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       23 ウズベク語の不思議 最終回

   風雪一万年の音のずれ
 (世界戦略情報「みち」皇紀2667(平成19)年9月1日第256号)

●日本語とウズベク語、また関東方言とフェルガナ方言は、奇しくも両方ともそれぞれの現代国語(標準語)となっているため、古い時代からの言葉、つまり方言同士の比較がそのまま国語の比較となっている。はっきり分かることは、フェルガナ方言は日本語古語(畿内由来の言葉)とは似ていない。これまで両者の動詞、形容詞、助動詞の活用形(つまり接続語尾のついた形)および助詞について、その関わりの深さを見、さらにこの関わりを使えば日本語における幾つかの謎も解けることを見てきた。ここでは、これ以外の品詞である名詞、副詞のいくらかと動詞、擬態語について、その驚くほどに似通うところをお目にかけたい。
 その前に、ある気になる一語について少し猶予を頂きたい。それは古語の助動詞「べし」である。形容詞の形で活用し、関東方言では「べい」となる。すでに、形容詞の項で見た流れから、「べしい」という形が存在しないからには「寒い」と同様、関東出自と思われる。関東では、「べい」「べ」という形が残ってはいるが、これは標準語には採られず、代わりに「べきだ」という形が見られる。だが、これでは意味が限られるためか、「べし」という古形が今も使われる。関東出自であれば、ウズベク語に似た形がないかと見れば、「ーдек」(ーデク)という形があり、意味は「丁度―の様な」「―らしい」である。例えば、「オダム(人間)デク」は「人間らしい」「人間のような」という意味になる。果たしてD音からB音への転換が起きたか否か、もはや確認はできないが、このような所に繋がりがあろうかと考えている。
さて、乱暴な言い方をすれば、新しく言葉が伝わり合う時には、そこには「音」と「意味」以外何もない。そして、音は必ず「ずれ」る。ここでは、以下に挙げるウズベク語の単語と関連すると思われる日本語の諸例をできれば声を出してお読みいただき、その語感の近さを楽しんでいただければ、と願うものである。

【凡例】 

  ウズベク語……意味……関連日本語

  〈名詞〉
  ガラ……穀物……もみがら
  ホク……ほこり・灰……ほこり
  ケツ……終わり・端……ケツ
  デブ……巨人……デブ
  ショリ……米(玄米)……シャリ(白米)
  グルチ……米(白米)……ウルチ
  オタ……父……男
  オナ……母……女
  キイーム……着物……着物
  グモン……疑い……疑問
  アタマン……頭目・首領……頭
  ケル……毛……毛
  ジムジマ……模様・シワ……シマシマ・縞模様
  ニホール……柔らかい若芽……和草(にこくさ)
  ブトック……太い枝……太い
  トグ……山・岳……岳(たけ)・峠
  キスク……短い時間……かすか
  シラ……汁・液……汁
  シシ……腫物・成長(胸のふくらみ)……肉
  クチョック……抱えること……くっつく
  グッサ……悲哀・悲嘆……ぐっさり(と胸にささる)
  ハムロフ……伴侶……伴侶
  チャマ……推測・見当……ヤマ
  イック……粋・趣……粋

  〈副詞・その他〉
  ハックリ……真実の・公正な……はっきり
  マイリ……まあいい……まあいい
  ホカゾ……~等……他に
  ヤシャ……よくやった・ブラボー……ヨッシャ
  ヤフシ……良い……よし
  チャクチャク……明るい・陽気な……チャキチャキした
  ボットボット……度々……もっともっと
  オズオズ……少しづつ……おずおずと
  アザバザ……故意に……わざわざ
  アライバライ……何かあれこれ……洗いざらい
  バラバル……同じ・等しい……ばらばら
  ドウフ……一挙に……どっと
  イミジミダ……静かに……しみじみと
  アフモック……愚かな……アホ
  アトロフダ……まわりで……辺りで
  アピルタピル……あわてて……あたふたと
  ハイ……よし・さあ・それで……ハイ
  ソング……後で……(~の後)すぐに
  ~ドシュ……~同士……~同士
  アナーウ……それ・そこの……あのぅ
  ハー……ハイ(返事)……はい
  イヨック……いいえ……いいや
  アラ~……或る~……或る~
  マンマン……自信のある様子・自惚れ……自信満々
  ガング……驚きあきれる……ガン(ショックを受けた時)
  ジッデイ……真剣な・重い(病気など)……重大な
  チン……真の・真実の……真(しん)の
  コフナ……古風な・古い……古風な
  トサッダン……とっさに……とっさに
  ウン……同意を表わす音……ウン
  ~ボズ……~する人……~坊主
  ブッツ……全き・まるまる……ブツ切り
  クルック……からりと(乾いた)……からりと
  プク……空洞の・ぽかんとして……ぽかん
  ズイッチ……ぎっしり・ぴったり……ぎっしり
  ウンダ……それなら……うんだあ(それなら)
  スズック……物憂い・あだっぽい(目)……すずしい目
  ウゾック……遠い……うとい
  ~ギ[イシュラ(働く)ギ=働く気]……~したい気持ち……~気

  〈動詞〉(語幹のみ記載)
  ズルキラ……ズキズキ痛む
  トウト……取る
  チズ……製図する
  キシル……締め付けられる・ひしめきあう
  トラ……支払う
  シシン……湿気で膨らむ・水で膨らむ……湿る
  コブシ……団結する……拳
  イリ……卵をゆでる・暖まる……炒る
  イリン……手に入る・当たる・触れる
  カラカ(キル=する)……からかう
  キッティールラ……きしる
  コル……残る・ある状態にある
  プフラ……口で吹く……プッと吹く
  ピリラ……ピリピリ震える
  ポッキラ……ポンと音をたてる
  オル……取る・得る・受ける……得(う)る
  チャリン……鳴る
  シミールラ……ズキズキ痛む・疼く
  ドウッキラ……大きく打つ
  ケミール……かむ
  ユルガズ……揺るがす
  ガジ……かじる
  カイッツ……帰る
  シン……死ぬ・壊れる
  スルカ……すり込む
  スルツ……擦る
  ボス……押す
  オラ……(布等を)巻く……(布などを)折る
  コッツ……凍る
  コッケル……つまずく……こける
  ムドウラ……まどろむ
  キイ……着る
  キイ……切る
  ヤスラン……しばらく横になる……安らぐ
  オッテイル……沈む……落ちる
  ウル……打つ
  カッテイツクラン……固くなる
  グジッラ……ぐずる
  エッツ……言う
  アタ……ある目的をめざす……当たる
  ヒックイラ……しゃっくりをする
  アングライ……唖然とする……アングリと口を開ける
  バッキル……叫ぶ……バッキャローと叫ぶ
  アラフラ……うわごとを言う……あやふやな
  ウナ……同意する……ウンとうなづく
  コッチ……引っ越す……コッチへ引っ越す

  〈擬態語・擬声語〉
  ガルガラ……うがいの音
  チルチル……散らばる様……散り散り
  グジグジ……訳の判らないことを言う様子
  ジム……静かな様子……シーン
  ジクジク……満ちてくる様……ジワジワ
  ジッカ……濡れた様子……ビッショリ
  ビジルビジル……しゃべる様子
  ブラムブラム……回る・ねじれる様子
  ワングワング……犬の鳴き声
  グルグル……回る様子
  ダングドウング……太鼓や鐘の音
  ジャラングジャラング……金属類のたてる音
  ピシルピシル……はためく様・パタパタ
  ポクポク……ポンポン・トントン
  チクチク……時計の音・チクタク
  ポプポプ……手を叩く音・ポンポン
  ピチルピチル……うれしさ又は恐怖に 震える様
  コンコン……泣く様子
  ボラクボラク……ばらばら


以上が、私のメモにあるすべてである。実際は、まだまだあるのではないかと思われる。メモを記すたびに心に湧いてきたのは、「日常生活の言葉において、このようにウズベク語に近い音を日本語に多く見いだすことは、二つの言葉を話していた人々の間に強い繋がりがあったにちがいない」という思いであった。さらに、ウズベク語と日本語の深い関係を示す一語がある。
 普通の状態であれば赤ん坊にとって母親の言葉が常に第一声であり、その躾け方は、母親自身がその母親から受け継いだものである。この時期、この三世代の間の記憶に外国語の入ることはまずないであろう。この関係はスライドして無限に続く。そして、その一語とは、失礼をお許し戴いていえば、ウズベク語「シイ」(小便するの動詞の語幹)である。命令形も「シイ」。おそらくは日本人のどのご家庭でも、お母様は「シー、シー」とお子様をお躾になるのではないだろうか。何気なく擬態語のように思っていたこの言葉に意味があることを知った時、日本語とウズベク語は遙かの昔、同じ系統の言葉であったことを確信した。
 その接点は一万年前のことだろうか? それとも二万年前? この悠久の時間にしては、両者の間のこの音のずれはびっくりするくらい小さい。(おわり)