みょうがの旅    索引 

                   

 みょうがの旅 50 おしほい 44 自然崇拝の普遍性
        (世界戦略情報「みち」平成26年(2674)5月1日第403号)

●自然崇拝のわが国の信仰は、自然界の一部である人間も他の動植物同様に、天与の身体の形に応じてその生を全うし、子孫が存続していくことを最も重視し、そのために不可欠な食のあり方に重きを置いてきた。『大祓詞(おほはらへのことば)』や『古事記』を繰り返し読誦し、神仏や祖霊の祭祀に参列を重ねる内、筆者も自然と気づかされてきたことである。
 他の動植物がみな、自らに必要な餌や養分を自給しているように、我々の先祖たちも可能な限り食糧の自給に努めてきた。都市住民や非定住の民も、抑もそのような生活形態を選んだ主な理由は、各々が生まれ育った環境では食糧の自給が困難だったからだと、民俗学者宮本常一は強調する(宮本常一著『生きていく民俗 生業の推移』、二〇一二年、河出書房新社刊)。
 宮本はまた、山間の非定住民もその生業のために方々移動する中で、狩猟や川漁の獲物が豊富だったり、農耕可能な非占有地を見つけると、そこに定住していった様々な例も挙げている(宮本常一著『山に生きる人びと』、二〇一一年、河出書房新社刊)。
 自然=神々の恵みである食べ物を、体重や体型を気にして食べ残したり、お金を稼ぐことができないとの理由で野菜や果物などを棄てたりする現代では最早想像が難しいほど、それほど遠くない昔までは食糧の自給と確保に苦心してきた。
●現代人は、科学技術や流通システムの発達により、人工物の金銭さえあれば食べ物が容易に手に入る。加工食品と電気調理器具の普及で、調理の手間も時間も大幅に短縮された。この「便利で」「進んだ」食生活形態はしかし、『古事記』に描写される、黄泉國(よもつくに)のよもつしこめや八雷神(やくさのいかづちがみ)、黄泉軍(よもついくさ)が好む、すぐに食べられる物を安易に入手して食べる黄泉戸喫(よもつへぐひ)である。黄泉國で黄泉戸喫をしてしまわれた伊邪那美命の身体は腐乱し、伊邪那岐命に対して「一日(ひとひ)に千頭(ちかしら)絞(くび)り殺(ころ)さむ」と恐ろしい言葉も口にされるが、雷神の司る電気を多用した調理器具で即席の加工食品を頻繁に食べる現代人も、様々な生活習慣病に悩まされ、心も荒ぶるようになり、心の病を患う人も急増している。これらの現実を前に、食を重視してきたわが国の信仰を再認識すべきだろう。
●本誌の編集、発行を手伝ってくださっている亀山信夫氏のブログ『人生は冥土までの暇潰し』に今年四月六日、「サメの話」という記事が載った(http://toneri2672.blog.fc2.com/blog-entry-560.html)
 そこでは、人類の祖先はサメだとする西原克成医学博士の学説と著書が紹介されている。早速著書の一つ『内臓が生み出す心』(西原克成著、二〇〇二年、NHK出版刊)を入手して表紙を開くと、カバーにある同書の紹介文からして興味深い。

心肺同時移植を受けた患者は、
すっかりドナーの性格に入れ替わってしまうという。
これは、心が内臓に宿ることを示唆している。
「腹がたつ」「心臓が縮む」等の感情表現も同様である。
高等生命体は腸にはじまり、腸管がエサや生殖の場を求めて体を動かすところに心の源がある。その腸と腸から分化した心臓や生殖器官、顔に心が宿り表われる、と著者は考える。
人工臓器の開発で世界的に著名な名医が、脊椎動物の進化を独自に解明し、心や精神の起源を探る注目作。

 腸と腸管から分化した内臓に心が宿るとの説は、わが国古来の信仰思想を物語る『古事記』や『大祓詞』等でも食の根本的な重要性が繰り返し強調されていることに符合する。伊邪那美命は食物の神=大宜都比賣神(おほげつひめのかみ)をお産みになった後、尚も神を欲せられたところ、火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)のご誕生が原因で黄泉國に身罷られた。さらに黄泉國では黄泉戸喫をされたために体が腐乱し、現世(うつしよ)に還ることも叶わなかった。この黄泉戸喫に通じる食生活を続ける現代人も、生きたまま荒神と化しつつあり、「堪忍袋」も忘れ、心がすぐに荒ぶり、病んでしまう。心の病を癒やすには医薬の助けよりも食の見直しが肝要だと、『古事記』や『大祓詞』に鑑みて主張したが、亀山氏のブログのおかげで、腸管に始まる内蔵に心は宿ると知り、それならば食のあり方と心身の有り様が密接不可分なのは寧ろ当然だと認識を新たにした次第である。
●人類の祖がサメならば、『古事記』で天孫の御子にして神武天皇の御祖父、天津日高日子穂穂手見命(あまつひだかひこほほでみのみこと)と本然のお姿が鰐(サメの古名)の豐玉毘賣命(とよたまびめのみこと)とが結ばれることは、他国の神話にも見られる所謂異類婚の一つと片付けるわけにはいかなくなる。人類の故郷も他の生物同様海だというだけでなく、数多の海洋生物のうち、それこそ人類の祖であるサメが、世界における最古最長の皇統初代の御祖母ということになる。人類の祖はサメであり、その人間の心は腸管に始まる内蔵に宿り、食のあり方が心身に深く影響するという自然界の情報に『古事記』が基づいているのならば、それは、わが国の皇統と『古事記』の時空を超越した、地球史的な意義と普遍性を示すものと言うこともできるのではないか。(つづく)