黒潮文明論    索引  

                   

 

 117 メタンハイドレートの可能性
     (世界戦略情報「みち」皇紀2674(平成26)年6月15日第406号)

●二○一三年一月二七日、掘削調査船「ちきゅう」が世界初のメタンハイドレート海洋産出試験を行なうために駿河湾奥の清水港を出港した。試験の実施地点は、渥美半島から志摩半島の沖合の北緯三三度五六分、東経一三七度一九分の地点で、水深が八五七~一四〇五メートル。東部南海トラフと呼ばれる海域の一部である。一九九六年から二○○四年までの調査で、この地点にメタンハイドレートが濃縮している地層が一六あることが判明していたので、海洋産出試験実施の候補地となった。準備作業が五年がかりで進められ、平成二一年度に基本計画の検討を開始してから、二年後に試験実施地点を決定した。掘削機器やモニタリング装置の製造が行なわれ、平成二四年度末の一月から三月にかけて海底の坑内に機器を下ろし実際に地層を減圧してガスを出す作業が実施された。石油や天然ガスの場合には、地下で液体や気体の流体として存在するから、坑井を掘削して自噴する分をエネルギー資源として使っている。だが、メタンハイドレートの場合は、地下に固体として存在するために、約一トンのハイドレートから取り出せるエネルギーはドラム缶一本分で、経済的に成り立つ生産方法を見つけ出す必要があり、しかも環境・漁業などへの影響を最小限にする必要がある。海底面下で固体のまま採掘するのは費用がかかりすぎるとの指摘があり、水とメタンガスに分離し石油や天然ガス同様に生産できる分解採取の方法がまず追求された。二〇〇二年と二〇〇七~八年にかけカナダ極地の永久凍土層の下からメタンハイドレートを採取する実験が行なわれ熱刺激法と減圧法の両方の実験を試みた結果、減圧法で継続的にハイドレートを分解することに成功していたから、減圧法が海底面下でも同様にうまくいくのか確認する必要があるというのが、海洋産出試験を実施した理由の一つである。メタンハイドレートの分解は吸熱反応であり、エネルギーを与え続けなければ分解が進まないが、減圧法は人工的に熱エネルギーを供給することなく、ハイドレートの温度と地層の温度の差の熱でハイドレートを分解する方法であるから、そうした熱が効果的に集められるのか、つまり、海面下の地層の中で、熱と流体との動きを制御できるのかとの課題があった。従来は、減圧法の使用は困難であると考えられ、カナダでの陸上実験においては、温水循環による熱刺激法が試みられたが生産量は僅かに留まり、一方で同時に行なわれた小規模な減圧実験で、地層に浸透率があることがわかり、減圧法への期待が高まった。カナダにおける二回の陸上産出試験でも一定の成果があったため、減圧法が採用されたのである。三月一二日に減圧を開始して、最初のフレアに着火して、以降一八日まで、ガスと水とを生産し続けた。三月一八日に至り、ポンプの回転の負荷が高まり、船上でポンプから砂が出て捌ききれなくなり、また当日の夜から大荒れの天気予報であったので、ガスが出てこないように坑内のガスと砂を浚って圧力を回復させる作業を行ない実験を終了した。減圧法で毎日二万立方メートル、六日間連続でメタンガスが生産できることは証明できた。
●さて、メタンハイドレートとは、メタンと水分子からなる化合物であり、見た目は氷状で、常温常圧ではメタンと水とに分解する。メタンガスに火をつけると燃えるので、燃える氷と呼ばれる。燃えた後には水が残る。メタンハイドレート一立方メートルには約一六〇~一七〇倍の体積のメタンガスが含まれているが、低温高圧で安定的な物質であるため、天然のメタンハイドレートが存在できるのは、永久凍土地域の地下や、水深五〇〇メートルより深い海底に限られる。一九三○年代にシベリアの高圧のパイプラインがメタンハイドレートで詰まる事故の原因として注目されていた。メタンは地下の有機物から生成され、熱熟成起源と微生物起源に大別できる。熱熟成起源のメタンは地下深部の熱によって生成される。これは多くの天然ガス田と同様であり、カナダ陸上試験の時のメタンも、日本海の佐渡沖のメタンも地下深部の熱起源である。今回の東部南海トラフ海域のメタンハイドレートは、メタン生成古細菌によって生成されたもので、水溶性のガス田に多いメタンガスである。一九六五年にメタンハイドレートの生成が理論的に証明され、一九七九年に中米の海溝でサンプルが回収された。日本は、一九八九年に奥尻海嶺で、翌年に四国沖の南海トラフで回収に成功している。
●二〇一八年には商業化のための技術を確立し、日産一〇万立方メートル、つまり試験時の五倍の生産があれば、経済的な採算も達成できるという。現在のところ、太平洋側の海域での海底掘削には掘削船の費用だけでも一日当たり五〇〇〇万円の経費が掛かるが、今後は倍増するとの見方もある。原子力から再生エネルギーへ転換するまでの繋ぎのエネルギー資源として考えてもなお、メタンには炭酸ガスの二一~七二倍の温室効果があるとして、地球温暖化防止の観点から採掘に反対する環境活動家の動きもある。(つづく)