常夜燈索引

                 

  生態系原理に基づいた貨幣の発行 
          (世界戦略情報「みち」平成19年(2667)2月15日第244号) 

▼昭和五〇年代の後半に、金の地金を用い現物まがい商法で社会を騒がせた豊田商事事件の首謀者永野一男が自らの「資本主義観」を語った言葉がある。

 モノをつくるのは、商売でいえば、一番下なんですね。モノを生産するよりは、モノを売る商売がよく、それよりもカネだけをやりとりする銀行や証券会社が上、さらにそれよりも他人に買わせたブツを運用するネズミ講や組織販売がよく、そして一番いいのは、儲けるか損するかの際どい隘路を縫って多額の利潤に結びつけていく相場だ。

 見事にマネー社会の本質を見抜いているではないか。さらに、国際経済についてもこう述べる。

 日本というものがどんどん経済が発展し、伸びたら、どこかに貧しい国ができるでしょうね。地球全部が発展するはずがないんです。ですから、日本として成長したいんだったら、たとえばアフリカとか東南アジアを見てかわいそうだというんじゃなくて、徹底的にいじめなきゃだめですわね。

 薄ら寒いほど透徹した見方といわなくてはならない。
▼一八世紀の天才的な博打打ちだったスコットランド人ジョン・ローは、女性をめぐる争いに巻き込まれ、決闘の末に相手を殺して死刑宣告を受けるがヨーロッパ大陸に逃亡する。
 アムステルダム、ウィーン、ブリュッセル、フィレンツェ、ヴェニスなどの都市を博打をしながら漫遊した後、フランスのルイ一五世の摂政であったオルレアン公フィリップ二世の知遇を得て太陽王ルイ一四世の残した莫大な借財整理に当たることになる。
 ジョン・ローはオルレアン公の許しを得て自宅に私設銀行を設立し、金貨銀貨の預金と引換えに銀行券=紙幣を発行した。引換証券の利便性と、紙幣による納税を政府に認めさせたことにより、国民は金貨銀貨同等のものとして紙幣を受け容れ、同銀行が国立銀行に改組されるに及び人々は競って金銀を預けたという。ジョン・ローは金銀預かり量以上の紙幣発行を行なって、太陽王の出した国債を買い受け借財を無くし、その功績でフランス財務総監の地位にまで上り詰める。
 ジョン・ローは市中に大量に出回った事実上の不兌換紙幣を仏領アメリカ開発のために設立した「ミシシッピー会社」の株式を買わせる一種のスワップ取引を行なって紙幣を循環させた。「ミシシッピー会社」は、ヌーベル・オルレアン(現ニューオーリンズ)などに大規模な金鉱を持つ優良国策企業と謳われ、同社の株は暴騰を続けた。
 国立銀行券と「ミシシッピー会社」株は相互に循環して発行残高の増大と株高をもたらし、フランス経済は未曾有の大好況を謳歌した。
 しかし「ミシシッピー会社」株を買えなかった強欲なコンティ公は自らの膨大な銀行券を王立銀行に持ち込み、株が買えないなら金貨に換えろと要求した。かくて銀行に金準備のないことが世間に広まり、取付騒ぎとなり国立銀行券も株券も(金鉱がないこともバレて)紙屑同然になった。ジョン・ローは、オルレアン公の助けで命からがらヴェニスに逃れ一七二九年にひっそり死んだ。
▼ジョン・ローは常々「貨幣とはそれ自体に価値があるのではなく、価値があると人々が思い込めば金銀でなく紙切れでも貨幣になる」と説き、国王の肖像が刻印された金銀貨こそが貨幣であると考えられていた当時の経済社会に衝撃を与えた。
 その試みは頓挫したが、無から有を生み出す資本主義信用創造の秘密こそがロー・システムであり、今日でも姿を変えてその本質は貫かれている。
▼世界を飛び交うマネーやファンドはいまや天文学的数字に達する。それは豊田商事の永野一男が言ったように、文字通り「ものづくり」を遙かに越える超スピードで高利潤をもたらす最高度の商売であり、ジョン・ローがやったようにそれは地球規模に広がっている。
「人間は貨幣を使う唯一の動物だ」とは坂口三郎氏の至言であるが、これは「人間とは迷信を持つ唯一の動物だ」と同様、迷信も貨幣も人間の「こころ」の所産であって、実在的な根拠はないという意味である。つまり食欲や性欲には身体的・物理的な根拠があるだけに限定的なものだが、こころ=精神文明が生み出すものは際限がなく、金銭欲が世界を席巻する由縁もここにある。
▼ジョン・ローの創造した「貨幣」は数字現象であり、経済現象ではない。経済現象とは生態系の原理に則った経世済民の行為であり、貨幣はあくまでその手段でしかない。子供を育てる、家族の安全を守る、ヒトをはじめ犬や猫や鳥たちが生態系の循環の中で行なうこうした非経済・非貨幣行為は数字現象に還元できない領域である。
▼実はコンピュータが発達した今日、「紙切れ」でしかない貨幣に現実的な基礎を与えうる技術的準備は完了している。世界の全生産額の総計を瞬時に算定、その基礎の上に貨幣を発行することが可能なのだ。貨幣のための貨幣ではなく、生態系原理に基づいた貨幣発行、換言すれば皇道経済が可能な時代となった。世界維新、八紘為宇の世に相応しい「おかね」のあり方を日本から発信したいものだ。(青不動)