黒潮文明論    索引  

                  

 73 日本の巨木クスノキは黒潮植物
        (世界戦略情報「みち」皇紀2672(平成24)年6月15日第362号)

●長雨の季節にはアメーバ赤痢が多い。冷蔵庫などない時代には、物が腐りやすく、腹下しをすれば唐辛子を切り刻んで卵と一緒に煎って毒消しにした。辛子のことをクシュというが、腐敗防止の胡椒と混同して訛ったのかも知れない。クスノキのクスは食品ではないが、防虫剤になる薬用植物の一つだから、薬からその名がついたに違いない。防虫剤だけではなく、鎮痛剤にもなるし、もう使われないが、強心剤・気付薬にもなっていた。強心(カンフル)剤とは、駄目になりかけたものに刺激を与えて復活させるものだ。クスノキは漢字で楠と当てて、南からの木であることを表現している。台湾、大陸南岸、ベトナムから日本列島に渡来した植物で、学術的には、史前帰化植物というそうだ。ボルネオのことをジャワでは樟(しよう)脳(のう)の島と言うそうだから、クスノキはスンダランドを起源とする黒潮植物に違いない。漢字で書く楠は、大陸ではタブの木のことだというから、樟脳の原材料となるクスノキの方を樟と書いて区別する向きもある。入り乱れてややこしくなることを避けて、本稿では仮名書きでクスノキとする。
●日本最大の巨木はクスノキである。目の高さで測った幹周二四・二メートル(直径七・七メートル)、樹齢一五〇〇年と推定されるクスノキが隼人の故地、大隅国蒲生(かもう)院、現在の鹿児島県蒲生町の蒲生八幡神社に植わっている。日本の巨木のなんと上位一〇傑までが一本の例外を除いて皆クスノキである。第二位のクスノキ巨木(二三・九メートル)が熱海の伊豆佐和気神社にある。伊豆半島には東岸の河津町の来の宮神社と伊東市の葛見神社に全国第一九位同順位としてクスノキがある。佐賀県武雄市「川古(かわご)の大楠」が第三位で、二一メートルである。福岡県築城町の本庄の大楠も同順位である。同じく、鹿児島県伊佐市大口にあるエドヒガンザクラも第三位だ。この桜の巨木は奥十曽(じゆつそ)の国有林で昭和五二年八月に発見され、それまで日本一とされていた山梨県の神代桜を凌ぐ。第六位の巨木の大楠が佐賀県武雄神社の大楠である。同順位の巨木が、福岡県宇美町の宇美八幡宮のクスノキである。本殿左後方の衣掛(きぬかけ)の森の中にある。右手の湯(ゆ)蓋(ぶた)の森にも全国第一六位の大木がある。社叢全体を蚊田の森と呼んでいる。大分県最大の木が、大分市の柞原(ゆすはら)八幡宮のクスノキで、全国順位第八位の巨木である。福岡県朝倉町の「隠家(かくれが)の森」のクスノキは、全国第九位の巨木である。朝倉町には、下(しも)古(こ)毛(も)の大樟、中宮野には志賀様の大樟、恵蘇(えそ)八幡の大樟、同じ恵蘇宿で水神社の大樟がある。高知県須崎市の須賀神社のクスノキが全国第一〇位である。野見湾の「大谷のクス」と呼ばれている。同順位の大楠が、鹿児島県志布志(しぶし)市の安楽の山宮神社にある志布志の大楠である。第一三位が鹿児島県川辺町の飯倉神社のクスノキだ。鹿児島県肝属郡大根占町にある「旗山神社のクス」は幹周一六メートルの巨木だが、環境庁調査のリストには載っていない。関東地方最大の木は、埼玉県越生(おごせ)町にある上谷(かみやつ)の大クスだ。越生の町は、梅林と蕎麦屋で知られている。熊本県三角町上本庄に郡浦の天神クスがある。幹周は、一四メートル九〇センチである。
●三重県第一の巨木が、熊野の先の阿田和にある「引作(ひきづくり)の大楠」である。明治四四年、この付近の七本の杉の巨木と共に切られることになり、これを知った南方熊(くま)楠(ぐす)が柳(やなぎ)田(た)國男に至急便を送って伐採を止めさせるよう働きかけて免れた話は有名だ。熊楠が柳田に送った手紙の中に、「音にきく熊野樟日の大神も柳の蔭を頼むばかりぞ」と和歌をしたためてあったのは愉快な話で、柳田國男も「願わくばこれからの生涯を捧げて先生の好感化力の伝送機たらん」と応じて、熊楠の著書を自費出版し政財界に配付するとともに、三重県知事に阿田和の大楠の助命請願をした。大楠の保存が決まると、熊楠は「三熊野の山に生ふてふ大楠も芸妓の蔭で末栄枝けり」と喜んだ。
●近畿にもクスノキは多い。門真市の三島神社の薫蓋(くんがい)樟は天然記念物に指定され、根元に「村雨の雨宿りせし唐土の松におとらぬ楠ぞこのくす」の歌碑が建っている。門真市内の稗島のクスは住宅敷地内にあり、向かいの堤(つつみ)根(ね)神社にもクスの大木がある。香川県の志々島、鹿児島県高山町塚崎、佐賀県武雄市の塚崎の大楠、静岡県函南町平井の天地神社の大楠がある。鹿児島県吹上町田尻の大汝牟遅(おおなむち)神社の神域には千本クスと呼ばれるクス群があり、巨木も混じる。全国第四四位、熊本県北部町の「寂心さんのクス」と続く。名前は戦国武将の入道寂心の墓の上に目印で植えられたからだ。宮崎県清武町の船引神社の八幡楠が第四七位で、宮崎第二の巨木である(県最大の巨木は椎葉村の十根川神社にある八村杉)。ちなみに宮崎県では、都萬神社の妻のクス、西都市南方神社の上穂北のクス、南高鍋鶴舞神社のクス、延岡恒富町春日神社のクス、日南の田ノ上神社と東弁分・大宮神社の東郷のクス、都城高崎町の東霧島(つまきりしま)神社の幸招大楠、宮崎市大瀬町の瓜生野八幡神社の境内で一六本が群落をなすクスノキなどを「巨樹百選」に入れている。
(つづく)?