常夜燈索引

                 

   ロンドン発スピリチュアル・ブーム 
          (世界戦略情報「みち」平成20年(2668)4月15日第270号) 

▼自らスピリチュアル・カウンセラーと称する「江原啓之」というテレビ・タレントをご存じだろうか。彼のホームページに次の一節がある。

 ……英国にはカレッジ・オブ・サイキック・スタディーズといったスピリチュアルの学校もあり、その他ヒーリングの団体も多数あります。ヒーラーは一万人以上います。その中の一つで世界中に会員を持つWFHという連盟に、私も所属しています。そこに入会するには、各団体でレクチャーを受け、いくつものテストにパスしなければなりません。英国のスピリチュアリズムはそれほどアカデミックなのです。英国ではスピリチュアリズムが広く認知されていますが、その理由の一つとして英国王室がこの分野にとても造詣が深いことがあげられます。現在の私のスピリチュアリズムは、英国で学んだこのスピリチュアリズムの土台をもとに、自分のインスピレーションによって得たスピリチュアル・ワールドからのメッセージを加えたものです。……

 江原氏のスピリチュアリズムの模範が英国にあることがよく分かる。さらに、そのホームページでは、彼がSAGB(英国スピリチュアリスト協会)の会員であり、そこで多くのことを学んだ、とも言っている。
▼一九世紀末、英国ロンドンでは神秘主義が一大ブームを巻き起こしていた。カバラ、ヨガ、錬金術、エジプト神話など東洋起源の教義や修行法を様々に習合させた儀式的魔術結社が多数生まれた。ブラヴァツキー夫人(一八三一~一八九一)の創設した神智学協会はその嚆矢である。露帝国ウクライナに生まれた夫人はチベットをはじめ世界を旅し、一八七三年米国国民となった後、インドに神智学協会本部を移し、さらに一八八四年ロンドンに転居して大作『秘密教義』(シークレット・ドクトリン)を執筆した。この書には夫人が初期の旅行で出会った東洋の霊的指導者から受けた啓示が込められているという。晩年には秘教部門をつくり神智学協会の一部会員にのみ己の教えを伝授した。二〇世紀最大のオカルティストといわれる。一八八八年には「黄金の暁」なる秘儀結社が創設された。サミュエル・サマーズ(仏哲学者ベルグソンの義弟)やアレックス・クローリー、アイルランドのノーベル賞詩人イエイツ、『ポンペイ最後の日』で有名な小説家ブルワー・リットン、作家のアーサー・マッケンなど貴族やインテリ一四四人が集った。「黄金の暁」はドイツにミュンヘン支部があり、トゥーレ協会の大物カール・ハウスホーファー将軍も会員だった。ハウスホーファーは第一次大戦後、ミュンヘン大学の地政学教授に就任、教え子ルドルフ・ヘスを通じてヒトラーに生存圈理論を教えたことで有名だ。彼は青壮年時代インド、支那、チベット、日本を旅行、駐日武官として日本滞在中に秘密結社「緑龍会」に入ったと言われている。この会の教義の起源はチベットにあるようである。
 第二次大戦中、ハウスホーファーの息子アルブレヒトはスイスの赤十字社を拠点に、舞台裏で英独交渉を行ない、ヘス副総統の英国単独飛行を支援した。一九四四年、アルブレヒトは一部独軍人とヒトラー暗殺計画に加わり死刑となった。
▼近代西欧で流行した東洋的神秘主義やスピリチュアリズムが英国ロンドンに集められ、教義として修行法として、都合良くまとめ上げられていったことがこれら数例からも明らかである。
 そのブラックボックスの中核はチベットにある。ラマ僧、ヨガ行者、霊能力をもち奇跡を起こす人々が住む神秘と魔術の国、それがチベットだ、とブラヴァツキー夫人は主張した。夫人の一八六〇年代後半数年の足跡が不明であり、この間チベット奥地の僧院で大師より宇宙の奥義を授けられたといわれている。
 本当に奥義があるのか否かは問題ではなく、こうした神秘的神霊思想に人々が惹かれ動かされることを見抜いた英国情報・諜報機関がこれを大衆心理の操作に応用し、体系化して世界で活用している事実こそが重大なのである。MI5には「オカルト・ビューロー」が設置され、第二次大戦中ドイツとのオカルト戦を闘った。七〇年代以降、チャネリング、リーディング、瞑想法、前世療法・催眠療法、ヨガ、呼吸法、ホーリスティック医療や、心霊治療、アロマテラピー、オーラソーマなど、いわゆる「ニューエイジ運動」が花開いたが、その背後にオカルト・ビューローの存在が見え隠れしている。
 わが国ではチベット仏教の研究者・中沢新一氏が昭和五六年『虹の階梯ーチベット密教の瞑想修行』を発表し、これがオウム真理教の修行書として信者に読まれた。教祖麻原彰晃は中沢氏と度々対談し、親密な関係にあった。
▼ロンドンがコソボ独立に点火した炎がチベットに飛び、さらにウイグルから中央アジア、ロシアのイスラム圈にまで広がろうとしている。その雛形が平成七年に起きたオウム真理教サリン事件である。昨今のロンドンを起点とするわが国のスピリチュアル・ブームには、秘められた意図と目的とがあることを肝に銘じたい。(青不動)