激化する中共内部権力闘争 
    (世界戦略情報「みち」皇紀2674(平成26)年9月1日発行第410号)

●七月二九日、支那の国営新華社通信は周永康・前政治局常務委員(七一)が重大な規律違反の容疑で党の規律部門の取り調べを受けていると伝えた。容疑は明らかにされていないが、汚職などの経済問題とみられ、今後、刑事責任を問われる可能性もある。
 中国共産党の最高指導部のメンバーを務めた大物政治家が失脚したのは、二五年ぶり。習近平国家主席による権力集中の一環で、政敵として倒された側面が強い。治安、警察部門に今も大きな影響力を持つ周永康の失脚で、政局に激震が走るのは必至であろう。
 周永康は、江沢民元国家主席が率いる上海閥の重鎮として知られている。国有企業・中国石油のトップを経て政界入りし、大きな利権を持つ石油閥の中心人物。公安相を経て二〇〇七年に政治局常務委員となり、胡錦濤政権で党内序列九位ながら、警察、検察、司法部門を統轄する責任者である党政法委書記として大きな権力を振るった。一二年春に失脚した、薄煕来元重慶市党委書記と深い関係があることもよく知られている。
支那では一九八九年六月天安門事件の直後に、民主化運動を支持したとされる趙紫陽元総書記が更迭されたが、その後、最高指導部メンバーは失脚していない。当時の最高実力者だった鄧小平が党内の権力闘争激化を避けるために、政治局常務委員クラスの指導者の責任を問わないとの暗黙のルール「刑不上常委」を定め、「常務委員には刑事責任を追及しない」との不文律があった。しかし、習政権はこの慣例を破った形。
 習近平が周永康拘束に踏み切った背景には、経済利権と治安機関を握り続けた周永康を排除することで、習近平の求心力を高め、政権基盤の強化に繋げようとの思惑があるとの見方が強い。このほか、汚職金額が数億元にのぼるとみられる周永康を不問に付すのでは、「腐敗撲滅」を掲げる政権として党内への示しが付かないという事情もあるとされている。
 同時に、強大な政治力と資金を誇る「石油閥」を代表する周永康に対する取り調べが発表されたことは、独占体質のエネルギー既得権益構造の塗り替えを狙い、習近平指導部が「本丸」の攻略に入ったことも意味している。
●一九八八年に石油工業省の解体によって設立された中国石油天然ガス集団(CNPC)など国有石油三社の経験者が人脈を築き、最高指導部にまで影響力をもつに至ったのが現在の「石油閥」。支那の大慶油田(黒竜江省)の開発責任者で、毛沢東とも近かった余秋里元副首相(一九一四~九九年)から始まったとされている。
 現最高指導部では、石油業界で七〇~八〇年代に手腕を評価された張高麗副首相が名を連ねる。二〇一一年に適用予定だった自動車排ガス規制が先送りされたのも、業界利害に反すると指導部に迫った「石油閥」の力とされている。これが大気汚染を深刻化させたとの見方もある。
「石油閥」は規制への反発に加え、ガソリンなど石油製品の統制価格維持にも固執してきた。だが習指導部では一三年一一月の党中央委員会第三回総会(三中総会)で「市場メカニズム重視」を打ち出し、石油取引価格を段階的に統制価格から外す方針を決めた。「価格面で国有石油大手三社に再編」を迫り、経営陣刷新を通じて新たな「エネルギー閥」を習指導部の傘下に置く狙い」(石油業界関係者)もありそうだ。
 失脚した周永康とその家族が、九〇〇億元相当の財産を当局に押収されたと報じられた。事実とすれば、日本円にして約一兆五〇〇〇億円という莫大な資産を、いかにして周永康らは懐に収めたのか? そこには疑惑の三つのルートが存在した。
 香港フェニックステレビ(電子版)などは、周永康を取り巻く「腐敗権力ネットワーク」を図解している。その「金脈」は、一九九九年から二〇〇二年まで党委員会書記を務めた「四川省ルート」、中国石油天然ガス総公司社長などを務めた「石油部門ルート」、公安相のほか治安・司法部門を統括する党政法委書記を務めた「公安ルート」の三つに大別されている。
 周永康の周辺で最初に調査の網にかかったのは「四川省ルート」だった。一二年一二月、周永康の側近李春城・省党委副書記の取り調べが始まり、「職務上の便宜を利用し、多額の賄賂を受け取った」として、党籍剥奪、公職からの追放といった処分が下された。四川省関連ではこのほか酒造メーカーや不動産関連事業などを手掛ける企業グループ「四川漢龍集団」、電子技術系の国有企業などの幹部が次々に調査対象となった。
 続いて一三年夏からは「石油部門ルート」に移行。周永康は国有企業トップを務めた経歴を利用し、不正蓄財を重ねていったとされている。
●七月三一日、中国共産党が周永康・前共産党政治局常務委員の立件を公表したことに関し、解放軍機関紙の解放軍報は公式電子媒体を通じて、「党中央の正確な決定を断固支持する」との部隊将兵による支持表明を伝えた。
 軍の支持表明には、かつて周永康の指揮下にあった武装警察も加わった。
 周の利権基盤だった中国石油天然ガス集団(CNPC)も同じく党への忠誠を掲げており、相次ぐ支持表明の公開は、周永康の牙城を含めて習近平が大勢を掌握したことを誇示した形。
 解放軍報は、周永康の立件という党の決定が「全軍、武装警察の強烈な反応を引き起こした」と指摘。習近平国家主席への忠誠を示しつつ、この決定が「党紀や国法をも凌ぐ『特殊党員』の存在や、腐敗分子が身を隠すのを許さないことを示した」と強調した。
 さらに同紙は、一線部隊を含む一七の軍組織の反応や決意を伝えた。この中には、支那南西部の軍を管轄する「成都軍区」の部隊や、四川省内江市の民兵指導幹部も含まれ、「石油閥」「治安部門」とともに、周永康の地域的な基盤だった「四川省」でも、周の力が奪われたことを示した。
 一方、CNPCの党組織は三一日、インターネット上で全幹部、職員の決意として、「習近平同志を総書記とする党中央の周囲により緊密に団結する」と表明。その上で、▼党中央と高度の一致を保つ ▼企業内での安定を保つ ▼旗幟鮮明に腐敗に反対する……などの方針を掲げた。
 石油閥の中核にある同社では、経営幹部が周永康の事件に連座する形で立件され、党籍を剥奪されるなど、すでに極めて厳しい追及を受けていた。
 一方、七月一〇日に行なわれた第六回米支戦略・経済対話が終了した直後の七月二〇日、上海テレビ局がマクドナルドの食材も供給する米系支那現地企業・上海福喜食品の「期限切れ鶏肉問題」を取り上げ大きく報じた。二日後には上海公安局が捜査を開始。それに伴い支那のメディアは問題の会社が米国企業の子会社であることを強調して、批判の矛先を「外資企業の品質管理問題」に向けた。
 七月二八日、北京当局は米マイクロソフト社の支那各地の事務所に対する立ち入り調査を一斉に開始した。
 支那で絶大な人気を持つこの二つの代表的米系企業がほぼ同時に捜査や調査の対象となったのは、習近平指導部が外資企業の影響力を支那市場から一掃する方針を固め、最初の槍玉に米系企業を標的にした可能性が暗示されている。マクドナルド、マイクロソフト社が支那で営業開始した背景には、江沢民系勢力の支援関与があった。
 今回、習近平指導部が米系企業の排除に乗り出し、返す刀で江沢民系勢力の排除に乗り出した背景には、熾烈な米中戦略対峙の複雑な背景も見え隠れしている。
 八月二一日、米国ニュースサイト「ワシントン・フリービーコン」は、支那沿岸の東支那海上空で一八日に支那軍のSu27戦闘機が米軍対潜哨戒機P8に異常接近した、との米国防総省当局者の話を伝えた。
 P8は支那空軍が東支那海で実施していた演習が監視対象だった可能性があるとしている。支那は昨年一月、東支那海上空に防空識別圏を設定。米軍は昨年一二月にP8を沖縄嘉手納基地に配備していた。
●七月二九日、新華社通信は、支那北西部の新疆ウイグル自治区カシュガル地区ヤルカンド県で二八日早朝、武装グループが派出所や地方政府庁舎を襲撃し、数十人が死傷したと報じた。警察当局は現場で犯行グループ数十人を射殺したという。当局は「周到に計画された組織的なテロ」と断定したが、武装グループの詳細は不明。地元の警察当局は、漢族とウイグル族の双方に死傷者が出ているとしている。
 同自治区では、五月下旬に区都ウルムチ市で起きた爆発事件で三九人が死亡するなど、ウイグル族によるとみられる無差別殺傷事件が続発している。
七月三〇日、北京紙、京華時報(電子版)は、北京市公安局が地下鉄駅での安全検査の警戒態勢を「最高度」に高めていると伝えた。今年に入り、火薬類など危険物を持ち込んだとして約一二〇人が拘束され、検査を拒んだ約三〇人が摘発されたという。新疆ウイグル自治区をめぐり頻発している無差別暴力事件のほか、二九日に「規律違反」による取り調べが公表された周永康の失脚が影響している可能性もある
支那の警察当局は八月二〇日までに、「全能神」と呼ばれる宗教集団のメンバーら一〇〇〇人近くを拘束した。同集団は宗教を口実に詐欺や違法な資金集めなどの犯罪を繰り返してきたとされている。新華社通信は、メンバーらが「多数の」自殺や殺人に関与し、時には自分の家族まで犠牲にしたと伝えている。拘束者の中には一〇〇人近い幹部も含まれている。
全能神は一九九〇年代に支那中部で結成された。メンバーらは教祖の妻をキリストの生まれ変わりと呼ぶ。新華社通信によれば、教祖夫妻は二〇〇〇年に渡米している。
 支那では周永康失脚を契機に、熾烈な権力闘争が始まった可能性が高い。同時に、社会不安が誘発される懸念も強まり、少数民族や宗教組織への締め付けが強化されている。さらに、米中戦略対峙も高まっている。かかる一連の動きは世界が終末(ハルマゲドン)位相に向かう趨勢にあって、支那もまた、その一翼に組み込まれていることを示唆している。 平成二六年八月二三日記