米軍シリア空爆への一考察 
   (世界戦略情報「みち」皇紀2674(平成26)年10月15日発行第413号)

●九月二二日、米国防総省はシリア領内で、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」に対する空爆を「友好国」と共同で開始したと発表した。米軍は八月八日からイラクでの空爆を続けているが、シリアでの空爆は初めて。国防総省は、攻撃には戦闘機、爆撃機が参加したのに加え、巡航ミサイルも使用したと説明している。
 カービー国防総省報道官は声明で、オバマ米大統領からの委任に基づき、米中央軍司令官が九月二二日の早い時間に作戦を決定し、空爆は「イスラム国」が「首都」としている北東部ラッカで実施された。指揮統制、補給、訓練施設が標的となり、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、ヨルダン、バーレーンが参加したとされている。
 翌二三日、露外務省は声明を出し、米国などがシリア領内で開始した「イスラム国」への空爆について、国連安保理決議がなくても、シリアのアサド政権の同意があれば容認するとの立場を確認した。
 同二三日、米国務省のサキ報道官は声明を出し、シリア政府に空爆方針を直接伝えていたことを明らかにした。米軍機に敵対行為を取らないよう警告したとし「アサド政権の同意は求めていない」と強調。シリア政府との調整や軍レベルでの事前通告はしておらず、攻撃の具体的なタイミングについても一切知らせていないとした。
 同二三日、オバマ米大統領はニューヨークでの国連総会に向けて出発する前にホワイトハウスで声明を読み上げ、「イスラム国」に対し、幅広い有志連合とともにシリア領内で空爆を実施したと表明、米国の単独行動ではなくアラブ諸国と連携した行動であることを強調した。
 同二三日、支那外務省華春瑩報道官は米軍がシリア領内で「イスラム国」に対する空爆を開始したことについて、具体的な言及を避けつつ、「中国は一貫していかなる形式のテロリズムにも反対している。国際社会は共同でテロリズムに打撃を与えるべきだ」と、北京政府の原則的立場を強調した。
 華報道官は「国際的な反テロ闘争では、国際法や関係国の主権の独立、領土の保全を尊重するべきだ」と一般論を述べたうえで、現地でテロリズムが広がる土壌を消し去るための努力を、国際社会に求めた。
●九月二三日、米国防総省のカービー報道官は、シリア領内の空爆は成功したとしたとして、作戦は「始まりにすぎない」との見方を示した。そして、「イスラム国」との戦争はかなり長く続くとの予測を発表している。
 米国防総省や軍産複合体系の連邦議員たちが「イスラム国」との戦争の長期化を予測するのは、「イスラム国」が強いからでなく、「イスラム国」を軍産複合体が裏から支援し続け、自作自演の戦争をできるだけ長く続けたいと考えているからだ。そもそも「イスラム国」の前身ISIS、ISIL組織の立ち上げを指導し、米国製最新鋭武器を供与したのは米軍産複合体配下の米民間軍事会社ブラックウォーター(現在アカデミと改称)である。その実態について、米大統領選にも出馬したロン・ポール共和党元連邦下院議員の研究所のマクアダムス理事が次のようにラジオ局VR(ロシアの声)に暴露している(九月二七日)。

 そもそも、ISISを作り資金を出し訓練したのは、現在ISISを空爆している米国と所謂その連合国です。
 ある組織を支援し、その一方で敵対することなどできますか?
 特に、サウジアラビアとカタールはISISへの軍事訓練、資金援助、そして武器供給に深く関わっていた。そんな国々が手の平を返したように突然、ISISを殲滅することに興味をもったと言われても、あなたは信じることができますか。
 ISISへの空爆は単なる見せかけで、真の狙いはアサド政権の打倒にあるのです。
 今回の事は、去年米国で計画されたシリアへの軍事攻撃の延長線上にあります。もし覚えていらっしゃるのなら、去年米国がシリアへの軍事介入を止めた時、サウジアラビアは米国への協力は止めると激怒したんですよ。結局今、サウジの思い通りになっているわけです。
 サウジはテロリストに長い間資金援助をし、黒幕的役割を果たしてきたのです。

 一方、米中央軍は九月二二日、イラク北部の油田都市キルクークの近くで四回にわたってイスラム国の部隊に対する空爆を実施し、戦車などを破壊したと発表した。
 九月二四日、オバマ米大統領は国連総会で一般討論演説を行ない、「イスラム国」の壊滅へ向けた国際社会の結束を呼びかけた。大統領は「イスラム国などの過激思想を、力強く一貫して拒否しなければならない。この『死のネットワーク』の壊滅に、米国は幅広い有志連合とともに取り組む。有志連合への参加を世界に求める」と述べた。
 また「(国際社会の)利益を守ることを米国はためらわない」とし、他の課題でも米国が指導的役割を果たしていく決意を示した。
●九月二四日、ロイター通信などはアルジェリアで仏人男性を拘束していた、「カリフの兵士たち」と名乗る「イスラム国」系の武装組織が、男性の首を切り落として殺害したビデオ映像を同日までに公開した、と報じた。
 映像によると男性は南仏ニース出身の観光客とされる。武装組織は、男性を殺害したのは「フランスがイラクでイスラム国に対して軍事行動を行なっていることへの報復だ」としている。フランス、アルジェリア両政府は映像に関し、公式に確認していない。
 スイス紙ターゲスアンツァイガー(電子版)は九月二四日、「イスラム国」の支持者とみられるイラク人三人が三月下旬、スイス国内でテロを計画した疑いで同国当局に逮捕されていたと伝えた。スイスでテロ組織を設立し、爆発物や毒ガスを入手しようと企てた疑いが持たれている。
 九月二四日、米政府当局者は、米軍が実施しているシリアでの空爆により国際テロ組織アルカイダ系グループ「ホラサン」の指導者を殺害したと明らかにした。米軍は「イスラム国」への攻撃とは別に、シリアで活動するホラサンの施設を単独で空爆した。ホラサンはアフガニスタンとパキスタン出身のアルカイダ系戦闘員からなる武装組織で、欧米への攻撃を企てているとされている。
●米国を中心としたシリア領内の「イスラム国」への空爆で、欧州主要国は参加を見送った。ただ、テロ拡大への危機感は共有しており、それぞれ果たせる貢献を模索している。
 英国は今回、偵察飛行などで米国を後方支援する一方、軍事行動への参加に明確な態度は示していない。
九月二二日、イラク空爆を実施したファビウス仏外相は改めてシリア空爆への不参加を表明し、シリアでは「穏健な反体制派を支援し、アサド政権とイスラム国双方と戦うことが必要」との認識を示した。シリア反体制派を「シリア唯一の代表」と認めるフランスとしては、アサド政権を利することへの懸念が強いとみられる。だが、イラク戦争に反対した当時とは異なり、外相は「テロリストへの行動はわれわれ全員の義務」と述べた。
 軍事行動に慎重なドイツは外交方針を転じ、イラクのクルド人部隊への武器供与を開始した。空爆参加は否定するが、シュタインマイヤー外相は「それぞれが任務を担っている」として役割の分担を強調した。
九月二四日、国連本部ではシリア領内で続く「イスラム国」への波状的な大規模空爆と同時進行する形で、安保理事会の首脳級会合が開かれた。オバマ米大統領にとり、自ら議長役を務めた首脳級会合は対イスラム国の主要な外交舞台であり、国際包囲網構築の外交作業はひとまず完了した。
 「決議だけでは十分ではない。紙の上の約束、修辞や決意ではテロリストの攻撃を止められない。言行一致でなければならない」。会合でオバマは、円卓に並ぶ各国の首脳らを見渡しながら念を押した。採択された対テロ決議には拘束力があるが、この種の決議は、各国の履行状況に濃淡が生じるのが常だからである。
 九月二六日、英議会はイラク領内の「イスラム国」に対する空爆への参加を求める政府の動議を審議した。動議は野党・労働党を含む英主要三政党が支持し、賛成多数で承認された。
 同二六日、英BBC放送はすでに偵察などの任務についている英空軍が、同日中にもイラク内のイスラム国武装勢力に空爆を開始する可能性があると伝えた。デンマークやベルギーも戦闘機派遣を決定、国際包囲網の強化につながる。
 一〇月一日、英国防省はキプロスの基地を飛び立った英軍機二機が前日に引き続き二日連続、イラクで「イスラム国」の武装車両などへの空爆を実施したと明らかにした。
●九月二七日、中東地域を管轄する米中央軍は「イスラム国」に対するシリア領内での空爆を二六、二七の両日、サウジアラビア、ヨルダン、アラブ首長国連邦の三ヶ国と共同で続行したと発表した。米中央軍によると、戦闘機や無人機を使って七回の空爆を実施、ハサカや北部ラッカにあるイスラム国戦闘員の駐屯地や訓練キャンプに打撃を与えたとしている。米軍は、シリアとは別に、イラクでも単独で攻撃機による三回の空爆
を行なった。
 一方、「イスラム国」対策に及び腰だったトルコが米国が主導する有志連合との共闘に積極姿勢を示しはじめた。一〇月二日、トルコ議会はイラク、シリア両国内の「イスラム国」に対するトルコ軍の軍事行動を承認した。
 今回の議会承認により、トルコ政府は、イラク、シリア領内への派兵のほか、国内の基地を外国の軍隊が使用することを認める権限を得た。トルコはこれまで、イスラム国との直接的な対立を避けるため、イスラム国への空爆を実施している米軍などが国内基地を使うことを認めておらず、米欧などの有志連合参加国ではトルコの消極姿勢を批判する声が出ていた。
 だが、トルコが方針を転換したことで米国は対「イスラム国」戦争で有志連合を主導する立場を確保し、今後は、公然と自作自演の反テロ戦争を演じることができるようになったのである。  平成二六年五月四日記