ウクライナ停戦合意に関する一考察 
        (世界戦略情報「みち」皇紀2674(平成26)年9月15日発行第411号)

●八月二六日、プーチン露国大統領とウクライナのポロシェンコ大統領はベラルーシの首都ミンスクで直接会談を行ない、ウクライナ東部での政府軍と親露派武装勢力の紛争について協議した。両首脳は早期停戦への道筋を示すロードマップ(行程表)を作成することで合意した。だが、プーチンはロシアの親露派支援を否定。
 ウクライナや米欧はこの紛争をめぐり、ロシアが親露派武装勢力に武器や人員を供給しているとして、非難してきた。ポロシェンコ、プーチン両首脳は武器の越境を防ぐため、両国の国境警備当局が実務協議を開始することで合意した。
 ただ、プーチンは会談後、紛争はウクライナの国内問題であり、「ロシアは停戦の具体的条件を協議する立場にない」と強調。紛争終結にはウクライナ政府と、「東部の代表」による協議が必要だと述べた。ポロシェンコはこれに対し、停戦は二国間で合意されるべきだと訴えた。
 八月二八日、ウクライナ軍当局者は政府軍が露軍戦車と装甲兵員輸送車の支援を受ける親露派武装勢力とウクライナ東部の二ヶ所で同日、交戦したと発表した。
 東部ドネツク州で任務に当たるウクライナ軍大隊の副司令官は、今回の交戦について「全面的な侵攻」と形容。同副司令官によると、戦闘はドネツクの南東部と、露国境線から約二〇キロ離れた同州南部アゾフ海沿いに位置するノボアゾフスクで発生。
 ロシアの国営メディアは、同国の国防省筋の情報として、これらの兵士は国境地帯を警戒中で、偶然に越境した可能性が高いと伝えた。ロシアはウクライナ東部情勢に絡む軍事介入について一貫して否定している。
 同二八日、ポロシェンコ大統領は東部ドネツク州内の複数の戦闘地域に露軍部隊が投入されたとする声明を出し、予定していたトルコ訪問を取りやめた。北大西洋条約機構(NATO)当局も、ウクライナで一〇〇〇人以上のロシア兵が活動しているとの見方を示しており、緊張が高まっていた。
同二八日、露国防省高官はウクライナへの部隊投入を否定した。一方、NATO当局者は二九日にウクライナ側と対応を協議する方針を示した。
 八月中旬以降、露軍の装甲車両などがウクライナ側に越境したとの情報が相次いでいる。ウクライナ東部の戦闘に露軍の正規部隊が投入されている可能性が高まり、四月からの紛争は新たな段階を迎えた。
 八月三〇日、リトアニアのグリバウスカイテ大統領は、ウクライナ情勢をめぐって「ロシアは欧州への統合を望むウクライナと戦っている。事実上、欧州に対して交戦状態にあるということだ」と述べた。
 旧ソ連構成国のリトアニアはウクライナ危機をめぐり、ロシアに対し強硬な姿勢を示している。グリバウスカイテ大統領は「ウクライナは欧州を代表して戦っている」として、欧州はウクライナを軍事的に支援する必要があると訴えた。
●八月三一日、プーチン大統領は、ウクライナ東部の紛争について「人々が銃を突きつけられ殺されている状況を、ロシアは放置できない」と述べ「しかるべき措置が必要だ」と、政府系テレビに出演して語った。だが、露軍のウクライナ東部「侵攻」については直接言及しなかった。
 また、プーチンはウクライナ政権に対し、東南部の「国家の性格」について、早急に住民と「実質的な」対話を始めるよう呼びかけた。ドネツク州、ルガンスク州の地位について事実上の連邦制を念頭に具体的な協議を行なうよう求めた。ロシアのペスコフ大統領報道官は、東南部の独立交渉を呼びかけた発言ではないと説明した。一方、ウクライナのポロシェンコ大統領は「全面戦争」の危機が迫っているとの見方を示している(八月三〇日)。
 ポロシェンコはブリュッセルで欧州連合(EU)首脳会議に出席した後、「後戻りできない状況が目前に迫っている。それはつまり全面戦争ということだ」と述べた。ポロシェンコはまた、戦いの相手は国内の分離独立派ではなく、露軍の正規部隊だと主張。ウクライナ領内に「数千人規模の外国人部隊と、数百台に上る外国の戦車」が侵入していると語った。
 ロシアはウクライナへの介入を繰り返し否定してきたが、欧米諸国はロシアへの非難を強めている。
●九月二日、ウクライナ東部で監視活動をしている欧州安保協力機構(OSCE)は、ウクライナ軍が一日に東部ルガンスク空港の統制を失い、撤退したと発表した。露軍は志願兵を装って大規模にウクライナ東部に侵入しているとみられ、この支援を受けた親露派武装勢力が巻き返していることが裏付けられた。
 ロシア通信によると、九月二日、ウクライナ外務省は一日に開かれた親露派や露政府との協議で、親露派とウクライナ軍の停戦をめぐり合意したことを明らかにした。国境管理、捕虜の解放、人道支援の際の安全確保策についても意見交換したとされている。
九月二日、ウクライナ国家安全保障会議のルイセンコ報道官はウクライナ東部で、ロシアが軍事侵攻を強めていると警告した。親露派武装勢力が強気の姿勢でウクライナ政府に独自の要求を迫るようになったのは、露側の支援で戦力を回復させたことが背景にあるとみられている。
 ロシアは四日のNATO首脳会議を前に、軍事ドクトリンの改定を検討していることを明らかにし、ウクライナのポロシェンコ政権を支援する欧米諸国を牽制した。
 前日の九月一日、親露派武装勢力はウクライナ政府、ロシア、欧州安保協力機構(OSCE)の代表者が集まりベラルーシで行なった和平協議で、「特別な地位」を認めるよう迫った。同勢力幹部は二日、「われわれの領域はウクライナに属するものではなく、露側世界の一部なのだ」と語った。
 こうした姿勢には、一万人以上とされる露軍兵士がウクライナ東部に侵攻し、親露派が戦況の劣勢を盛り返したことが背景にあるとみられている。ルイセンコ報道官は九月二日、一五人のウクライナ軍兵士が死亡したことを明かし、露軍は親露派拠点のドネツクやアゾフ海沿岸へも部隊を増派していると主張している。露軍兵士は身分証を隠さなくなっているとも言明した。
●ロシア産の天然ガスを支那へ直接供給する初のパイプライン「シベリアの力」の建設が、東シベリア・サハ共和国のヤクーツク郊外で始まった。ウクライナ問題をめぐって欧米が対露制裁の動きを強めるなか、ロシアが制裁に加わっていない支那との経済関係拡大を急いでいることを象徴する事業。
 露国営天然ガス企業のガスプロムと中国石油天然ガス集団(CNPC)は今年五月、年三八〇億立方メートルの天然ガスを二〇一九年から三〇年間にわたって輸出入する契約に調印した。パイプラインはこれに基づき、新規開発される東シベリア・チャヤンダ天然ガス田などと支那東北部を結ぶルートで敷設される。
 プーチン露大統領は九月一日の起工式で「事業はロシアと支那の高い水準の協力によって可能になった」と両国の蜜月ぶりを強調。シベリア有数のバンコール石油ガス田の開発に支那系企業の参画を認める考えも示した。ガスプロムとCNPCは、西シベリアの天然ガスをアルタイ地方経由で輸出する別のパイプライン敷設についても交渉中だ。
●九月一日、ウクライナのヘレテイ国防相は「露軍が越境侵攻してきたので、もう東部の親露派と戦い続けることはしない。これからはロシアとの戦争になる」と発表した。親露派との戦闘に敗北したことは認めないが、もう親露派とは戦わないと表明した。事実上のウクライナ軍の敗北宣言である。
 九月三日、ウクライナの大統領府はポロシェンコ大統領がプーチン露大統領と電話で会談し、ウクライナ東部の停戦で合意に達したと発表した。ただしロシア側は「停戦合意ではない」と主張している。
 ポロシェンコ大統領の報道官は公式ウェブサイト上で「会談の結果、ウクライナ東部での全面的な停戦で合意が成立した」と発表。さらに「両大統領は和平に向けた措置についても相互理解に達した」と述べた。停戦の時期など、詳細は明らかにしなかった。
 一方、ペスコフ露大統領報道官は、「プーチン大統領は紛争の当事者ではない。したがって停戦に同意できる立場にない」との見解を示した。そのうえで「合意が成立したのは、停戦に至る道筋だ。重要なのは流血と銃撃を終わらせることであり、だれもが沈静化を目指している」と語った。
 ペスコフ露大統領報道官は会談後、「両首脳は流血を止めるための最優先措置について意見を交換した。危機をいかにして収束させるかというプーチン大統領の考えは、ポロシェンコ大統領の考えとほぼ一致している」と語った。
 九月四日、ウクライナのポロシェンコ大統領は東部で親露派武装勢力と交戦する政府軍に対し、五日午後二時に停戦を命じる方針を示した。プーチン露大統領が三日、七項目の「和平案」を提示したのに対し、歩み寄りを見せた形。
 九月五日、ウクライナ政府とロシア、欧州安保協力機構(OSCE)で構成する「連絡調整グループ」の協議がベラルーシの首都ミンスクで再開され、ウクライナ政府軍と同国東部の親露派武装勢力の代表者は現地時間五日午後六時からの停戦に合意した。この日の協議で捕虜交換など一二項目からなる合意文書が交わされた。
 しかし、その後も東部で砲撃があったとの情報があるなど、停戦が維持されるかは不透明。協議では、親露派の支配領域に「特別な地位」を付与する問題などは話し合われなかったとみられ、事態の根本的な解決に向けた重要課題は後回しにされた感は否めない。
 一連の流れは、ウクライナ政府軍がロシアに支援された親露派武装勢力に完璧に敗北したことを示している。
 この結果、欧米の反プーチン勢力が目論むロシアを巻き込んだウクライナ戦争が勃発する可能性は大きく低下した。プーチン戦略の勝利である。 平成二六年九月六日記