かぐや姫の誕生     索引  

                    

 31 かぐや姫の誕生補遺 正倉院御物胡同律考 1
        (世界戦略情報「みち」皇紀2672(平成24)年5月1日第359号)

●香研究会という集まりの講演会があり、演題が「正倉院の香木」だったので、興味津々で出かけた。昨日のことである。
 東京薬科大学名誉教授指田博士のお話であった。
 パワーポイントにみるようにクスノキ(楠)の新芽は赤い。ところがそのクスノキ林の中に何本か、通常は 全くクスノキに見えるが新芽が青い樹が在る。つまりこれはクスノキではない。ホウショウという樹である。ホウショウは本来日本にないものだが、何故ここに混じっているのか、調べようと思った。が、止めた。ホウショウがここにあるのは、植木屋さんが植えたからだ、と気付いたからである。
とユーモアたっぷりに始まった講演であったが、内容は香木に留まらず、日本における医薬品渡来の歴史から、鑑真の渡来にまつわる医薬品まで豊富で、現物もいくつか見たり嗅いだり触ったり、好奇心が満たされるひとときであった。
 お話は正倉院の医薬品に及び、そのすべて、六〇項目について解説してくださった。それによると、現在では、たった一つの医薬品を除き、すべてが解明されているという。
 その一つとは、「胡同律」という名の薬物である。樹脂のようで組織もなく何であるか見当も付かないという。
「胡同律」は「コドウリツ」と発音するのだろうか。調べると「胡桃律」とも「胡同涙」とも書かれている。【同】と【桃】の共通音は「トウ」であり、【律】と【涙】の共通音は「リツ・リチ」であるから「コトウリツ」または「コトウリチ」と訓むのであろうか。
「胡」がついているからには、西域からの渡来品に違いない。
●古の「胡」といわれる地域、つまり今のウズベキスタンとイランに住んだ経験のある筆者には、かねてより不思議に思っていたことがある。
 それはある夜のウズベキスタンでのこと、フランスの外交官の家に何組かの夫妻が集まり晩餐をしていた時に始まった。何か面白い話をしようと思って、私は、かつて住んだ事のあるバグダッドで食べたお菓子、マンナ・シマについて話した。何しろ、マンナは現地では、モーゼの出エジプトの時、荒野に天から降ったマンナなのだから。しかも、そう信じられているだけでなく、実際に今でも、イラク北部の、モスールやクルド人の住む山岳地帯ではマンナが降って、それを使ってマンナ・シマは作られているのだと自慢気に話した。
 すると誰かが、「僕も天から降る甘い物質の話を読んだことがある」というので、思わず彼を見ると、「でもそれは、種明かしをするとミツバチの大群が蜜の雨を降らしたのだったんだ」というオチだった。
 次に、私の向かいにすわっていたロシアの外交官がおもむろに口を開いた。「このウズベキスタンにも不思議な物質がある。名前は「ムミヨ」と言い、「奇跡のムミヨ」とも呼ばれることがある、と言う。
 ムミヨは万能薬で薬効あらたか、何にでも効き、呑むと元気になる。特に骨折によいそうだ。ロシア人はこれをウズベキスタンで買って帰るのさ。よいおみやげで、みんなが欲しがるよ。でも、これが何であるか、今でもわからない。ミネラルといわれているけど、樹脂のようでもある。
 翌日から、私のムミヨ捜しが始まった。ウズベク人に会うたびにムミヨのことを聞き、バザールでいろいろなムミヨを買い、尋ねまわった。
●ちょうどそのころ、カリモフ大統領が訪日されることとなり、大統領夫人も同行されるということで、ご挨拶に伺った。そこでも、大統領夫人にムミヨについて話した記憶がある。夫人は、ムミヨに大変に興味をお持ちで、いろいろお話くださった。その時教えて下さったことの一つはムミヨについて知った事柄の中で一番重要な事だった。
 旧ソ連でもウズベキスタンでも、その成分は近代盛んに研究されているが、結論は出ない。なぜなら、ムミヨは採れる場所毎に成分が違うからである。
 つまり、ムミヨは、混合物なのである。ムミヨの効果は、ウズベク語の先生、隣の家族、公邸の職員、大使館の秘書等々、それぞれの人にそれぞれの経験がありながら、その奇跡的効果を認めることで共通している。隣家のユルドス嬢の両足骨折、部屋番のリーヤの息子の顔の犬による咬み傷には驚くべき効果を見るが、一日にマッチ棒の先ほど少量飲むと元気になり、強い体になるなど、いかにも民間薬っぽい。
 もちろん、自分でも試してみた。先ず、そのころ悩み始めていた目の周りのトラブル。眼の縁が痒くなり、擦ると腫れてチリチリと皮がむける。二、三日で元へもどるが、また痒くなる。ムミヨを適当に薄めて眠る前に眼の縁に塗ることでこれが確かに治る。次に引っかき傷。これは、見事に即座に治る。最初に痛みが消える。これが驚きである。赤みが取れるのが早く、瘡蓋(かさぶた)ができるのも早い。だが、できた瘡蓋は、取れるのが遅いように思えた。瘡蓋が強いのだろうか。
 そのうち、運転手のジアエフさんからストップがかかった。バザールで手に入るものは不純物が多かったり偽物があるので、むやみに使うのは良くないと言うのである。(つづく)