黒潮文明論    索引  

               

 35 月読尊が制御する生命の営み
        (世界戦略情報「みち」皇紀2670(平成22)年10月1日第324号)

●陰暦八月一五夜の中秋の名月は陽暦では今年、九月二二日の夜であった。日常生活で季節の移り変わりや気温の寒暖を知って衣替えをしたりするには、陰暦の方が良い。九月と言っても陰暦では七月の終わりでしかないから、厳しい残暑になったのは致し方なかった。八月一五夜を過ぎてから、それまではフィリピン沖に発生し台湾を横切って大陸を襲うとか、石垣島南方で発生して沖縄をかすめて東シナ海を北上し、朝鮮半島を横断し日本列島の東北地方を横切って太平洋に抜けていた台風が、太平洋上に発生しても、小笠原近海を北上して列島の太平洋岸に沿って北上するようになる。
 今年の夏は、台風が朝鮮半島を横切って未曾有の洪水等の天変地異を引き起こしたが、陽暦の夏が長く続いたことによる。台風の動きも海水温度の三〇度が境界になり、台風はその境を乗り越えて北上することはできないから、東シナ海も日本海の海水も、今年は長期間三〇度を超えていたことになる。海水温の高さは、黒潮の影響であるから、日本列島の位置する温帯の地域はぐっと北の緯度に上がっており、四季の変化にメリハリが聞いた気候帯となっており、津軽海峡を越えて北海道がようやく亜寒帯の気候になるし、南方では、黒潮の流れを越えて、沖縄や小笠原が亜熱帯の気候に含まれる。月の満ち干と連動している陰暦が日常の生活の種々の面にきめ細かくなじむことは当然である。
 漁業者などは、毎日の潮の干満が月の引力によるものだから陰暦の方がしっくりすることは言うまでもない。明治政府が陽暦を強制しても、陰暦にこだわりがあって、正月の祭りを新正月に移動させるのは大変だった。南島の漁撈を生業とする港町の住民は、旧正月を祝うのが当然であり、何故に太陽の光ばかりを拝むのかといぶかる向きも希ではなかったが、世界の強国が、世界時と称して、グリニッジの天文台の子午線を通る太陽の時間を標準時にしていたから、日本が植民地にならないために、科学技術を採用して自立自尊の体制を整えるために、日常生活との齟齬があっても犠牲を払ったのだ。
●重さや距離はメートル法でフランスのやり方に順応させ、アングロサクソン一辺倒ではなく、黒潮民族特有の外来文明の取捨選択の意思も働かせたが、役人が尺貫法にこだわる者を取締ったのは滑稽であった。魚を斤と匁で買うことも今なくなったが、畳の広さや土地建物の広さも坪を都合良く残して、一升枡もますます繁盛が二升五合(升+升+半升)と言うように、廃れていない。陽暦にしたのは、時間の計測が合理的で科学的でなければ列強に追いつけないからだ。陰陽寮の代わりに天文台を作り、明石の子午線を日本標準時の太陽の子午線にして、根室の先と沖縄とで夜明けと日没の差が歴然としていても、時差を追加しないで統一を果たした。デジタル時代になって寸秒を争う時計の正確さが必要になっても、標準時刻を自前でちゃんと供給しており、列車運行などは本家アングロサクソンの汽車時間よりも遙かに正確なダイヤにした。
 携帯電話の普及は、正確な原子時計を自前で持ち歩いているようなことで、電波時計が当たり前になり、日本放送協会の毎時の時刻放送に頼らずとも一秒をおろそかにしないで時刻合わせができるが、念入りに今でも福島と佐賀の二カ所の山頂からは、正確な時刻を標準電波として送信している。そうした業務を民営化し時刻の管理を外国に委ねかねない上げ潮派の勢いもあったが、幸いにして、月を読む能力がない太陽偏重で、引き潮を上げ潮と読み間違えて自ら潰えてから、日本の時刻の私物化は免れた。飛行機も船も日本時間で運行できる。電話の交換機を敷設するときなど、必ず時刻合わせをするが、交換機をどこの国の標準時で校正しているのかは重要で、アジア諸国で通信設備の交換機の時刻を日本標準時で校正している国があれば、その国は日本を信頼している国だと考えてよい。
●太陽の一日は二四時間であるが、月の一日は二四時間五一分である。月の一ヶ月は二九日と半日で、女性の月経周期である。八月一五日の満月の夜に男女が放縦になることも月の引力が強く影響している。満月の夜に出産率が高まるのは当然である。コンビニの店などが電灯を深夜に照らしているのは、誘蛾灯のように人間を引きつけ、人間の生理を電照菊のように操作する目的である。人間が狼になるのを防止しているのかも知れない。人間の体は毎朝五一分の時間調整をしているのだから、人工の光を浴び続ければ拷問を受けているようなもので病気にもなる。鬱病は朝に元気が出ないで夕方から元気になると言うが、月の干満に人体が反応する一つの調整作用だろう。太陽だけを普遍化させれば、昼夜の境を取り払い灼熱砂漠の環境を最後には作りだす。二四時間営業のグローバリゼーションの危うさである。中東でもラマダンの断食節の設定には月の暦を使う。珊瑚や蟹が大潮の夜に海が濁るほど大量に卵と精子を放出するような、月と生命の営みの関係を黒潮の民は知っている。今もなお、月読尊が厳然と世界を制御しているのだ。(つづく)