かぐや姫の誕生     索引  

                    

 32 かぐや姫の誕生補遺 正倉院御物胡同律考 2
       (世界戦略情報「みち」皇紀2672(平成24)年5月15日第360号)

 それでは、本物はどこにあるのかと聞くと、すべて政府が取り扱っていて、巷にはないとのことであった。
 時が過ぎ、夫がウズベキスタンから離任することとなったとき、お別れにジアエフさんから小さな紙包みをもらった。ちょうど手のひらに入る白い紙包みの中には、それまでに見たこともない、テカッと黒光りし、独特の匂いを持つ一塊の物質が入っていた。これが本物の純粋なムミヨだった。ジアエフさんは、医師をしている親戚に頼んで分けてもらったのだった。
 では、バザールにあるものは一体何なのか。バザールで買ったムミヨは小さな薄いプラステイックの袋(3×5センチ位)にはいっており、黒または黒褐色のテカッとする固体または練りもの状のもの、上側にムミヨと書かれている。現地の人々にとっては、大変に高価なものである。バザールでは、これからムミヨを取り出すというゴロゴロした茶色の塊をいくつか見せてもらった。これを長時間水に浸しその水を再び長時間かけて煮つめ、プラスティックの袋に詰めるというのであった。
 帰国してからは、インターネットのおかげで、ずいぶんムミヨのことがわかった。ムミヨの薬効は、ウズベキスタンで手に入れた本や民間処方箋で知ったことと同じく、細胞の再生、活性化に絶大な効き目があるということにある。成分はよく研究され、多種のアミノ酸と多様のミネラルを含む。元素周期律表の元素の半分を含むものもあるという。学名はアスファルトム、英名をミネラル・ピッチという名の通り、アスファルトのような独特の匂いをもち、水によく溶ける。ウズベクのムミヨの年代測定では、数千年前を示すとのことであった。
 石油の上部に出来るピッチ、天然アスファルトとその周りにある自然(土壌・植物・動物の死骸など)が長い年月をかけて混ざり合い、変化して最終的に残ったもののように思える。
 ムミヨが水に溶けた状態は、まるで生命誕生の太古の海を彷彿とさせる。豊富なアミノ酸とミネラル、細胞が活性化するのは当然であろう。 
 ムミヨという名前は、実はギリシア語に由来して、「保存するもの」という意味だと書かれている。英語のマミー(ミイラ)と同じ語源である。ムミヨとかムミヨ・アシール(奇跡のムミヨ)と呼ばれるのは、中央アジア、旧ソ連においてで、アジアから中近東にかけては別の名前で広く使われてきた。
 同じものはインドで「シラジット」(サンスクリット語で「無敵の石」)と呼ばれアーユルヴェーダにも出てくる。
チベット、モンゴルでは「バラグシュン」(山のジュース)、ビルマでは「カオトン」(山の血)と呼ばれる。
 アラブ地域では「アラクル・ジバル」(山の汗)と呼ばれているが、純粋なムミヨは天山山脈の山崖の割目から滲みだしたように岩の隙間に詰まっていたり、天井からつららのように下がっていたりするからであるらしい。それをツルハシで採るのだという。
 もう一つのタイプは、岩壁の中に滲みこんでいるものを叩き割って、先のバザール商人のように、水に溶かし、煮つめて精製する。
 ムミヨを知って以来二〇年、これがなぜ日本に伝わってこなかったのか、これまで不思議でならなかった。帰国後、どこかの地方に伝わっているのではと聞き耳を立てているのだが、分からなかった。中国には、伝わってきて当然と思われるが、どうなのだろうか。
 写真で見る限り、「胡同律」はムミヨである。正倉院の「胡同律」の外見は、岩から滲みでた真っ黒にテカる本物ではなく、また精製されたあとのムミヨでもなく、まさしくムミヨが滲みこんだ岩壁を掘って採った塊で、ムミヨ含有量が多いもののように見える。
 この「胡同律」の成分分析を専門の方にぜひお願いしたいものである。とはいえ御物であるので成分分析が無理ならば、せめてラジオアイソトープによる年代測定を試みてほしいものだ。もし「胡同律」が太古の年代を示せば、ムミヨであることはまず間違いない。そうであれば、これで正倉院の薬物についての最後の謎が解けることになる。
 その後、指田先生よりお送り頂いた資料によれば、戦後二度にわたり行なわれた正倉院学術調査の結果、いくつかの推定された「胡同律」かと思われた生薬は外見、組成比とも御物と一致せず、現存する御物が何かは「不明」と報告されている。
 因みに、中国薬物書にある「胡同律・胡桐泪・胡桐涙」と呼ばれるものは、ことかけ柳(胡楊または胡桐)の樹脂とされる。新疆ウイグル地区ではラーメンに入れて常食されるそうだ。
「胡同律」の「同律」(とうりつ、とうりち)はムミヨのさらなる別名である「ドロビ」に由来するのかもしれない。ドロビとは、タジキスタンの町の名で、そこはムミヨの集荷地だった。それが「同律・桐涙・桐泪」と音訳されて、外見が似ているので胡楊樹脂と混同されたのかも知れない。(おわり)