黒潮文明論    索引  

               

  55 漂流する物の行方
   (世界戦略情報「みち」皇紀2671(平成23)年9月1日第344号)

●太平洋の海底で大地震があって、大津波が東北地方の沿岸を襲った。沿岸の家屋を呑み込み、港の堤防を乗り越え、命を奪った。自動車が少しの時間浮いていたにせよ、重いものは沈んでしまったが、木材や船などの浮くものは潮の流れに乗った。屋根が浮いて、それに乗って助かった人や動物もいた。海上保安庁は、漂流船舶のリストを発表している。回収できなかった漁船をはじめとする漂流物やがれきの浮遊物は、どこに流れ着くのだろうか。
●大西洋にあるたサルガッソ海は、メキシコ湾流、北大西洋海流、カナリア海流、大西洋赤道海流に囲まれた、北緯25度~35度、西経40度~70度。長さ三二〇〇km、幅一一〇〇kmの海域である。アメリカ大陸の沿岸に生えているホンダワラ類の海藻サルガッスムが浮遊して流れてきて数世紀に亘って蓄積され、「粘りつく」海になった。アメリカウナギとヨーロッパウナギの成魚がこの海域に帰り産卵し、幼魚が成長する場所だ。帆船の時代には、弱い風しか吹かない亜熱帯の、それも無風地帯にある危険な海域とされた。風が吹かないと帆船はこの海域から脱出できずに幽霊船となる他ないから、船乗りに恐れられた。乗組員の食糧を確保するために、飼料を消費する積荷の馬を海に投げ棄てたことから、この海域を「ホース・ラティテューズ」( 馬の緯度、亜熱帯高圧帯)とも呼んでいる。この緯度は大陸では乾燥地帯となって砂漠が形成され、ゴビ砂漠、タクラマカン砂漠、ネバダ砂漠となっている。帆船から蒸気船の時代に移りようやく危険な海域でなくなったが、小型船舶のスクリューに海草が絡む危険があり、現代においても、この海域を横断するヨットの話は聞いたことがない。
●さて、太平洋の場合はどうなっているだろうか。サルガッソ海のように、海水が粘液のようになった話は聞かないが、浮遊したプラスチックなどの破片が異常に集中している海域がある。太平洋ゴミベルト(Great Pacific Garbage Patch、北太平洋の中央西経135度~155度、北緯35度~42度の範囲)と名付けられている。太平洋ゴミベルトの存在はアラスカの研究者が海水表面のプラスチック粒子を測定して、高濃度の海洋ゴミが集まる可能性を予測して確認された。アメリカ大陸からのゴミは五年かかってこの水域に集まるが,東アジアからのゴミは僅か一年で集まってくると言うから、大津波の後の漂流物や浮遊物の動向を観察することは喫緊の課題である。米国は既に、東海岸にあるウッズホール海洋研究所を動員して海洋観測を開始している。
 福島原発の放射線による汚染の影響についてはハワイ大学の調査船に、日米の大学と研究機関からの研究者一七人(内日本人は三人か)の調査団を組成して海洋調査を行なっている。同研究所は、アイスランド沖に南向きの深海流を発見したと発表して、気候変動予測の為の大発見となった。筆者は、紅海の海底での噴出口からの集積物には貴重な鉱物資源が含まれているとする夏学期の講義を、同研究所で受けた記憶がある。私立の運営にもかかわらず、大型の深海探査船や調査船を保有している。海洋をめぐる国際法の世界的なルール作りと海洋資源の覇権を求める米国の主張の裏付けを科学として検証する機関であり、西海岸サンディエゴにあるスクリプス海洋研究所と並んで、米国の海洋展開能力の基盤をなす。
 日本では東京大学大気海洋研究所や海洋研究開発機構、東海大学の海洋研究所などがあるが、玉木賢策東大教授(大陸棚限界委員会委員)がニューヨークで客死したのは残念であった。マリアナ海域で日本ウナギの卵が初めて発見されたが、サルガッソ海同様に、栄養物が集積する状況が太平洋にも不均一ではあるが存在する。大津波で流出した漂流物と浮遊物がどこに終着するのか、海洋国家(うみのこのくに)日本の国策として追求する責任がある。
●日本放送協会のテレビ番組で自然の驚異に圧倒される映像を見た。ベーリング海にザトウクジラが集まり、天武天皇ゆかりの島のかんむりウミスズメなどが海と空とを埋め尽くすように、海中に発生するオキアミを食べるために集まる。日本列島近海を回遊する鯨も鳥もその大群の中に参入して、又列島に戻る。ベーリング海のような狭い海域でも、鯨と鳥を寄せる栄養物の集積があるから、大津波によって流出した漂流物と浮遊物が太平洋の生態系にどのような影響を与えるかについて探求する必要がある。太平洋ゴミベルト地帯の西側のゴミベルトには、支那からのプラスチックや汚物が大量にたまりつつある。大隅半島の佐多岬の先では、支那からの大量の廃棄物が黒潮の流れに浮かんで太平洋に流れていった。日本海は朝鮮半島と支那とロシアからのゴミの溜まり場の海となってきた。エチゼンクラゲの異常発生も、支那における深刻な環境破壊との関連が指摘されている。
 カネに目がくらみ、老朽化した外国製・施工の原子炉を延命運転して暴走させたが、日本が周辺諸国と同罪とならないためには、太平洋の浮遊ゴミと核汚染状況を徹底調査することが、国難の禍を転じて福と為すための必須要件である。 (つづく)