かぐや姫の誕生     索引  

                    

       18 ウズベク語の不思議 10

 日本語と酷似している助動詞
   (世界戦略情報「みち」皇紀2667(平成19)年6月1日第251号)

先日、思いがけず韓国を旅行した。親しい友人がラッフルで大当たり一等賞をとり、カップルでビジネスクラス往復チケット付ソウル・ロッテホテル宿泊券(二泊)を得る幸運に恵まれ、私はそのお福分けに与ったのである。
 釜山生まれの日本語の上手なガイドさんとは、会ってすぐ仲良しになり、三日目ともなるとすっかり打ち解けて、彼女はかねてよりどうしても理解できないという質問を投げかけてきた。

  「日本人はなぜcoffeeを〔コー・ヒー〕というのか。Mcdonaldsを〔マ・ク・ド・ナ・ル・ド〕と発音するのか? 韓国では  coffeeは〔コッフィー〕だし、Mcdonalds は〔メクドウナルズ〕と発音する。Coffeeは〔コッフィー〕だが〔コー・ヒー〕で  はない。最初に〔コーヒー〕という日本語を知った時から今も、coffeeを結びつけることがどうしてもできない。どう  してこうなるのか」

というものだった。彼女にしてみると、日本語のガイドをするために、彼女にはとても英語とは思えない「日本語版英語」まで覚えなければならないのが腑に落ちないらしい。
「日本語には、音が少ないからねえ」
 それでもこの音が一番近いでしょ、と言いながら、さながら、言葉の伝わりの原点に触れた思いであった。
 どの言葉も音が最初にあり、音と音が伝わりあったときには大なり小なり、この「ずれ」があったに違いない。いろんな事柄から、今に残る日本語(古語・方言を含めて)のいつかの段階で、少なからず関わりがあったであろうと思われる韓国経由の音がこんなに違うからには、これが日本に伝わった時点で、すでに単純な音をもつ人々が日本に広く住んでいたのであろう。
 日本人から見るとこんなに似ていると思えるウズベク語が、音の多様なウズベク人から見ると似ているどころか全く別の単語と識別してしまうことと同じ状況のcoffee /コッフィー/コーヒーである。ところが、実際は、コーヒー=コッフィーー=coffeeなのであるから、日本語から見て似ていることは、間違ってはいないのではないかと再び思うのである。
この勢いに乗って、助動詞を見てみよう。日本語では、細やかに助詞・助動詞と分けられているが、日本語文法から離れると両方とも接尾語として分類することができる。接尾語としてウズベク語と日本語をつき合わせてみると、日本語の助動詞に当たるほとんど全てに音と意味のよく似たウズベク語の接尾語がみつかる。標準語の助動詞は二〇個ある(角川国語辞典による)。そのうち一九個にウズベク語との関わり(近い音と意味)が見られる。日は日本語、ウ はウズベク語を指す。

  ① 日 ― う(推量・意思) 例: 行こう・(~で)あろう
     ウ ― アル(推量)   例: ユラル(行こう)/ボラル(~であろう)

  ② 日 ― させる(使役)  例: 来させる
     ウ ― セン(使役)   例: ケルセン(来させる)

  ③ 日 ― しめる(使役)  例: 切らしめる
     ウ ― セン(使役)   例: キイセン(切らせる)

  ④ 日 ― せる(使役)  例: 切らせる
     ウ ― セン(使役)  例: キイセン(切らせる)

  ⑤ 日 ― そうだ(様態・伝聞)   例: 帰りそうだ
     ウ シュンダイ(様態・伝聞)   例: シュンダイ(そのようだ)

  ⑥ 日 ― た・― だ(過去)    例: 帰った
     ウ ―ダ(過去)          例: カイッダ(帰った)

  ⑦ 日 ―だ(断定)    例: 十歳だ
     ウ ―ダ(断定)    例: オン ヨシュダ(十歳だ)

  ⑧ 日 ―たい(希望)    例: 来たい 言いたい
     ウ ―アイ(希望)     例: ケライ(来たい)/エッタイ(言いたい)

  ⑨ 日 ―たがる(希望)   例: 帰りたがる 来たがる
     ウ ―アルカン(希望)  例: カイッタルカン(帰りたがる)/ケラルカン(来たがる)

  ⑩ 日 ―です(丁寧な断定)  例: 母です
     ウ ―ディル(強調・断定)  例: オナムディル(私の母です)

  ⑪ 日 ―ない(打ち消し)    例: 着ない
     ウ ―マイ(打ち消し)    例: キーマイ(着ない)

  ⑫ 日 ―ぬ(打ち消し)    例: 来ぬ

  ⑬ 日 ―まい(打ち消し・推量・意志)   例: 来るまい/着まい
     ウ ―マイ(打ち消し)           例: ケルマイ(来るまい)/キーマイ(着まい)

  ⑭ 日 ―ます(丁寧)    例: 着ます
     ウ ―マズ(丁寧)    例: キヤマズ(着ます)

  ⑮ 日 ―よう(推量・意志)      例: 来よう
     ウ ―ユ(推量)・― ウ(推量)  例: ケラダユ(来るだろう)/ヨシュウ(若いだろう)

  ⑯ 日 ―れる・―られる(受身)    例: 着られる
     ウ ―イル― ・ ―ル―(受身)  例: キイラダ(着られる)

  ⑰ 日 ―れる・―られる(尊敬)    例: 着られる
     ウ ―ラル(尊敬)           例: キヤダラル(着られる)

  ⑱ 日 ―れる・―られる(自発)    例: 思われる
     ウ ―ルー ・―アル―(自発)   例: オイラル(思われる)

  ⑲ 日 ―れる・―られる(可能)    例: 着られる  帰れる
     ウ オル(可能の動詞の語幹)   例: キヤオル(着られる)/カイッタラオル(帰れる)

  ⑳ 日 ―らしい(推量)           例: 若いらしい
     ウ ―ロック(性質の弱い度合い)  例: キジルロック(赤っぽい):この「ク」は〔kh〕の音である

 ①~⑳の中で3個、ウズベク語との「ずれ」をさらにはずれている言葉がある。⑪の「ない」と⑫の「ぬ」、⑳の「らしい」である。まず、「ない」については、日本語においては、しばしば、「m」と「n」の混同が古くからあるゆえに「ない」=「マイ」と考えてもよいのかもしれない。例えば、「らむ」=「らん」、「む」=「ん」、「むず」=「んず」など。実際、ウズベク語で「書くな!」という言葉は「ヨズマ!」(ヨズは書くの語幹)である。つまり日本語の「~するな」の「な」はウズベク語では「マ」に変る。「ただ、日本語の「まい」には、「打ち消し」だけでなく「意志」や「強調」の意味が加わる。万葉集に出てくる「なふ」のような「打ち消し」があることを考えると、当時の関東には、ウズベク起源以外の言葉も並存していた可能性が窺われる。
 ついで、⑳の「らしい」であるが、「~ロック」の意味は「多少、~がかった」ということから「推量」とようやくながら意味が繋がる。「ク」は「kh」の音であり、これが古語において「shi」に変わるのは常に見られ、「らし」となる。「らし」は上代・中古にはあるものの、中世・近世には逆に登場しなくなること、ウズベク語との関わりが確かにありながら、標準語「らしい」は「~しい」の形であることから、ウズベク起源であっても特別な背景を持つものと思われる。この類には「かなしい」という言葉もあり、これについては、別項において考えることがある。
 ⑫の「ぬ」は、ウズベク語からは取り付く島のないたった一つの助動詞である。どうも無関係と思われる。
 以上のように、一例を除きほとんど全ての現代日本語の助動詞が、ウズベク語フェルガナ方言の接尾語の中に、一定の音の「ずれ」をもちながらも、関わりを見出すことができる。

 【備考】
 *ウズベク語には人称・単復による変化がある。①~⑳のうち、⑧、⑱は一人称・単数、⑤、⑩、⑬は全ての場合、⑭は一人称・複数、⑲は語幹、その他は全て三人称単数の形である。
 *発音については、「ずれ」を一つに
まとめカタカナで記しているが、ウズ
ベク語の発音は多様であることを特記したい。特に、弱い「и」を持つときには、表記不可能である。耳に近い音として左のようにカタカナで表記した。

「ди」も「да」も「ダ」
「син」は「セン」
「миз」は「マズ」
「」(kh)も「K」も「ク」
「л(l)」も「р(r)」も「ル」

 また⑨「たがる」で、「アルカン」は本来「ар экан」(アル エカン)である。
 日本語に「~してきました」という表現があるが、ウズベク語にも同じ意味の言葉に「~ケルモックタ」がある。「ケル」は「来る」であって、この「ク」(kh)は古語ではいつも「シ」に変わる。つまり「~ケルモシタ」となる。音は「ずれ」ながら、まったく同じ表現だと思えてならない。さらに、この「~モシタ」が「~ました」にも「~申した」にも繋がる気がするのだが、これなどは「ずれ」過ぎだろうか。(つづく)