日朝協議進展への一考察 
    (世界戦略情報「みち」皇紀2674(平成26)年7月15日発行第408号)

●六月三〇日、北朝鮮の朝鮮中央通信は金正恩第一書記が朝鮮人民軍戦略軍の戦術ロケット発射訓練で自ら発射命令を下し、訓練を指揮したことを報じた。日付や場所は不明だが、前日二九日の短距離弾道ミサイル発射を指していると見られる。
北朝鮮は六月二六日にも、同地域で短距離ミサイルか多連装砲と見られる三発を発射。翌二七日に金第一書記が「新開発された戦術誘導弾」の試射を視察したことが伝えられた。
 金第一書記は発射後、ミサイル技術をさらに発展させるよう関係者に指示し「(ミサイルを)いつでも発射できる万端の準備を整えることで、米国や追従勢力の妄動を抑制できる」と訴えた。
 一方で、北朝鮮の国防委員会は韓国に対し「特別提案」を出し、南北関係改善のため、八月に予定される米韓合同演習の中止や、南北が双方への中傷を七月四日を期して止めることを呼びかけた(六月三〇日)。
 七月一日の日朝政府間協議や同三日の習近平支那国家主席訪韓を前にした相次ぐ軍事挑発に金第一書記が直接関与していたことが鮮明になり、関係国はその意図を分析した。
 韓国では金第一書記によるミサイル発射の指示を北朝鮮が明らかにした意図について、七月三日にソウルで行なわれる支韓首脳会談への牽制との見方が支配的だった。支那の歴代国家主席は就任後、朝鮮半島では北朝鮮を先に訪問してきたが、習近平主席は韓国を先に訪問する一方、訪朝の情報はない。
 支那外務省の洪磊報道官は、北朝鮮が短距離弾道ミサイルを発射したことについて「関係各国が緊張した情勢緩和に向け、努力するよう望む」と述べるにとどめ、北朝鮮に対する直接的な批判は避けた(六月三〇日)。
 またミサイル発射の狙いは、習近平国家主席の訪韓を前に、支韓の連携を牽制することだとの見方について、洪氏は「何の根拠もない」とした。
●七月一日、日本と北朝鮮の外務省局長級協議が北京で開催された。日本側は外務省の伊原純一外務省アジア大洋州局長が出席、北朝鮮の宋日昊朝日国交正常化交渉担当大使から、日本人拉致被害者らの安否再調査のために設置する「特別調査委員会」の構成や権限について説明を受けた。
 協議は午前中は北京市内の北朝鮮大使館、午後からは日本大使館で実施。伊原氏は協議終了後、記者団に「北朝鮮側から組織、構成、責任者などについて丁寧な説明があった」と述べた。
 日本側は特別調査委が金第一書記に直結した組織で、軍や党機関を含む全組織を調査できる権限を持っているかなどを中心に北朝鮮側の説明内容を精査。疑問点を質す一方、見返りとして一部解除を検討する日本独自の制裁の内容について説明した。協議には警察庁の北朝鮮専門家が同席した。
 日本政府は特別調査委の実効性が確認できれば、①人的往来の規制 ②北朝鮮居住者らへの送金、現金持ち出しに関する届け出の規制 ③人道目的の北朝鮮船籍船舶の入港禁止、という三つの制裁を解除する。
 一方、伊原氏は協議の冒頭、六月二九日の北朝鮮の弾道ミサイル発射に対し、国連安全保障理事会の決議などに違反するとして厳重に抗議した。
 七月三日、安倍首相は北朝鮮に科してきた制裁の一部を解除する方針を明らかにした。今週行なわれた日朝協議で、北朝鮮が日本人拉致被害者について調査委員会を設置することで合意したことを受けての措置。
 安倍首相は記者団に対して、「行動対行動の原則に従って、日本がとってきた一部の措置を解除することとしたい」と述べた。
 日本政府によれば、一九七〇年代から八〇年代にかけて、少なくとも一七人の日本人が北朝鮮によって拉致されたとされている。北朝鮮は二〇〇二年に初めて拉致の事実を認めた。日本への帰国を認められたのは五人だけで、残る一二人については十分な情報が得られていない。
 日本が解除するのは、日本が独自に科している制裁で、人的往来の規制や北朝鮮籍船の入港禁止、送金の届け出義務といった措置。国連安全保障理事会の決議に基づく制裁措置については解除しない。
七月三日、北朝鮮の宋日昊朝日国交正常化交渉担当大使は日本政府が北朝鮮に対する独自制裁の一部解除を決めたことについて、「北朝鮮に帰って政府に報告した後、状況に従って符合する措置を発表する」と述べた。また、特別調査委員会の調査結果については、年内の発表を望む日本側の意向に留意して調査を進める方針を示した。
 北朝鮮の調査委は強力な調査権限を持っており、調査の進展次第では、拉致被害者について「死亡」などとした金正日総書記時代の説明を否定せざるを得ない場面が出てくる可能性もゼロではない。
 祖父の金日成主席と父、正日総書記の血統を政権の正統性の根拠とする金第一書記にとって、「先代の否定」は大きなリスク。「(対日接近には)経済窮乏からの脱出のため、なりふり構っていられない事情がある」と韓国統一省関係者は分析している。
●六月二八日、拉致被害者ら北朝鮮に残るすべての邦人調査をうたった日朝合意を受け、金正恩政権直轄の秘密警察、国家安全保衛部が、朝鮮籍の夫と北朝鮮に渡った日本人妻と家族らの調査に着手していたことが、複数の消息筋の話で分かった。五月二九日の日朝合意発表後、保衛部の地方組織に突然、上部から「日本からの『帰国者』を調査することになった」と通達があったとされている。
日朝関係者によると、一部は調査を終了しているという。日本への帰国の意思を問う希望調査の形を取っており、一時的な里帰りに限らず、永住帰国を視野に入れた調査と見られる。
 北朝鮮に戦後残された邦人孤児や家族に対しても最近、一部で日本語教育を施しているとの情報もある。
 北朝鮮に渡った日本人妻や子供ら日本国籍保持者は約六七〇〇人。死亡した人も少なくないと見られるが、彼らの子供や他の残留邦人、その家族を含めると、本来なら調査対象は数千から一万人に及ぶ。
 七月四日、北朝鮮は朝鮮中央通信の報道を通じて、日本人拉致被害者らの安否を再調査する「特別調査委員会」を同日付で設置し、「すべての日本人に関する包括的かつ全面的な調査を開始する」と発表した。
 調査委の構成は日本側の三日の発表と同じで、徐大河委員長以下、主要メンバー六人の名前を漢字表記で伝えた。
 副委員長は金明哲氏。四分科会の責任者は金賢哲氏(日本人遺骨問題)、李虎林氏(残留日本人・日本人配偶者)、姜成男氏(拉致被害者)、朴永植氏(行方不明者、副委員長兼任)で、肩書は日本側発表と同じ。
 調査は同時並行で行なうとし、日本側との対応では、▽調査状況の随時通報 ▽相互の情報共有 ▽日本人関係者との面談や受け入れ……などを列挙。「責任を持ち調査を行なう」と誠実な姿勢を強調した。
 七月四日、朝鮮中央通信によると、北朝鮮の金第一書記は首都平壌近郊の南浦市に住む日本出身の女性に一〇〇歳の祝い膳を贈ったと報じた。
 韓国の聯合ニュースによると、金第一書記が一〇〇歳の節目で国民に祝い膳を贈ることがこれまでにも報じられたことがあるが、日本出身者は異例。今回の報道には日朝関係改善の雰囲気づくりが狙いとの見方も出ている。
 日本政府が七月四日に北朝鮮に対する制裁の一部を解除し、平成一八年一〇月以来、八年ぶりに北朝鮮籍の船舶での人道的物資の輸送が可能になった。ただ人道的物資の定義は曖昧で、不正輸出の懸念も出ている。税関の現場などに混乱が生じる恐れもあり、国は体制づくりを急いでいる。
「白黒つかないグレーゾーン的な対応が現場に一番負荷をかける」と、税関関係者は危ぶんでいる。輸出禁止措置が継続されているなか、どの品目が人道的物資にあたるのかは曖昧で各地の税関で対応にばらつきが出る可能性もある。関係者は「人手も足らない。チェックが行き届かず不正輸出の温床となる恐れもある」と懸念している。
 こうした現場の懸念を受け政府は対応を検討。財務省や経済産業省を中心に、人道的物資を明示する作業を進めている。人道的物資は日本国内の個人か団体が北朝鮮の個人に送るもので、関係者によると、個人の日常生活に欠かせないものと位置づけ、一ヶ月を想定し数量を規制する予定である。
●日朝協議が急展開し、日朝国交正常化実現に拍車がかかり始めている。支那の習近平国家主席が国家主席就任後、北朝鮮より先に韓国を訪問し(七月三日)、北朝鮮への訪問予定がないという異例な対応をする趨勢にあって、日朝協議の進展は支韓反日連携戦略に楔を打ち込む外交戦略。また、支那との関係がぎくしゃくし始めている北朝鮮にとってもそれなりの外交戦略となり、日朝双方の思惑が合致して日朝協議は急進展している。
 さらに、米支戦略対峙を想定して対支外交を模索している米国の思惑にも重なっており、米国は安倍政権の積極的な対北外交を容認しており、現在わが国にとって北朝鮮との国交を回復する好機が到来している。
戦後の高度成長の切っ掛けとなったのは朝鮮戦争特需で、現在日本の経済基盤を確立することが出来た。
 朝鮮戦争が勃発したことで、当時わが国を統治していた米占領軍は、日本弱体化政策を根本から改める必要性に直面した。それまでの対日占領政策の基本は日本弱体化にあり、わが国を農業国家、あるいは軽工業国家に留めるため、空爆を免れた重工業設備を戦時賠償としてフィリピンなどへ払い下げる計画であった。だが朝鮮戦争が勃発したためその計画を取り消し、さらに警察予備隊(自衛隊)を発足させた。
 米占領軍の日本弱体化政策を転換させたのは、朝鮮戦争であった。北朝鮮の最高指導層が大日本帝国の残置諜者であったからこそ、朝鮮戦争を引き起こして日本弱体化政策を覆したともいえる。わが国は北朝鮮が大日本帝国の残置国家としての資質を秘めた国であることを念頭において、北朝鮮に対処すべきである。
平成二六年七月五日記