黒潮文明論    索引  

                   
 

 119 日本海表層型メタンハイドレート
        (世界戦略情報「みち」皇紀2674(平成26)年7月15日第408号)

●太平洋側の南海トラフと呼ばれる海域で行なわれたメタンハイドレートの掘削には、すでに五〇〇億円以上の費用が投下されている。一〇年で実用化までに至るかどうかについて議論があり、減圧法と呼ばれる採取方式自体に疑問を呈する向きもある。更に、海底油田の採掘方法を応用しているので三次元探査の技術を外国に依存せざるを得ない状況にあり、戦後の安全保障体制同様に、エネルギー資源確保の為の死活的な技術を外国に依存するという怠慢から、海底油田の採掘は、国産技術の開発が遅れるかそもそも欠如しているので、メタンハイドレートを深海底から採取しようとすることは技術的にも得策ではないとの指摘もある。地球深部への掘削を目的に据えて、掘削深度は、水深二五〇〇メートルの深海域で、地底下七五〇〇メートルまで掘削する世界最高の掘削能力があり、マントル物質や巨大地震発生域の試料を採取することとして、「ちきゅう」と壮大な名前をつけた五万九五〇〇トンの掘削船を建造している。確かに、二○○六年から翌年にかけてケニア沖の水深約二二○○メートル、海底下二七○○メートル、オーストラリア北西沖で水深約五〇〇メートルで、海底下約三七○○メートルと水深約一〇〇〇メートルで、海底下約二二○○メートルを掘削した実績を残してはいるが、マントルに到達するという更に遠大な目標を達成する情熱に欠けているとの低評価があるのが実態である。現実に、昨年の南海トラフにおけるメタンハイドレート採取のための掘削は一〇〇〇メートルの深度の海底を数百メートル程度掘削しているに過ぎない。福島第一原発が東日本大地震の後の津波で電源を失い、水蒸気爆発があり暴走した後に、原子力燃料を早期に回収して日本海溝に投棄する案が提示された。原子力廃棄物をマントルに封じ込めれば、長い時間をかけて地球の内部に取り込むことができるという案であった。だが、マントルまでの掘削を可能にするような画期的技術開発は国運を賭けて追求すべきであるとの深刻な提案にも拘わらず、また深海底掘削技術に対する期待が高まったにも拘わらず、こうした期待に応えて挑戦するような体制に今はないとの指摘が専らだ。巨額の予算を使って政府主導で試掘を行なっている割には、目標設定が安易すぎるのではないかとの批判もある。そうした批判が図星のように思える実績しかないことは残念なことである。
●オホーツク海や日本海では、海底下数メートルの浅い部分にメタンハイドレートが埋まっていることが確認されており、メタンハイドレートの結晶を引き揚げるなどすれば、太平洋側に比べると遥かに低コストで採取できるとの有力な指摘がある。巨額の予算がつく太平洋側の研究に対して、日本海側の研究には、何と数百万円という微小な予算しか配分されて来なかったのは、石油利権にまつわる、メタンハイドレートの採取自体に反対する政治家、学者、企業の勢力があることが原因であるとする見方も根強い。そうした状況の中で、明治大学ガスハイドレート研究所が、昨年の六月初旬から六週間に渡って広域調査を行ない、引き続いて今年も、独立行政法人の産業技術総合研究所とともに、日本海の「表層型」メタンハイドレートの資源量把握のための調査を、芙蓉海洋開発所有の第七開洋丸の船底に装備した音響観測装置を用いて開始したことは注目に値する。ちなみに、第七開洋丸は沖縄水産高校の実習船「海邦丸」を二○○○年に改装した船で、一九八六年に内海造船(広島県尾道市)の瀬戸田工場で進水した長さ五四・二メートル、幅九・二メートル、総トン数は四九九トンの小型の中古調査船で、明治大学の研究所のホームページには「船の調査の最大の敵は悪天候です。調査船がまっすぐに走れなくなるほど風雨が強くなると観測データの信頼性が落ちるので調査は休止します。最悪の場合、避難入港することもあります」と健気な決意が書かれている。二○○四年の夏に、東京大学を中心とするチームが上越沖で初めての集中調査を行ない、メタンハイドレートの塊を多数回収することに成功したことが特筆されるが、その際に、メタンプルームと呼ばれる気泡の柱も多数確認されている。メタンプルーム直下の海底付近にピストンを打つ方法で容易に結晶を採取できることが実証されたとしている。メタンハイドレートは、凸地状に海底の土が盛り上がった「マウンド」と呼ばれる場所に集中して存在する。だから、探査ではマウンドを発見するのが一番重要なのである。このマウンドには、チムニーと呼ばれる地層を通ってガスが海底下一〇〇〇メートルから数十メートルの表層に湧き上がり、それがハイドレートの固い塊となって集積し盛り上がっている。その後、能登半島西方沖、秋田・山形県沖にある最上トラフ、隠岐諸島の周辺海域が有望視され、上越沖、秋田・山形沖では、一昨年就航した大型船「白嶺」(六二八三トン)を使い、海底下一〇〇メートルまで掘削して埋蔵量を把握するとしている。北海道日高沖も、二○一四年度の広域地質調査の対象としている。(つづく)