揺れる香港雨傘革命 
   (世界戦略情報「みち」皇紀2674(平成26)年11月1日発行第414号)

●香港での学生による雨傘革命について、香港政府ナンバー2の林鄭月娥政務官は一〇月一一日、次期行政長官選挙から民主派を事実上排除した支那北京政府の決定を学生団体が受け入れなければ、対話は行なわないとの考えを示した。政務官が、前日一〇日に予定されていた学生団体との正式対話見送りを表明してから、対話条件について発言したのは初めて。
 政務官は同一一日、経済フォーラムに出席するため広州市入り。香港政府トップの梁振英行政長官も一二~一三日の日程で広州を訪問して支那の高官と接触し、デモの対応策を協議した。
一〇日夜、香港政府の対応に抗議して香港島中心部の政府本部庁舎前で集会を開いた学生らは、徹夜で一一日も座り込みを続けた。一〇日夜の三万人集会には多くの市民も参加し、学生らが依然として根強い支持を得ていることを示した。
 一〇月一一日、中国共産党機関紙の人民日報(海外版)が香港のデモを「動乱」と呼び始めた。このため、支那北京政府が武力鎮圧も辞さない姿勢を強めたとの見方が出ている。
 だが、民主派団体の幹部は「二五年前の天安門事件の時代にはなかったインターネットや携帯電話を武器に、さまざまな情報戦が繰り広げられている。人民解放軍や武装警察などに動きがあれば、ただちに香港にも情報が漏れるうえ、支那本土の民主派の行動にも影響を与える」と、情報ツールが抑止力にもなっているとの見方を示した。
 一〇月一二日、香港メディアなどは支那の人権派学者、郭玉閃氏が北京市の警察当局に拘束されたと伝えた。支那当局は、香港での大規模な抗議活動に支持を表明した民主活動家らを次々に拘束しており、郭氏拘束も香港のデモと関連がある可能性が高い。
 一〇月一三日、中国外務省の洪磊報道官は定例記者会見で、北京当局が公共秩序騒乱容疑でドイツメディアの北京支局に勤務する支那人女性を拘束したことを明らかにした。
 また、大規模デモに支持表明をした支那の民主活動家らが多数拘束されたことに関する質問に、洪報道官は「承知していない」としたうえで「中国は法治国家であり、違法行為をした人物については国家の安全を守るため司法機関がしかるべき対応を取っている」と述べた。
 一連の動きは、北京当局が香港での雨傘革命が支那本土に悪影響をおよぼす可能性を危惧して、独自の対応の必要性を痛感し始めていることを暗示していた。
●一〇月一三日、香港でデモ解散を求める約千人の集団が、学生らが座り込みを続ける中心部アドミラルティ(金鐘)の幹線道付近に集結した。デモ反対派は、衝突を警戒する警官隊を挟んで学生らと対峙、一時緊張が高まった。
 集団の一部は、道路占拠を続ける学生らが築いた鉄柵を撤去しようとして学生らと小競り合いになったが、動員された多数の警官が双方を引き離した。
 北京政府の治安当局は、インターネットで香港市民の抗議活動を支持したことなどを理由に知識人らを次々と拘束し、一〇月一四日までに少なくとも五〇人を連行した。共産党の重要会議・第一八期中央委員会第四回総会(四中総会)を一〇月二〇日に控え、言論統制を一層強化する狙いがあった。
 北京の人権活動家らによると、一四日までに当局に拘束されたのは、元雑誌編集者の郭玉閃氏、女性作家の寇延丁氏、詩人の王蔵氏ら北京だけで約五〇人。ほかの地域にも多くの拘束情報が寄せられている。
 一〇月一六日未明、学生組織らの民主派が公道などを占拠し続けている問題で、官庁街近くの道路で民主派と催涙スプレーなどを使って規制を図る警官隊が衝突する騒ぎがあった。この道路は金鐘(アドミラルティ)近くにあり、一五日にも強制排除に乗り出した警察とデモ隊の衝突が起きていた。二日連続の衝突に、双方の対立が先鋭化する可能性もある。
 同一六日、香港の梁振英行政長官は街頭占拠が続く香港の大規模デモについて記者会見し、民主派団体の大学生連合会(学連)との「対話」を来週にも行ないたいと述べ、対話による事態収拾に意欲を示した。しかし、三年後の次期行政長官選挙で、民主派候補を事実上排除する支那の全国人民代表大会常務委員会の決定撤回はあり得ないと言明し、支那の「決定」受け入れを対話の条件とした。
 政府と学連は今月一〇日に対話を開始することで合意していたが、政府側が民主派の「非協力姿勢」を理由に一方的に取りやめた。民主派は「中国の決定撤回」を求めており、梁氏の発言に再び反発している。
●大規模デモが続く香港の九竜地区の繁華街モンコックで一〇月一七日夜から一八日未明にかけて警官隊とデモ隊が衝突、二六人が逮捕された。警官隊とデモ隊との衝突は三日連続で、警察側の強硬姿勢が強まりつつある。一方、香港政府ナンバー2の林鄭月娥政務官は一八日、学生代表らとの対話を二一日午後に行なうと発表した。
 一方、香港の梁振英行政長官は一九日放送された民間テレビ局亜州電視のインタビューで、香港で続く大規模デモには「外部勢力が関与している」としたうえで、「今や誰もこの運動を制御できない状態だ」と述べた。
 同局サイトによると梁長官は、デモは「香港だけの運動ではなくなった」と主張。どの国が関与しているのかとの質問には「世界各地の異なる国からで、詳細を知らせることはできない」と答えた。
 中国共産党機関紙の人民日報も先に同様の主張をしており、デモが外国政府の支援を受けた一部の反体制勢力の策動であるかのような印象を市民に植え付ける狙いがあるとみられる。
 一連の動きは、北京筋が今回の香港の騒動(雨傘革命)を外国(米国)筋が仕掛けた対支謀略の結果だと認識し、その次元での対応に徹する意向を表明したものである。すなわち、北京筋は今回の香港雨傘革命を米中戦略対峙の一環と捉え、米国筋が仕掛けた「アラブの春」革命の支那版との危機意識を持ち始めているのである。
 一〇月一九日、香港島のビクトリア公園で親中派団体が呼びかけた反デモ集会が行なわれ、約八〇〇人が「香港の法治を取り戻せ」などと訴えた。
 一方、同一九日、九竜地区の繁華街モンコックで、規制線を突破しようとしたデモ隊と警官隊が衝突し、地元テレビによるとデモ隊の少なくとも二〇人が負傷、警察官五人も怪我をした。衝突は四日連続となった。
 警察は、刃物を持っていたデモ参加者ら四人を逮捕したほか、一七日夜から一八日未明に同所で起きた衝突をめぐり、ネットで「違法集会」を呼びかけたとして二三歳の男を逮捕した。
 一〇月一九日、大学生連合会(学連)の幹部は今回のデモ終結後、「セントラル(中環)占拠」の発起人三人とともに警察に出頭すると述べた。幹部が占拠の刑事責任を負うと表明することで、一般のデモ参加者の処罰を避ける狙いがあるとみられている。
 一方、二一日の政府と学生代表との対話は、大学の構内で公開形式で行ない、大学校長会の会長が司会をすることが固まった。
●一〇月二一日夜、香港政府と学生代表の対話が現地の教育施設で行なわれた。直接対話は九月二八日のデモ開始以来初めて。
 だが、政府側は二〇一七年の行政長官選の改革案について理解を求めるにとどまり、学生の要求に応じず、主張は平行線をたどった。学生側は対話の後、政府の提案は「空虚だ」として次回の対話に難色を示し、デモ継続の意向を示した。対話には、政府側から林鄭月娥政務官ら五人、学生側から大学生連合会の周永康事務局長ら五人が出席した。
 林政務官は「学生の訴えは政府、中央(中国)双方の耳に届いている」と述べ、「大局」を考慮してデモ参加者に退去を呼びかけるよう求めた。また、長官選に関する中国の全国人民代表大会(国会)の決定は「永遠に適用されるわけではない」と、一七年以降の再改正を待つよう求めた。
 これに対し、学生側は、政府が譲歩しない以上、デモは解散できないとしたうえで、改革案は立候補のハードルを上げるもので民主化に「逆行する」と指摘。候補者を決める「指名委員会」は職能団体別とせず、一定数の支持で立候補を可能とする「市民指名」制度の導入を求めた。
 しかし、政府側は、香港の憲法に相当する香港基本法に合致しないと要求を拒否。わずかに、デモで示された民意を北京政府に「報告」するとしたが、学生側から「何の効果があるのか」と問いただされた。
 一〇月二二日、大学生連合会の周永康事務局長は記者団に対し、対話で政府側が行なった提案は「内容がない」と批判。普通選挙の実現に向けた行程表を出すことが問題解決の条件だとして「占拠拠点を守り続ける」と述べ、デモ継続の意思を改めて示した。
 一〇月二四日、香港返還後の初代行政長官を務めた中国人民政治協商会議(政協)副主席の董建華氏は記者会見し、焦点の選挙制度改革について、「中国全国人民代表大会常務委員会が決定した(民主派候補を事実上排除する)制度は国際標準に合致する」と述べ、撤回の可能性を否定した。
 デモが起きて以来、董氏が会見したのは初めて。民主派の李卓人立法会(議会)議員は同日、「(選挙制度改革を決定した中国は)香港の民意を聞いていない」と反論した。
 二四日付の香港紙、明報はデモ参加者二九六人から回答を得た独自の調査結果として、街頭占拠を収束させる条件として、「全人代常務委が選挙制度改革の決定を撤回すること」との回答が七三・三%でトップになった、と報じた。
 一方、学生団体などは二四日夜、政府が二一日の正式対話で示したデモ収拾策にどう対処すべきか、占拠現場の参加者に問う市民投票を二六日夜と二七日夜に実施すると発表した。投票結果が注目されるが、占拠継続を主張する強硬な意見が多数を占める可能性が高い。占拠が継続されれば、支那本土からの鎮圧介入が強まる危険性が高い。 平成二六年一〇月二五日記