常夜燈索引

                    

  マネー危機は経世済民で克服せよ 
         (世界戦略情報「みち」平成20年(2668)12月1日第284号) 

▼米国発の世界マネー危機で、わが国でも輸出産業を中心に景気が悪化している。特に非正規雇用、すなわち派遣社員やフリーター、期間工への契約打切りが増加しており、失業者が増えている。厚生労働省の調査(一一月二八日)では自動車関連メーカーが集中する愛知県で四一〇四人、岐阜県では一九八六人など「派遣切り」によって来年三月までに三万人以上の失業者が生まれるという。ワーキングプアといわれる働く貧困層(年収二〇〇万円以下の労働者)は一昨年一〇〇〇万人を突破、ここ一〇年間で一〇倍となった。
 橋本龍太郎政権が平成八年に誕生し、「行政改革」「財政構造改革」「経済構造改革」「金融システム改革」「社会保障構造改革」「教育改革」の六大改革を提唱し、金融ビッグバンを実行した頃からわが国は新自由主義経済、格差社会への道を辿っている。雇用に関しても「規制緩和」が進められ、戦後日本社会の暗黙の了解だった完全雇用、年功序列制の維持という合意が反故にされた。
 冷戦時代、最大の受益者だった日本からその果実を取り上げるため、日本型資本主義(国民社会主義)を支える文化的要素を破壊しようという英米の対日要求意図が読み取れたが、歴代政権はこれを甘受し、小泉・竹中政権による郵政民営化路線で新自由主義経済は頂点に達した。
 政府は小手先の財政出動や雇用対策を繰り出しているが、若年層のワーキングプア化は止まらず、さらなる失業増と相まって、わが国社会の醇風美俗に生じた鋭い亀裂は根源的な政策転換を求めている。
▼一九三三年一月三〇日、国民社会主義ドイツ労働者党党首アドルフ・ヒトラーは、ヒンデンブルグ独大統領に首相に任命された。当時世界列強各国が抱える最大の問題は一九二九年恐慌に起因する大量失業だった。第一次大戦に敗北し、ベルサイユ条約によって天文学的賠償要求を課せられたドイツも他国以上の大失業時代に突入していた。失業者は六〇〇万人、失業率は四五%にも達した。
 ヒトラー首相は四年間で失業問題を解決すると国民に約束したが、果たして政権獲得四年後の一九三七年には失業者が九一万人に激減し、事実上完全雇用を達成した。

「今日の独逸の経済は、或る意味に於きましては奇想天外でありますけれども、兎に角その経済目標は今日まで良好なる運営を続けて居るのであります。(中略)殆ど無謀極まるが如き信用の拡張に依りまして国民の就業状態を根本的に改善するナチス政策実施後、国民が経済的実力を備へ来つたことは事実であります。而もその信用の拡張は、最早今日に於きましては極めて円滑なる回収運転の状態になり、貯蓄の著増となり、完全なる国民全部の就業となり、国民総所得の著増となり、而して国家歳入の著増となって居ります。これらの諸点に於きましては不景気時代より五割以上の改善を示して居るのであります」
(亀井貫一郎『ナチス国防経済論』昭和一四年刊)

 ドイツ・ミュンヘン大学地政学教授だったカール・ハウスホーファーの下で大正末期より学んでいた亀井貫一郎はナチス政権がとった経済失業対策を「奇想天外」「無謀極まる」と経済学の常識から理解できないものと評しながらも、とにかく成功したことに驚嘆している。当時同じ問題に悩んでいた英米も、ドイツ経済復活の原因を探るため多くの研究者をドイツに派遣した。
▼ナチス党は当時次のように主張した。

「通貨の基礎は金でもなければ外貨準備でもない。労働だけが通貨の基礎となる。わが民族を救うことは金融の問題ではない。現に存在する労働力をいかに活用し投入するかという問題であり、また現に存在する土地とその資源をいかに活用するかという問題である。この民族共同体は貨幣というフィクションの上の価値によって生きるのではなく、現実の生産によって生きるものであって、この現実の生産がまた貨幣にその価値を付与するのである」

 その主張の通り、ドイツでは厳格な為替・外貨管理を行ない外資による介入に防波堤を築いた上で、失業対策と再軍備のための大規模公共投資の原資に、租税信用証券、労働創造手形、メフォ手形などの発行を企業に許し、これをドイツ帝国銀行が裏書保証するという金融政策をとった。通貨膨張ではない信用拡張の手法であり、今日で言うところの「政府発行通貨」の一種といえよう。もちろん信用拡張を担保する資産は存在していた。
 ドイツの八千万人近い人口、高い技術力、勤勉な労働力、旺盛な消費意欲、少ない生産力。この巨大な需給ギャップを埋めるものが政府発行通貨であり、その限度においてインフレになることも対外通貨価値が下落することもないのである。
▼世界は未曾有の大失業時代に入るかもしれない。それは自然現象ではなく、人災であり、回避する手段は歴史を紐解けば発見できるはずである。
 経済を数字現象ではなく、経世済民の視点から見る曇りない目が必要なのである。(青不動)