治力のある大金持ち(ユダヤ系金融界)が米国債を保有する率が高まり、彼らの圧力により、当局はQEをやめられないのが内実である。
だが、QEを永遠に続けることは不可能であり、米国債とドルはいずれ崩壊していく運命にある。そうした趨勢にあって、支那は人民元の為替維持のために米国債の保有を拡大することを忌避する姿勢に転じた。
 支那はこれまで元安による輸出攻勢を仕掛けて経済発展を成し遂げてきた。しかし、今後は市場化加速で国内経済を底上げする方針に転じた。そのため、海外からの輸入品の価格が下がる元高を容認するのである
また、経済の市場化加速と並んで、内需拡大の政策を打ち出し、都市での一人っ子政策を緩和したり、農村から都会に流れ込んだ人々に都会の戸籍を与えたりすることで、都市における消費の拡大を促すとともに、農村では農地の利用権売買の拡大を認めた。
支那の内需拡大策が順調に進むことは米欧日の企業関係者には朗報と映るであろう。だがその一方でドルが弱くなり世界経済はドル一極化から多極化へと進み、世界経済の多極化は世界覇権の多極化を促すことにもなる。
 支那当局が人民元への過剰な介入を是正し、為替市場の成り行きに委ねる姿勢に転じたのは、ドルの基軸通貨崩壊を遠望してのことで、世界が多極化する趨勢にあって、その一角を占めたいとする大国志向でもある。
 だが支那が大国を志向するなら、少数民族への徹底弾圧や国内の人権問題などを改善しなければ、その野望は達成不能である。
●一一月一九日、スペインの全国管区裁判所は、支那でのチベット族虐殺に関与した容疑で、江沢民元国家主席、李鵬元首相ら五人の逮捕状を出した。チベット族を支援するスペインの人権団体の告発を受けた判決である。
 支那外務省の洪磊報道官は翌二〇日の記者会見で「強烈な不満と断固たる反対を表明する」と非難し、両国関係に悪影響を及ぼす可能性があると警告した。
スペイン司法当局の判断は覇権大国を志向する支那と、その動きを間接的に容認する米国を牽制したい欧州勢力の意向を代弁したものである。
 米国は欧州各国には緊縮財政を強要することで欧州経済の停滞を看過しながら、自らは際限のないQE政策を続けている。その一方で、支那の覇権大国志向を黙認している。欧州勢力は、世界覇権が多極化する趨勢を新帝国主義時代と位置づけている。だが現在、その先陣を担う実力がない腹いせを、支那への当てこすりに託したのだ。
 今後、支那の覇権大国志向は周辺諸国との軋轢だけでなく、欧州先進勢力との文明的衝突を誘発することになる。その成り行きによっては、ソ連崩壊と同じ命運を辿る可能性もある。その危険性を熟知している北京指導部は尖閣諸島空域を防空識別圏と定め、日本及び米国との軋轢を想定した外患危機を煽って、指導層内の対立を逸らす内部引き締めに躍起となっている。  平成二五年一一月二三日記