常夜燈索引

               

      対米自立の道 
      (世界戦略情報「みち」平成19年(2667)3月15日第246号) 

▼一月九日、防衛省移行記念式典で、安倍総理大臣はド・ゴール仏大統領の言葉を引いて訓示した。

 若き日のド・ゴールは、その著書『剣の刃』の中で、「難局に立ち向かう精神力の人は自分だけを頼みとする。このように自らの方針に則り、自己の責任において事を断行する態度は行動に強烈な刻印を押す。……それは決して……忠告を踏みにじらんとするものではない。彼には、やむにやまれぬ気概と、断行せずにはおれない心の疼きがあるのである」と述べています。私も、これと全く同じ気構えで、「美しい国造り」に全力を挙げて取り組んでまいります。

▼若き日のド・ゴールが陸軍大学で行なった特別講演「戦闘行為と指揮官」をまとめたのが『剣の刃』である。ド・ゴールの『マインカンプ』と呼ばれた同書には、自己とフランスの運命を同一視し、「直感」と威信を備えた「沈黙、そして命令」という彼の哲学が込められている。特に「威信」についてこう語る。

 威信には神秘性が必要である。なぜならば、人は知りすぎたものをあまり尊敬しないからである。偉大なる人物も召し使いにとっては只の人である」しかしそれは部下を無視するという意味ではなく、むしろ全ての部下に対し「自分は特別の愛護を受けている」と信じこまさなければならない。そして、特に優れた「上級指揮官は、怯む兵士の前にここぞという時に姿を現して絶大の心理的効果を及ぼした」「威信には、神秘と超俗の精神が必要である。家庭的交友や甘い友情を求めたり、経済的・社会的欲望に屈する者には指揮官たる資格はない。

 ド・ゴールは米ソ冷戦中、フランスを中心とする第三極を形成するべく、西ドイツとの和解・協力を進める一方、米主導の北大西洋条約機構(NATO)から脱退し、国連分担金の支払いを停止、英国の欧州経済共同体(EEC)への加盟を拒否した。
 ド・ゴールはフランス独自の核兵器を開発し、米ソ英に次ぐ核保有国ともなった。一九六四年には英国に次いで中華人民共和国を承認した。
▼「フランスは毅然としていなければならない。貴婦人は、言い寄られることはあっても言い寄ったりしない」というド・ゴールの言葉が表わすように、孤高ともいうべき誇り高き独立独歩路線を安倍首相は敢然と採るつもりなのであろうか。
 安倍総理がド・ゴールに託した思いは、わが国の対米自立への悲願である。その心中は容易に窺い知れないが、「戦後レジームからの脱却」という主張は戦後六〇年つづいた対米依存からの脱却を意味し、それは第二次対米戦争をも覚悟しなければできない決断であることは言を俟たない。
▼昭和四七年政権に就いた田中角栄首相は、二年五ヶ月という在任中に延べ二〇カ国を歴訪した。これすべて資源獲得のための首脳外交だった。

 私の頭の中には経済大国といわれながらも国土狭小、人口が多く、資源に乏しく、経済の原動力となる資源のほとんどを海外に依存せざるを得ないわが国の将来について一抹の不安を消し去ることができなかった。

と、昭和四九年三月にNHK番組「総理は語る」で述べているが、これが角さんの資源外交の基本姿勢である。
 昭和四八年、欧州を訪れた田中総理は、フランスのポンピドー大統領と石油資源の開発、共同事業、第三国におけるウラン共同開発等について合意、イギリスのヒース首相とは北海油田の共同開発に合意、西独ブラント首相とも資源合同委員会を設置した。ソ連のブレジネフ書記長から提案されたシベリア油田・天然ガス共同開発にも協力を約束した。翌四九年に訪れたインドネシアとの間で、LNGプラント、スマンカ湾石油基地建設などの経済協力に合意。さらに、田中総理はメキシコ、ブラジル、カナダ、ニュージーランド、オーストラリアを回り、メキシコ原油開発、アマゾン開発、西カナダのタールダンド開発、豪ウラン資源開発など次々と資源確保と共同開発に着手した。
 この対米自立、独自の資源外交が後に田中金脈問題やロッキード事件を招く原因となる。
 中曽根元総理は

 田中君は国産原油、日の丸原油を採るといってメジャーを刺激したんですね。そして、さらに、かれはヨーロッパに行ったとき、イギリスの北海油田からも日本に入れるとか、ソ連のムルマンスクの天然ガスをどうするとか、そういう石油資源取得外交をやった。それがアメリカの琴線(ママ)に触れたのではないかと思います。世界を支配している石油メジャーの力は絶大ですからね。後にキッシンジャーは「ロッキード事件は間違いだった」と密かに私にいいました。

と自著の『天地有情』で証言している。
▲安倍総理の意気や壮、総理になって支那、朝鮮、欧州を訪問、ロシアとは原子力で提携交渉を始めるなど、対米自立路線をひた走っている。先人田中角栄総理の対米自立資源外交がなぜに失敗し、政権の座を鞭もて追われたか、その教訓を我事として噛み締め、前進していただきたい。(青不動)