支那防空識別圏設置への一考察 
      (世界戦略情報「みち」皇紀2673(平成25)年12月15日発行第395号)

●一一月二三日、支那の国防省が沖縄県の尖閣諸島の上空を含む東支那海の広い範囲に、領空外での戦闘機の緊急発進が必要かを決定する基準となる「防空識別圏」(ADIZ)を正式に設置した。国防省が公式HPに東海防空識別圏に関連する声明を掲載した。国防部はまた、同日午前一〇時から、その空域が正式発効すると発表した。
 声明では、その空域は支那の国防部が担当していて、その空域に入ってくる他国の航空機は必ず支那の外交部、民用航空局に飛行計画を事前に通知する義務を遵守する必要があり、これを守らなかった場合には武力対応ができるなどの詳細規定が含まれていた。
 一方、わが国はすでに同空域にADIZを設置運営してきたが、支那はまだこれを設定していなかった。しかしこの空域は、領空とは別の概念で、国際法的な根拠は弱く、国家間で重複している場合もある。
一一月二五日、支那外務省の秦剛報道局長は定例記者会見で、二三日に沖縄県・尖閣諸島付近を含む東支那海の上空に設定した防空識別圏をめぐり、他地域についても「適宜発表していく」と述べ、南支那海や黄海でも設定作業を進めていることを示唆した。
 東支那海での防空識別圏設定は「国家主権と領空の安全を防護するため」と秦報道局長は主張。また同日、支那の外務省幹部が木寺昌人駐中国大使に「(日本が)理不尽に騒ぎ立てていることに対する強い不満と厳重な抗議」を申し入れたことを明らかにした。
 中国共産党機関紙人民日報のウェブサイト「人民網」によると、支那海軍諮問委員会の尹卓少将は二五日までに中央テレビの番組に出演、「(政府は)今後、黄海、南支那海のような関連海域の上空にも防空識別圏を設定するだろう」と述べている。
支那の海空軍が今後、広い範囲の海域と空域で活動を活発化させ、領有権の主張を強めていくのは確実で、わが国など周辺国との対立が先鋭化する可能性が懸念されることになる。
●一一月二五日、ウォレン米国防総省報道部長は、支那が尖閣諸島を含む東支那海上空に設定した防空識別圏を認めず、支那側の要求には応じないとの方針を強調した。
 報道部長は支那側が米軍などの航空機が飛行する際、経路の通報など四点を要求していると指摘。そのうえで「われわれは識別圏を飛行する際、(支那に)飛行計画を提出せず、無線周波数などを認識させることもしない。米軍機は(支那が求める)措置を一切取ることなく飛行できる」と語った。
 さらに「米軍は(日本などの)同盟国との軍事行動も含め、行動を変更するつもりはない。われわれは常に、自衛能力を保持している」と警告した。
 一方、アーネスト米大統領副報道官は大統領専用機内で記者団に、防空識別圏の設定は「不必要に挑発的なものだ」と重ねて批判した。そのうえで「地域での争いは外交的に解決されなくてはならない」と、支那に自制を求めた。
一一月二六日付の支那英字紙チャイナデイリーは社説で、支那が東支那海で設定した防空識別圏に対する日米両国の反発は「不必要なヒステリー」と批判した。社説は、防空識別圏設定に懸念を表明したのは日米両国だけだと指摘。日米もすでに識別圏を設定している現状などから、反発は「根本的に間違っている」と強調した。
 また、設定が「東支那海の現状を一方的に変更する」とした批判については、日本政府による沖縄県・尖閣諸島の国有化という「日本側の一方的挑発」で「現状はすでに変更された」と反論。日本の行動により「新たな現状がつくり出された」と述べ、支那の正当性を主張した。さらにケリー米国務長官に対し、支那の自制を求める前に日本の安倍政権を抑えるべきであると訴えた。
支那が東支那海に設定した防空識別圏について、支那の軍事専門家は外国機の圏内侵入に対しては支那軍の防空ミサイル網が警戒態勢をとると警告した。また、空軍当局者は、二三日に防空識別圏を初めて哨戒飛行した支那の偵察機二機が、戦闘機などで支援されていたことを明らかにした。
 中国国防大学の孟祥青教授(上級大佐)は中国中央テレビに対し、「外国の飛行機がわが国の防空識別圏に入れば、私たちの防空ミサイル部隊も警戒状態に入る」と語った。
 また、支那空軍の申進科報道官(大佐)は、「中国人民解放軍は防空識別圏をコントロールする能力がある。安全を保障するため脅威に応じて適切な措置を取る」と述べた。
●一一月二六日、グアムを飛び立ったB52長距離爆撃機二機が支那が一方的に宣伝した「防空識別圏」に進入し、尖閣諸島上空の飛行を続けて、グアムへ帰還したと米軍は発表した。これを欧米各紙はトップ扱いで伝えた。支那は空母「遼寧」を東支那海へ派遣したが、米軍の行動がこのタイミングを狙ったかどうかは不明。
一一月二九日、支那国営新華社通信などは東支那海上空に設定した防空識別圏に同日午前に進入した米軍機と自衛隊機に対し、支那空軍が戦闘機を緊急発進させて対応したと報じた。
 同二九日付の支那の軍機関紙、解放軍報は中国が新型のAWACSと主力戦闘機による哨戒を二八日から始めたと伝えた。公表された機種には同日緊急発進したとされるSu30、J11も含まれる。いずれも南京軍区内の空軍基地所属とみられる。
同二九日、日本政府高官は支那軍機が防空圏で緊急発進したと伝えた支那側の報道について「特異な事案があったとは聞いていない」と否定した。また、日本の外務省幹部も同日、「出鱈目ではないか。(中国は防空識別圏を監視しているという)形を見せようとしている」と述べた。
 また日本の航空各社は、支那の要求した「飛行計画」を一旦は「安全飛行を担保するため」支那当局に提出したが、国土交通省の猛烈な「行政指導」をうけて提出しないことを決めた。
しかし米政府は米航空各社に対し、東支那海上空に支那が設定した防空識別圏を米民間航空機が通過する際には、飛行計画事前提出などの支那側の要求に従うよう促した(一一月二九日)。
米政府は支那が東支那海上空に設定した防空識別圏を巡り、軍と民間で対応を使い分けている。米軍機は従来通り事前通報なしに飛行を続ける一方、航空会社には事前に支那に飛行計画を提出するよう事実上促した。不測の事態を回避するために現実的な判断に傾いたものとみられる。
日本政府は米側の動きについて「まったく聞いていなかった」(政府関係者)と戸惑っている。日本航空や全日本空輸は支那による防空識別圏の設定後に一旦、飛行計画の提出を始めたものの、政府の求めで取りやめている。しかし、米政府の決定は日米の足並みを乱し支那を利することになり、政策のブレが目立つオバマ政権の対応が疑問視される。
 一二月二日、李克強支那首相は訪中したキャメロン英首相と北京で会談後、共同記者会見で、「英国側は中国の領土主権を尊重すると言及した」と述べた。
 中国中央テレビによると、キャメロン英首相氏は「チベットは中国の一部。独立を支持しない」と表明。経済協力を優先し、チベットを含む支那の人権問題に踏み込まなかったとみられる。
 英経済界には支那からの投資を景気回復の起爆剤の一つとして期待する声が強い。しかし、欧米の人権外交を代表する英国が経済利益を優先し、人権問題を棚上げしたことには早くも批判が噴出。人権問題に関する欧米各国の発言力の低下が懸念される。
 李首相は会見で、高速鉄道や原発建設、双方の投資環境整備などで協力していくことで一致したとし、「新しい分野での協力を促進していく」とも強調。キャメロン首相は「欧州の中で英国は最も中国の投資を歓迎している」と応じた。
●支那の強硬姿勢に対するわが国と米国の対応の違い、また英国は支那の人権問題に対する後退姿勢を露骨に示唆しており、支那側の強気な姿勢がそれなりに国際社会で暗黙の了解を勝ち取りつつある状況を暗示している。
そもそも支那には国家という概念がなく、古来より中華思想によって周辺地域を併合、準併合(册封国家)することで帝国の版図を広げる戦略を駆使してきた。現在の共産党独裁統治化の支那も、その伝統を踏襲している。その基本戦略は「遠交近攻」である。
 支那が今回、わが国の領土上空を防空識別圏に設定したのも日本を「近攻」の標的と定め、米国や英欧を「遠交」の対象にして取り込むためである。民間航空機に対する日米の対応の違い、英国が支那の人権問題を棚上げする姿勢を示したことで、北京の狙う「遠交」戦略はそれなりに成果を挙げつつある印象を強く与えている。
 支那支配層は「遠交近攻」戦略を、次の三段階に使い分けている。

① 自分たちよりも力を持った強い勢力に対しては最初は譲歩できるところはすべて譲歩する。そして被害を避け、できる限りの利益か、少なくともそこから得られる限りの寛容を得る。
② 強い勢力側の支配者や支配層を、物的依存の罠に絡め取る。これにより彼らが元々持っていた活気や長所などを弱める。その一方で、他者すべてを排除した特権的な二極状態という対等な地位を申し出る。
③ そして、かつての強い勢力が十分に弱体化したことを確認してから、対等な関係をやめて、服従を強いる。

こうした視点から勘案すれば、大量の米国債を保有する支那は現在の米中関係を②の対等を主張する段階にあると判断していると思われる。
 日本と韓国は米国と同盟関係にあるが、韓国は積極的に支那の「册封体制」に入って、反日・離米の動きを強めている。わが国は逆に、対米従属体制を強化することのみに盲進し、米国の要望に従って「特定秘密法案」を強引に成立させた。世界的な文明の衝突位相にあって、対米従属の強化が日本文明覚醒への妨げにならないよう留意すべきである。     平成二五年一二月七日記