常夜燈索引

               

  豊葦原の瑞穂の国の異変 
     (世界戦略情報「みち」平成19年(2667)6月1日第251号) 

▼毎年一一月頃、日米両国で財界首脳が集まり日米財界人会議を開く。昨年は一一月一二日東京で開催された。経団連の御手洗冨士夫会長は日米経済連携協定(EPA)締結実現に向け会議で演説した。

 日米EPAを真剣に検討すべき時期が来ています。日米という二大先進国が締結するEPAは、従来のEPAの基本形に限定されない、包括的かつ高水準の協定であるべきだと考えます。関税の撤廃にとどまらず、サービス貿易の自由化、投資規制の緩和、安全かつ円滑な人の移動及び物流の実現、知的財産権分野における協力等をEPAの枠組みの下で推進することにより、現存する両国間のビジネス上の問題を解決し、経済関係の緊密化をさらに一歩、進めることが期待されます。また、このような協定が実効をあげれば、他の国々の協定のモデルとなるばかりでなく、多国間交渉にもプラスの影響を及ぼす可能性があります。言うまでもなく、日米EPAに関しては検討すべき課題が多々あります。しかしEPAがもたらす長期的な政治的・経済的利益に鑑み、両国政府は両国産業界と緊密に協力しながら、検討を早急に開始すべきであります。本日の「日米EPA」に関するパネルにおきましても、日米EPAのもたらす便益についてさらに議論が深まることを期待しております。(経団連ホームページより)

 日米という世界第一と第二の経済大国が経済統合をすれば世界のGDPの40%を超える巨大経済圏が誕生する。特にFTA(自由貿易圏)ではなく、さらに進化した日米EPA(経済連携協定)を結ぶということは、モノの障壁である関税撤廃だけでなく、サービス貿易の自由化、投資の規制緩和、知的財産権保護での協力、さらにはヒトの自由化などまで踏み込んだ内容となり、事実上の経済統合ともいえる。
▼経団連が昨年一〇月一七日に発表した「経済連携協定の「拡大」と「深化」を求める」という提言書でも、「国内構造改革を通じたEPAの推進」として、

1.農業分野の改革の促進──競争力のある国内農業の構築と市場開放との両立に向けた基盤整備事業の着実な実行、攻めの政策の具体化
2.外国人材の受け入れの拡大──看護・介護分野の人材の受け入れ、「専門的・技術的分野」の範囲の拡大、研修・技能実習制度の見直し

と謳っており、農業分野の「開国・開放」と、外国人材の移入「自由化」がメインテーマであることが分かる。つまり日本の国のあり方を「構造改革」する起爆剤として日米EPAを行うという位置づけになっているのだ。
 同会議の席上、来賓のシーファー駐日米大使は、日米EPA推進に向けて「農業についてこれまでと違うやり方をしてほしい。補助金でなく直接支払いに変えてくれれば、アメリカ政府も交渉の用意がある」と訴えた。 
▼輸出型大企業中心のわが国財界主流は、日米経済が一体化されればアメリカ企業を既に凌駕している自動車、ハイテク製品などの分野で輸出が事実上無条件、無制限に許され、世界的に圧倒的な地位を確保することができると踏んでいる。ただしそれは、アメリカ産の安い農畜産物が日本市場を席巻し、日本農畜産業が弱体化する、という対価を払うことを意味する。
 安倍政権は日豪EPAの交渉に入り、同国の農畜産物の輸入自由化問題に直面している。当然わが国の農林水産省をはじめ農業関係団体は日豪EPAに反対である。
▼地球上で唯一、太陽エネルギーを「モノ」に変換することができるのは、太陽光と水の光合成により炭水化物をつくる植物のはたらきだけである。
 われわれ人間も太陽のエネルギーをモノに変換した、稲や麦や芋を食べて日々生きている。植物の光合成こそはすべての生命の基礎である。
 そのことを知った人類は太古の昔から植物を育てる「農業」をはじめた。『日本書紀』天孫降臨の段に天照大神が孫の瓊瓊杵尊らに下した天壌無窮の神勅がある。その第三が斎庭(ゆには)の稲穂の神勅で、「吾が高天原に所御す斎庭の穂を以て、亦吾が児に御せまつる」と仰せられた。高天原で天照大神がお作りになっていた稲穂を瓊瓊杵尊に託すという趣旨で、農業とりわけ米作りがわが国の基礎であることを示している。
▼フランスの医師フランソワ・ケネー(一六九四~一七七四)は『経済表』を書いて、国内における貨幣の蓄積を以て国富とする重商主義に対し、富の源泉は自然から生産的労働によってもたらされる所得にあり、食物を育てる土地を真の冨とみなす「重農主義」(農本主義ともいわれる)を唱えた。当時も今も、冨とは金銀、即ち貨幣だと考えられている中で、ケネーの説は衝撃を与えた。
 人類にとって真の冨とは植物の光合成作用を基礎とする農業であり、工業はその土台の上で発展したもので、その逆ではない。農業をめぐる隘路に立つわが国の農林水産大臣が亡くなった。「豊葦原の千五百秋(ちいほあき)の瑞穂の国」の異変の中での壮絶な殉職だった。(青不動)