スコットランド独立騒動への一考察 
       (世界戦略情報「みち」皇紀2674(平成26)年10月1日発行第412号)

●九月九日、キャメロン首相ら英議会主要三党党首は英北部スコットランドの独立阻止のため一〇日に現地入りし、英国への残留を呼び掛ける方針を明らかにした。
 九月一八日実施の住民投票をめぐっては、直前になって独立賛成派が急伸。九日発表の世論調査では独立反対派が三九%、賛成派が三八%と拮抗していた。また賛成派が反対派を上回る結果も出ており、英政界やマスコミは急にパニック状態になっていた。
 現地入りするのはキャメロンに加え、労働党のミリバンド党首と自由民主党党首のクレッグ副首相。両氏は共同声明で「われわれには相違もあるが、連合王国を維持したいという点では一致している」と結束を表明した。キャメロンは「(独立阻止のため)できることはなんでもやる」と述べ、投票当日まで全力を挙げて残留を訴えていく意向を示した。
 九月一五日、キャメロンは独立派が掌握を狙う北海油田の開発拠点であるアバディーンを訪れ、「英国という一つの家族を引き裂かないでほしい」と訴えた。独立派は資源による「豊かな歳入」を期待するが、石油業界からは統一維持を望む声が上がっていた。
 北海油田は一九七〇年代にスコットランド沖で発見された大規模油田で、英国の石油はほとんどそこから来ている。埋蔵量は依然豊富とされ、独立派はその石油など資源収入を独占することで、英国や日本などを追い抜く「スコットランド経済の奇跡」を起こしたい考え。英メディアによると独立の場合、石油は歳入の一〇~二〇%を占める可能性があるとされている。
 キャメロンは、スコットランドの独立を「苦痛を伴う離婚だ」と述べ、「ともに作り上げた英国という素晴らしい家に背を向けないでほしい。離婚すれば後戻りはできない」と強調した。だが、英首相の「最後のお願い」に、独立を目指すスコットランド行政府のサモンド首相は、北海石油はスコットランドのものだと述べ、「脅しには乗らない」と一蹴した。
 一方、九月一四日、エリザベス英女王はスコットランドの人々が「将来のことを慎重に考えるよう望んでいる」と述べた。英王室関係者は「発言は政治的に中立」だと強調しているが、英メディアの多くは、独立反対の立場を示唆したものと受け止めている。
●九月一一日、スペイン北東部のカタルーニャ自治州の州都バルセロナでスペインからの独立を求める大規模なデモがあり、市民らが独立の是非を問う住民投票の実施を訴えた。
 AFP通信によると、この日、バルセロナの中心部では、地元の推計で約一八〇万人の市民らがデモに参加。「投票」を意味する「V」を人文字で形作り、住民投票の実施を訴えた。スコットランドで一八日に英国からの独立の是非を問う住民投票が行なわれることにも刺激され、市民の期待が高まっている。
 カタルーニャ州はバルセロナを中心に商工業が盛んで、独自の言語や文化を維持している。同時に欧州債務危機をきっかけに中央政府への不満が高まり、独立機運が高まった。
 スペインでも分離独立気運が高まっているのは、スコットランドの分離独立運動の背景に欧州連合(EU)の統合があることが暗示されている。
 EUはドイツ(独仏)中心の超国家体制を欧州に作ろうとしている。英国はそれとは別の、米英同盟を中心とする世界戦略を持っており、本質的にEU統合に対し脅威を感じている。英国はEUの一員だが、これはむしろEUの統合を阻止・抑止するための加入だと言っていい。
 英国がEU統合を嫌うのと対照的に、スコットランドはEU統合を望み、EUに加盟して、アイルランドやノルウェーなどとの連携を強めたいと考えている。EUが政治統合を進めると、EU内の諸国の国家主権がEUに移り、スコットランドが英国に属したり、カタロニアがスペインに属していることの利益が減るため、EU中で分離独立運動が盛んになる。スコットランドの住民投票は、こうしたEUの長期の流れの皮切りでもある。
 スコットランドの独立の是非を問う住民投票に関し、EUや加盟国もその行方に固唾を呑んでいた。「内政干渉」ととられる言動は控えているが、独立後もEUにとどまる意向を示すスコットランドへの対応は大きな課題。他地域の分離独立運動への影響も絡み、悩ましい問題なのである。九月八日、欧州委員会の報道官は住民投票について「将来を決定するのはスコットランドと英国の人々だ」と語り、それ以上の深入りを避けた。
 またEUや多くの加盟国は住民投票を表向きは国内問題としており、目立つ発言を抑えている。欧州委はスコットランドが独立すれば、新たな加盟申請が必要との見解。手続きは通常なら何年もかかる。加盟国の全会一致の承認も必要となる。
●九月一九日午前、英国からの独立の是非を問うスコットランドの住民投票に関して選管が開票結果を発表、反対票が賛成票を上回り、スコットランドの独立は否決された。独立賛成が四四・七%、反対五五・三%とする最終集計結果を発表。登録有権者数は約四三〇万人。投票率は八四・五%。英政府は国土の三割、人口の八%(約五二〇万人)を超えるスコットランドをつなぎ留めることに成功した。
 英国分裂による国力低下や経済混乱の危機は回避されたが、スコットランド側は今回「最大限の自治権」を得るとの約束を英政府から取り付けた。英国では他の地方でも分権要求が高まり、英国政治に長期的な影響を与え続けることになる。
 同一九日、独立を目指すスコットランド行政府のサモンド首相は敗北を認めたうえで、スコットランドの自治権を拡大するとした英政府の約束が速やかに実行されるよう求めた。
 サモンドは「われわれは自分たちの道を着実に前進している」と支持者らに呼びかけた。英国からの独立の是非を問う住民投票での敗北の責任を認めて辞任の意向を表明したものの、住民の不満を吸い上げて理想を掲げ、世論を二分する戦いを展開した独立派の手法は、各地で起こる同様の運動にも影響を与えそうだ。
 スコットランドで議会が復活したのは一九九九年。イングランドとの合併以降、約三〇〇年ぶり。スコットランド民族党(SNP)は二〇〇七年のスコットランド議会選で、英国からの独立を掲げて第一党に躍進し、党首のサモンドが行政府首相に就任した。
 SNPは二〇一一年の議会選でも過半数の議席を獲得。住民投票の実施を求めるサモンドは一二年、キャメロン英首相との間で合意に漕ぎ着けている。 独立が否定された九月一九日、改めてキャメロンは「住民投票(の実施)を阻止することはできたが、民主主義の原則を守るために受けて立った」のだと弁解した。
 キャメロンはまた、独立が否決されたことを歓迎するとともに、英国の主要三政党の党首が合意した約束は「完全に履行される」と述べ、新たな徴税権限や社会保障の支出などで、スコットランド議会の権限拡大を一一月までに合意し、来年一月までに法制化することを明らかにした。
●九月一九日、キャメロンはスコットランドの独立が住民投票で否決されたことを受けイングランドなど、国内の他の地域にも自治拡大を図る方針を示した。住民投票への対応などで批判を浴びていた首相が反撃に出た形。来年五月の総選挙での勝利に向けて地方自治の議論で主導権を握り、求心力を増す狙いがあるとみられている。
 キャメロンはロンドンの首相官邸前でスコットランドの独立否決を歓迎する声明を読み上げた後、「変化のチャンスがやってきた」と強調した。
 キャメロンは徴税や予算の使途、社会福祉などの面で自治権拡大を約束したスコットランドと同様に、イングランドとウェールズ、北アイルランドにも広範な自治が認められるよう法制度を早急に変えていくと約束した。九月二〇日、英メディアは「憲法上の革命だ」「キャメロン氏の反撃が始まった」などと報じた。
 同一九日、スコットランドの住民投票で英国からの独立が否決されたのを受け、エリザベス英女王は滞在先のスコットランド北部のバルモラル城で、「数ヶ月の論議と熟慮の末に出た住民投票の結果は全国民が尊重するだろう」などとする声明を出した。
 女王は声明で、独立賛成派と反対派の間に生まれた「対照的な感情」について、「他人の感情を理解することで和らげられると信じている」と期待を表明。「見解の違いはあってもスコットランドへの愛に変わりはない。互いに尊敬し合い、助け合う精神で建設的に協力すれば、まとまることはできると確信する」と強調した。
 スコットランドが独立すれば、最も緊密で強固な同盟国である英国の軍事力が低下すると懸念していた米国は、安堵している。
 オバマ大統領は「英国が強力で有用なパートナーであり続けることが、米国の利益にかなう」と述べ、英国の弱体化は米国にとり、大きなマイナスだとの認識を示していた。
 最たる懸念は、英国核戦力の唯一の拠点であり、スコットランド南西部にあるクライド海軍基地が失われ、ここを母港とする潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載した原子力潜水艦が、行き場を失うことだった。
 英国の核戦力が不安定化すれば、米国が主導する北大西洋条約機構(NATO)の核抑止力が低下し、米国の戦略にも大きな影響が及ぶ。また独立すれば、北海油田からの収入減などが英国の国防予算縮小にもつながり、「英国はNATOにおける指導的役割を果たせなくなる」と懸念されていた。
 今回の住民投票でスコットランドの独立は否決されたが、広範な自治権を勝ち取った。また今回の投票で独立が否定されてもスコットランド独立運動は根強く続き、数年内に再び投票を行なう気運が高まるであろう。同時に、それは、一九世紀後半以降、世界政治を牛耳ってきた英米アングロサクソン同盟の地位低下を促すことになる。
平成二五年九月二一日記