常夜燈索引

               

  戦後レジームと年金問題 
    (世界戦略情報「みち」平成19年(2667)8月1日第255号) 

▼七月二九日投票の参議院議員選挙は「年金問題」が最大の争点になった。平成元年の消費税が争点になった参院議員選挙では自民党が大敗し、社会党が大勝した。国民は自らの「財布」に関わる争点に敏感で、与党・政府が国民の年金を費消しその記録を紛失したことがここまで表沙汰になれば、選挙に負けるのは当然の結果といえよう。
 年金記録の消失や重複、不払い、年金の不正使用、社会保険庁職員の怠慢ぶりなどは四〇年以上前から繰り返され、何度となく報道されていたにも拘わらず、なぜ今年五月になってこの問題が急浮上し、五千万件もの宙に浮いた記録の存在を政府がすすんで認めたのだろうか。
「もうこれ以上隠しきれなかった」、「野党の追及が厳しかった」、「記録のない人々が次々に現れた」などと社会保険庁や厚生労働省の役人たちは語り、前非を詫びて膿を出し切ると殊勝な姿勢を見せた。そして次々と目茶苦茶な年金詐欺の実態を嫌ほど明らかにした。
 四〇年間も隠し通してきた、いや年金制度創設当初から年金を詐取しようと考えてきた「悪党」に似つかわしくない「小役人」ぶりを役人たちが演ずる姿には、不可解な念を禁じえない。
▼「戦後レジームからの脱却」の一つとして公務員制度の見直しを安倍政権は進めている。
 安倍総理は先の通常国会で成立した改正国家公務員法について、「公務員の世界に能力・実績主義を導入し、各省庁による再就職斡旋を禁止するとともに、退職後の元公務員による現職公務員への働きかけに関し、罰則つき行為規制を新たに導入する法律を成立させることが出来ました。これは戦後の官僚主導を支えてきた旧式の公務員制度を解体し、新たな時代にふさわしい制度として再生する礎となります。この法律によって公務員制度改革の最大の難関は突破いたしました」と述べ、公務員の終身雇用制を撤廃、天下りも各省庁とは独立した「公務員人材バンク」を通じて透明化させることを決定した。
 さらに現在公務員としての終身身分保障と引替にスト権など労働三権を制限されている官公労に対しても、スト権などの付与を前提に、民間企業並みのリストラや官業の民営化を自由に進めることができる総合的な公務員制度の改革にも取り組んでいる。
 民間企業ではとっくに終身雇用や年功序列は消滅し、能力主義や非正社員化が当たり前となっており、非効率なお役所仕事が罷り通る社会領域は国防・警察以外には見あたらないのが社会の現実である。
 その意味で、公務員だけが一生身分保障され、優遇されるいわれはなく、現在の公務員制度が根本から変革されるべきなのは当然である。
▼国家公務員の天下り斡旋の実態を把握するための政府の有識者懇談会が行うな公開ヒアリングに出席を要請された、財務、厚生労働、農水、国土交通各省の事務次官OB七人全員が出席を拒否していたことが先頃分かった。
 米ソ冷戦下に絶頂を迎えたわが国の国家官僚組織と労働組合の共存共栄は五五年体制そのものであり、いつまでもこれを持続させるのが彼らの組織的本能である。
 安倍政権が唱える「戦後レジームからの脱却」、なかんずく公務員制度改革は五五年体制の否定であり、利害を同じくする官僚と官公労への敵対行為である、と彼らはとらえている。
 社会保険庁、厚生労働省、その背後に控える財務省をはじめとした霞ヶ関総体と全国の官公労は年金問題というパンドラの箱を開けることで安倍政権を葬り去る「自爆テロ」を決行した。これが年金暴露の真相である。
 小泉政権も郵政官僚や特定郵便局長会、その影響下にある自民党議員など「抵抗勢力」を敵に回したが、なぜか官僚組織全体の抵抗はなかった。小泉首相は旧大蔵省・財務省と一心同体であり、その支持のもと二百兆円の郵便貯金を金融庁の支配下に置くために「郵政民営化」が断行されたのである。官僚組織内の利権争奪戦だったのだ。同時に小泉の背後に米国のブッシュ政権と在日米軍がいたことは周知の事実で、これに歯向かえる勢力は日本の国内に存在しなかった。
 ところが安倍政権は発足当初より「対米自立」、「戦後レジームからの脱却」という路線を掲げたため、米国の後ろ盾がないことを見抜いた官僚組織やマスコミが徹底した安倍叩きを行なった。特に、四月二六日首相としての初訪米の際に北朝鮮拉致問題でブッシュ大統領を説得することに失敗すると、政官界では一斉に安倍離れが始まり、年金問題の噴出に至った。
▼安倍総理の祖父岸信介氏は若き商工官僚だった昭和四年、浜口内閣の官吏減俸案に真っ向から反対し、一週間で政府案を撤回させ革新若手官僚として名を上げた。官僚組織に手をつけるということは内戦、革命を覚悟しなければできないこと、歴史に明らかである。 懇談会、審議会などで官僚組織を潰すことは不可能であり、抵抗する役人、政治家、労組幹部を問答無用で逮捕、抹殺するくらいの不退転の決意がなければ事は成就しまい。(青不動)