黒潮文明論    索引  

                   

 

   109 ヘイトスピーチに堕すなかれ
         (世界戦略情報「みち」皇紀2674(平成26)年2月15日第398号)

●近ごろヘイトスピーチという言葉が巷間に喧し(かまびす)い。まだ横文字のままだから、日本語になりきっているわけではない。外国語が日本文化に組み込まれてしまう前の段階では、外国語をそのまま片仮名書きにして使って、なじむかどうか時間をかけて吟味彫琢する。試練に耐えた語だけを国語化するのが、日本語の特徴である。漢語もそのまま支那音で読んでいる間は、日本語の血肉とはならない。あからさまに片仮名日本語として区別しながら、相当時間が経って平仮名で訓をつけて初めて国語となったことを宣明する。こうした中間の表現手法を持つことは、外国文化を換骨奪胎して土着化させるための塗炭の苦しみの一つで、外国文化受け入れに際しての選別・濾過過程であり、民族の智恵でもある。慈覚大師円仁が、遣唐使として唐の文明の上澄みを取捨選択して日本に持ち帰ろうとした際の苦心惨憺についてはすでに一章を割いて詳述した。流行のヘイトスピーチは、日本と支那、韓国との間で政治的対立が激しくなり、お互いに悪口を応酬することになったので、日本側が相手の悪口を言う場合の、つまり罵詈雑言を中韓に浴びせる場合の表現を、ヘイトスピーチと言うらしい。相手の悪罵はヘイトスピーチとは定義していない。日本に対して悪罵の限りを尽くした表現ぶりに対抗して使うのだから、いわば売言葉に買言葉の関係である。買言葉の部分である日本側の主張の中にヘイトスピーチが含まれることになる。情報戦の中で言葉の応酬があったときに、日本側は当初、黙殺とか何とか言って黙っていて、相手が段々悪態の度を上げてくるとそれに反撃するために、民族的には慣れない悪態を言葉で表現する無様(ぶざま)を見せることがあるので、外国語でヘイトスピーチと表現して、定義づけを曖昧にしているのかも知れない。もともと日本文化には、罵詈雑言を吐露することはほとんどないから、ヘイトスピーチのように敵方を痛罵して蔑ろ(ないがし)にするような強烈な表現はない。「糞味噌に言う」などの下卑た表現があるが、それでもせいぜい悪態をつくことである。隣国の権力者から悪し様に言われて反論するために、日本人の言霊(ことたま)の力を忘れて、別の表現で言えば相手の土俵で反論しているのがヘイトスピーチである。日本語の世界には、悪態をつく表現が恐ろしいほどに少ない。呪詛することはあっても、おどろおどろしいのは、せいぜい闇に紛れ藁人形を釘で打ちつけるぐらいのことである。日本では、墓を暴いて遺骨を打ち砕いてまき散らして恨みを晴らすなどとの怨念を晴らすやり方はあり得ないが、支那では汪兆銘の墓が共産党に暴かれてしまっている。日本に協力したとして先々代くらいまでの族譜を遡って財産を没収して罰することを現代の韓国政府が実行したように、恨みは末代までと固執する文化もある。大陸の文明は情け容赦がない。しかし、その手法と同列で相手に取り込まれてヘイトスピーチをするようでは、慎み深い日本文明の作法に反する。
●日本語では、汚い表現というが、ヘイトスピーチは汚らわしいばかりだ。清明さは一切なく、手練手管の要素が強調される。ヘイトスピーチには情け容赦は全くない。最近、雨傘をたたまずに東京の混雑した電車に乗車していた支那人が、通学途上の小学生からやんわりと傘をたたんだらどうかと注意され、滴が垂れて迷惑をかけた筈の乗客からもすみませんと謝られてしまったため、直接文句でも言われようものならメンツをなくしたとして大騒ぎをするのが特徴である支那人であっても、自分の間違いを棚に上げて騒ぐことをしなかったとの話を読んだが、同じ土俵で品のない言葉を使い応酬することは、メンツ民族はいよいよいきり立つので得策ではない。フランスのマンガ展覧会で日本を中傷する謀略が仕掛けられたが、単純で自家中毒に陥るような無骨な反論ではなく、ドゴール将軍以来のフランスの、自立・自尊の戦後史を称揚するようなエレガントな反論をして、韓国をフランスと離反させることが肝心である。先代の大統領の時代にマルローの『希望』やオーウェルの著書を税関が没収したことも指摘するべきだろう。チャプリンのように、独裁者を笑い飛ばすことも必要だ。
●冬季オリンピックがロシア黒海沿岸のリゾート都市ソチで開催されている。絶滅危惧種となったユキヒョウがソチの動物園にいるらしく、プーチン大統領は幼獣と戯れるようなマッチョの写真を公開していた。日本が贈呈した秋田犬を連れて安倍総理を出迎え話題になったが、首相が犬の頭を撫でると、プーチン氏は噛みつく可能性もあると注意喚起したと言う。日本犬はキャンキャン鳴かずにここぞの時に噛みつくから、新華社がこの歓迎行事の顛末に敏感に反応したのである。韓国の反日勢力が日本の国鳥の雉を殺(つぶ)して血だらけにしているが、そうした憎悪は日本にはない。黒潮文明は喜怒哀楽を押し殺して哀号の叫びも長くは続けない。しかし黒潮の民は、アモックのように見境なくその怒りを噴出させることがある。ヘイトスピーチが言霊になれば、わが身に反ね返る恐れがある。避けなければならない。(つづく)