依然戦闘つづくウクライナ 
(世界戦略情報「みち」皇紀2675(平成27)年3月1日発行第421号)

●オバマ米大統領はプーチン露大統領に二月一〇日に電話し、ウクライナ東部の紛争でロシアが親露派武装勢力の支援を続けた場合、「ロシアが払う代償は高くなる」と警告した。一一日にベラルーシで開かれる独仏露とウクライナの四ヶ国首脳による和平協議で平和的な解決策を見いだすよう、ロシアに努力を促した。
 電話協議でオバマ大統領はウクライナの主権と領土の一体性を支持する考えを重ねて表明。ウクライナ東部での戦闘による犠牲者が増えていると指摘し、プーチン大統領に「四ヶ国による協議の機会を捉えることの重要性」を強調した。
 一方、オバマ大統領は同じ一〇日、ウクライナのポロシェンコ大統領とも電話で協議し、四ヶ国の和平協議を「強く支持する」と伝えた。両大統領はロシアに昨年九月の合意を順守させ、交渉の基礎とする必要があるとの認識で一致した。
 二月一二日、ベラルーシの首都ミンスクで行なわれていたウクライナ東部をめぐる和平協議で独仏露とウクライナの四ヶ国首脳は、停戦を一五日午前〇時から実施することで合意した。一一日夜から一二日午後まで続いた異例の長時間会談は、一定の結論を得て終結した。四首脳は、昨年九月に紛争当事者らが調印した停戦合意の履行を支持する共同声明を発表したのである。
 プーチン露大統領は会談後、記者団に対し、停戦ラインは昨年九月の合意内容などに沿ったものだと述べた。停戦ラインからの重火器撤去も行なわれる。ウクライナのポロシェンコ大統領は、ウクライナ領内からの外国人戦闘員の撤収で合意したと述べた。
 一方、ウクライナの親露派は今回の合意内容に同意する考えを表明したが、政権側が合意に違反した場合は従わない可能性を示唆しており、実際に停戦が実現するか注目されていた。
●四ヶ国首脳が、一五日からの停戦に合意したウクライナ東部の紛争は、一二日の首脳会談後も親露派武装勢力とウクライナ軍の衝突で死者が出るなど、依然として緊迫した状況が続いた。
 親露派は約六〇〇〇人のウクライナ軍兵士が陣取るデバリツェボを包囲していると主張。軍に対し投降を呼びかけているが、包囲網を突破しようとする軍との間で、戦闘が繰り返されていると指摘している。一方、ウクライナ軍側は親露派に包囲されている情報自体を否定している。
 また、露側からウクライナ東部への武器の流入は四ヶ国首脳会談中も継続しているとの情報があり、ウクライナ国家安全保障会議の報道官は一一日から一二日にかけ、東部ルガンスク州に戦車約五〇両、装甲車約四〇台などが越境してきたと指摘した。
 一方、一五日からの停戦などを盛り込んだ一二日の新たな合意について、ウクライナ国内では親露派武装勢力との徹底抗戦を掲げる民族主義組織から反発の声が上がり、停戦実現に暗雲が広がっていた。親露派への自治権付与につながる憲法改正に関する合意にも批判があり、ポロシェンコ大統領は難しい立場に置かれている。
 二月一三日、ウクライナの極右連合「右派セクター」代表で、昨年一〇月の選挙で最高会議(国会)議員となったヤロシ氏はフェイスブックに「親露テロリストとの合意は憲法に反し、法的効力を持たない。ロシアに占領された土地を完全に解放するまで戦闘を続ける」と書き込んだ。ヤロシ氏は、ウクライナ政府軍から停戦や重火器撤去の命令が来ても応じない考えを示している。
 右派セクターは昨年二月にヤヌコビッチ前大統領を追放した政変で重要な役割を果たし、親露派と対峙する東部に現在も戦闘員を多数派遣している。ウクライナのメドベージェフ大統領顧問は「ヤロシ氏の自己宣伝であることを願う」とコメントしたが、国内では民族主義が高まっており、政府としても対応に苦慮している模様。
 新たな合意では、地方分権化を柱とする新憲法を年内に施行することが盛り込まれた。東部で実効支配地域を広げる親露派に自治権を与える憲法改正はロシアが要求していたもので、国内からは「譲歩しすぎだ」との批判が出ている。ウクライナでは昨年九月の停戦合意に基づき、親露派支配地域に「特別の地位」を認める法律が制定されたが、その後撤回された経緯がある。
 ポロシェンコ大統領は一二日の合意直後にウクライナのテレビに対し、「(親露派に自治権を付与する)連邦化については、いかなる合意もない。ウクライナはこれからも単一国家であり続ける」と強調した。だが、合意にある「地方分権」のための憲法改正を審議する最高会議では激しい議論が予想され、年内施行を疑問視する声が出ている。
 また、親露派が掌握しているロシアとの国境管理をウクライナ政府が取り戻すことで合意したものの、親露派支配地域での地方選挙実施や憲法改正などが条件とされている。ロシアから親露派への軍事支援を阻止するにはウクライナ政府による国境管理が欠かせないが、実現までには紆余曲折が予想される。
●二月一二日、オバマ米大統領は停戦発効を前に同国のポロシェンコ大統領、メルケル独首相と個別に電話協議し、東部ドネツク州デバリツェボで激化した戦闘への懸念を共有し、一二日に四ヶ国首脳がまとめた停戦合意を完全に履行することの重要性を確認したと、米ホワイトハウスが発表した。
 ケリー米国務長官もラブロフ露外相と電話協議し、停戦に先立ってデバリツェボでロシア軍や親露派武装勢力が戦闘を続けてきたことに懸念を表明した。また、ロシアに停戦合意を完全履行するよう求めた。
 これに関連し、米国務省のサキ報道官は一四日、ロシア軍がデバリツェボ周辺に多連装ロケットシステム(MLRS)や自走砲を展開し、ウクライナ軍に攻撃を加えている証拠とする衛星写真を報道機関に向けて公開した。
 米政府は一二日の停戦合意後もロシア軍が介入を続けているとして警鐘を鳴らして、「ロシア軍が大量の火砲とMLRSをデバリツェボ周辺に配備してウクライナ側を砲撃してきた証拠」(サキ氏)を示すことでロシアを牽制した。
 二月一五日、ウクライナ東部の政府軍と親露派武装勢力の紛争で四ヶ国首脳が一二日に合意していた停戦が発効した。ウクライナのポロシェンコ大統領は、これに合わせてすべての政権側部隊が戦闘を停止するよう命じた。だが、親露派が政府軍の数千人を包囲しているとされる東部の要衝デバリツェボでは交戦が伝えられるなど、紛争が終結に向かうかはまったく予断を許さない。
 ポロシェンコ大統領は軍参謀本部の会議で「和平プロセスを始める最後の機会が損なわれないよう強く望む」と、即時停戦を命令。親露派組織「人民共和国」も停戦を宣言したが、デバリツェボの包囲網内はすでに支配領域で停戦合意の対象でないと主張した。
●二月一七日、一五日に停戦が発効したウクライナ東部の紛争はウクライナ軍と親露派武装勢力の双方が停戦合意に定められた前線からの重火器撤去を開始する期限を迎えたが、停戦後も戦闘が続き、互いに一方的な撤去を拒否。一七日正午の段階でも撤去の動きは伝えられなかった。東部の要衝デバリツェボでは同日、激しい戦闘が行なわれたとみられ、停戦の行方には早くも暗雲が立ちこめた。
 ウクライナ軍当局は二月一六日、停戦後も親露派から一〇〇回以上の攻撃を受けたと指摘。停戦が守られていない状況では重火器撤去は困難と表明する一方、親露派も一方的な撤去はできないと主張していた。
二月一七日、インタファクス通信によると、親露派が政権側部隊六〇〇〇~八〇〇〇人を包囲していたデバリツェボの大半を制圧したと親露派幹部は発表した。警察署や鉄道駅も占領したという。親露派側はウクライナ軍側に多数の死傷者が出たと述べており、激しい戦闘が行なわれたとみられる。親露派はまた、数十人のウクライナ軍兵士が投降したと発表した。ウクライナ軍当局は同一七日、これらの情報について「確認できていない」と述べた。
 親露派はデバリツェボが既に支配領域だとし、停戦合意の対象外だと主張してきた。デバリツェボで包囲されたウクライナ軍兵士に対して武器を捨て撤退するよう要求しているが、軍側は拒否している。
二月一六日、米国務省のサキ報道官はウクライナ東部の紛争をめぐる停戦合意にもかかわらず東部ドネツク州デバリツェボ周辺の情勢が悪化しているとして、「重大な懸念」を表明する声明を発表した。
 声明によると、ロシアの支援を受けた親露派武装勢力は攻撃を続行。直近の二四時間でウクライナ側に一二九回の砲撃を加え、五人が死亡、二五人が負傷した。デバリツェボから負傷者を避難させる車列に対する攻撃もあったとされている。また、ロシアからの軍事物資の流入を注視しているとし、ロシアと親露派に攻撃の停止を求めた。
 二月一八日、ウクライナのポロシェンコ大統領は親露派武装勢力との戦闘が続いていた東部の要衝デバリツェボから政権側部隊が撤退を開始したことを明らかにした。ロシアの軍事支援を疑われる親露派が停戦違反によって支配領域を拡大したことで、和平合意は履行の初期段階で早くも破綻の危機に瀕したことになる。
二月一九日、四ヶ国首脳は、ウクライナ東部の紛争をめぐって電話協議を行なった。東部の要衝デバリツェボが一八日、親露派によって制圧されたばかりだが、四ヶ国首脳は一二日の合意に基づく和平プロセスを継続することで一致した。ウクライナ大統領府によると、同国のポロシェンコ大統領は、東部への国連平和維持部隊の派遣について四ヶ国が審議することも求めた。
 一連の動きは、ウクライナ情勢が依然として戦闘位相に陥っていることを明示している。米国はウクライナ政府軍への武器支援も検討しており、軍事紛争がさらに拡大する可能性も高い。ポロシェンコ大統領は国連平和維持部隊の派遣を四ヶ国が審議することを求めている。その国連介入がウクライナ情勢の希望の星となるかどうか、予断は許されない。平成二七年二月二一日記