常夜燈索引

                

  小沢一郎の「国連中心主義」 
     (世界戦略情報「みち」平成19年(2667)11月15日第261号) 

▼先の自民・民主両党の大連立騒動で最大のテーマとなったのは、自衛隊の海外派遣を国連決議に基づくものに限るかどうか、という点であった。
 小沢一郎民主党代表は、集団的自衛権を認めていない現在の日本で、米軍が主導するアフガニスタンでの戦争を支援することは憲法解釈上不可能だという。アフガンでの作戦に参加している日本以外の国々はすべて集団的自衛権に基づき参戦している。
 ただし、「世界の平和を希求し、国際社会で名誉ある地位を占めたい」という平和原則を謳う日本国憲法によれば、国連が決議した活動に積極的に参加することは、例えそれが結果的に武力の行使を含むものであっても、何ら憲法に抵触しないばかりか、むしろ憲法の理念に合致する、というのが小沢の考えである。もちろん今も航空自衛隊が参加するイラクでの連合軍支援活動も許されないと主張している。

「国際社会で合意を得ないまま勝手に武力を行使するのは、リンチでしかありません。それを認めたら、国際社会の秩序と平和を保つことはできません。つまり、個々の国家が行使する自衛権と、国際社会全体で平和、治安を守るための国連の活動とは全く異質のものであり、次元が異なるのです。国連の平和活動は国家の主権である自衛権を超えたものです。したがって、国連の平和活動は、たとえそれが武力の行使を含むものであっても、日本国憲法に抵触しない、というのが私の憲法解釈です」(小沢一郎「公開書簡 今こそ国際安全保障の原則確立を 川端清隆氏への手紙」岩波書店『世界』十一月号)

 このように「国連の平和活動は国家の主権である自衛権を超えたもの」と小沢は訴え、国連中心主義を強く打ち出している。
▼わが国は九・一一事件への報復のため米国軍とNATO軍がアフガンに軍事攻撃を行なった際、直接軍事行動に参加することは憲法上も世論上も困難だったので、インド洋上での給油活動を担当して、いわば目こぼしをしてもらってきた。
 続く対イラク戦争では治安の好い地域に復興支援活動として陸上自衛隊を派遣し、一人の死傷者も出すことなく帰還する僥倖に恵まれた。
 二〇〇一年一二月二〇日の国連安保理決議に基づくNATO軍主体のアフガン派遣軍である国際治安支援部隊(ISAF)には三七カ国から三万五四六〇名が参加している。国連決議を根拠としたISAFにわが国自衛隊が参加した場合、たとえ人道支援活動であっても劣悪な治安の中、死傷者が出る可能性が高く、イラクでのような僥倖が続くとは思えない。アフガンの実態を知る現役自衛官らはISAF参加を辞さない小沢構想に危惧を隠さない。
▼小沢一郎は後に田中派を割って竹下派七奉行の一人となり、田中角栄を裏切ったといわれたが、田中の夭折した長男と同年だったことから殊の外角栄に可愛がられ、配偶者も角栄の地元新潟から迎えるほどだった。ロッキード事件で一敗地にまみれた角栄を見ていた小沢が復讐戦を考えているとしたら、その国連中心主義は別の意味合いを持つことになる。すなわち、対米自立の大義名分として国連を殊更に持ち出している可能性である。吉田茂が米国からの再軍備要請を米国製憲法を持ち出して断ったように、である。
▼大連立をめぐる二度の党首会談前後に、ニューヨーク国連本部建設敷地を寄付したジョン・ロックフェラー二世の五男デイビッド・ロックフェラー(九二歳)が来日した。チェース・マンハッタン銀行頭取を永年勤めたロックフェラー家三代目当主である。
 一九七五年、訪米された昭和天皇は一〇月四日ニューヨーク郊外のデイビッドの私邸に行幸された。訪米中最大のハイライトだった。今回デイビッドは今上天皇に拝謁したといわれている。
▼国連がいま最も力を入れているのは気候変動問題だ。気候変動に関する国際連合枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change=UNFCCC)が結ばれ、「京都議定書」(一九九七年)は二〇〇八年~一二年における温室効果ガス排出量を一九九〇年比で欧州八%、米国七%、日本六%で削減する数値目標を課した。ノーベル平和賞を受賞したアル・ゴア元米副大統領らが音頭をとって、いま京都議定書に続くさらに厳しい温室効果ガス排出規制や排出権取引所構想が進行中で、これも国連が主体である。
 一一月一日、皇太子殿下は国連「水と衛生に関する諮問委員会」名誉総裁に就任された。任期は平成二二年末までで、メンバーはオランダ皇太子ウィレム・アレキサンダー殿下(議長)をはじめ世界の水に関する有識者が集められている。初代議長は橋本龍太郎元首相だった。
▼イラク戦争を主導した米国ネオコン勢力は、国連中心主義体制をカント的永久平和論として排除し、独自の先制攻撃論で国連権威を破壊した。そのネオコンが風前の灯火となり、国連中心のエスタブリッシュメントは復権した。国連中心主義、対米自立、大連立、海外派兵などの課題が単なる堂々巡りに陥ることを危惧する。
(青不動)