常夜燈索引

                 

  ファンド資本主義の誕生と終焉 上 
         (世界戦略情報「みち」平成19年(2667)9月1日第256号) 

▼八月九日朝、ドイツ連邦銀行(中央銀行)が緊急会合を開いた。政府系のドイツ復興金融公庫傘下のIKB産業銀行が米国の信用力の低い個人向住宅融資(サブプライムローン)に絡んだ投資で損失を出し、一兆三千億円規模の資金支援を行なうための協議だった。同日仏の最大手銀行BNPパリバが運用するファンド三本の解約停止を発表。
 欧州中央銀行ECBは直ちに九四八億ユーロ(約一五兆四千億円)を金融市場に供給し金融機関の資金不足に対処した。同時に米国連邦準備制度FRBも二四〇億ドル(約二兆八千億円)を供給し、八月九日から一五日までの間にECB約三五兆円、FRB約八兆三千億円、日銀一兆六千億円、合計で約四五兆円もの流動性資金が主に欧米の金融市場に投じられて、いわゆるサブプライム問題に端を発した世界金融危機は当面回避された。
 わが国の一年間の税収が約五〇兆円だから、これに近い巨額の資金供給がわずか五日間で実行されたことになる。とりわけECBが三五兆円も資金供給したことからも分かるように、今回の危機の中心は欧州だった。
 欧州の投資家は昨年だけで前年比二割増の二四二〇億ドル(約二八兆六千億円)もの米国証券化商品を購入している。近年欧州にはイラク戦争などの政治的な理由を含めて米国への投資を忌避した中東、ロシアのオイルダラーや中国、インドの貿易利益などからなる莫大な資金が集中している。ところが成熟した老国家群で人口が減少している欧州(人口増加国はアルバニアだけ)の中に巨額の資金を運用する対象が見あたらない。そのため、金融工学が極度に発達した米国のハイ・リスク、ハイ・リターン金融商品を購入して運用するしか利益を出す手段がなかった。国際金融のババを引いてしまったのだ。
▼現代の先進国経済はファンド資本主義といわれるように「ファンド」という怪物が主役である。ファンドとは、株式や債券などへの投資(伝統的投資)ではなく、非公開株式、商品、不動産、派生金融商品などへの投資、およびこれらに投資するファンド(ヘッジ・ファンドなど)への投資といわれるが、その特徴は、リターンが高い、法的規制が少ない、匿名性が高い、反面リスクが高い、情報が不透明、投資単位が大きい、ということになろう。
 そもそも、ファンドという巨額資金の出所はどこなのだろう。
 一九七一年八月一五日、ニクソン米大統領が発表した「金ドル交換停止」により、米国は金の裏づけのない不兌換紙幣ドルの無制限の信用創造が可能となって、ファンド資本主義は始まる。
 九〇年代末からのBRICs新興諸国の低賃金労働力を使った米欧日への超過利潤(ローマ帝国の辺境収奪と類似)の帝国循環、BRICsが稼いだ巨額の輸出利益金、石油など一次産品の急騰による資源国の保有外貨、一九九九年二月からはじまったゼロ金利の円キャリートレード、そして金融工学の発達がファンド資金の供給元である。
▼ファンドが米国経済に影響を及ぼし始めたのは一九八八年に米国ファンドのKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)が食品・たばこ大手RJRナビスコを当時史上最高額といわれた二四七億ドルで買収したことを嚆矢とする。ちなみに、ブッシュ元大統領やベーカー元国務長官が参加したとして後に有名になったカーライルの設立が一九八七年だった。
 これらファンドの台頭と時を同じくして、一九八九年ベルリンの壁崩壊、米ソ冷戦の終結が起こっている。以降米英ファンドが経済グローバリズムの進展と相まって隆盛を迎える。
 一九九三年のクリントン政権発足時、副大統領ゴア提唱の「情報スーパー・ハイウェイ構想」からIT景気が生まれ二〇〇〇年にITバブルが崩壊する。
 二〇〇一年ブッシュ大統領が就任すると九・一一事件からアフガニスタン戦争、二〇〇三年イラク戦争に突入、中東の不安定化による地政学的リスクという言葉が世上に現れるようになったその同じ年、ゴールドマンサックスが「BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)レポート」を発表し、BRICsへの発展期待を謳い上げる。それに伴い、中国、インドの経済成長で石油など天然資源が逼迫するという見通しと、産油地帯中東の地政学的なリスクから資源が高騰し、バブルが生まれる。ちなみに原油・金価格が底を打つのが一九九九年だった。
 このように米政権の変遷と投資対象の変遷とが同期しているのは、単なる偶然なのだろうか。
▼今回サブプライム問題をきっかけとした金融危機発生の原因はBRICs資源がもはや右肩上がりで上昇するという前提条件が消滅したことにある。
 BRICsが発展を続け、それに伴って資源価格が上昇すれば、米国経済は拡大し、米国企業の業績も向上し、株価も住宅価格も上がる、という連想から信用力のない人々にも住宅ローンが緩い条件で貸し出されてきた。その連鎖の一部が決壊し始めたのだ。
 それはなぜか、そしてその後に来るものはいったい何か?(青不動)