かぐや姫の誕生     索引  

                    

       19 ウズベク語の不思議 11

    「コーフェガナ!」
   (世界戦略情報「みち」皇紀2667(平成19)年6月15日第252号)

狂言「茶壷」の朗々たる声と激しい所作を観た後で、能「杜若」のゆったりとした動きと詞章に触れると、つい考えてしまう。動きと声の対比は巧妙ながら、この二つの言葉遣いの違いは一体何だろう。両方とも、同じ時代に使われていたはずである。能のテーマは架空の世界のファンタジーであるし、狂言は現実の世界をテーマにしていることから、どちらかといえば、狂言の言葉が当時の話し言葉に近いと思われる。一方、能において、ある流派では、数年置きに厳しく音のずれをチェックして来ているそうで、五百年以上も前の音を窺い知ることができるなど、世界にも数少ないことではないだろうか。能の言葉と狂言の言葉を見れば、同じ頃、同じ京都で出現、発展したものであるにもかかわらず、狂言がより関東の言葉に近いことが、興味深い。
 さらに時空を超えて、メソポタミアはシュメールの時代に想いを馳せよう。シュメール人は世界で最も古く文字を使った人々としてよく知られている。その始まりは交易のための絵文字であったらしい。粘土がふんだんにある土地柄からか、まず二センチ位の小さな粘土塊に絵文字を描いて交易に使ったようだが、ついでその絵文字粘土塊をそのまま使うのではなく、スタンプとして使うことへと発展した。さらに、葦の茎を削って一端を尖らせその茎の稜線とともに使うことにより、絵文字は楔型文字へと移行していったといわれている。
 楔型文字により、多くの文学作品が生まれている。今から約四千年ほど前のことである。中でも世界で一番古い文学の一つ「ギルガメシュ叙事詩」は有名で、その中には「ノアの箱船」の話の原型や、それによって不死を得たジウストラ(=ノア)などが登場する。ギルガメシュはシュメールはウルク市に実在した王様である。
 なぜここでシュメール人が登場するかといえば、彼らの言葉シュメール語が膠着語の性質をもっており、日本語とよく似ているからである。つまり、シュメール人は我々と同じく接続助詞、いわゆる「て、に、を、は」を使って、文章を綴っていたのである。
 ここでもう少し、どのように似ているか、その特徴を『楔型文字の初歩』(飯島紀著・泰流社)から抜き出してみよう。
 まず、語順は同じである。ついで、

  ①bとmの交換がある。
  ②lとrの区別があまりできない。
  ③mとnの交換がある。
  ④生物、無生物とで使い分けがある。
  ⑤接続詞の省略。例えば、アン(天)+キ(地)=アンキ(天地)
  ⑥繰り返しで複数を表わす。例えば、クル(国) ― クルクル(国々)
  ⑦繰り返しで強調を表わす。例えば、ガル(大きな) ― ガルガル(大きな大きな)

その他にもあるが、ここでは割愛する。
さて、シュメール語と日本語の類似も看過できないが、ウズベク語と日本語の助詞の繋がりははるかに濃厚だと思われる。
 言葉はまず音である。次に列挙する例は、声を出して訓んでみてほしい。そして、両語の違い=「ずれ」が許容範囲かどうか判定していただきたい。できればこれまでのすべて(形容詞・動詞・助動詞)の例について同じことをお願いしたいと思う。
 「角川国語辞典」によれば、日本語の助詞は文語・口語合計七四個存在する。そのうち、ウズベク語との関係では、口語のみに使われる助詞二六個のうちの一二個、文語と口語両方に使われる助詞三一個のうち一三個、文語のみに使われる助詞一七個のうち三個、合計二八個の助詞が何らかの形で繋がりが見られる。今までの流れから考えても当然なのだが、ウズベク語と日本語の口語との繋がりは只事ではない。

★日本語の口語にのみ使用される助詞(二六個中一二)とウズベク語の比較

  ① 日 から(原因・理由)
     ウ カラブ(~のせいで・~から)

  ② 日 ぐらい(程度)
     ウ カライ(~くらい・どの様な ― 重さ・長さ・健康・一般)

  ③ 日 だけ(程度・範囲の限定)
     ウ ダキャ(~にだけ)    例……シュンダイダキャ(その様にだけ)

  ④ 日 だって(でも、~にしても)
     ウ ~ダ ハットー(~でさえ・~においてさえ)

  ⑤ 日 だの(列挙)
     ウ ダン(~から。~ダン~ダンと二つ重ねて用い、そこから列挙の意味がでてきた)

  ⑥ 日 ので(順接)
     ウ ~ディムダ(主語が私の場合、~したので)

  ⑦ 日 ばかり(限定)
     ウ ファカット(~だけ・限定)

  ⑧ 日 ほか(以外の意)
     ウ ホカゾ(他に)

  ⑨ 日 ほど(程度)
     ウ フッダ(ちょうど~のように・あたかも~のように)

  ⑩ 日 もの・もん(感嘆・理由)
     ウ ~マン(主語は私で感嘆・理由・強調)

  ⑪ 日 ものか(反語)
     ウ ~マンマ(主語は私・反語)

  ⑫ 日 やら(疑い・不明・列挙)
     ウ ヤラル(ヤ―疑問・驚き、ラル―複数)

★日本語の文語・口語両方にある助詞(三一個のうち一三)の比較

  ① 日 か(疑問・感嘆)
     ウ カイ(疑問・ただし接頭語)
     マ (疑問)

  ② 日 さえ(例示して他を暗示)
     ウ エサ(例示して他を暗示)

  ③ 日 し(事柄の列挙)
     ウ ~シ~シ・~イシ~イシ(動詞につき、~し~し)

  ④ 日 て(文の中止・補助用言)
     ウ イブ(~して・動詞の語幹が t で終わると、~ティブ)

  ⑤ 日 で(手段・場所・原因・基準)
     ウ ダ(~で・手段・場所・原因・基準)

  ⑥ 日 とも(強い断定)
     ウ トモン(面・方向・場所)  例……シュ(その)トモン = そうとも(の意)

  ⑦ 日 な(禁止)
     ウ マ(禁止)

  ⑧ 日 に(時間・場所・根拠・目的・帰着点・相手)
     ウ ニ(目的)

  ⑨ 日 の(連体格・連体修飾語の連文節の主語)
     ウ ネング(~の)

  ⑩ 日 へ(方向・帰着点)
     ウ ギャ(方向・帰着点)

  ⑪ 日 も(逆接)
     ウ アンモ(逆接)

  ⑫ 日 よ(感嘆・呼びかけ)
     ウ ユ ・ ヤ(感嘆・呼びかけ)

  ⑬ 日 から(起点・経由点・比較)
     ウ コラ(比較・~に比べて)
     カラガンダ(~より見て、~に比べて)

★文語にのみ使われる助詞【参考】(一七個のうち三)

  ① 日 かな(感嘆)
     ウ カナカ(いかに、どのように)
     カンダイ(何と~)

  ② 日 がな(希望)
     ウ ガナ(ただ~があれば)

  ③ 日 すら(~だけでも・~さえ)
     ウ スラ(全く~〈ない〉)

右の②「がな」については、鮮烈な記憶がある。ある日、ファティマ先生が「コーフェガナ!」とおっしゃった。意味を聞いて吃驚仰天した。
 何と! これは、「ただ、コーヒーがありさえすればなぁー……」という強い願望の表現だったのだ。ほんとうに、日本語とまったく同じではないか。
 また①「かな」についても、面白い推測ができるのだが、これについては、「かなし」とともに項を改めて考えることにしたい。
 さて最後に、助詞ではないが、意味や音が少しずれながらも、関東方言とつながる表現をみていただきたい。

  *「~しちゃった」と「~ヤプタ」   例 帰っちゃった=カイッチャプタ
     (完了)    (現在進行形)

  *「~かい?」と「カイ~?」    例 どこかい?=カイ エルダ? エル(土地)
    (疑問)  (疑問・どんな)

  *「~してください」と「~イブ コイサンギス」 例 言ってください=エッティブ コイサンギス

  *「よかった」と「ヨッカーダ」(気にいるの意)(好むという動詞の三人称形)

  *「ご覧」と「カラング」「コラング」(両方とも「見る」の命令形) 例(見て)ごらん!= コラング!
  来てごらん!=ケリブコラング!

 お勧めは「エッティブ コラング!」である。ぜひとも声に出して、何度か言ってみてほしい。すると、不思議なことに、「言って、ご覧」と聞こえてきませんか? そう、ウズベク語でも、そういう意味なのです。(つづく)