常夜燈索引

                    

  「調査捕鯨」は日本の国策調査? 
         (世界戦略情報「みち」平成20年(2668)2月1日第265号) 

▼昨年一一月に山口県下関港を出港、一月に南極海に到達し、鯨の生態調査を行なっているわが国の調査捕鯨船団を捕鯨反対の二つの国際的環境保護団体シー・シェパード(海の保護者)とグリーンピースが追っている。
 グリーンピースは調査捕鯨母船・日新丸を追跡したが、途中燃料切れで妨害活動を断念した。しかしゴムボートで日新丸に接近、「調査は口実、捕鯨が目的」を意味する「偽」という日本語のプラカードを掲げ、そのシーンは世界中のメディアで報じられた。一月二七日「われわれは百頭の鯨を救った」とニュージーランドのメディアに勝利宣言し、日本は高度の知能を持つ野生動物の鯨を調査捕鯨の名目で「虐殺」する悪玉である、とアピールした。
 シー・シェパードは抗議船に専属カメラマンやテレビ番組スタッフを同乗させ、日本船への妨害行動を瞬時に映像化し、ネットや衛星放送で世界に配信した。一五日には調査捕鯨船の第二勇新丸にシー・シェパードの活動家二名が侵入し、スクリューを止めるためロープを絡ませたり、悪臭弾を投げ入れたり、行動をエスカレートさせた。シー・シェパードのポール・ワトソン船長は侵入した活動家が日本船に「誘拐された」と虚偽の声明を出し、わが国の生態調査活動を混乱に陥れている。
▼捕鯨は古代にまで遡る。ノルウェーには紀元前三〇〇〇年頃と見られる鯨の洞窟壁画が残っていて、フィヨルド内に回遊した小型鯨を捕獲していたようだ。イベリア半島北岸のビスケー湾に住むバスク人も一三世紀ころから活発に捕鯨を行ない、灯油用鯨油や甲冑、帽子、コルセットに使われる鯨のヒゲをヨーロッパ各地に輸出していた。
 一六世紀から一九世紀にかけ捕鯨は世界的なビッグ・ビジネスだった。
 わが国でも縄文時代から捕鯨が行なわれた模様で、富山湾や北海道などから小型鯨の骨が大量に発見されている。弥生時代後期の遺跡からは鯨の骨を用いた紡錘車や矢尻が出土する。万葉集にも「いさなとり」(捕鯨)の語がある。
 江戸時代には熊野水軍をはじめとした水軍・海賊出身者が「鯨組」を結んで捕鯨の専門技能集団となり、網取式捕鯨を考案して捕鯨事業は繁栄した。その伝統を継いでわが国の捕鯨は戦前、戦後も発展し一九五〇年代には世界最大の捕鯨国といわれた。
▼いわゆる商業捕鯨への規制が世界的に唱えられたのは一九七一年にローマ・クラブが刊行した『成長の限界──人類の危機』においてである。同年の世界捕鯨委員会IWCでNGOから捕鯨中止が提言され、翌七二年にストックホルムで開かれた第一回国連人間環境会議で米国が捕鯨モラトリアム勧告を提案して採択された。八二年のIWC総会で正式にモラトリアムが決議され、商業捕鯨は禁止となった。日本も八五年に正式に受け入れた。その後、ノルウェー、アイスランドは商業捕鯨再開を宣言し、わが国は調査捕鯨というカテゴリーで細々と捕鯨を継続している。
 そもそも大捕鯨国だった英米などの自然保護団体、環境保護団体が強硬にわが国の調査捕鯨に反対するのはなぜか。鯨は脳の容積の大きさや、音波によって仲間内の意思の疎通をはかるらしいことなどから、人間と同じ知能の高い哺乳類であり、保護されるべき野生生物としてこれを捕獲して食べるのは残酷な行為だと彼らは主張し、同調する善意の日本人も多い。白豪主義で知られるオーストラリア、ニュージーランドで特に反捕鯨運動が盛んなのは、白人→鯨→競走馬→愛玩犬→黄色人種→黒人、という生物界の序列意識が彼らの中に存在するからである。
▼シー・シェパードのポール・ワトソン船長は、同団体のホームページ上に「新満洲の誕生─捕鯨は極地への経済侵略の第一歩」と題するエッセイを一月二五日に発表している。南極、北極に眠る豊富な天然資源をめぐる戦争が始まった。南極には膨大な石油、天然ガスが埋蔵され、さらに世界で枯渇しつつある良質な水が氷の中に存在している。資源に乏しい日本は調査捕鯨に名を借りて南極に継続的に船団を派遣し、資源調査と権益確保に狂奔している。いまや南極は日本の新たな「満洲」として経済的収奪の対象となっている、と訴えている。
 お里が知れる、とはこのことで、端無くもシー・シェパードやグリーンピースなる環境保護団体が何のためにわが国の調査活動を妨害しているのかが裏返しで語られている。世界自然保護基金WWF、地球の友FOEなど同種の国際的団体も含め、これらはローマ・クラブの成長の限界=第三世界人口削減論=環境マルサス主義を世界的に推進するための尖兵として、ロンドン・シティーの金融・資源のグローバル企業に雇われた存在なのだ。
 シティーは九〇年代に米国、中国、インドなどの人口・経済拡大を止められず、現在アル・ゴア元米副大統領を広告塔に登用して「地球温暖化」を看板に世界経済の縮小均衡を果たそうと必死である。わが国のどこかで誰かがその裏をかいて「調査捕鯨」を立案し乗り出しているとすれば、見事な国策調査というべきだろう。(青不動)