常夜燈索引

               

  「Jクール」(かっこいいニッポン) 
        (世界戦略情報「みち」平成19年(2667)1月15日第242号) 

▼『おいでよ動物の森』という名前のゲームをご存じだろうか。
 筆者も一月七日付の日本経済新聞を読んで初めて知った。任天堂が開発したゲーム・ソフトだが、定価四八〇〇円で一昨年一一月の発売以来わが国で三九九万本、北米で九八万本も売れている大ヒット作なのだそうだ。

『おいでよ動物の森』には正直驚いたよ。こんな風変わりなゲームの作り方があるなんて――。

 日本人の創造力の秘密を探ろうと、足しげく東京・秋葉原に通う米国のゲーム開発者マイク・マイカ氏の感想である。
▼ゲームの内容は「どうぶつ達が暮らすフシギな村で、自由気ままに暮らしてみませんか?」という単純素朴なもの。主人公である自分が動物の森に引っ越し、自分の家を持って日常生活を送る。ちょっと変わった動物達とおしゃべりしたり、魚釣りをしたり、植物を育てたり、お金を貯めて家を改築する、といった普通の暮らしが進行する。その空間では、四季にあわせて木々の色や風景も変化する。
 最大の特徴は「ゲームオーバー」がないことで、人間と動物の平和な暮らしが永遠に続く。
 つまり、現実世界と神話空間が分け隔てなく共存し、人間がごく自然に「動物の森」の一員として暮らす、という一種の理想郷がゲーム空間に設定されているのだ。二〇名余りのゲーム開発陣の主体は女性だった。村の住人の動物たちの洋服や道具のデザインに時を忘れ、「細部の一つ一つに命を吹き込むようで実に楽しかった」と開発陣の声を日経紙は伝えている。
▼英語でいうゲームの定義は「勝敗を争う事で楽しむ遊戯」といわれている。スポーツ、レース、格闘など勝ち負けを争う、極めて攻撃的なものが一般的なゲームのイメージである。ところが『おいでよ動物の森』には争いごとも勝ち負けもなく、淡々とした暮らしと永遠の自然の移り変わりがあるだけで、およそ、欧米的な概念とはかけ離れたゲームとはいえない「ゲーム」なのだ。
▼アメリカでは『みんな大好き塊魂』(ナムコ社制作)というゲームも大人気だという。「塊」を転がして大きくする、というごく簡単な内容だ。
 主人公の王子が「塊」を転がして、ステージに配置された色々なモノを巻き込んで大きくしていく。ただし、「塊」より大きなモノは巻き込めず、時には、せっかく大きくした「塊」が崩れて小さくなることもある。
 拍子抜けするほど気楽なゲームだが、やはり「勝負」とは無縁のものである。
▼イラクに派遣された陸上自衛隊員や外務省職員が現地住民との友好をはかるため、イラク人の子供からお年寄りまでが大好きなサッカーのチームを結成し、イラク少年チームと定期試合を行なった。
 イラクのサッカー好き少年から度々出る話題は「キャプテン・マージド」の活躍ぶり。よくよくその話を聞いてみると、マージドはアニメの主人公で東洋人らしい。なんとマージドは日本のサッカーアニメ『キャプテン翼』だったことが最後にわかった。イラクの少年たちは、マージドが日本人だったことを初めて知り、とたんに日本人への愛着と興味を示し出したという。
▼日本政府の経済援助の一環として、二六台の給水車をイラクに供与することになった。二トンもの重量がある巨大給水車は動く広告塔で、他国も国旗や自国語で「WATER」などと横腹にデカデカと描いて走らせている。
 サマーワに駐在する陸自、外務省職員は、給水車の横腹にイラクの少年に大人気の「キャプテン・マージド」のキャラクターと日の丸を描くことを提案、日本政府もよいアイディアだとすぐに承認した。
 在サマーワ外務省事務所の職員はただちに帰国し、『キャプテン翼』の肖像権を持つ出版社・集英社に「翼」のキャラクター使用を要請した。イラクと日本との友好のモデル・ケースでもあり、当然二つ返事で承諾が出るものと期待していたら、あに図らんや同社内で大激論となって、なかなか結論が出ない。『キャプテン翼』が自衛隊のイラク派遣に協力している、と見なされたらどうするのか、という議論が沸き起こっていたのだ。会社が反米テロ組織の標的になりはしないか、という危惧も分からないではない。
 最終的に、イラクの少年やサッカー交流のためならば、という理由で肖像権使用は認められて、イラクでは現在二六台の「キャプテン翼+日の丸」を描いた給水車が走り回っている。
▼『机器猫』(ロボット猫)とは支那大陸の子供たちにもっとも人気のあるアニメで、『机器猫』がテレビで放映されると子供が勉強しなくなって困ると親たちが抗議したので、テレビ局が放映中止にしたくらいである。実は、『机器猫』の本名は『ドラえもん』である。
 日本のゲームやアニメが世界に輸出され、その不思議な発想と感覚は「Jクール」(かっこいいニッポン)と呼ばれ、国籍・人種・年齢を越え人々を魅了している。日本の文明力は意外な分野で深く静かに世界を変えているのである。(青不動)